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[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/07 13:57
それは突然に訪れる。
人間が知覚している以上に。






あの日、いつも通りの日常の中で、僕は覚えず世界の真実を垣間見た。
――代償は家族の命。何よりも大切で、僕の唯一の理解者であった人達が、死んだ。呆然とした、驚愕した、絶望した、慟哭した。
この世の全てを贖ったでも取り戻したいと願った。それでも、そんな事は叶わなかった。

その日から、僕は壊れた。元より、自分が正常であったとは言わない。初めから僕は異常で、異端で、異分子だった。
それでも、これが自分だと世間に胸を張れる程の『個』は持っていた。だけど、僕の自己は、個性は、自我とも言うべき人を人たらしめるモノが、崩れた。

友人は居なかった。親戚も居なかった。教えを請う先達さえ居なかった。僕の周りに、道を指し示し導く人など居る筈もなかった。
僕は余計に壊れた。拍車が加速した。雪玉が坂を転がり、更に大きくなるように、僕の中で『真理』は膨れ上がった。

だから、僕は生きていけた。真理を忘れず、犠牲を忘れず、孤独を忘れず、絶望を忘れずにいたから。
かつての僕では見えなかったモノが、人の醜い本性が、世界の汚い部分が、鮮明に正確に明確に目に映った。

だから余計に、家族との思い出は目映く輝いた。今の僕が直視出来ない程に。
――故に、僕の心は、頭は、魂は、記憶を消し去った。

思い出も無く、人としての情も無く、合理的に論理的に、非情に冷酷に、差し伸べられる手を払いのけて、僕は道を進んだ。
そうして、今の僕がここに居る。ある意味では、『真理』を知ったからこそ、僕は一人で生きてこれたと言える。

だから、これは感謝するべきなのだろう。今となっては、声すらも、顔さえも忘れてしまった家族に。ありがとう、と。聞こえている筈も無いのに――――。





不意に、目が覚めた。辺りは目映く光り、目にも眩しく輝いている。

「ここは……」

「――目が覚めたかな?」

倒れ伏す僕の頭上から、男性のような女性のような、子供のような老人のような、残酷でいながら慈愛を孕んだ、矛盾を体現した声が聞こえた。
そちらに目を向ければ、輝く金髪に金の瞳、神話に出てくる神様が来ているようなローブに身を包んだ、中性的な容姿の『存在』が立っていた。

「おやおや、起きて早々、私を存在呼ばわりとは。素直に神様と思っていてくれていいのに」

「……自分の目で見たモノ以外は信じない事にしてますし。すいません」

「いやいや、気にする程の事でも無い。実に的確に私を表したモノだ。それに敬意を払いこそすれ、君に怒りをぶつける必要など何処にも無い」

その『存在』――神様は朗らかに笑った。爽やかに、と形容してもいいだろう。
威厳の一つも感じられないけど、自分でそう言うなら神様なんだろう。そうでなければ、その時に考えればいい。
何より、僕に嘘を吐くメリットが無いのだから、どうでもいい事に変わりは無い。

「君はまたスマートな思考をしているね。自分に損が無いならどうでもいい……大多数の人間には忌避される、原初的な考えだ」

「……こんな考えしか出来ないモノですから」

「謝る事は無い。素晴らしい思考回路をしているのだから。私達にこそ近い物の考え方だ」

神様は笑って、僕に手を差し出してきた。
……本来なら無視して立ち上がるのだが、相手は神様。その手を取って体を起こす。

そんな殊勝な人間だったかと、思わず自分を嘲笑する。そんな非現実的なモノ、僕の人生に何の価値も有りはしない、と言っていたのは何処の誰だ。

「……さぁ、本題に入ろうか。君がここに居るのは理由が有る。君は、何故ここに居るのか、思い出せるかな?」

そう言われ、良いとは言えない事に定評のある記憶力で、なんとか目を覚ます前の事を思い出そうとする。……何か思い出せそうで思い出せない。今日も僕の記憶力は絶好調だ。

ふと見れば、こちらを呆れたように見ている神様が目に入った。笑い出したいのを堪えているようにも見える。
笑いたいのはコチラだ。

「君は、自分が死んだ事も憶えてないのかい? そうだとしたら、随分とまた、特殊な人間だよ」

そう言われ、頭に映像がフラッシュバックした。成程、これは確かに僕の記憶だ。微かに憶えが有る。


今にして思えば、それ程幸せな人生でなかったかもしれない。だけど、この生き方以外に知らないのだから、仕方ない。
勉強に勉強を重ね、他の人が遊んでいるような時間も、全て勉強に費やした。そうして入ったのが国立の超一流大学。
エリート街道と言うが、僕の目標は自分の会社を持つ事だった。金融企業に入社し、一定の地位まで上がったところで独立した。

