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[20843] 【習作】ちみっ子の使い魔 第一話 お姉様と僕
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f
Date: 2010/08/04 02:42
 夕暮れ時、少年は友人宅からの帰途にある。
 学校が終わると、家に携帯用ゲーム機を取りに一度帰り、それから近所の友人の家に向かった。昨年から習っている剣道の練習は、この日は休みであり、そんな日はこのようにして過ごすのが通例である。
 そして、帰宅したら夕飯を食べながら大人気のアニメ番組を見て、それから風呂に入り、インターネットを見ながら眠くなれば寝る。
 それが、彼が幾百度と繰り返してきた、平凡だがそれなりに楽しい日常であり、この日もまたありきたりの1頁が彼の人生に綴られる筈だった。

 その内、見通しのあまり良くない三叉路に面すると、彼はカーブミラーで車が来ていないことを確認しながら右へ曲がった。住宅街の袋小路近くの道路であり、一日を通じてもさほど車は通らない場所であるが、彼が生まれる前に飛び出し事故があったため、母親からは必ずカーブミラーを見るように口を酸っぱくして言われていた。
 だから、彼はこの日もそれを忠実に守り、ばっちり安全確認してから曲がった。すると、彼の鼻先には、身長よりも高い楕円形の光が浮かんでいた。

「これ……何ぞ?」

 先週コンビニで立ち読みした漫画内の台詞を、彼はつい口にしていた。漫画・アニメ超大国の育ちらしい、それなりに豊富なサブカル知識から、眼前の物体が何か想像してみる。その推測は、

「ひょっとして、異世界への扉とか?」

 彼がこれまで見た作品のいくつかに、こういう展開があった。突然光る穴が生じて、主人公を吸い込み、現代日本とは掛け離れたファンタジー世界へと導く話が。

 光の横に回りこむと、それは鏡くらいの厚さしかないようだった。その後方には、日頃通り慣れた道が茜色に染め上げられ続いている。
 
 とりあえず、携帯電話を取り出して正面、横、背後から1枚ずつ写メールで撮影すると、彼は路傍の石を拾って正面から放り込んだ。
 その石は、彼の予想、期待を裏切ることなく、鏡面のような輝きに吸い込まれて消えた。

「うおっ! 消えたぞ! もういっちょ入れてみよっ!」

 石の消滅に感激した彼は、小石を数個拾って次々と投げ入れる。それらは、最初のものと同様に光の中へと消える。

 ますます興奮した少年は、三叉路を少し引き返して自動販売機の横にある空き缶篭を引き摺って来た。加速をつけて篭ごと放り入れようとした彼は、転げ出たスチール缶に足の裏を滑らせてバランスを崩し――つんのめってしまった。

「わっ? ちょっ!? ストッ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 他に転げ出た幾つかの空き缶を道連れにして、少年は頭から光の中へとダイブし、電撃のような全身ショックの後気を失った。






 目を覚ますと、最初に目に入ったのは美少女だった。

「あんた誰?」

 幾分幼さを感じさせる第一声は、当然と言えば当然の内容。何せ初対面なのだから。しかし、少年は、少女の容姿に視線と全神経を奪われて返事を返せないでいた。

 桃色がかったブロンドのロングヘアーはゆったりとしたウェーブが掛かっており、青空の下に降り注ぐ陽光を受けて反射と色艶を交互に映し出す。白い肌は透き通るようでさえあり、日差しに傷め付けられるのではと見ていて心配になるほど。鳶色のくりっとした双眸は、不満ぽい色を湛えてもなお美しかった。

 理想的なまでの白人の美少女だが、白いブラウスとグレーのプリーツスカートはともかく、肩から羽織る黒マントは、現代人の少年から見れば、たとえここが欧米だったとしても、違和感を感じざるを得ないような服飾センスに思えた。
 
「言葉が分からないの? あんたは誰かって聞いてるのよ」

 腕組みをして苛立ちを顕にする少女に、彼は慌てて答えた。

「僕、平賀才人だよ。お姉ちゃんは何て名前? そんでここはどこの国?」

 脳裏に次々と浮かぶ質問にも関わらず、少年は自分が思ったほど動揺していないことを自覚する。異世界召喚もののファンタジー作品を見ていたお蔭なのか、どこか客観的にこの状況を見つめている自分がいるのだが、その視点についての意識は無い。
 
 周囲一帯に広がる草原と、自分達を一定の距離を置いて取り巻く人垣、そして遠くに見える石垣造りの城を視野に収めながら、才人は年上と思しき少女の返答を待つ。

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ここはトリステインが誇る高名な魔法学院よ」
「どこですか、そこわ?」

 首を傾げる才人に、ルイズは形の良い眉を顰めて詰め寄る。見慣れない顔立ちと服装だが、トリステインを知らないなんて、この子供はどこの田舎モンなんだろうか。

「あんた、どこの出身なの?」
「東京。日本の首都だけど、分かるよね?」

 腑に落ちないと顰めっ面で表しながら、今度はルイズが首を傾げる番。互いに知っていて当然と思い込んでいる国名の紹介は、共に空振りに終わってしまった様子。

「何で東京も日本も知らないの!? お姉ちゃん、どこの人!? 白人さんなんだよね!?」 
「ハクジンって何よ、それ? あんたこそ、ハルケギニアに住んでてトリステインも知らないなんて、どこの辺境の育ちよ!? お子様だからって、無知にも程があるでしょ!」
「無知はお姉ちゃんの方だよ! 世界有数の経済国と、その首都の大都市なんだよ! 学校に行ってなくても知ってそうなもんだよ!」
「な、何ですって~! このガキんちょ~!」

 小柄なルイズが、自分よりも更に頭一つ近く小さな才人の両頬を引っ張った。ぷよぷよとしたほっぺが、餅のように伸びながら林檎のような血色に満ちていく。

「いひゃい、いひゃい、ひゃひぇてひょ~」

 何だか分からないけど、才人はただ謝りたかった。謝って早くこの苦痛から逃れたいとだけ思った。そんな彼等に、周囲から一斉に声が飛び始める。

「おいおい、ルイズ。人間呼び出しただけでもおかしいってのに、ましてそんなちびっ子と喧嘩して虐めるなんて、喜劇でもやらないぞ」
「魔法だけじゃなくて、寛容さもゼロだな」

 ルイズ達を遠巻きに囲む人垣に、爆笑が波濤のように広がっていく。怒りの対象を、今抓っている少年から周囲へと切り替えると、ルイズは人垣のある方向に向けて怒鳴った。

「ミスタ・コルベール!」

 その方向の人垣が割れ、頭頂部から半分ほど禿げ上がった中年の男性が姿を現した。大きな木の杖を手にし、肩から下の全てを隠す黒いローブを纏った男性は、声を荒げる女生徒に対して落ち着いた声で返す。

「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「あの! もう一回召喚させてください!」

 黒いローブのコルベールは、首を横に振る。

「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」

 必死になって懇願するルイズに、コルベールは淡々と諭す。

「決まりだよ。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。召喚された『使い魔』によって、今後の属性を固定し、その後専門課程へと進むんだ。春の使い魔召喚は神聖なる儀式、好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」
「そ、そんな……」

