2008.3.13

人としてあたりまえの話

para_shift @ 04:14:04

このblogで時事的な問題はあつかっていないが、今回は特別に。
3月11日に、子どもの性の商品化に歯止めをかけようと、児童買春・児童ポルノ禁止法の改正を求めるキャンペーンがはじまった。
旗を振ったのは、日本ユニセフ協会だ。

児童ポルノ:禁止法改正求めキャンペーン ユニセフ (毎日)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080312k0000m040029000c.html
 
児童ポルノ規制強化 アニメやゲーム 持ってるだけで大変なことに(J-CAST)
http://www.j-cast.com/2008/03/12017767.html

国連のユニセフと、今回キャンペーンを打った「日本ユニセフ協会」はまったくの別組織なのだが、このトピックではそのあたりは突っ込まない。
実際、被害にあう児童が決して出てはならないし、児童虐待の犯人には厳罰をもってあたるべきだと思う。
だが問題は、キャンペーンの攻撃範囲の大きさ、より具体的には署名を集めて国会へ提言するというこの箇所だ。(原文は ここ

(イ)
被写体が実在するか否かを問わず、児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写したものを、「準児童ポルノ」として違法化する(第2条)。具体的には、アニメ、漫画、ゲームソフトおよび18歳以上の人物が児童を演じる場合もこれに含む。

まず最初に、私自身は少女性愛者でないことを、但し書きしておきたい。
これは、以下の話が感情ではなく理性の問題であることをはっきりさせておきたいためだ。

今回の規制案では、漫画やアニメ、ゲームにおける絵についても、「準児童ポルノ」とくくって、単純所持すら禁止しようとしている。

現状、物書きがこの件について発言することは、多少きつい状態であるように感じる。しかも、表現の自由ですらなく性的嗜好を中心に話をすることは、いろいろと苦しい。
仕事的にも、すでに「おまえ何やってんだ」と怒られかねない修羅場中ではある。
けれど、いてもたってもいられなかった。マルティン・ニーメラーのひそみにならった部分もある。→wikipedia

まず、はっきり言いたいのは、絵はどこまで行っても絵だということだ。
それは、手に触れることのできない、現実ではないファンタジーだ。
だから、そうした性的嗜好の人々が絵に妄想をぶつけるときは、「自分の妄想は現実とはちがう」という認識がある。どう見たって絵なんだから。
けれど、そうしたものが手に入らなくなって、自分で撮ってきた写真へ向けて妄想をぶつけてしまった人はどうだろう。
「自分の妄想は現実とはちがう」と認識し続けるのは、絵にぶつけていたときより困難になるはずだ。

普通の人間にとって、妄想を画像化するのはとてもむずかしい。
美しい、かわいらしい、扇情的だと思う絵を普通は描けない。文章に記述することもできない。それらは、どれも特殊な技術だ。
けれど、カメラを持って、子どもの写真をとることは誰にでもできる。
一線を”踏み越えて”しまえば、たぶん現実がもっとも手軽なのだ。

「準児童ポルノ」という好きなように拡大解釈できる枠で、今ある目障りなものを焼き払ったあとどうなるかが、切実な問題なのだ。
焼け野原に残るのは、妄想の受け口を失い、分断され、妄想をかかえた個人だけだ。そして性的嗜好のひとつなのだから、すべての子どもを描いたコンテンツがなくなっても、嗜好を持つ人々自体はずっと新たに現れ続けてゆく
そんな状況になれば”踏み越える”人間は増える。
すべきでない対象へ妄想を向けて、一線を踏み越えてしまう。この現象は、特殊な人にだけ起こることではない。むしろ一般的な人間だれにでも起こりえることだ。
”踏み越える”か否かのせめぎあいだけに焦点をしぼって考えてほしいが、人間に完璧な自制心があれば、不倫はこんなに当たり前に起こらない。

健康な成人とは、好ましい欲望以外のものを抱かない人のことではない。
それが他人に迷惑をかけないよう、管理できる人のことだ。

自己管理する手段が弱まれば、欲望がより手近へ流れてしまうのは、想像しやすい悲劇だ。
男性も女性にも、性欲は旺盛なのに適切な対象がない状態は苦痛なものだ。その苦痛は、出口をさがして圧力を高めてゆく。
いっそ、社会的に適切とされない性欲自体が規制されるべきだろうか?
個人の嗜好は、本来、立ち入られることのない聖域だ。妄想がわいてしまうことを止めることはできない。
「絵はどこまで行っても絵」という話に戻るが、せめぎあう場所は妄想を現実にしようとするかどうかになる。
なぜ、”現実の子どもへの性犯罪被害”をなくしたい人々が、そうした性欲の自己管理をうながせる「絵」という防波堤を破壊しようとしているのだろうか。

