【萬物相】大統領と作家

 李承晩(イ・スンマン)元大統領は1947年、未堂(号)・徐廷柱(ソ・ジョンジュ)に伝記の執筆を依頼した。その際、米国亡命時代に詠んだ漢詩も一緒に手渡した。「一身泛泛水天間/万里太洋幾往還/至処尋常形勝地/夢塊長在漢南山(空と水の間をこの体が流れ/その果てしない海をどれだけ行き来したことだろうか/行き着く所には景勝地も多かったが/わたしが夢見る安住の地はソウル・南山だけ)」。徐廷柱は「この詩を読んで、自然と目から涙がこぼれ出た」と回想した。

 朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領は5・16クーデターの三日後に、旧来の友人である詩人・具常(ク・サン)に会い、「どんな分野でもいいから任務を引き受けてほしい」と提案した。だが具常は、「どうか南山の頑固者として放っておいてほしい」と言って断った。1967年に朴元大統領の就任祝辞を書いた具常は、朴正熙暗殺事件が起きた直後、鎮魂詩を書いた。「慈悲深い神よ/仮に彼があなたの意に背く過ちを犯し/彼自身が悟ることのできなかった罪があったとしても/彼が先頭に立って努力し流した汗と/彼が最後に無残に流した血をご覧になりますよう…」

 金大中(キム・デジュン)元大統領は文学を好んだ。「金大中主義者」を自称する小説家の韓勝源(ハン・スンウォン)をはじめ、金元大統領を支持する作家は多かった。金大中内乱陰謀事件(1980年光州事件の首謀者として、金元大統領など民主化の指導者が逮捕された事件)に巻き込まれた高銀(コ・ウン)は昨年、金元大統領の追悼詩『あなたはわれわれです』をささげた。「あなたは民主主義です/中略/ああ、あなたはわれわれの明日です/われわれなのです」

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領は弾劾政局の中、金薫(キム・フン)の小説『刀の歌』を読んで心を落ち着かせた。金薫は大統領府から招待を受けたが、自分の文学が特定の政治家に縛られることを拒み応じなかった。「大統領府になぜ行かなかったのか」と尋ねると、金薫は「そんな連絡を受けたことはない」としらを切った。李明博(イ・ミョンバク)大統領は昨年の中央アジア歴訪の際、小説家の黄晳暎(ファン・ソギョン)を同行させた。しかし、左派陣営は黄晳暎を変質者として非難した。保守論客の小説家である卜鋸一(ポク・コイル)は、「黄晳暎ではなく、李文烈(イ・ムンヨル)と一緒に行くべきだった」と不満をもらした。

 李大統領が休暇中の今月1日、李文烈を休暇先に呼び、1日を共に過ごした。主に大統領が心情を打ち明け、作家は大統領に対し、「何があっても強く対応する必要はない」と話したという。中庸を注文したわけだ。作家と大統領の関係は、近すぎても文学が死に、遠すぎても感動のない政治だけが残る。無味乾燥した統計だらけの報告書ばかりに接する大統領が、しばしば作家を呼んで民心について尋ね、頭を柔らかくして想像力を充電するのは、実によいことだ。

朴海鉉(パク・ヘヒョン)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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