 肩を落とすルイズ。それを傍らで聞いていた才人は、『使い魔』という単語から連想して背筋に冷水を流し込まれた気がした。

 彼が漫画やゲームから得た『使い魔』についての知識は、吸血鬼が使役する蝙蝠等の動物達についてのものだった。その視点を当てはめると、ルイズの美貌も、この場の全員が羽織っている黒マントも、急におどろおどろしいものに思えてくる。

 諦めたような表情で振り向いたルイズが、自分の方へ歩を進めて来ると、才人はそれに呼応して後ずさる。

「仕方がないから、あんたみたいなちびっ子でも使い魔にしてあげるわ。感謝しなさいよね」
「い、嫌だ」

 まさかの拒絶。ルイズのこめかみに井桁が浮かび上がる。

「今、何て言ったの?」
「き、吸血鬼の使い魔なんて、ごめんだよ。お姉ちゃん達は吸血鬼なんだろ? 僕をさらって来てしもべにするつもりだったんだ」
「はぁ? あんた、何口走ってんのよ?」

 ルイズは頭が痛くなってきた。何度も失敗した末にようやく呼び出せたかと思いきや、それはどこぞの辺境の子供で、しかもさっきから意味不明の単語を連発し、挙句にこちらを吸血鬼呼ばわり。周囲の阿呆共は、当然のようにいつも以上に自分を笑い者にしている。

 い、怒りで血管が切れそうだわ。

「よ~く聞きなさい、アホの子。この美しく高貴なルイズお姉様が、あんたみたいな田舎モンに、キ、キキキ、キスしてあげるってーのよ。感謝感激こそされ、拒絶するなど身の程知……」
「たぁすけ~て~!」

 擬音にすればバビュンというのが相応しかろう勢いで、アホの子は駆け出していた。
 華奢な肩を震わすこと二秒、ルイズはそれ以上の勢いで追跡を開始した。






 才人は子供の割には速かった。しかし、本気モードのルイズはそれ以上に速かった。
 小鹿と女豹のチェイシングよりもあっさりと、才人は捕獲されてしまった。ラガーマンの如く見事なルイズのタックルによって。

「やだぁぁぁぁ!! 血を吸われて『URYYYYY!』とか言うようになって、最後は太陽の光を浴びて塵になるなんてやだぁぁぁぁ!! 誰か助けに来てぇぇぇ!!」
「まだ言うか! このガキャ!」

 ごちんと音がする程豪快な拳骨を受け、才人は頭を両手で抱えて地面に丸まる。見かねた金髪縦巻きロールの女生徒が、人垣から進み出てルイズに物申した。

「ルイズ、さっきから貴女乱暴過ぎるわよ。こんな小さい子を虐待するなんて、貴族としての誇りは無いの?」
「うっさいわね、モンモランシー! こいつが訳分かんないことばっか言うからよ! 外野が知った風なこと言わないでよ!」

 ふんだんに呆れを帯びた視線で見下ろす、ひょろっと縦に長いモンモランシーの背後に、飛び起きた才人は駆け込んで隠れた。
 背中に震えを感じたモンモランシーは、気の毒になって少年の頭を撫でながら振り返る。

「僕、確かにあのお姉さんは乱暴者だけど、ここには吸血鬼なんて一人もいないわ。皆、普通の人間だから。心配しなくて大丈夫」

 その言葉を聞いてきょとんとした才人だったが、すぐにこの世界で初めての元気な笑顔を見せた。モンモランシーも釣られて微笑み返す様子を、苦虫を噛み潰したような顔でルイズが見ていたが、いつの間にか傍まで来ていたコルベールの苦言に、表情を改める。

「ミス・ヴァリエール。相手は君より随分年下の子だろう。そんなに乱暴したり怒鳴りつけたりしては、怯えさせるだけで心を開かないよ。貴族だの平民だのに関わらず、年長者の懐の深さをもって接しなさい」

 返す言葉も無かった。
 自分には全く懐かない少年は、今外野からしゃしゃり出たモンモランシーの優しい言葉と態度に、あっさりと手懐けられている。
 全くもって面白くない。しかし、色々な意味でこのままでは終われない。
 ミスタ・コルベールの言葉もご尤もだ。ならば、やることは一つ。まずは深呼吸して。

「サイト。乱暴しないから、こっちにいらっしゃい」

 波浪警報の出ていた心の水面を静めて、ルイズは穏やかに呼び掛けた。才人は、意外にあっさりと呼び声に応じて近寄って来た。

「あんたは、この私の使い魔、分かり易く言えば召使いみたいなものにこれからなるの。ちょっと熱いけど、男の子だから我慢出来るわよね」
「熱いって、どのくらい?」

 不安と緊張を交えた表情の才人に、ルイズは包み隠さず情報を伝える。

「使い魔に聞いたことなんてないから分かんないわ。でも、その代わり、先に私とキス出来るわよ」

 才人は真っ赤になって、上目遣いにルイズを見上げては足元に視線を落とすのを繰り返した。その様子に、子供相手ながらもようやく手懐けたことへの満足感に、ルイズは初めて笑顔を浮かべた。

 貴族の令嬢が醸し出す優雅さに、才人がぼうっとなっていると、ルイズは目を閉じて、小さな杖を才人の前で振り、呪文の詠唱を開始した。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 杖を才人の額に置くと、ルイズの端整な顔がゆっくりと近付いて来る。

「あ……」

 綺麗だな。
 才人は見惚れて動けなくなった。そのまま、柔らかい唇の感触を受けると、彼も自然と目を瞑った。

 数秒か、数十秒か、認識出来ないくらいの時間の後、二つの唇は離れた。ぼうっと上気した才人だったが、急に体が熱くなると、膝を着いて前のめりになって身悶えた。

「あちちちちちちちっ!!」
「我慢なさい。すぐ終わるわ」
「水掛けて! 火傷して死んじゃうよ!」

 しかし、火傷が生じる前に、熱さは消えていた。
 尻餅を付いた姿勢の才人に、コルベールが近寄ってその左手の甲を見つめる。そこには、蛇がのたくったような、彼も見たことのないような模様が浮かんでいた。

「珍しいルーンだな。まあ、無事『契約』出来て何よりだ。じゃあ、皆教室に戻るぞ」

 コルベールが踵を返して空中に浮上すると、ルイズ以外の生徒達も一斉に宙に浮いた。一同は、遠くに見える石造りの建物に向けてスムーズに飛んで行った。その際、眼下のルイズに対して嘲りの言葉を残していく生徒達もおり、才人にはその意味が良く分からなかったが、肩をわなわなと震わせているルイズの様から、彼女が馬鹿にされているようなのは何となく分かった。

「私達も戻るわよ」

 才人の方を見るでもなく、ルイズは歩き出す。
 声を掛け辛い空気を漂わせる彼女に、才人は何も言うことが出来ず、するとこの時点で初めて、最も基本的で重大な事柄に意識が回った。

 どうすれば、家に帰れるんだろう?



