きょうの社説 2010年8月8日

◎生物豊かな日本近海 ふるさとの「里海」守りたい
 日本近海が海洋生物の宝庫であることが、海洋研究開発機構などの調査で分かった。全 海洋容積の1%に満たない日本近海に、世界で確認された海洋生物の15%近くが存在するという調査結果は、日本が海洋国として生物多様性保全の重い責任を負っており、それぞれの地域住民が、ふるさとの「里海」にもっと目を向け、守っていくことの大切さをあらためて示している。

 里海の概念と保護活動を広げていく重要性は、北國新聞社が2年余をかけて行った舳倉 島・七ツ島(輪島市)の自然環境調査でも明らかにされたといえる。

 環境省は2007年度に策定した21世紀環境立国戦略や海洋基本計画の中で、水産資 源の持続的利用と海洋環境保護のため、豊かで美しい里海づくりを推進することを説き、具体的取り組みの一環として、08年度から七尾湾などをモデル海域に指定し「里海創生支援事業」を行っている。

 里海という言葉が一般化したのは近年のことで、環境省は「人間の手で陸域と沿岸域が 一体的・総合的に管理されることにより、高い生産性と生物多様性の保全が図られるとともに、人々の暮らしや伝統文化と深くかかわり、人と自然が共生する沿岸海域」と定義づけている。

 10年度まで3カ年の里海創生支援事業は、赤潮などで荒廃が進む「閉鎖性海域」を対 象とし、再生を図るための調査活動などを行って里海づくりのマニュアルを作成することになっている。

 しかし、守るべき里海は何も内海に限らない。外海に点在する離島の海域もまた里海の 考え方で保全に力を入れたい。海女の暮らしと豊かな自然が共生する一方、漂着ごみにさらされる舳倉島・七ツ島からの調査報告は、その必要性を教えてくれている。

 約3万4千種の海洋生物が確認されている日本近海は、オーストラリアと並んで「地球 で有数の恵まれた生物多様性のホットスポット」と評される。それは能登半島や富山湾に示される複雑な沿岸地形や離島の多さゆえでもあり、そこにある身近な里海を大事にする住民意識をさらに高めたい。

◎長期金利1%割れ 円高加速なら追加緩和を
 長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが2003年8月以来7年ぶりに一時 1%の大台を割り込んだ。菅直人首相がギリシャの財政不安を例に危機を訴えた国債は暴落どころか引く手あまたで、再び1%を割り込むまで買われる可能性が高い。

 長期金利の低下は、日本の国債への信頼性が高いことを裏付ける一方、日本経済の将来 に対する悲観的な見方が市場を覆い尽くしている現状を物語る。ピークを迎えた2010年4−6月期の決算発表で、輸出企業の多くは業績好調だったが、7−9月期については円高の影響を懸念し、予想を厳しく見る企業が目立つ。先行きに期待が持てない状況下で、投資マインドが上向くはずがない。

 野田佳彦財務相は円高の進行について「足元の動きはやや一方的と思う」と述べ、市場 をけん制した。こうした「口先介入」は効果的に行うべきであり、いざというときのために円売り介入も視野に入れておく必要がある。さらに円高が急加速するような局面があれば、日銀の出番である。タイミングを見逃さず、速やかに追加緩和に踏み切るよう求めたい。

 長期国債の金利が下がるのは、潤沢な資金を不動産や株式投資などリスクのある投資に 回さず、より安全な国債を買って寝かせてしまうからだ。本来なら、長期金利の低下で、企業は資金を借りやすくなり、個人も住宅ローンなどを組みやすくなるはずだが、デフレ下では、低金利が資金需要の呼び水とならず、景気を下支えする効果が発揮されにくい。

 需要が伸びなければ生産は停滞し、家計部門の収入も増えない。円高による輸入品価格 の下落は、消費低迷によるデフレに追い打ちをかける。企業は中長期の売り上げの見通しが立たず、設備投資を手控えざるを得なくなる。

 米欧は自国通貨安を後押しし、国内の輸出企業が高収益を上げ、個人消費を増やすなど して景気を回復させるシナリオを実践している。成長戦略を持たず、マクロの経済政策への理解が乏しい日本政府の隙を突いて、投機筋が円高を仕掛けてくる懸念は消えない。