苦労して建てた僕の会社は、ぐんぐんと業績を伸ばし、一流企業程度には成長した。
だけど、急に成り上がった会社は、他の伸び悩んでいた企業に恨みを買った。僕の強引な手法もそれを加速し、命を狙われるなんて日常茶飯事だった。

持ち前の悪運の強さで生き延びていたけど、あの時にそれも尽きた。
逃げ切ったと思い、油断した僕の失態だ。横道から現れた男に銃で撃たれて僕の人生は終わりを迎えた、と。


「思い出したかな?」

「気分が最悪なくらいにはっきりと」

「それは良かった」

何が良かったんだろう。皮肉が効いていないのだとしたら、なんだか僕が哀れだ。
なんとなくネガティブになりながら、神様の話に耳を傾ける。

「つまり、君はあそこで死んだ訳だが……輪廻転生は知ってるね?」

小さく頷く。大まかにしか知らないけど、多分大丈夫だろう。

「君の魂は輪廻の輪に組み込まれたんだけど……どうにも正常に巡らないのさ。そこで、ここに魂を呼んでみれば、またなんとも壊れ方が異常でね。一度、魂と繋がった形跡があるじゃないか。これでは修復のしようが無いから、君の肉体を復活させたんだよ」

よく分かった。つまりは、あの時の事を言っているんだろう。僕自身も正確に憶えていない、あの時の事を。

「心当たりは有るみたいだね。なら話は早い。君、そのまま転生してくれないかな?」

「……はい?」

思わず耳を疑った。ちょっと買い物に行ってきてくれないか、みたいな軽さで言われたばかりに、何度か聞いた内容を確かめてしまった。
茫然とし、混乱する僕に追い討ちを掛けるように言葉を連ねてくる。

「いやなに、勿論の事、そのまま行けと言っている訳じゃないよ。私も修復するくらいなら問題は無いからね。ただ、仕事が滞るんだよ。問題を起こすような人間だったらこんな事は言わないんだけど、その点に関しては、君ほどに安心出来る性格の人間は居ないからね。だから、君には加護を与えるくらいはしようと思う」

つまり、加護を与えるから記憶も人格もそのままで転生してくれ、と。それは、何処の小説に出てくるような展開ですか。もう魂を消し去れば良い話でしょう。

「そんな簡単な話じゃないんだよ。君の魂だって、数えきれない程の転生を繰り返してきたモノ。それをここで消すのは、記録の一部が欠ける事になってしまうからさ」

面倒な事だ。前世の因果で死ねないとは。それどころか、前なんて言葉を数えきれない程に連ねても足りないだろうけど。
まぁ、特に不満が有る訳でも無し。なら神様の言うとおりに転生しても構わないか。

「おぉ、言ってくれるかい? それは助かるよ。なら、君に私の加護を与えよう。どんな事でも言いたまえ。必ずや実現しよう」

なんとも太っ腹というか豪気というか、流石は神様といった発言だ。

だが、そこまで言うからには絶対に確実に正確に、僕の願いを聞いてくれるのだろう。
――それは、僕が人生で何度も思った事であり、秘書に薦められたゲームなどという娯楽作品に出てきたモノで、唯一惹かれた特殊な力。

そう、それは――

「――黄金律:Aをください」

「……ん?」

そう、この力は僕の理想を具現化した能力。
歩けば大金の詰まったアタッシュケースを拾い、宝くじを買えばキャリーオーバー中の一等を当て、デイトレードなどしようものなら問答無用で大暴騰だ。
そう、つまりは人が汗水垂らして稼ぐ金を歩くだけで手に入れる事が出来て、僕が苦労して建てた会社なんて一ヶ月も有れば即座に設立という訳だ。これ程に僕が望む力が他に有るだろうか。いや、有る筈が無い。これこそ、僕の理想の具現なのだから。
これさえ有れば、僕がかつて望んだ、世界を思い通りに操る支配者となり、酒池肉林の夢が叶うのだ。

神様、ありがとう。貴方が居なければこの夢は叶わなかったし、僕は死んだ事も分からずに消えていただろう。
さぁ、ここから、僕の理想と夢と希望を具現化した人生が始まるんだ!