[20843] 【習作】ちみっ子の使い魔 第二話 二人の決意
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f
Date: 2010/08/05 01:30
 教室への移動中、ルイズ達は終始無言だった。才人としては、家に帰る方法について聞きたかったのだが、険しい表情のルイズに声を掛けるのは躊躇われた。

 そして、ルイズの席の横で床に体育座りしながら、その日最後の授業に同伴した。
 頭の中は、親が心配しているだろうな、警察とか学校に連絡取って大騒ぎで全国ニュースになってるんだろうな、ということでいっぱいだったが、心配ばかりしていても頭が疲れるだけなので、やがて考えることを止めた。

「なんくるないさー」

 テレビで覚えた沖縄弁をぽつり呟くと、静粛が広がる教室の中で彼の周辺だけには聞こえたらしく、声の主や更にその主に対して好奇と嘲りの視線が集中する。

 おでこをぴしゃりと叩かれた才人が数瞬目を瞑って開くと、隣の頭上からルイズが口元に人指し指を立ててシーッとジェスチャーをしている。世界どころか異世界でも共通らしいジェスチャーを。

 それを受けて、才人は太腿に顔を埋めて目を閉じた。お利口さんと評してもよい彼の反応を見て、ルイズはふうと軽く息を漏らした。






 放課後、部屋に戻ったルイズはベッドに腰掛けながら、眼前の床に正座する才人と話をしていた。平民で使い魔という立場を分かっているからなのか、ルイズの位置より低い地べたで背筋を伸ばして座る才人に、彼女は少し感心していた。
 生意気なちびっ子と思いきや、意外と礼儀や心構えが出来ているのかも知れない。それなら、少しは話を聞いてやるのもいいだろうと寛容な気分になる程に。

「お姉ちゃん、僕、自分の家に帰りたい」
「それは無理よ」

 才人の言葉は、十分に彼女の想定範囲内にあった。年端もいかぬ子供なら、一番先に言い出しそうな内容である。故に、彼女は冷徹なくらいにあっさりと返答した。

「なんで!?」

 円らな双眸を一層丸めて驚き、それから眉を八の字にして怯えが混ざったような表情で訴える。そんな才人の問いに、ルイズは文書を読み上げるように無表情な声で淡々と応じた。

「あんた、私の使い魔になったんだもん。これから私のために働いてもらうんだから、帰すわけにはいかないわ。実家って、トウキョウって村だっけ?」
「村じゃないよ、世界有数の大都市だってば。トリステインって国こそ、どこのことなの? 世界地図か地球儀見せてよ」

 さっきからいまいち噛み合わない地理上の会話に決着をつけるべく、ルイズは書棚から細く巻いた羊皮紙を取り出して、テーブルの上に広げた。立ち上がって覗き込むと、そこには才人が社会の時間に見た世界地図の、西欧地域に結構似た輪郭の地域が描かれていた。

「ここがトリステイン。南に面するのがガリアで、東に面するのがゲルマニア。西の空にぷかぷか浮かんでるのがアルビオンよ」

 トリステインと隣接国だけを手っ取り早く説明すると、ルイズは才人の反応を確かめようとする。
 彼は、顎に指を当てるという子供らしからぬ仕草で暫く考え込んでいたが、やがて入室時に背から下ろしたリュックサックからボールペンを取り出した。

「僕のいた世界と結構似ているけど……やっぱり違う。今度は僕が説明するね」

 ルイズが頷くのを確認すると、ボールペンの尻の部分でトリステインからガリアにかけて、地図上にゆったりと曲線を描きながら喋り始める。

「ここは、フランスって国です。ワインが沢山取れて、かたつむりを調理して食べまーす。次に、このゲルマニアってとこは、僕等の世界ではドイツって言います。ドイツ人は、ゲルマンって民族名です。ここは似てるよね」

 一度説明を切って同意を促す才人に、ルイズは関心を隠そうともせずに首を振る。才人は、視線を地図に戻すとアルビオンの位置にペン尻を置いて、説明を再開する。

「ここはイギリスっていって、ご飯が不味いそうだよ。小魚とじゃがいものフライしか名物が無いとか、ビールとスコッチウイスキーしか飲み物が無いとか、雨や霧が多いとか、社会の先生がボロクソ言ってた」

 説明を聞きながら、ルイズは一層興味深く頷いた。アルビオンの食べ物が不味いとか、飲み物がエール酒くらいしかないとか、こちらの事情と酷似した情報に、両世界間におけるどこか不可思議な縁の存在を疑ってしまう。

「ここはポルトガルで、そのお隣はスペイン。スペイン人は、陽気で歌や踊りが好きらしいよ。そんで、ここはイタリア。古~い歴史を持つ国で、ご飯が美味しくて観光地が多いんで、海外旅行先として日本人に人気がありまーす」

 イタリアの説明を受けたところで、ルイズはその地域に白く細い指を置いて補足した。

「ここね、こっちの世界ではロマリアっていう宗教国家なの」
「それも似てるね! イタリアって昔はローマ帝国っていうでっか~い国で、世界一の大国だったんだよ。今は小さくなってるけど、首都がローマっていうんだ」

 ルイズの顔を覗き込む才人の目は、好奇心で輝いていた。彼の話に興味関心を示しているのは、彼女の方も同じなのだが、流石に年下の少年よりは落ち着いた様子で評を下した。

「あんたって、平民の子供の割に物知ってるみたいね。学校にでも通ってるの?」
「僕だけじゃなくて、子供は全員通ってるよ。今度の社会のテストで満点取ったら、母さんがゲームソフト買ってくれるから、最近毎日勉強してたんだ」
「ゲームソフト?」
 
 聞き慣れない単語を反芻するルイズに、才人は得意気に笑ってみせながら、再びリュックに手を突っ込んだ。取り出されたものは、日本では大概の子供が持っている横長方形型の折り畳み式携帯ゲーム機。子供の掌には軽く余るくらいのサイズである。

「お姉ちゃんには特別に見せてあげるね」

 電源を入れると、画面に白い光とそれを背景にした字幕が現れ、一度暗転してゲームブランド名が浮かび上がる。そして、オープニングアニメをスキップすると、太字のゲームタイトルが荘厳な音楽と共に浮かび上がる。

「これ何? どんなマジックアイテムなの?」
「マジックアイテムじゃないよ。これは機械。電気で動いてるんだよ」

 才人がセーブデータの一つを選んで開始すると、草原と山地を俯瞰したマップ上に、青色をした人型ユニットと、赤色のそれが各々十数体ずつ距離を置いて固まっている。
 ローブを着た青色ユニットにカーソルを合わせると、赤い敵部隊の先頭にいる鎧騎士に向けて移動させ、一マス空けて間接魔法を行使させた。
 風の刃を飛ばされた鎧騎士は、直接攻撃用武器しか持たないために、無抵抗のまま一方的に倒された。

