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注目記事

 出版社がそうした方向を探るに当たっては、ネットの影響を最初に被った音楽業界の経験から、多くの教訓を学ぶことができるのではないだろうか。たとえば、ネット配信の価格が日本は世界のなかでも合理的な水準に維持されているが、そうなったのにはそれ相応の理由があるのである。

 個人的に電子書籍は、正しく対応すれば出版社にとっては市場を拡大するチャンスに十分なりうると考えている。たんに紙の書籍の内容をそのまま電子書籍に置き換えるだけでは、受け身の対応しかできないし、市場の拡大にもならない。しかし、たとえば電子書籍を本棚の代わりとして捉えれば、それは新たな市場になりうるのではないか。全数十巻もある連載もののコミックなどを紙で保存するのは、とくに家が狭い日本では大変である。

 また、電子書籍は、書籍の表現形態を拡げる絶好のチャンスである。iPadならば文字以外に音声、写真、動画などを取り込んだ新たな表現が可能になるはずだからである。書籍だからといって、文字での表現のみに拘泥しつづける必要はない。海外では、“エンリッチド・ブック(enrichedbook)”と呼ばれているが、デジタル/ネットという技術進歩を、表現方法という文化そのものにまで取り込むときが来たのではないだろうか。

 出版社はもっと自信をもつべきである。作者が文章を書きなぐるだけではよい作品は生まれない。出版社がそれに付け加える編集や企画といった付加価値があって初めて本当によい作品ができるのである。たくさんの書き手がいるだけでは活字文化は維持できない。

 だからこそ、出版社は電子書籍やインターネットに対して受け身にならず、前向きに攻めるべきではないだろうか。出版ビジネスの環境を悪くしているのはデジタル/ネットという技術ではない。技術そのものには何の罪もなく、それを使う側やビジネスモデルに問題があるのである。

 出版社は、新古書店や図書館の存在、著作権法上の法的な不安定性などさまざまな問題を抱えている。一方で、いまのユーザーはおそらく歴史上もっともシビアである。インターネット上ではコンテンツは無料で当たり前と考え、デフレ経済を生き抜く術も身に付けているからである。そこに電子書籍という黒船が迫り、正直かわいそうな面もある。しかし、だからといって紙の世界に拘泥していても将来はない。活字文化の担い手としての自らの能力と付加価値を信じて、攻めに出るべきではないだろうか。

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