始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・二人目【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/07 14:20
何が起こるか分からない。
何が起きても分からない。







思えば、自分の人生はなんと楽しいものだったかと、俺は笑みを浮かべた。


生まれも育ちも日本で、極々一般的な家庭の両親の元に生まれた俺。……いや、我が敬愛する両親が一般的だ、などとは考えていないが。社会的に見れば、彼らに何の問題が有った訳でも無いから、確かに一般的な家庭と評して良いのだろう。

そんな両親だが、いささか、否、かなりぶっ飛んだ性格の持ち主だった。

朝、母の手から乱れ飛ぶ包丁を避ける事から始まり。食事は人数分無く、早い者勝ちで食べろとは言うものの、目を狙い的確に飛んでくる箸や爪楊枝を避けながらの事、まともに食べるのも一苦労だ。
歯を磨いていれば父に奇襲され、着替えようと服を脱げば母に襲われる。家を出る際には、いってらっしゃいの代わりの鉄拳乱れ撃ち。
学校が有る日こそ平穏だが、休日の日中は正しく戦場と化す。
掃除をすると言いながら、俺に掃除機を振り下ろすのは如何なものか、母よ。父は父で、家中にトラップを仕掛けて悦に入る変態。しかも、その全てが致命傷レベル。貴方は家族を殺す気ですか。

とまぁ、いささかぶっ飛んだ家庭で育ち、どこか可笑しい教育を受けた俺は、正常で居られる訳も無く、必然的に狂人となった。
元から能力には恵まれていた俺は、惜しみ無く娯楽に費やした。悪戯から始まり、詐欺、ハッキング、クラック、発明から破壊まで、ありとあらゆる事をした。

凶悪なまでのスペックを、全て俺の娯楽につぎ込んだらどうなるか。答えは簡単、世界は俺の遊技場と変わらなくなった。
こと破壊において、俺は誰の追随も許さなかった。壊して、壊して、壊したモノを更に壊して。いつからか変な名前で呼ばれるようになったんだが……忘れた。興味が無い事には記憶領域を割かない事にしているのだ。

数年が経ち、かつては俺に張り合っていた連中も、次第に諦め、ついには世界最高にして最悪のハッカーとして名を轟かせた。
だけど、それはとてもつまらなかった。誰かと争い、誰かを追い抜き、誰かと高めあう。そんな事を、多少なりとも望んでいた俺には、そんな称号は要らぬものでしかなかった。

だから、戦争を起こした。ある国の軍事システムにハッキングを仕掛け制圧。そこを足がかりに、世界中のデータベースに侵入、破壊を繰り返し、果てには大国のマザーコンピュータを掌握し、各国に向けて弾道間ミサイルを発射。世界は大パニックになった。
更には超巨大企業にハックし、機密データを全マスメディアに公開。中には、少しばかり非人道的なモノもあったが……面白そうだから許可した。

俺の腹いせから始まったこの大戦争は、世界を未曾有の危機に陥れ、人類の文明は少しばかりの停滞を見せた。……とニュースで言っていたが、様々な研究施設にハッキングしている俺には、その発言は間違いだと断ずる事が出来る。
俺のサイバーテロによって、科学技術は大いに進歩する事となった。つまりは、俺は二十一世紀最大の功労者って訳だ。気持ち悪い事だ、全くつまらない称号でしかない。

結局、俺はその後何年かに渡り破壊活動を繰り返していたが、最後まで俺の仕業だとばれる事は無かった。
マスコミ各社は、大規模な技術屋集団の仕業だと報道していた。確かに、あれだけ大規模な事をすれば、一人の犯行では無いと思うだろう。
何故か、そこで俺の名前が出ていなかったが、どうやら俺は一匹狼的な扱いを受けているらしい。
むしろ、頂点に君臨する竜だとか。なんだそりゃってのが正直な感想だ。