「魔法は反撃も受けにくいし強いんだよ~。でも、くっつかれて攻撃されたら打たれ弱いから、間に打たれ強い騎士とか置いて盾にするのが原則なんだ」
「ふ~ん、こっちのメイジと使い魔の関係そのものね。字は読めないけど、良く出来てるじゃない、このゲームソフトとやらは」

 未知の物体が描き出す現象に感心しながら、ルイズは改めて自分の使い魔が見知らぬ異世界から来た存在なのだと実感させられた。
 ルイズは肩越しに暫くプレイを覗いていたが、赤いユニットが数体倒されたところで、才人はゲームを中断して機体を二つに折り畳んだ。

「話が脱線しちゃったけど、これで僕が違う世界から来たって信じてもらえるよね?」
「う、うん、まあね」

 ルイズの相槌を得ると、才人の活力に溢れた目の色が、急に弱々しく潤んで凪いでいった。

「僕、一生お姉ちゃんの使い魔なのかな? もう、家に帰れないのかな……」

 しゅんとして俯いてしまった少年の落ち込みぶりを見ると、ここまで冷静に振舞っていたルイズも、流石に胸を締め付けられる思いがした。

 故意ではないとはいえ、いたいけな子供を突然連れて来て、一生自分に仕えさせる――人買いや人攫いに近い所業と非難されても、否定し切れない気がする。人道的見地からして。

 自分に出来ることは何だろうか。まずは、誠実に事情を説明し、その後慰めたり面倒を見てやる。そして、いずれは帰る方法を探してやらねばならぬのではないか。
 
 子供本人もそうだが、突然我が子を神隠しに遭わされた親の悲痛は、到底計り知れない。
 図らずも自分は、この子を守り育て、必ず親元へ帰してやらねばならない責を負ってしまった。貴族云々の前に、人として当たり前の責務を。

「あのね、サイト。元の世界に戻る方法は、私もこの学院の先生も誰も知らないわ。でもね、私が責任もって方法を探して、必ずあんたを元の世界に帰してあげるから。それまでは、私があんたの面倒を見るから。だから、これ以上悲しまないでね」

 黒髪をくしゃっと指で梳かすと、才人はルイズの胸に飛び込んで抱き付いて来た。子供の高い体温を感じたルイズは、そのままぎゅっと抱き締め返してやる。

「大丈夫だから。貴方は一人じゃないの。……ルイズお姉ちゃんが、一緒だよ」

 ブラウスの胸が、中からも外からも熱くなった。涙が滲んでいるのだろう。

 やがて、顔を上げた才人は、ルイズの胴に回した両手を外すと、パーカーの袖で涙と鼻水の残滓を拭い――笑った。

「僕、もう大丈夫だよ。父さんも母さんも凄く心配してるだろうけど……泣いたってどうにもならないもん。こっちで元気に暮らして、いつか戻るんだ。それまでは、お姉ちゃんとこっちで暮らす、ね」

 その肩に乗せた手を頭上に運んで撫でてやると、才人は子犬のように心地良さそうにして目を閉じ、ルイズの胸にこてっと寄り掛かって来た。

「偉いよ。あんたは強い子、いい子よ、サイト」

 心からそう思った。この子は、『強い』か『賢い』のどちらかが確実に当て嵌まるに違いないと。






 トリステイン魔法学院の食堂は、敷地内で一番背の高い本塔の中にある。食堂内部では、やたらと長いテーブルが三つ並んでおり、各テーブルが一~三学年の各々に対応している。
 ルイズ達二学年は、真ん中のテーブルに座って夕食を摂っていた。
 ここでは貴族以外の者、つまり平民が食事を摂ることは通常許されていないのだが、この日終にそれが破られてしまった。

 金髪縦巻きロールのモンモランシーを見付けた才人は、その隣に座りたいと主張したので、ルイズはその通りに連れて行ってやった。
 ミスタ・コルベールには、事前に才人の同席の許可を得てある。寛容な彼らしく、使い魔であることと保護者の同伴が必要な児童であることを理由に、あっさりと許可は下りた。それが、彼の独断によるものか、学院長のお墨付きなのかまでは彼女の知る所ではない。

「美味しいね~、お姉ちゃん」

 ルイズとモンモランシーに挟まれて鳥のローストを頬張る才人はご満悦。両隣の姉達は、自分のフォークをしばしば止めて、その様を笑顔で見守っている。

「サイト、口に物を入れながら喋るのはみっともないわよ」

 パンを千切りながら苦笑するルイズに、才人を挟んで向こう側のモンモランシーは、楽しそうに声を掛ける。

「さっきはあんなに荒っぽかったのに、どうなっちゃったの? 保護者っぷりが板に付いてるじゃない」
「さっきは子供っぽ過ぎたわ、反省してる。私がこの子の面倒見るんだから、もっと大人にならないとね。それと、サイトのこと見てくれてありがとう」

 モンモランシーは言葉が出ない代わりに、目を丸くすることで語った。
 魔法がまともに使えないために誰からもからかわれ、尖り続けていたルイズが、素直に『ありがとう』なんて言葉を言う。本人に失礼かも知れないが、何とも別人のように思えて仕方が無い。

「あによ、その目は。私だって身内が世話になれば、お礼くらい言えるわよ」

 これまでのような尖った視線で不服そうに見せると、その仮面をすぐに剥ぎ取ってルイズはにっこり微笑んだ。同性のモンモランシーでさえ魅力的と感じる程の、深みと柔らかさのある美しさが花のように開いたが、その瞬間を鑑賞する恩恵に与ったのは、彼女一人だけであった。



[20843] 【習作】ちみっ子の使い魔 第三話 魔法使いとの初喧嘩
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f
Date: 2010/08/06 01:50
 ハルケギニアに召喚されてから最初の夜、才人は床で寝ることを避けられた。
 彼のご主人様にして姉代わりのルイズが、ふかふかのベッドの上にご招待下さったのだ。

 ベッドの中は、ルイズと同じいい匂いがした。並んで横になると、彼女は才人の柔らかい髪を手櫛で梳いてくれた。それがやけに心地良くて、才人はルイズの胸の方に体を向けてくっつき、先程の半分くらいの力で抱き付く。すると、彼女の方も軽く抱き止めながら、優しい子守唄を口ずさみ始めた。

 オルゴールのように繰り返される何周目かの旋律で、才人はすーすーと寝息を立てていた。無意識に紡ぎ出されたその唄は、彼女自身幼少時に枕元で姉に唄ってもらったものと同じものであった。






 翌日午前最初の講義は、『赤土』の二つ名で通っているシュヴルーズが教鞭を取った。紫色のローブに帽子という、才人でも一目で魔法使いだと見当の付く服装に身を包んだ、ふくよかで優しそうな中年の女性である。

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 教壇から新たな教え子達を一通り見回すと、シュヴルーズはルイズと才人に視線の照準を合わせて、優しく微笑んだ。