上に書いてきたようなことは、想像力をはたらかせれば考えつくことだと思う。すくなくとも、そういう分野で作品を創作している人々に聴取すれば、この程度の話は簡単に出てきたと思う。
規制を広げようとしている人々が、「相手はロリコンだから」と、その身になって想像していないのだとしたら、それはおかしな話だ。
「健康な成人が、そうした性的嗜好者の身になって考えるのはおかしい」だろうか。だが、蓋をして黙殺することで、問題はより複雑化してはいないだろうか。
親の立場女性の立場を想像してほしいと、この問題では権利のごとく要求されることがある。だが、漫画やアニメ、ゲームを必要としている側も「想像」されるのが公平ではないだろうか。
[そして、「いかにしておとなが子どもを守るか」(そういう嗜好の人々にとってはいかに現実の子どもと共存するか)という問題立ての話で、子どもの立場を持ち出して相手を黙らせるのはアンフェアだ。絵で描かれた子どもと現実の子どもは同じものではないという事実が、未解決のまま残るからだ。]

理屈ではない。「想像」することにすら生理的に拒絶感がある。
同じ人間に対してそう感じているのなら、偏見をうたがうべきだ。
五分間だけでよいから「ロリコン」「児童保護」「表現の自由」といったことばを頭から追い出して、冷静に考えてほしい。
人間は、性的嗜好のちがいだけで、排除してよい怪物のようにあつかわれてよいものだろうか。

本当に、おかしな話なのだ。
今回の規制案は「準児童ポルノ」という新概念を作ってまで、実際に傷つく被害者がいない「絵」を、犯罪として排除しようとしている。
どうして、その立場になって考えることすら拒否される人間が出てしまうのだろう?
どうして、罪を犯してもいないのに、性的嗜好がちがうだけで、排除してよい怪物のようにあつかわれる人が出てしまうのだろう?

いかなる性的嗜好の人間も、迷惑をかけない範囲で、性欲を自己管理する権利を持っているのではないだろうか。
歴史上、同性愛者へ向けて起こされた偏見の悲劇の、これではやり直しではないだろうか。

Comments: (15)

2008.3.13 04:28:20 長谷敏司 : そして、時計を見て真っ青に……。
仕事が、が、が、が。

えらそうなトピックを書いたわりにコメントお返しできるのは遅くなります。すいません。
トラックバックは、もしありましたら早めに反応しますので、ご容赦を
 23:26:21 七氏 : 全く以ってその通りだと思います。最近はこういう感じで何でもかんでも規制しようとする傾向が強いと思います。特にアニメゲームなどどちらかというとオタクよりな文化に対して
最後の同性愛者への偏見についても同様に思います。それだけじゃなくてもっと広く単純にこれは「差別」何じゃないかと思います。
なんか、日本人の思考が時代を逆行してるような…
(←言いすぎか
2008.3.15 13:37:53 Our head : はじめまして。
同意です。
小中学生の過激な水着グラビアなどは規制されるべきだと思いますが、
「準児童ポルノ」というのはあきらかにやりすぎだと思いました。
というより完全に別次元の話です。
気持ち悪いから塞いでしまおうという姿勢が透けて見えるようです。
世界の流行だからというのではなく、一歩立ち止まって自分の頭で考えて欲しいと思いました。

「少女ゲームに被害者はいない」のですから。
 20:51:02 みずそら :  私も同意見です。
 とりあえず(財)日本ユニセフ協会にはまず一休さんみたく屏風(画面)から虎(キャラクタ)を出してから問題提起していただきたいと思いました。
 
 しかも、(財)日本ユ(略 のHPには、漫画やアニメの児童ポルノを規制する根拠が示されていません。(クエール博士という方の報告が載っていますが、実際の子供への性犯罪との関係ははっきりしていないとしています)
 この辺は実際に(財)日本ユ(略 に聞かなくてはなりません。
 漫画やアニメを規制することについて、何か別の意図を感じるのは私が勘ぐり深いからでしょうか。。
 23:32:13 アメリカ : >「準児童ポルノ」という好きなように拡大解釈でき>る枠で、今ある目障りなものを焼き払ったあとどう>なるかが、切実な問題なのだ。
そうなったあとの世界はアメリカのコミック業界だったりする。今回の規制とは比べ物にならないほど
の規制(エロはもちろん警官は必ず正義の味方ど)
を行った結果、アメコミ業界は崩壊。ヒーロー者ばかりになった経緯があります。
それでいて犯罪は減ってません。かれらの規制が正しければアメリカは日本
より犯罪が少なくなってないとおかしいのだが。
2008.3.16 02:13:53 長谷敏司 : (長いと投稿をハネられたので、まさかのレス分割。なんだこのblog仕様:汗)