まぁ、その後も紆余曲折なんて言葉じゃ表せない程いろいろ有って、変遷の果てに、こうして人生の終わりを迎えている。
無論の事、誰かに殺された訳でも無い。自然に寿命を迎えたまでだ。

幾つかやり残した事が無いような気がしないでもないが、気にする程の事じゃない。
俺はこのまま大往生するのみ。……三十代で死ぬのが大往生と言えるかどうかは知らないが。







目を開ける。何も無い、真っ暗だ。まるで夜の闇に包まれたように……臭ぇな。
辺りを見回すが、光が無い以上、反射するモノが無いという訳で、目に何かが映る訳も無く。なんとなく開けた目を、また閉じた。

『なんだよ、捻くれた顔してんなぁ』

ふと、何度も聞いたような事を言われたので、目を開ける。
やたらと黒い服装で、それでいて髪は銀髪と来たもんだ。ギャップが激しすぎると思う。

あんたは誰だ、と聞こうとして、やめた。楽しくなさそうだったから。

『けっ、無視かい無視かい。折角、お前の望みを叶えてやろうと思ったのによ』

気になる言葉を聞き、思わず目を開ける。コイツ、本当に何なんだ?

『そうそう、それで良いんだよ。おぉっと、自己紹介がまだだったな。俺様は……名前は特にねぇな。好きに呼べ』

なんという適当な神様だろうか。自己紹介と言っておきながら、名前も無いとは。
これは、俺が自己紹介する必要も無いんじゃ?

『そうだな、平等に行こう。平等は良い言葉だ。良い言葉は決して無くならない』

なんか、何処かで聞いたようなセリフを言う。
記憶違いかもしれないので、その辺は気にしない。

『賢明な判断だ。んで、お話に入るとしようか』

二ヤリ、と不敵に笑う。思わず襟を正し、真面目な顔をする。
珍しくも、本当に珍しく、俺が話を真面目に聞こうとしてるんだ。つまらない話だったら無視していいよな?

『けけっ、安心しな。これは、お前にとって最高のチャンスだ。心の奥底で望んでいた事を叶えられる時さ』

俺が、心の奥底で望んでいた事……。

『そう、自分で分かってんだろ? 楽しい事がしたいと一生を駆け抜け、世界を滅茶苦茶に蹂躙して尚、まだ足りぬ衝動に駆られ続けて……そんなお前が、本当に望んでいたモノ』

俺は答えない。

『それはつまり、好敵手の存在さ。己の能力の限りを尽くしても、圧倒するに至らぬ実力の拮抗した人間。お前はつまらなかったのさ。自分と張り合える人間が居ない事に失望して、八つ当たりに世界を壊そうとして、それによって誰か現れないかと望みながら、叶わなかったお前の望み。お前自身が一番よく分かってる筈だ。なぁ、《人類最悪》?』

顔を上げた。そういえば、そんな名前で呼ばれていたような気もする。
そして、コイツの言う事は全て当たっている。いや、間違う筈も無いのか。心を読めるんだから。

確かに、俺の望みはいつだって楽しい事だった。自分が楽しけりゃそれで良いし、周りがどうなろうと知った事じゃない。
だけど、一人で暴れまわって、壊し続けていると、時たま空しくなる。

――俺は一人で、こんな事をして本当に楽しいのか?

つまらない戯言だと、即座に打ち消す正真正銘の戯言だ。
だけど、本当は分かっていたのかもしれない。俺は狂人だけど、狂人は狂人なりに何かを望むものだ。俺はそれが『好敵手』だった。それだけの事。

