【北京=坂尻信義】中国の著名な人権活動家で作家の余傑(ユイ・チエ)氏(36)が、「平民総理」として大衆から慕われている温家宝(ウェン・チアパオ)首相を厳しく批判する「中国影帝温家宝(中国一の名優 温家宝)」を書き上げた。8月中旬に香港の出版社から発売する。動きを察知した中国の公安当局に一時拘束され、出版後は逮捕の危険も高まる。なぜ、いま温首相批判なのか。余氏に聞いた。
――公安当局から出版中止を迫られたそうだが。
7月5日、自宅から近所の派出所に連行されて、4時間拘束された。2004年12月、いまは獄中にいる劉暁波氏と「中国人権報告」を書いた時は14時間。前回はパソコンも資料も押収された。今回、それはなかった。
――公安当局は何と。
出版するな、すれば逮捕すると。私は反論した。批判は言論の自由だ。温首相に異論があるなら、彼が文章で私を批判すればいい。裁判に訴えてもいい。
――なぜ、温首相なのか。
彼は国内外で好感を抱かれている。胡錦濤(フー・チン・タオ)国家主席と温首相は毛沢東と周恩来の関係に似ている。厳しい夫と優しい妻のような。でも、違う。彼は他の政治局常務委員8人と同じだ。彼らが指導者になって8年、法治は後退した。
温首相は被災地や出稼ぎ農民の子弟の学校を視察するなどしているが、一方で教育費は高騰し、教育機関の腐敗も深刻化している。軍備費も増加させている。
江沢民時代、私の著書は国内で出版できた。今はできない。北京五輪や建国60周年などの前後には、私の自宅前に公安車両2台が24時間態勢で張りつき、常に尾行される。
――世界金融危機以降、中国に安定を求める国際世論が広がっている。
自分勝手だ。真の安定は中国の民主化後に初めてもたらされる。いまは噴火の圧力が高まっている火山と同様で極めて危険だ。