電子書籍が日本文化を破壊する日
岸 博幸(慶應義塾大学教授)
(VOICE 2010年5月22日掲載) 2010年5月25日(火)配信
米国よりもメリットが少ない日本の電子書籍
アップルがiPadという多機能端末を発売した。アマゾンのキンドル、ソニーのリーダーに次ぐ電子書籍端末の登場であり、米国では電子書籍バブルという新たなITバブルが始まった感もある。それでは、日本でも電子書籍は普及するだろうか。そして、それは出版業界にどのような影響を及ぼし、出版文化にどう作用するだろうか。
まず、米国では今後どの程度電子書籍が普及すると見込まれているのだろうか。あるレポートによると、5年後には大人の3分の1が電子書籍端末を使うようになると予測されている。すごい普及のペースである。しかし、電子化された書籍の普及度合いについて見てみると、米国の書籍売上げに占める電子書籍のシェアは2009年で1.5%にすぎない。今後については、2013年の段階で6%程度にしか増えないという予測から、25%くらいまで普及するという見方までさまざまである。まだ衆目が一致する確たる将来はみえないのである。
日本はどうだろうか。日本では出版不況が深刻である。書籍/雑誌の売上げは1996年の2兆6000億円をピークに減少の一途を辿り、2009年は1兆9000億円にまで落ち込んだ。出版社の数も、4200社(2005年)から3900社(2009年)にまで減少した。
そのなかで、日本の電子書籍の市場規模は2008年で464億円であり、2009年には出版市場の3%程度を占めたと考えられる。驚くべきことに米国よりも割合が大きいが、電子書籍の86%が携帯向けであることから、ケータイ小説やケータイ・コミックの普及が大きかったと考えられる。
それでは、電子書籍のメリットは何か。米国では、書籍の価格の安さや持ち運びの容易さなどがいわれている。
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