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注目記事

 雑誌の収益では、ユーザーの購読料もさることながら広告収入が重要な柱である。そして、インターネット上の広告ではターゲティング広告が当たり前となっているので、ネット広告からの収入を増やそうと思ったら定期購読者に関するユーザー情報が非常に重要となる。しかし電子書籍では、流通を担うアマゾンやアップルがそうしたユーザー情報を独占してしまっている。出版社はユーザーとの直接的なつながりをもちたいのに、間に介在して流通を牛耳るネット企業ができなくしているのである。

 電子書籍が出版社を苦境に追いやるもう一つの理由は、書籍の価格の低下である。前述のように、米国ではハードカバーの新刊書の平均価格が26ドルであるのに対し、電子書籍の価格は約13〜15ドルである。ユーザーにとっては安いほうがいいことはもちろんであるが、出版社への影響は大きいといわざるをえない。

 ところで、電子書籍に関連してインターネット寄りの評論家の多くが「紙の書籍では印刷/配送/在庫という紙のコストが掛かるので価格が高いが、電子書籍ではそれらのコストがほとんどゼロになるため、価格は劇的に下がる」といった類のことをいうが、それは本当だろうか。

 こうしたコスト構造は企業秘密なので正確な数字はわからないが、米国の出版業界についてはこの見解は正しくないようである。複数の調査結果によると、米国の出版社におけるそれら紙のコストは、小売価格の十数%程度であり、電子書籍では価格が劇的に下げられるというのは幻想にすぎないかもしれないのである。インターネット寄りの人びとのネット至上主義的な主張を真に受けてはいけない。

ベストセラー『フリー』の議論は論外

 いずれにしても、電子書籍の将来的な普及が不可避である以上、それが活字文化にも影響を及ぼすことに留意すべきではないだろうか。インターネットの急激な普及にともない、世界中でマスメディアやコンテンツ企業の収益が継続的に悪化している。その理由の一つは、コンテンツの流通経路の中心が電波、紙、CDといった従来の媒体からインターネットにシフトしたことである。

 電波、紙、CDなどが流通の中心だった時代は、それらの媒体を支配するマスメディアやコンテンツ企業が流通を独占し、独占によって生じる超過利潤を獲得していた。しかし、インターネットが流通の中心となり、その超過利潤がネット企業にシフトしてしまったのである。

 もう一つは、ネット上で無料モデル(無料でコンテンツを提供し広告収入で対価を得る)と違法コピー/ダウンロードが蔓延したことである。いまやユーザーにとってネット上のコンテンツはタダで当たり前となってしまった。

 その結果、インターネット上で大きな収益を上げているのはネット企業だけである。マスメディアやコンテンツ企業にとってインターネットはまだ儲からないのである。音楽業界を例にとれば、日本でのCD売上げはこの10年で6000億円から3000億円へと半減したが、その間に成長したネット配信の規模は900億円にすぎない。

 そして、マスメディアやコンテンツ企業の収益が悪化したことで、世界中で文化やジャーナリズムという社会のインフラが衰退しつつある。これまでは、マスメディアやコンテンツ企業が流通独占にともなう超過利潤を自社内でのコンテンツ制作に還流することで文化やジャーナリズムが維持されてきた。しかし、流通独占がネット企業にシフトしたことで、そのメカニズムが崩壊してしまったのである。

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