「あらあら、ミス・ヴァリエールは随分可愛らしい使い魔を連れているのね」

 自分を見て告げた優しそうなおばさんに対し、才人は少し得意そうに胸を張ってVサインを見せる。その右隣のルイズは教師に愛想笑いで返し、今日も左隣のモンモランシーはくすりと上品に笑う。
 しかし、優しい三人のレディ以外の反応は、どっと沸き起こる賑やかな笑い声、そして続けて投げ付けられる嘲りの言葉であった。

「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」

 男子のガラガラ声が、不快な音波と内容でルイズの耳に届く。
 いつものルイズなら、即座に立ち上がり、形の良い眉と目尻を吊り上げて言い返すところだ。しかし、この日の彼女の心理状態は、昨日までとはほぼ対極に位置している。

 罵声の主、太っちょ体型の『風上』のマリコルヌに対して彼女が抱いた感想は、幼稚な奴であった。
 甘やかされて自意識過剰な貴族の子弟。他者に対する思いやりに欠ける我が儘なお子様共。こんな奴ばらに昨日までムキになって張り合っていたなんて、考えただけで赤面する思いだ。

 こっちは、大事なちみっ子を守り育ててやらなきゃならないわ、自分のメイジとしての勉強もしなくちゃならないわで、とにかく忙しい。こんな馬鹿ボンボン共を相手取ってる時間も余力も無いってのよ。言いたきゃ、勝手に言ってりゃいいわ。

 己を侮辱する相手を、逆に同情さえ混ざった冷たい蔑みの視線で見るルイズ。この娘一晩で急に大人びたわね、と席二つ隣のモンモランシーは興味深そうにしてその様を見つめている。
 彼女がこの調子なら、円滑に授業が始まる筈であった。のだが、

「そこのでぶちん! ルイズお姉ちゃんを馬鹿にするな!」

 彼女達の間に座するちみっ子が、まるで昨日までのルイズが乗り移ったかのように、勢い良く立ち上がって言い返した。二人の美少女は、目を丸くして彼を凝視してしまう。

「で、でぶって言ったな! お前、平民のガキのくせに、貴族の僕を、ぶ、侮辱したな!」

 幾つも年上の男子に睨み付けられ、怒りをぶつけられても、才人は平然と睨み返した。
 大好きな優しいお姉ちゃんを不当に馬鹿にされたことで、この世界に来て初めて腹を立てているのだ。相手が謝るまで許さないつもりでいる。

「そっちが先に言ったくせに! 誰だって、馬鹿にされたら腹が立つんだい! そんなことも分からないなんて、でぶちんの上に鈍ちんだよ! そんなんじゃあ、どうせ実年齢=彼女いない歴なんでしょ!」

 刃物で刺されたかのように硬直するマリコルヌを、彼を中心に広がっていく笑い声が弄っていった。
 ふっくらした顔がみるみる青褪めていったかと思うと、楕円に近い輪郭の全身を震わせたマリコルヌの顔は、やがて蛸のように真っ赤に染まっていく。
 
「でぶって言ったな……もてないって言ったな……」

 剣道を習っているせいか、短い人生経験の割に、才人は気配の読めるところがある。
 今、数メイルの間を置いて対峙する相手が、危険な空気を孕んでいることを、彼は理屈でない感覚で察知してしまう。

「あのっ、あのね、僕もちょっと言い過ぎたよ。ぽっちゃりしていて可愛いと思うよ、うん。そういうのが好きな人も世の中に……」
「やっかましっ!!」

 その目が赤く光ったのは、魔性の域に達する怒り故か、心底からの血涙故か。マリコルヌの怒号と共に、才人に向けて空気を絞るような突風が巻き起こり、彼だけを広い講義室の最後方の壁まで吹き飛ばした。

「ぎゃんっ!」
「サイトッ!!」
 
 長い髪を強く煽られただけで済んだルイズとモンモランシーが、ほぼ同時に才人の落ちた所に駆け寄る。水の系統魔法を代々専門とするモンモランシーが、横たわって苦悶する才人に治癒魔法を掛けてやると、彼は上体を起こしてゆっくりと立ち上がった。

「あれ? もうあんまり痛くないよ」
「モンモランシーが、魔法で怪我を治してくれたのよ。お礼を言いなさい」
「お姉ちゃん、怪我を治してくれて、どうもありがとうございます」

 ルイズから説明を受けて理解した才人は、地面と平行近くまで上体を曲げてお礼を述べた。元気溌剌とした声と折り目正しい作法に、根は真面目な性格のモンモランシーはついつい口元が綻ぶ。

「どういたしまして。それにしても」

 才人に向けている優しい眼差しを、向こうの肥満した同級生に向けると同時に、彼女は視線と言葉を鋭くしてセットで突き刺した。

「子供の悪口にカッとなって魔法で攻撃するなんて、あの人何考えてるのかしら! ミセス・シュヴルーズ! ミスタ・グランドプレの今の暴力について、見過ごされるべきではないと思います!」

 片手を上げて高らかに意見を述べる彼女を見て、才人は自分のクラスの学級委員長の女子を思い出した。モンモランシーみたいな美少女ではないが、真面目で勉強が良く出来る眼鏡っ娘のことを。

「確かにミス・モンモランシの言う通りです。ミスタ・グランドプレ、子供と口喧嘩して自分から先に手を出すなんて、貴族どころか人間として問題有りですよ。講義の後話がありますから、そのつもりで」

 穏やかながら有無を言わせない視線と言葉の力で、興奮冷めやらなかったマリコルヌは一気に零度近くまで冷却させられる。不安と後悔がありありと浮かぶ表情で、彼は力無く腰を落とした。

 アクシデントこそあったものの、ようやく授業が始まると一同が思ったその矢先、タタタタッと小刻みな足音が近付いて来たため、シュヴルーズはその小さな影が自分の元に来るまで待っていてやった。

「先生―! 僕もあのお兄ちゃんに酷いこと言いましたー! だから、これ以上叱らないであげてくださーい!」

 眼前で立ち止まって挙手すると、何かを宣言するかのように甲高い声を張り上げる男の子に、シュヴルーズはきょとんとする。それから、優しい笑顔を添えて、彼に言葉を投げ掛けた。

「貴方は優しい子ですね、えーと……」
「才人だよ。僕、平賀才人っていうの」

 元気で思いやりがある可愛らしい男の子。そう評価したシュヴルーズは、慈しむようにして彼の視線を受け止めながら、丁寧に言い聞かせる。

「サイト君。貴方の今の言葉は、とても素晴らしいわ。でも、彼のしたことは、明らかに悪いことよ。罰を受けなくては、彼の今後のためにもならないの」
「うん、そうだと思うよ。だからね、僕も一発痛い目にあったから、一発お返ししたいんだ」

 少年の口から意外な言葉が続き、シュヴルーズはまたもきょとんとしてしまった。彼に対する今ほどの評価は、『思いやりがある』という項目については宙ぶらりんとなる。

「それはいけないわ。やられたらやり返すじゃ、いつになっても争いは収まらないのよ」
「収まるよ。一発に対して一発、イーブンだもん」

 今にも鼻歌を歌いだしそうなくらいに嬉々とした様子の才人。意外と口達者な子供をどう納得させようか腐心し始めたシュヴルーズの視界に、彼の後方から保護者の生徒が駆けて来るのが映った。

