2010年2月2日
衆議院総務委員会筆頭理事 民主党 福田昭夫議員に聞く
国内外の景気情勢がなお予断を許さない中、2010年度本予算の成立が急がれるが、国会は「政治とカネ」の問題をめぐって混乱している。経済問題に詳しく、また、石川知裕衆院議員の逮捕を「民主主義の危機」と捉えている、衆議院総務委員会筆頭理事の福田昭夫議員(民主党・栃木2区、前栃木県知事)に、今後の経済政策と検察・司法制度の在り方を聞いた。
(聞き手=編集委員・野村道彰)
迫り来る「民主主義崩壊不況」
財務省主導経済政策の大転換不可欠
判・検交流禁止と全面可視化で司法民主化を
ふくだ・あきお 1948年栃木県今市市(現日光市)生まれ。東北大学卒。今市市長、栃木県知事を経て、2005年総選挙で栃木県2区から比例復活で初当選。09年総選挙で同区当選。現在、衆議院総務委員会筆頭理事。尊敬する人物は郷土の篤農家、二宮尊徳。
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――景気の現状をどのように認識しているか。
「2000年に名目成長率と実質成長率が逆転してから10年間、日本経済は10年不況、10年デフレが続いている。景気・雇用情勢は厳しく、名目国内総生産(GDP)も500兆円前後で停滞しているから、国の税収も落ち込み、10年間で240兆円も借金が膨らんだ。これに、リーマン・ショックが加わった。麻生太郎前総理は全治3年だと言ったが、これは正しい」
――財務省主導の「構造改革路線」を大転換する必要があるのではないか。
「デフレ不況からの脱却のためには、政府は積極財政に転じるべきだ。3年間は一般会計で100兆円規模の予算を組む必要がある。日銀も名実逆転解消のためにインフレ・ターゲットを定めて量的金融緩和政策などを行い、政府・日銀が協力する以外に道はない。加えて、(輸出で恵まれた)日本経団連傘下の大企業は、この10年間で内部留保金を倍増し、429兆円貯め込んでいる。このうち、1%の4兆2900億円は雇用対策に使ってほしい」
「景気が回復して名目GDPが増えてきたら、新自由主義に基づいて累進税制を否定した高所得者、大企業優遇のレーガン流フラット税制を抜本改革する。所得税も法人税も消費税もみんな累進制が必要で、これこそ公正・公平な税制度だ。『不公平な税制を正す会』の試算によると、不公平税制を正せば20兆円は増収になる。これに加え、(積立金が50兆円規模あると言われる)特別会計を抜本改革する。年金特別会計以外は一般会計と一本化して、国としての収入と支出を完全に透明化し、経済に大変動が起きた時にそこから使えるようにする。(財務官僚主導の)財政、金融、租税制度の抜本改革が必要不可欠だ」
――重要審議を控えた今国会の開会直前に、石川知裕衆院議員が逮捕されるという1・15事件が起きた。
「逮捕状を見ると証拠隠滅と逃亡の恐れありということだが、石川議員は参考人聴取に応じてきたし、16日午後1時には検察に出頭することになっていた。議員会館事務所なども家宅捜査を受けている。逮捕容疑も『平成16年分の陸山会の資金収支報告書の収入総額を4億円過少に、支出総額を3億5200万円過少に報告した』というもので、どのような不正記入を行ったかの具体的な事実が特定されていない。弁護士で元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏も指摘しているように、政治資金管理団体の経費が不足すれば代表である政治家が立て替えるのは当然であり、その政治家の立て替え、返済をどこまで収支報告書に記載するかでどのようにも変わる『収入・支出の総額』についての『虚偽容疑』で逮捕できるとすれば、検察はどんな政治家でも逮捕できることになる」
「そういうことでは、検察が国民主権の下に国民の民意が反映された国会以上の強大な政治権力を持つことになり、民主主義の崩壊を招きかねない。私自身は、検察は基本的に正義の味方と思っている。しかし今回の事件は明らかに、憲法50条に定められた国会開会中の不逮捕特権を逆手に取った別件逮捕だ。なお、郷原弁護士も指摘しているように、5千万円の裏金を陸山会に提供したと供述している人物は、12億円の脱税事件で服役中の水谷建設の元社長で、仮釈放に影響力を持った検察側の意向に沿った虚偽の供述をしている危険性がある。これらのことを考慮すると、今回の事件は検察の大変な暴走だ。その背景だが、官僚主導から政治主導に変えるという鳩山由紀夫連立政権をこのまま存続させたら大変だ、という思いが、一部の官僚の中にあるのではないか」
――それで、当選回数が同じ国会議員で「石川知裕代議士の逮捕を考える会」を立ち上げられたが、立ち上げそのものが間違いだったとの批判もある。
「これは本来、与野党超えて国会全体で考えていかなければならない問題だ。会は解散しないし、本予算の審議に影響があったらまずいが、やはり正義は貫かなければならない。今回の検察の暴走はなぜ起きたのか、そして、それをどのようにしたら防げるのか、しっかり勉強していく。同期の議員として、石川議員の逮捕はつらい。2月4日が検察側が起訴するか否かを決定する最終期限だから、その時の検察の対応を待って、今後の活動について決めていく」
――一部報道やインターネットなどでは国家公務員法上、守秘義務のある検察官が情報操作のため、マスコミにリークしているとの情報が流れている。
「例えば、私どもが立ち上げた会にNHKのOBの方から激励の電話がかかってきた。そして、『検察からのリークがないというのはまるっきり嘘の話なのに、それはないという話がまことしやかに言われている』と。先日も、NHKのコール・センターで『リークはある』と正直に答えたNHKのOB(契約社員)が解雇された。まさに、検察のリークは公然の秘密だ。それに基づいて、『推定無罪の原則』から逸脱したマスコミ報道で(一般の読者は)『あの人は真っ黒け、犯人だ』と思ってしまい、人権侵害が起きる。日本は、閉鎖的な記者クラブをまず改めないと駄目だ」
――検察・司法制度の民主的改革の方向は。
「何と言っても、取り調べの全面可視化が必要だ。足利事件の菅家利和さんなど、冤罪事件に遭われた被害者もみんな切に要望している。また、(冤罪であれば)担当官を処分できるチェック機能を確立する。それから、自白中心ではなく、科学的な証拠、物証に基づく取り調べで犯人を明らかにする、そういう科学的な捜査方法をより重視すべきだ。さらに、法務大臣が検事総長を兼任するとか、検事総長を国会同意人事にするなど、日本にふさわしいやり方で検察をチェックする機能を作る必要がある」
「カナダでは法相が検事総長を兼ねている。検事総長が国会に責任を負い、検察幹部が国会で説明責任を果たすということは司法の中立性を損なうものではなく、日本の民主主義の成熟の機会を提供するものだ。併せて、立法・行政・司法の三権分立を確立するためにも、判事・検察人事交流を禁止すべきだ」