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[19281] 【習作】スパロボJ 紫雲統夜×ガンダムSEED
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/04 17:31
  初めまして、碧輝と言います。
  この物語はスーパーロボット大戦Jの主人公こと、紫雲統夜だけが
  ガンダムSEEDの世界にいるお話です。
  スパロボJをやっている方は知っていると思いますが、
  三人の女性は登場せず、シャナとフューリー関連は登場しますんで、
  願わくば、最後まで見守ってくれれば幸いです。

  すみません。ガンダムSEEDとスパロボシリーズが好きなので。
  このような物語があったらいいな と思う作者ですから。
  素人の投稿なんで、
  読者の皆様に楽しめるよう、頑張っていきますので、
  どうぞ、よろしくお願いします。


  さてさて、物語の開始です。



[19281] プロローグ
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/04 17:33
  プロローグ  


人類が地球の周辺宙域をこえ
火星にまでその生活圏を広げた宇宙時代。
しかし地球環境の悪化と、
人が抱えるいくつもの問題は いまだ解決されてはいなかった。

遺伝子操作によって生み出される“コーディネイター”たちの出現。

人々は新たな時代が来ることを期待したが、
急激すぎる変化はそれに適応する者と拒絶する者を生み出すことになった。

その能力ゆえに宇宙へとおいやられたコーディネイターは、
新型コロニー群“プラント”を建設。
しかしコーディネイターが自分たちの統制下を
離れることを恐れた“ナチュラル”たちは、
“プラント”の独立を拒みつづけ、その対立は深刻さを増しつつあった。


そんな中、独自の自衛策を講じはじめたプラントの行動を
プラント宗主国に対する反乱であるとして、
大西洋連邦を中心とする地球連合諸国はでは
実力行使によってコーディネイターたちに制裁を与えるべきとの声が高まっていった。

コズミック・イラ70年・・・・
『血のバレンタイン』の悲劇によって
地球・プラント間の緊張はいっきに本格的武力衝突へと発展した・・・・
誰もが疑わなかった数で勝る地球軍の勝利・・・・
が 当初の予測は大きく裏切られ 戦局は疲弊したまま
すでに11か月が過ぎようとしていた・・・・

月にある廃墟と化した場所から、物語は始まる・・・


【月面・とある廃墟】

廃墟と化した中央にある慰霊碑に一人の少年が花を置き、
そして静かに目を瞑り、冥福を祈っている。

「(今日で父さんがいなくなってから四年が経った。
 今の俺は、父さんと母さんが十分なお金を残してくれたから、
 生活には困ってないし・・・それにザフトと連合の戦いが始まって、まだ日本は
 巻き込まれてないけれど、それでも何とかやっていけてるよ。)」

少年はゆっくりと目を開けて、無惨にも崩れている壁や垂れ落ちたコードなどを
じっと見回していた。
そして、訝しげに顔を顰めた。

「(・・・ニュースでは事故で、爆発が起きたと言っていたけど。
  結局、原因不明のままになっているんだよな。)」

少年は当時のニュースのことを思い出しながら、シャトルが置いてある場所へ
ゆっくりと来た道を戻りながら歩いていた。

「(そういえば、俺、父さんが月で仕事しているのは聞いていたけど・・・
  何の仕事をしていたのか、聞いたことなかったな。
  一応、調べたけど結局分からなかったし。)」

その時、少年の視界にキラッと何かが光った。

「?・・・なんだ? 今、何かが光ったような・・・」

少年は、足を止めて視界に入った光の下へ足を向けた。
そこに入り、目の視界に入ったのは、空間が広い場所だった。
周りをみると、どうやらここは格納庫のようらしい。
ざっと見回して、そこで得体のしれない存在がそこにあった。

「・・・これって、ロボット!?」

得体のしれない存在は巨大なロボットだった。
まるで、少年を待っていたかのように・・・悠々とそびえ立っていたのだ。
そして、また光が反射する。

「さっきの光って、あそこから? でも、何でこんな廃墟にロボットがあるんだ?
 誰もいないみたいだし、ともかく行ってみるか・・・」

少年は先程から淡く漏れている光の下へ近寄っていった。


それが、自分が巻き込まれることになる戦いの前触れだったことを、
このときはまだ知るはずもなかった。



[19281] 第一話 漂う宇宙の中で
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/04 03:31
????