「申し訳ありません、ミセス・シュヴルーズ。サイト、無理を言ってミセス・シュヴルーズを困らせてはダメよ」

 講師に頭を下げると、ルイズは才人の両肩に手を置いて優しく諭す。唇を尖らせてむ~と呻く才人と、俯き加減のマリコルヌを交互に見遣ったシュヴルーズは、それを二、三度繰り返すとぽんと手を叩いて言った。

「では、こうしましょう。何の罰も与えないと言う訳にはいかないので、ミスタ・グランドプレに選ぶ権利を与えましょうか。ミスタ・グランドプレ、私の指導とサイト君の一発の好きな方を選びなさい」

 穏便そうなシュヴルーズにしては、腕力の行使を許すような意見は少し意外だったようで、教室はまたもざわめき出した。
 己が醜態を自覚するマリコルヌとしては、教師からのお小言の方が重くて長引きそうに思えたので、生意気な平民のちびっ子とは言え、一発殴るか蹴るかさせてやった方が結果的に楽そうに思えた。

「そのガ……子供の方を選びます」

 おーっと言う声が至る所から上がった。場を騒がせたお子様は、今やこの空間における興味関心事の寵児となっていた。それ故に、次は何をやらかすのだろうかと無責任に期待する者達は、マリコルヌがそちらを選ぶことを望んでいたのだった。

「あの、ミセス……って、ちょ、ちょっと、サイト!」

 基本的に生真面目なルイズが、教師に一言確認しようとした矢先に、才人が元気に走り出してマリコルヌの背後まで行ってしまった。

「じゃね、起立して前かがみになって」
「こ、こうか?」

 言われるがままに中腰体勢になったマリコルヌの丸い背中に、おんぶしてもらうように乗り上がった才人は、彼のぽちゃぽちゃの大腿を足でロックするようにしながら、後ろから手首を掴んで背中の上に向けて両腕を吊り上げると、更にそのまま掴んだ両手首を相手の頭部に近付けるようにして押し出した。

「いだだだだだだ! 痛いっ! 痛いって!」
「にゃははははっ! 僕はもっと痛かったもんねー! 『ポロ・スペシャル』の味はどうじゃい? 辛ければ、さっさとギブアップせい!」
「良く分からんけど、勘弁っ! 勘弁してくれぇっ!」

 ギブアップと言う言葉が存在しない世界で、両肩を裏側に捻られるような激痛に耐えられなくなったマリコルヌは、悲鳴にも似た声で許しを乞うた。怪我までさせる気は無い才人は、手首を解放して彼の背中から降りた。

「兄ちゃん、大丈夫か? 一応手加減したつもりなんだけど。……それと、さっきは言い過ぎてごめんな」
「た、多分、大丈夫……身も……心も」

 机に前のめってぐったりとするマリコルヌの顔を、才人は心配そうに覗き込んでいたが、本人の言う通り大丈夫だろうと判断すると、姉達の隣に戻って行った。
 ちなみに、この日は才人の方をちら見するあまり、授業に集中し切れない生徒が続出したという。






 放課後、ルイズ達は部屋でこの一件について語り合っていた。

「あんたってば、授業の妨害になるようなことしちゃダメよ。私なら、からかわれたって気にしてないんだから」
「だって、お姉ちゃんのこと馬鹿にされて、凄くムカついたんだもん。僕、我慢出来ないよ」

 その時のことを思い出したのか、不服と苛々の混じった様子で才人は真っ直ぐに訴えた。ルイズは、困ったように微笑んでその頬を撫でてやる。

「だからって、いちいち突っかかってたらきりが無いわ。私が馬鹿にされるのは、まともに魔法を使えたことがないからなの。貴族の子弟なんてプライドは高いし、他者の弱みに付け込んで見下す奴なんてざらなのよ。ほっときゃいいのよ、そんな奴等は」

 昨日までは自分もその一人だったんだけどね、と心中独り言つルイズは、今となっては嘲笑をくだらないとこそ思えど、悔しいとは思わなくなっていたので、ただ淡々と本音を語った。

「今日はたまたまあの程度で済んだけど、もっと強い魔法を使う奴と喧嘩したら、命に関わるのよ。お姉ちゃん、サイトがそんなことになるの、絶対嫌だからね」

 両頬を優しく挟まれて姉に覗き込まれると、才人は視線を落として考え事を始める。そんな彼に、ルイズは声調をより穏やかにして語り続ける。

「約束して。もう喧嘩しないって」

 才人は即答しない。姉の言うことは頭では分かるのだが、心が納得し切れていないから。
 そんな彼の気持ちを読み取ったのか、ルイズは才人のおでこに自分のおでこをそっとくっつけて伝えた。

「私の代わりに怒ってくれて、嬉しかったよ。ありがとね」

 複雑に渦巻いていた才人の気持ちは、表情から抜け落ちていった。晴れ空のように澄んだいつもの瞳に戻ると、彼は大好きな姉に約束するのだった。



[20843] 【習作】ちみっ子の使い魔 第四話 女たらしとクックロビン
Name: TAKA◆1639e4cb ID:bc5a1f8f
Date: 2010/08/08 02:25
 昼下がり、才人はマリコルヌと並んで食堂でケーキを食べている。
 ほんの十数分前、ルイズが調べ物のために図書館に行ったので、小腹の空いていた育ち盛りの才人は、食堂で軽く何かを食べながら姉の帰りを待つことにした。
 すると、先日小競り合いをしたマリコルヌの丸い撫で肩が見えたので、暇に飽かせて隣に座ったのだった。一応和解は成立しており、マリコルヌは特に嫌そうな素振りも見せずに才人に応対していた。

 マリコルヌの眼前の皿には、三種類のケーキが二ピースずつ、風車の羽のように並んで円を成している。オレンジゼリー付きショートケーキ、レアチーズケーキ、チョコレートムースが各々二つずつ並ぶ皿の上の密度は、見ただけで胸焼けする者もいることだろう。

「兄ちゃん、食い過ぎ。そんなんじゃ痩せられないよ。だから援護しまーす」

 言うが早いか、才人はチョコムースを一つフォークで突き刺して、さっと自分の皿の上に運び去る。そして、マリコルヌの非難よりいち早く一口目を堪能していた。

「あ、こら! 僕のケーキを勝手に取るな!」
「兄ちゃんは、自分に厳しく出来ない人なので、僕が協力してあげるのです。感謝してほしいのです」

 マリコルヌは、奪われたものについては諦め、とりあえず五ピースを搭載した皿を小さな盗賊から遠ざけた。奪われたチョコムースは、既に半分以上才人の胃袋へと姿を消している。

「はー、ここのケーキ美味しいね~。パティシエさんは、そりゃもう凄い人なんだろうね~。お兄ちゃんが食べ過ぎるのも無理ないかもだけど、その分運動しないと痩せらんないよ」