『さて、そこでお前に聞きたい。――もう一度、生きてみる気はないか?』

思わず耳を疑った。が、すぐに納得する。
俺の死後に関わってくるんだから、神にでも近い存在なんだろう。なら、人一人生き返らせる事、造作も無いに違いない。

あんたがそう問うなら、俺の答えは一つ……断る。

『却下だ。理由は聞かねぇぞ。俺の言った事は絶対だからな』

なんという横暴。流石は神様だ、そんな姿を信者が見たら崇拝なんてモノは消えて無くなるな。
まぁ……神様なんて理不尽なモノだろう。ギリシャ神話然り、日本神話然りだ。

『そういう事だ。まぁ、問答無用で転生させる訳じゃない。何か一つ、願いを叶えてやる』

特に願いが有る訳でも無し、どうでもいい事に変わりは無いんだが、あえて言うなら、俺の心の奥底で願っていた望みとやらだろう。

俺は、俺の能力を以てしても尚圧倒できぬ、理不尽なまでに凶悪で、不平等なまでに天才で、果てしなくぶっ飛んだ化け物が居る世界に生まれたい。

『よし、その願い、叶えてやる。行って来い、非人類の人外め』

そういえばそんな事も言われてた気がする。この俺を捕まえて化け物とは、なんとも的外れな事をほざくモノだと思っていたが……。

しかし、俺はもう一度生き返って、どうしようというんだ? 俺を俺たらしめたのは、あのかっ飛んだ思考回路の両親が居たからだ。
次の生で、そんな親の元に生まれる可能性は零に等しい。つまりは零だ。

まぁ、今からあれこれ気にしても仕方が無いか。俺は楽しければ良い。それだけ。
俺と本当に張り合える人間が居るなら、それはどんなに楽しい事だろう。きっと、俺の欲望を満たしてくれる事だろう。

――俺は破壊屋、人類最悪のハッカー。壊して壊して壊して、壊したモノを更に壊した。
世界を壊し、人を壊し、秩序を壊し、法則を壊し、あらゆるモノを壊した。それだけが俺の生き甲斐、それだけが俺の存在意義。



――究極の快楽主義者は、己が好敵手を見つけんと欲し、一度壊した世界をもう一度壊さんと誓う。そして、彼が好敵手を見つけたその時にこそ、人類にとっての地獄は、始まるのではないだろうか…………。









やっぱり始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・三人目【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/08 16:26
悲しい事は何も無い。
嬉しい事も何も無い。








僕は、いつも一人だった。
僕は、常に上から見下ろしていた。
僕は、人と競えなかった。
僕は、僕は、僕は――――



振り返ってみれば、僕の人生の何と恵まれた事か。

容姿は人並み外れ、アイドルすら霞みハリウッドスター顔負けの美貌。
日本人離れした長身に、スラリと伸びた長い脚。胴短く足長い、正しく理想の体。
歌を歌えば歌手を閉口させ、演技などさせようものなら俳優は軒並み揃って脇役だ。
誇張なんて欠片も無い、正真正銘徹頭徹尾の真実だからこそ、僕は恵まれていると自信を持って言える。

しいて言うなら、勉強が少しばかり苦手で、運動の方も得意と言えない事が欠点か。
だけど、僕にとってそれはハンデにならないし、人より優れているからこその、この短所だと思ってる。世界はバランスを取る事で、均衡を保ってるのだから。

家族は居なかった。いや、正確に言えば居なくなった、の方が正しいのか。
物心ついた時には孤児院に居たから。院長に聞けば、赤ん坊の僕が扉の前に籠に入って捨てられていたらしい。一緒に置かれていた紙には、経済的に余裕が無いとか何とか。
またなんとも、良く有りそうな話だと納得したのを、今でも覚えている。

そんな境遇だったから、僕の理解者は誰ひとり居なかった。院長も、基本的に子供に関わらない不干渉の放任主義者だった。
僕の周りに人が居た時なんて、生まれてから一度でもあっただろうか。いや、そんな事はありえなかった。常に独り、輪を外れて見ていただけ。

今思えば、この顔がいけなかったのかもしれない。優れすぎていたが故に、忌避されて、嫉妬を受け、それは反感へと変わった。
そういえば、よく年長組に虐められていた記憶が有る。年少組は無視を決め込んでいたので、必然的に僕への虐めはエスカレートした。
最終的には院長がスタンスを崩して、年長組を傍から見て思わず同情するくらいに叱り飛ばして決着した。
でも、僕と彼らの溝は埋まらなかった。当然だ。僕が近寄ろうとしなかったのだから。

高校に上がってやっと、僕はバイトを許される年齢になった。当然と言えば当然の如く、僕は自分の容姿を生かした職種に着いた。
そうすれば持て囃されるのは当然で、でも僕はそんな事どうでもよかった。芸能界に入る事を望んでいた訳じゃないし、特別な仕事に着こうとも思ってなかった。

