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生活保護■トラブル続発

2010年08月06日

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防府市役所1階の社会福祉課前にある相談室。ドアを取り払って簡単に出入りできるようにしている=防府市寿町

     ■受 給 者■10年前より2割増
     ■ケースワーカー■増員と専門家急務

  生活保護の受給者が、自治体の申請窓口でケースワーカー(CW)とトラブルとなるケースが後をたたない。受給者がナイフを突きつけたり、窓口で大声で叫んだり。長引く不況で、受給世帯は県内でも増え続けている。各自治体はトラブルを防ぐため、様々な工夫をこらす。一方、専門家からは、自治体側のよりきめ細かな対応の必要性を指摘する声もある。
(伊藤和行)

◆窓口で刃物・大声

  6月9日の昼下がり、防府市役所1階に警察官約20人が駆けつけた。生活保護の相談に来ていた無職の男(54)が果物ナイフ(刃渡り8センチ)を持っていると110番通報があったのだ。

  「あいつを刺して、おれも死んでやる」

  生活保護受給者の男は、担当のCWを名指しして脅迫したが、10分後、警察官に取り押さえられ、銃刀法違反容疑で逮捕された。市社会福祉課によると、男は名指ししたCWの生活指導や言葉遣いに不満を持っていたという。同課の担当者は「以前は、窓口で灯油を頭からかぶり火をつけようとした受給者もいた」と話す。

  県内の自治体では、こうしたCWと受給者とのトラブルが相次いでいる。

  山口市では昨年4月、受給者の孫が窓口で激高し、CWの胸ぐらをつかむ事件があった。同6月には岩国市で、受給者の男がCWのあごを殴ったとして逮捕された。刑事事件にまで至らなくても、カミソリを取り出して「死んでやる」と自分の手首を切ろうとしたり、窓口で大声で叫んだりするケースはたびたび起きているという。

◆1人で92世帯担当

  県厚政課によると、県内の生活保護受給者は6月現在、1万6653人で、前年同期より約1300人も増加。10年前と比べると約2割増えた。一方で各自治体のCWの人数は限られており、受給者一人ひとりに十分な時間を割いて対応することが難しくなっていると、自治体担当者は口をそろえる。トラブルが相次ぐ背景には、こうした事情もあるようだ。

  宇部市では、1人のCWが92世帯を担当。社会福祉法上の標準数(80世帯)を大幅に上回る。「生活がかかっている受給者の相談は切実。その一つひとつに対応するCWの負担やプレッシャーは相当なもの」と、市社会福祉課の担当者は言う。同課では、元警察官や元教員らを臨時職員として雇い、CWが受給者宅を訪問する時に同行させ、専門的なアドバイスをできるようにしている。

  防府市では、CWの安全を確保するため、相談室のドアを取り払って密室状態をなくし、相談者が部屋の奥、職員は手前と席を決めて、トラブルがあってもすぐに部屋から出られるようにしている。市社会福祉課の担当者は「粗暴な受給者にも、できるだけ丁寧な言葉遣いで、心証を悪くしないよう、CWには指導している」と話す。

◆機械的対応改めて

  生活保護受給者らから多くの相談を受けている市民団体「県生活と健康を守る会連合会」(下関市)の事務局を務める村田悦子さん(58)は「CWの経験が浅くマニュアル通りの対応をしたため、トラブルになるケースが多い」と指摘する。「機械的な言葉遣いや態度をとられれば怒るのも当然。CWには個々の事情をしっかり考えて人間的な温かい対応をしてもらいたい。自治体には、CWの増員と専門化を急務として取り組んで欲しい」と話した。

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