 無造作に自分の腹肉を抓む小さな手を、マリコルヌは反射的に払い除けた。ケーキは盗む、小言は言う、脂肪を掴むとやりたい放題の子供に対して、不機嫌さを半分は漏らしながらも返事をする。

「別にいいんだ。確かに、太ってたらなかなか女の子は振り向いてくれないけど、それでも僕は、太っちょでも振り向いてくれる相手を諦めずに探すんだから」
「そうだね~。お笑い芸人なら、デブとかブッサイクでも綺麗な女の子にもてたりするね~。お兄ちゃん、そっちの才能は有るの?」
「喜劇役者ってことかい。無い、って言うかそもそも考えたことも無いよ」

 互いに異世界の住人同士である両者の、お笑い芸人に対する認識はかなり違う。
 現代日本に生きる才人の認識では、お笑い芸人とは、ルックス・学歴・スポーツ等のスペックに関係無く、視聴者を楽しませることさえ出来れば、お金や女の子からの人気を沢山得られる、アメリカン・ドリーム的性質の非常においしい職業だというものである。
 片やマリコルヌからしてみれば、喜劇役者と言うのは、一発当てれば下手な貧乏貴族などより遥かに上の収入を得られるものの、世間の目からすれば所詮道化師に過ぎない、色眼鏡で見られるものだという認識である。貴族のご子息である彼からすれば、職業の選択肢に上ること自体ナンセンスなのだ。
 故に、才人の言っていることは、マリコルヌにはいまいち意図が掴めなかったりする。

「ふ~ん。やっぱり痩せるのが、一番大変だけど確実と思うけどね~。あとは特殊技能とか性格でカバーかな~。ファイトファイト!」

 肩をばしばし叩いて励ます、陽気で能天気な子供の方に、マリコルヌは首を向けてじっと見つめ、そしてケーキに視線を戻してフォークを刺しながら考える。
 ルイズとモンモランシーという二人の美少女から、大層可愛がられている羨ましい子供。こいつが人気なのは、元気でやたら人懐こいところと、何と言っても年が離れていることだろう。
 性格に関しては、自分とこいつとではかなり違うのだが、年下というアドバンテージを活かすことは自分にも可能ではなかろうか。こいつと彼女達は六、七歳くらいの年齢差だろうから、自分も二十代前半の美しいお姉様に甘え――。

 何やら重大な勘違いをし始めたマリコルヌは、脳内で桃色の妄想に囚われていく。
 肉付きのいい顔をますますだらしなく緩める彼の隙を突いて、才人は次のケーキを掠め取ろうと皿の上の三角柱達に目を光らせ、フォークを伸ばそうとした。
 が、その直前、ぱしーんと乾いた音が響いたので、マリコルヌは現実世界に意識を引き戻され、才人も二度目の略奪をすんでのところで断念させられる。

 音のした方向を見れば、数名の男子による一団と、そこから両手で顔を押さえて早足で去っていく少女の後姿があった。男子達の中心では、金色の巻き髪でフリル付きのシャツを着た少年が頬を押さえている。

「何があったのかな? ひょっとして修羅場?」

 インターネットの動画サイトで恋愛ドラマを見たこともある、少し耳年増の小学生に、マリコルヌは問題の場に視線を向けたまま答えた。

「そのようだね。あの頬を押さえている奴は、ギーシュ・ド・グラモン。トリステインでも有数の大貴族の四男坊だが、ちょっと顔がいいからって、可愛い女の子に次々と声を掛ける軟派な気障男さ」

 幾分忌々しげな言い方から、才人はギーシュに対するマリコルヌの良からぬ心象を感じ取ったが、視線の先に近付いて来る黄金の巻き毛を見ると、彼の関心は一瞬でそこに取って代わられた。

「モンお姉ちゃんだ」

 反射的に動き出した才人の表情は、ご主人様を見つけて駆け寄る甘えん坊の子犬を彷彿させるものであったが、自分の脇を通り過ぎようとした子犬の首根っこを、マリコルヌはがしっと掴んで捕らえた。

「今は止めておけ。後にしときなよ」

 捕まれて振り向いた才人の驚いた顔は、どうしてと尋ねるが如くだったが、マリコルヌがポーカーフェイスで首を左右に振るのを見て、そして優しいモンお姉ちゃんの初めて聞く怒鳴り声に、振り向いた顔を元に戻す。

「嘘吐き!」

 遠ざかっていく金髪巻き毛を追い掛けようとした才人だったが、まだ拘束されている手応えを感じると、怒りと寂しさが入り混じった目でマリコルヌを見上げた。

「気持ちは分かるけど、今すぐは行かない方がいいと思うぞ。ルイズに相談してからの方が」

 マリコルヌの助言が適切であると心から納得出来てしまった才人は、しょんぼりして視線を落とす。何故か罪悪感を感じてしまった太っちょの年長者は、自分のケーキをもう一つくれてやるかと覚悟を決めたが、顔を上げて才人が求めたのは慰みではなかった。

 説き伏せたつもりになって手を緩めたマリコルヌの元から、才人は子供なりの早足でさっさと離れてしまっていた。その向かう先は、ほんの今まで修羅場となっていた男子達のたむろするテーブル。
 それ以外は沈黙が支配する空間において、小さな足音だけが響いて近付いて来ると、男子生徒達はその主に視線を集中させた。

「ねえ、なんでモンお姉ちゃんに怒鳴られたの?」

 金髪に引っ被ったワインをハンカチで拭う色男は、見慣れない格好の黒髪の男児に対し、何かしら答えようとした。しかし、咽喉から言葉を押し出す前に、隣の男子生徒が代わりに答えてしまう。

「二股掛けてるのがバレちまったんだよな、ギーシュ!」

 その言葉を指揮者のタクト代わりにして、ギーシュを除く男子数名は声を合わせて笑い出す。
 才人の年の割におませさんな部分が、初歩的なジグソーパズルを組み立て終えた。この人は、浮気をしてモンお姉ちゃんを怒らせた女たらしだ、という絵図が彼の中で完成すると、後は憤りを色帯びた言葉が自然と紡ぎ出されていく。

「お、女たらしのっ、わ、悪もんだぁー!」

 男子グループ全員の目が丸くなり、そして平静を取り繕うとするおすまし顔のギーシュ以外は、再び愉快そうに笑い出す。

「そうっ、その通り! こいつはギーシュ・ド・ワルモンっていう、可愛い娘には目が無い、根っからの女たらし、病的な女好きなんだ!」
「おいおい、君達。誤解を招くような言い方は止めてくれないか。この子が勘違いしてしまうだろう。いいかい、坊や」

 手櫛で前髪を梳かし、目を閉じながらうっとりと語るギーシュを、才人のボキャブラ辞典が瞬時に適切単語を当て嵌めた。『ナルシスト』である。

「僕には、付き合うといった特定の女性はいないのだ。薔薇が咲くのは、多くの人を楽しませるため。そういうことなんだよ」

 才人の小学生の読解力でも、今の発言の意味は十分に理解出来た。つまり、モンモランシーのことも付き合っている訳ではないと。
 ならば、何故泣いた女の子や、怒ったモンモランシーがいるのだ。それについては、この人はどう思っているのか。

