【北京・浦松丈二】米国防総省が原子力空母ジョージ・ワシントン(GW)を中国に近い黄海に派遣する方針を発表したことに、中国外務省の姜瑜副報道局長は7日、「中国側の関心と立場に厳粛かつ真剣に対処するよう促す」と再考を求める談話を発表した。米中関係の極度の緊張を回避するため、中国側はこれまでの「断固反対」姿勢から、柔軟に話し合う姿勢に転じた模様だ。
中国側は米韓合同演習に参加するGWの黄海派遣についてこれまで、「中国の安全保障上の利益に影響する活動を行うことに断固反対する」(外務省報道官)と猛反発してきた。実際、中国軍は黄海などで演習を繰り返し、米側をけん制してきた。
こうした中、米国は7月下旬、GWの黄海派遣をいったんは見送り、中国から遠い日本海側で合同演習を実施するなど中国側への配慮を示していた。米国防総省が今回、GWの黄海派遣時期を明示せずに発表したことで中国側は反応を試されている。
中国政府関係者はGWの黄海派遣に猛反発してきたことについて、「中国は、米国防総省内の対中強硬派をオバマ大統領が抑えてくれることを期待している」と明かす。中国側が反発のトーンを落としたのも、大統領が外圧に屈したとの印象を持たれないようにし、結果的に大統領に行動を促すためとの見方だ。
米中関係を巡っては中国が南沙(スプラトリー)諸島などで周辺国と領有権を争う南シナ海に米国が関与姿勢を強めて緊張が高まっていた。中国は南シナ海の「核心的利益」(当局者)を守るためにも、前例のある米空母の黄海派遣で決定的に対立することは得策でないと判断した模様だ。
姜副局長は談話で「米韓合同演習問題で、中国側の明確で揺るぎない立場を何度も表明してきた」とも述べ、演習への反対姿勢を変えていないことを確認している。これは中国国内の対米強硬世論への配慮とみられている。
中国主要メディアはGWの黄海派遣方針について、事実関係だけを短く報じている。一方、中国の外交政策に詳しい香港誌「鏡報」最新号は「黄海については中国の伝統的な対米強硬路線から硬軟両様への変化がみられる」と指摘している。
毎日新聞 2010年8月8日 東京朝刊