普通の大学に進学して、普通の会社に就職して、普通の奥さんを貰い、普通の家庭を築いて、普通の人生を送る。そう、そんな幻想を抱いていた。いや、妄想と呼んで良いかもしれない。十分な程に黒歴史だ。

こんな顔をして生まれた以上、普通なんて絶対にあり得ない。
つまり、実現しようも無い夢を真面目に考えていたのだから、今思い返せば思わず転げ回りたくなる。

高校三年バイトに明け暮れ、大学四年バイトに明け暮れ。これから社会人だというところで、病に罹った。
病名はガン。気付いた時には手遅れで、進行を遅らせる事しか出来なくなっていた。
初期段階で気付けば助かるとは言うが、そんな予兆も感じ取れなかった以上、助かる可能性など初めから皆無だったのだ。

僕の人生に悔むべきところが有れば、それは友人を作れなかった事だろう。
仕事先では最低限しか喋らなかったし、基本的には僕は人見知りで、内気な臆病者だ。

あぁ、それなら、やはり僕は恵まれていた訳じゃないのかもしれない。そこは訂正しよう。
人より優れている者が、あらゆる面で恵まれてる訳では無いように。僕は、人に恵まれなかった、それだけ。

本当に、ただそれだけの事……。



肌寒さを覚え、走らせていたペンを止めた。左に目を向ければ、風ではためくカーテンが目に入る。カーテンがはためくという事は、そこに風が吹き込んでいるからで、つまり僕の感じた肌寒さは、その風が僕に当たっているからである。

そんな回りくどい事を考えながら、ベッドを下りて窓を閉める。
足から力が抜け、ともすれば崩れ落ちそうな危うい足取りで、僕はかろうじてベッドへ戻り、再びペンを執る。

目には400字詰めの原稿用紙が数枚、真っ白な机の上に広がった様が映っている。
その内の何枚かは、手もつけていない白紙だ。何分、小説を書いたことなど無いから、スラスラとペンが進む訳も無い。

パソコンでは無いのか? という疑問も尤もだと思う。だけど、目に映る形で何か残しておきたかったから、僕は紙に書くことを選んだ。

舞台は高校、三年生の夏、三人の女の子と二人の男の子の恋の行方を描いた、甘酸っぱい青春小説……くくっ、どんな皮肉だ、それは。
僕に無かった事の全てを詰め込んだような、最高に気分の悪くなる内容だ。笑えない冗談は嫌いだというのに。

僕の人生の終わりには相応しい、最低に最悪な矛盾した小説だ。それでこそ、僕であろうというもの。

少しばかりの眠気を覚え、手を止める。そういえば、何時から書いていただろうか。
食事を3回挟んでいるから、少なくとも15時間以上か。笑えるくらいに集中していたな。

布団に潜り込み、目を閉じる。途端、一気に疲労が襲ってくる。
だが、程良い疲労だ。このまま、死んでしまいたくなるような眠さでもある。

数分後には睡魔に負け、意識を手放した。
本当、このまま死んでしまいたいくらいだ……。



光がまぶたを貫き、眩しさのあまりに目を開ける。もう朝だろうかと、辺りを見回して首を傾げる。どうにも見覚えの無い場所だ。

向こうの地平線まで続くような花畑。どこまでも澄み渡った小川。
……まるで、あの世みたいな風景だ。いや、これが本当にあの世だという訳ではなく、こんな表現をよく見かけるからそう考えただけだが。

『汝、何を望む?』

不意に、背後から声が掛けられた。ゆっくりと振り向くと、ローブを着て杖を持った、なにやら魔法使いのような格好の怪しげな老人が立っていた。
言っていることもよく分からないが、この人の格好もよく分からない。もう分からない事尽くしで、僕の頭は混乱寸前だ。

『汝、何を望む?』

二度目の問いかけにも、僕は答えない。いや、答えられないと言った方が正確か。
こんな如何にもな格好した老人、相手にしないのが一番である。僕には珍しい、なかなかの正論だ。