「モンお姉ちゃん、凄く怒ってたよ。お兄ちゃんは、怒らせないようにしなきゃダメなんじゃないの?」

 見上げる子供の真っ直ぐな目と言葉。それでも、ギーシュは後ろめたさなど全く無いかのように、また髪をかき上げて涼しげに微笑んでいる。

「言っただろう。僕は、皆が楽しむための薔薇。誰にも手折られないけれど、誰にも僕を見るなとは言えないのさ」

 周囲の男友達は肩を竦めたり、呆れ混じりの笑顔でいる。いつもの事ながら、よくもまあ芝居がかった臭い言葉が吐けるもんだと、彼等の思考は一致していた。

 一方、才人の心中は憤りがよりくっきりはっきりとなりつつあった。
 ルイズお姉ちゃんと同じくらいに優しくて大好きなモンお姉ちゃん。そのお姉ちゃんを浮気で怒らせて、自分は誰にも縛られないと平然と言い放つ眼前の男は、才人が近所のおじさんから聞いたことのある、所謂『悪い男』の一例であった。
 そんな悪い奴は、こうやって責めてやるんだ。酔っ払いながらも、そのおじさんはやり方を才人に教えてくれたものだ。
 
 パッパンッがパン。
 才人は、町内会の盆踊りでやるような手拍子を始めた。それを何度か繰り返すと、次は手拍子に合わせて掛け声と踊りが加わった。

「だ~れが泣っかせた、モンお姉ちゃん。あっそ~れ」

 甲高い、日本の祭囃子を思わせる声が食堂に響く。
 その踊りは、パッパンの二拍の後の、パンで手を打つ代わりに右足一本立ちになり、そのままヘッドスライディングみたいにして、両手を前に左足を後ろに突き出しながら、地面と平行に前傾する。これを、ひたすら才人は繰り返す。

 この世界の人間が知る筈も無いが、はっぴが似合いそうな可愛らしい男の子の踊りである。
 最初は呆気にとられていた生徒達だったが、ギーシュを除く一同は才人に合わせて手拍子と同じ歌詞、やがて踊りまで真似始めた。

「わっはっはっ! こいつは傑作じゃないか! お前、面白い歌と踊り知ってんなあ!」
「次は歌詞を変えてみようぜ! もう一人の娘、ケティちゃんでやってみるか!」

 離れたテーブルにいた生徒達も、聞いたことのないリズムの歌と手拍子に、何事かと思ってぞろぞろ人垣を成し始める。さしもの厚顔無恥なギーシュも、終には平静を保てなくなり、才人の両肩を強めに押さえた。

「き、君っ、周りの人に誤解を与えるようなことは止めたまえ! これじゃあ、まるで僕が悪者に聞こえるじゃないか!」
「そうだよ。知らなかったの?」

 平然と肯定する子供の純粋さは、時として残酷である。

 爆笑の渦中でいたたまれなくなったギーシュは、才人を脇に抱えてその場から脱兎の如く走り去る。それに最も速く反応して後を追い掛けるは、彼の悪友の一団。

「ギーシュが逃げたぞ!」
「あの子供を口封じしようったって、そうはいかねえぞ!」
「こんな面白えこと、いつもある訳じゃねえからな! まだまだあれで遊べんぞ!」

 口々に好きなことを言ってはしゃぐ貴族の不良子弟達。彼等の脳裏に、ギーシュへの友情というものは、どのように解釈され収まっているのだろう。






「は~な~せ~! この人攫い~!」

 宙に浮いている状態のため、暴れようにも声を上げるのが精一杯の非力な才人を抱えながら、ギーシュは敷地内を走っていた。
 この平民の子供による想定外の行動によって、公衆の面前で随分と赤っ恥をかかされてしまった。本来なら厳罰に処してやるところだが、残念なことに、この子供はモンモランシーがいつも可愛がっているお気に入り。下手なことをすれば、一生口も聞いてもらえなくなる。それは困る。

 成り行きであの場から逃亡したものの、その後の身の振り方に悩むギーシュは、日頃そんなに体を鍛えていないせいもあり息が切れてきて、やがて才人を抱えたまま石畳の上で膝を屈した。

「はあ、はあ、なんでこの僕が、はあ、こんな、目に」
「あのさ~、いい加減離してよ~。僕、食堂でルイズお姉ちゃんと待ち合わせしてたんだから」

 止まってもなお、才人の胴を拘束する腕をぴしぴしチョップすると、何もかも疲れてしまったと言わんばかりに、ギーシュは攫った児童を地面に転がした。
 パーカーに付いた埃を払い落とした才人は、自分を攫った女たらしを一瞥さえせずにすたすたと歩き出す。そして、視界にある人物が入ると、ぱあっと喜びで表情を明るくし駆け出した。

「モンお姉ちゃーん!」

 自分を呼ぶ元気な声に気付いたモンモランシーその人は、変わらぬ歩行速度で進み、抱き付いて来る少年を笑顔で受け止めた。

「サイト、どうしたの? こんな所に用があるの?」
「あの兄ちゃんに無理矢理連れて来られた。食堂でルイズお姉ちゃんと待ち合わせしてたのに」

 ギーシュは立ち上がりも出来ずに固まった。モンモランシーの冷水の如き視線は、息の上がった体に優しいどころか、慌しく胸を揺らす己の呼吸を逆に止めかねないと彼は感じた。
 そんな視線をすっと外すと、モンモランシーは才人の手を引き、春の小川のような柔らかく温かい笑顔を彼に注ぎながら歩いて行った。敗北感に打ちのめされて頭を垂れた、数十分前までの彼氏のことなど歯牙にも掛けていないと言わんばかりに。






 食堂に着くと、ルイズがテーブルに頬杖を突いて待っていた。駆け寄った才人に、責めとは異なった口調で問い質す。

「どこ行ってたのよ? 心配するでしょう」
「えーとね、ギーシュって兄ちゃんに攫われてましたー」

 さらっと問題発言をする無邪気なお子様に、皺などとは無縁のルイズの眉間に縦筋が数本走る。

「何ですって」
「まあまあルイズ、詳しくは私も今聞いたところだから、説明するわ」

 道すがら、才人から一連の流れを聞き出したモンモランシーの話を聞くと、ルイズは眉間の皺の代わりに腕組みをして、ふうと長めの溜息を吐き出した。

「全く、あんたは毎日のように騒動起こすわね~。人気が出るのは結構だけど、あんまり注目を集めるのはちょっとね~」
「あら、サイトは全然悪くないわよ。悪いのはぜ~んぶ、あの女ったらしのろくでなしなんだから。サイトは、あんな悪い男になっちゃダメよ」
「は~い! 才人君は、悪い男にならないことを誓いまーす! そんでねー、今からさっきの続きやるから見ててねー。花は爛漫、咲っき乱れ~」

 両手を上げて元気に宣誓した才人が、先の音頭の続きを始めると、そんなルイズの気懸かりも、一時的に和みの中に紛れていった。


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