修羅場中なのですが、見ると考えてしまう問題ではあります。
本当にシャレにならないので、極力見ないようにはしています。
どのくらいシャレにならないかというと、仕事に追われてまだ確定申告が終わっていません(期限は3/17)

難問ですが、答えを見いださない限りいつか”彼女たち”はやり遂げるだろうとは、冷静に見て思います。
これから数十年スパンで、少子化が進んで、ますます子どもが大事にされる社会傾向が続きます。それは同時に、「大事にする」しかたを誤りやすい時期だということでもあります。


 02:15:11 長谷敏司 : >七氏さん
規制派に対して、実際に、規制されたくないサイドが十分な努力を払わなかったのも事実だというのが、悩ましいところです。
同性愛者たちが、どれだけいろんなことを考えてアピールしたかと比べると、秋葉原のポスターまるだしなんかは反省すべき部分もあります。
共存の意思は、「絵」のユーザー側からも、業界の自主規制のようなかたちからだけでなく、きちんと顔の見えるかたちで提示されるべきです。

ゲイ専門雑誌の表紙と、オタク系漫画雑誌の表紙を比べると、基本的にゲイ誌のほうがソフトです。
更にゲイ誌とオタク誌が、ゾーニングとして書店のどこに置かれているかを考えると、コンビニにも置かれる漫画誌やオタク誌の表紙は、ちょっとやりすぎな気はします。

ソフトな絵柄の表紙を続けるCOMIC LOの努力を、真剣に考えるべきなのかもしれません。
ともあれ、二次元ロリコン(これも変な言葉ですが)という性的嗜好者が、社会に対して共存をアピールする手だてを模索すべき時期が、来ているようには思います。

 02:15:36 長谷敏司 : >Our head さん
この問題は、心情的には規制派のほうが正しく見えるのがつらいところです。
熱狂に対して熱であたるだけでなく、同時に、理性をはたらかせなければならないのでしょう。

”彼女たち”は、「絵」のユーザーが理性を失っているように見えたとき、「その激情が自分たちの子どもへ向かう」と誤読する可能性があるためです。
一本の正しく見える道に頼るべきではないのは、「絵」のユーザー側も同じです。

たしかに準児童ポルノのくくりは複数の問題点を抱えています。
ですが、個人の主観に近い性的嗜好の問題と、社会制度の問題との整理が、規制派・反規制派ともにぼやけつつあるように思えます。
互いが互いを「怪物だ」と言い合うのでは、声がおおきい規制派に押し切られそうなところもまた悩ましいところです。

 02:15:53 長谷敏司 : >みずそらさん
まさに規制を受けようとしているユーザー側が陰謀論を語っても、具体的に何かが動く可能性は低い気はします。

日本ユニセフ協会に、きっちり聞く必要はあります。
「超党派の議員」というかたがたにも、具体的な質問がなされるべきです。
結局、相互の意見の交換がないと何も話が進まない感じですね。
きっと山ほど行っているだろうアクションに対して、どう具体的なリアクションがあるのかを、きちんと見守る必要があるのでしょう。
 02:16:06 長谷敏司 : >アメリカ さん
アメリカのコミックコード後の荒廃はひどかったですね。
コミックコードの直前にも、過激なコミックの氾濫があったという話をどこかで読んだ覚えがあります。いろいろと重なるものがありますね。
そして、アメリカではコードが”実現してしまった”事実に、寒気を覚えるものがあります。

このあたりのデータも、今回の「準児童ポルノ」にからめて”公平な観点から”まとめられればよいなとは思います。
 17:28:57 ブドウ党 : 手塚治虫氏はある本のコメントで「表現者はこういった規制とは常に戦っていかねばならない。」と発言していました。
手塚氏本人も生前悪書追放運動相手に必死に奮闘してきましたし、やっぱり後の世代の我々も戦っていかなければいけないんでしょうね。
 21:54:57 Our head : この問題は長谷さんがエントリの冒頭で書かれたように
自分の性的嗜好を前置きしなければ聞く耳をもってくれない
という側面があるのですね。

