※息抜き、及び三人称の練習も兼ねた作品です。
※中編程度なので、すらすらと終わらせる予定です。
※ご意見ご感想、お待ちしております。
※文体等、直した方が良いところのご指摘も、お待ちしております。
――プロローグ――
夏の日の、午前零時のことであった。
都会の夜はいくら深まろうとも蒸し暑く、寝苦しい日々が続く、その最中での出来事だった。
閑静な住宅街の一角、完全に寝静まり、喧騒も何も聞こえない街の隅っこで、彼らは出会ってしまった。
それは運命的であると言え、必然であるとも言える、印象的な出会いだった。
少年と少女が相対して立っている。互いに無言のままだ。
それは言葉を探しているが故の無言ではなく、驚倒したため声が出ない、という状況が生み出した、無音でしかない。
少年は呆けたまま棒立ちしている。いや、その表情が果たして本当に呆けているのかどうか、判別すらできないが。
少女は大口を開けて固まっている。いや、大口過ぎて、人間でさえもそのまま丸呑みしかねない勢いだが。
向かい合っての膠着状態は長く続いた。
五秒、十秒、三十秒と時間は経ち、その間、彼らの表情はめまぐるしく変遷する。
そしてそろそろ一分が経とうとした頃、彼らの顔面に浮かんだ共通の感情は、恐怖だった。
「ぎゃあああああああああああああ!」
「キャアアアアアアアアアアアアア!」
二人分の悲鳴が街中に轟いた。羽虫の囁きはぴたりと止み、夜の静けさは一瞬にして打ち破られる。
それから彼らは、反発する磁石のように、全力で逆走し始めた。
どちらも、大変なものを見てしまったと言わんばかりの様相で、狭く入り組んだ街路を疾駆し、ひたすらに逃げていく。
途中で転びそうになりながら、ぜえぜえと荒い息を吐きながら、冷汗を大量にかきながら、ただただ逃げていく。
傍から見ればそれは異様な光景だっただろうが、もしも二人の容貌を確認することができたなら、彼らの行動もまた理解できるのかもしれない。
それとも、理解うんぬんの前に、恐怖で腰を抜かしてしまうのだろうか。
少年は「のっぺらぼう」であった。
カジュアルな服装はともかくとして、首から上の真っ平らな顔が、心胆を縮み上がらせるほどに恐ろしい。
少女は「口裂け女」であった。
手に持った裁縫用の大きなハサミはともかくとして、真っ二つに裂けた口は、そんな可愛らしささえ完全に払拭してしまうほどに恐ろしい。
そんな「妖怪」二人組が、互いの容姿に恐怖して、滑稽に逃げ惑っていた。
静かな夜の中を、うるさい足音がどたどたと通り過ぎていく。
かくして、のっぺらぼうと口裂け女の初対面は、互いに互いを恐怖することで、おひらきと相成ったのである。
そして夏の夜が始まりを告げる。長いようで短い、物語の始まりを。