『汝、次の生にて何を望む?』

老人は、これまた理解しがたい言葉を紡ぐ。
これはまた、なんとも難しい事を聞いてくる。次の生など、僕の記憶が有る訳でも無し、願いが叶ったところで意味も無いのに。

まぁ……しいて言うなら、友達が欲しいといったところか。
くくっ、完全無欠に究極絶無な戯言だな。

『その願い、叶えよう』

「――うぁ?」

反転、僕の意識は堕ち沈んでいった。
目を覚ました時には、なにやらよく分からぬ夢を見た、と思っただけだった。




その年の冬、一人の少年が無くなった。享年22歳。あまりにも若すぎる死だった。
家族も居ない彼の遺体は、孤児院の院長が引き取り、ひっそりと葬儀がとり行われた。参列者は皆無、悲しすぎる葬式となった。




――暗闇の中で、僕は目を覚ました。なんだか、懐かしい感覚だ。
周りを見ても、何一つ無い真っ暗闇。目に映るモノは無い。

ふと、あの不思議な夢を思い出す。次の生で何を望む、などと言っていたけど……もしかして、本当にあるんだろうか。第二の人生が。

半信半疑で暗闇を漂っていた僕の目に、目映い光が映った。思わず目を閉じる。
あれが……次の生への入り口か? なんとも、希望に溢れることだな。
まぁ、今生より幸せである事を望んで、行ってみるとしますかね。

そうして、僕は、第二の人生の一歩を踏み出した。







カリスマ:Aならこんな感じ。
でも始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・世界編【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/08 17:48
終わりの始まりなど無い。
始まりこそが、終わりでしかないのだ。








その日、ある世界に、三人の異端児が生まれた。同じ日、同じ時、同じ国で、彼らはこの世に生を享けた。
恐ろしいまでに一致した、何かの前触れかと思わせるような誕生だった。


更に異常な事が有った。彼らは、三人が三人まで、生まれたと同時に自我が芽生えたのだ。異常も異常、生物学上有り得ないようなことだった。
何よりおかしいのは、三人とも前世の記憶を持っている事だった。
確かに、前世の記憶が何かの拍子に蘇ったり、初めから有る人も居る。しかし、それはあくまで断片的なものに過ぎない。前世の自身の名前や生まれ、何処で何をして育ったか。その全てを覚えているなど、異常などという言葉でも表わしきれない異端だった。


人が知れば、化け物とでも言うような彼らは、それを分かっているように、その事実の断片も漏らさぬ徹底さで常人を装っていた。
だがしかし、いつまでも彼らが常人を装える筈も無い。そもそも、元の人格が異常者なのだ。常人がどんなものか、知りもせずに演技を出来る訳も無い。三人とも、早い段階で両親にばれた。


そこから、三人の運命は分かれた。それは、必然と言って良い程にはっきりとしていた。


一人は、親に異常だ、異端だと疎まれ、5歳の夏に捨てられた。
――それが、彼の異常性を加速させる事も知らずに。


一人は、親からして異常だった故に、そのまま気にせずに育てられた。
――それが彼を、衝動を抑える必要が無い、と喜ばせる事になった。


一人は、全てを包み込む優しさで、変わらぬ愛情を注がれた。
――家族の温かさを知り、彼は一気に普通人へと戻っていくことになる。


余りにもはっきりと道は分かたれた。残酷と言っていいまでに、ばらばらに。
そこから先の運命は、最早決してしまったのかもしれない。


親に疎まれ捨てられた少年は、一人孤独に暗い所を彷徨う事になり。
親の異常性に抱かれた少年は、更なる破壊を求めて知識を蓄える。
変わらぬ愛で育まれた少年は、人に歩み寄る事を知った。


もしも生まれる所が違えば、彼らの運命はまた違うモノになっていたかもしれない。
だが、『もしも』の話になんの価値が有るだろうか。
根本的に絶対的に徹底的に、三人の進む道は分かたれていたのだから。運命もまた、決められてしまったに等しい。


――そこは、次元世界の中の一つの世界。


名称を、第97管理外世界『地球』。彼らが前世で育った、美しき蒼の星。


この星の、世界の行く先は、誰にも知る事は出来ない…………。









嘘予告です。
この三人を突っ込む理想的な作品は、僕の貧弱な頭では『リリなの』しか思いつきませんでした。
もしかしたら、続くかもです。まぁ、まるっきりのオリジナル展開になる可能性が無きにしも有らずですが……。


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