私個人は「準児童ポルノ」が違法化されても
嗜好は正反対なのでなんとも思いません。
しかし日本は正直ロリコンのほうが多い国だと思っています。
アニメだけでなく、アイドルも大人の色気を持つ女性と清純な妹系がいれば
圧倒的に後者のほうが人気が出やすいもので。

そういう国で「準児童ポルノ」として吐け口すら封じてしまったら、
なにより子供たちのことを思うと空恐ろしい気分にさせられるのです。

その点で私は"彼女たち"ほどヒューマニズムを信じていません。
2008.3.21 23:54:17 : まず。私は準児童ポルノ規制に反対の立場です。表現の自由は民主主義の根本であり,規制は「明白かつ現在の危険」に基づき「より制限的でない他の方法が存在しない」場合のみ許される,という3世紀以上にわたり蓄積されてきた判例法の精華を無碍にしてはなりません。

その上でツッコむのですが。

>人間は、性的嗜好のちがいだけで、排除してよい怪物のようにあつかわれてよいものだろうか

性的嗜好が生来のものであり不変である,という前提がありませんか? 性は社会により規定されるものです。纏足もお歯黒も今日の価値観からすれば異様ですが,かつてそれらが性的魅力をもった時代が存在しました。社会があるシンボルに性的意味を付与すれば,人々はそれに萌えるようになります。準児童ポルノの最大の害は「児童は性的視線の対象とならない」という社会通念をスポイルすることだと思います。万人が高いモラルと内省をもち,性欲を自己管理する……理想的ではありますが,現実には不可能です。フィクションを実行してみたいと考えるバカは必ず出てくる。その時,クリエイタは胸をはって「俺の作品が閾を下げたわけじゃない」と言えるのか。
2008.4.5 17:15:07 ミスターi : すみません、あまりにも重たいテーマでしたので今まで気おくれしていました。
すでに、みなさんが語りつくしているような気もするのですが、今回の問題は私には大き過ぎるような気がしますので少しだけ。
確かに何らかのハケグチは必要な気がします。
それを、ひとくくりにだめだとフタをしてしまうのもいかがなものかと思います。
これが悪いほうに転ばなければいいのですが。

ここで明るい話題を一つ。
7巻を購入させていただきました。
入手には多少手こずりました。
どこも品薄なんでしょうか? 嬉しいような困ったような。
短編はみんな目を通させていただいたのですが、もう一度見ても面白いです。
利尻昆布のくだりがよかったですかね。
そして、ようやく読み終わりました。
シリアスありギャグありでよかったです。
それでは失礼します。
2008.4.17 22:34:29 長谷敏司 : 長らくコメント放置になってしまい、申し訳ありませんでした。
エントリを立てたの自体も修羅場中だったのですが、ちょっと自分が対応できるかどうかくらい考えるべきでした。

コメント欄にまったく入らない様子だったので、エントリを新たに立てました。
コメント欄のものはコメント欄で対応すべきとは思ったのですが、どうあってもこの欄で書ききれなかったので申し訳ありません。
2008/4/17の「一ヶ月遅れの返信と、冷静になっての雑感」がそれです。長くなりましたが、よろしければ読んでやってください。

ともあれ、書き込みいただきどうもありがとうございました。

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Title: 2次元エロとタバコ
Excerpt:  こういう案件を立法化しようという動きがあるようで。アニメ・漫画・ゲームも「準児童ポルノ」として違法化訴えるキャンペーン MSとヤフーが賛同 ここで「こんなことをしても何の
Weblog: FANTA-G
Tracked: 2008.3.15 12:10:55
Title: 「ヤング・スーパーマン」は、「準児童ポルノ」である。
Excerpt:  正直な話、シャワーシーンや、児童の性的な姿態には事欠かない。    「準児ポ法」を提案・賛成している、 アグネス・チャン、 森山真弓元法相、及び自民党、 日本ユニセフ協会
Weblog: 混ぜるなキケン!
Tracked: 2008.3.16 01:02:02
Title: 児ポ規制反対派の誇張する「単純所持」問題は起こりないことである
Excerpt:  ここ近日、児童ポルノ規制に対する反発が各ブログで伝えられている。今回の騒動は、日本ユニセフ協会や大企業等が共同で、反児童ポルノキャンペーンを始めたことに端を発する。そ
Weblog: uemadaの日記
Tracked: 2008.3.18 00:51:29