【記者手帳】心で泣いた「格差社会」取材

【特集】韓国社会から消えゆく「階層上昇のはしご」

 キム・ヘスクさん(45)=仮名=は、仕事をする気のない夫とけんかをしながら暮らしていたが、7年前に家を出た。

 中学生の息子と小学生の娘を育てるため、飲食店で1日12時間働き、1カ月に2回の休みで、月に120万ウォン(約8万8000円)稼ぐ。過労で救急外来に2回運ばれた。無理をしてきたせいか、キムさんは昨年から体調が悪く、仕事ができない。キムさんは薬の袋が積まれた京畿道高陽市の多世帯住宅で、「娘はまだ中学3年だ」と言って涙を浮かべた。大学生の息子(22)は、学費を工面できず休学している。

 「崩壊する人生の階段」をテーマに企画記事を準備しながら、取材陣が決めた原則は、「同情しない」ことだった。「人生のはしご」から脱落した個人の不幸な生き方に焦点を当てるというよりは、努力だけではい上がるのが難しい社会構造を、冷静に分析しようとした。

 しかし、何でもないような顔で取材手帳にメモをしながら、自分でも知らないうちに感情がこみ上げてきたりした。貧しい親たちが、「子どもたちに貧困が受け継がれるかと思うとつらい」と話したとき、「くじけそうになっても、子どもたちのためにまた立ち上がる」と話したときがそうだった。京畿道安山市に住む野菜売りのイ・スンミさん(46)=仮名=が、早朝から力強くリヤカーを引く理由について、小学2年の息子のためだと語ったときも同じだった。

 感動で鼻の奥がツンとする瞬間もあった。仁川市に住むホームヘルパーのキム・ドクチャさん(52)=仮名=は午前中、80代の基礎生活受給者(生活保護対象者)夫婦の面倒を見た後、隣の地区の高齢女性宅に移動する際、バス代を節約するため、30分以上歩いていく。そして、1カ月間のバス代2万ウォン(約1500円)で、高齢者にゴム手袋やもち、牛肉いためなどを買っていく。キムさんは、日雇いの夫と共働きで3人の子どもを育てた。今はヘルパーを辞め、子どもの面倒を見る仕事を探しているという。

 キムさんのように、生涯ぶらぶらしていたわけでもないのに、どんな仕事をしても月100万ウォン(約7万3000円)-200万ウォン(約14万6000円)を稼ぐのに苦労しながら、自分よりも大変な人のためにバス代を節約し、おかずを提供するような人たちが、韓国社会のあちこちにいた。数カ月間の取材を通じて、われわれ取材陣は心の中で何度も泣いた。

金秀恵(キム・スヘ)記者(社会政策部)

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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