ある部屋に一人の男と一人の少女がいた。
そして、二人は深刻な様子で話していた。
男が重苦しいような口ぶりで言い始める。

「・・・様。あの方の居場所がわかりました。
 私はこれより説得にまいります。なんとしてもお戻りいただかなくては」

「それが可能であると、本当に思っているのですか?」

「・・・・・・」

「かの者の言葉、かの者の想いは、口にすることがかなわぬ
 わたしの言葉、わたしの想いでもあるのです。・・・かの者はもう戻らないでしょう」

「すべてが動き出した今となっては、もはや留まるわけにはいかぬのです。
 それはあなたがお認めになられたことでありましょう。
 あの方が戻らぬとあらば、私は・・・」

「かの者を殺す、というのですか。あれほどまでに敬愛していた者を」

「・・・私は騎士です。
 担うべき役割を果たさずに、あの時虚空へと消えていった無数の同胞たちに、
 そして刻を止めたままの我らが民たちに、どうして我が生の許しを求められましょう。
 我らの義務、それは貴女の方がよくおわかりのはず」

「・・・そうですね。確かに、わかりすぎるほどわかってしまう。
 この血に、我が身に託された父母の、そして彼らの想いが・・・」

「・・・・・・」

「失われたものを取り戻すことなど、もはやかなわぬとわかっている。
 それでも、それを望まぬわけにはいかないのですね。
 たとえ・・・どのような運命が待とうとも」

「・・・はい」

少女は哀しみを堪えるように顔を伏せて。
そして、男はひるがえして部屋を出て行った。




 第一話 漂う宇宙の中で




周りは何一つない、闇と光り輝く幾千万の星々。
そこで、一つの存在が漂っていた。

「・・・・・・う・・・うぅ、お、俺は・・・いったい・・・?
 それに、こ・・・ここは?」

少年は額に手をつけながら、目を覚ました。
ところどころに微かな痛みを感じるが、気にしてる暇はなかった。
何故なら、この状況についていけなかったからだ。
自分はどうしたのか、ここはどこなのか?

そして、自分が何に乗っているのか・・・
何一つ、解らなかったからだ。


 ビーッビーッ

そこで突如アラームがなった。

「何だ?」

いきなりのアラーム音に少年は驚く。
そして、何らかのウィンドウが出てきた。
どうやら、近くで戦闘が起こっているらしい。

「(戦闘?何で、そんなことが分かるんだ。
  それにこの画面が出てきたら、急に頭の中に・・・)」

膨大な情報が急に、頭の中で駆け巡る。
少年はいきなりのことに頭を抱えていた。
数秒か、一分か経った頃、少年は落ち着きを取り戻していった。

「うぅ・・・ま、まだ、痛むけど。
 と、とりあえず、戦闘が起こっている場所に行けば 何か分かるかも知れない。」

少年は操縦桿を握り、スラスターを噴かせて 戦闘が起こっている場所へ
向かっていった。

この時、少年はまだ気付いていなかった。
ロボットを操縦出来ていたことを・・・
そして、それが少年による初めての戦いの幕開けであるということを・・・


 

戦闘宙域に近づくと、またウィンドウが現れた。
どうやら戦闘している画面で、巨人兵と戦闘機みたいな・・・と戦っているようだ。

「あっちの巨人兵の方は確かジンという名のMSで、
 戦闘機の方はメビウスという名のMAだったっけ? ・・・・・・。
(あれ? 俺、今・・・何を言った? 何で、そんなことが分かるんだ?
  くそ、分からないことだらけだ・・・)」

少年は片手を額につけて、俯く。
視線をウィンドゥに向けると、どうやら10機中8機の戦闘機が
2体のMSの翻弄させて、2機の戦闘機が民間船を攻撃しようとしているらしい。

―――あの、民間船を沈めさせたらダメだ!
何が何でも助けなきゃ・・・!

少年はふとした意識の衝動に駆り出され、とっさに操縦桿を強く握り締めて
スラスターを全開に噴かした。


「・・・様! こちらの呼び掛けに応じません。」
民間船の操縦席に座るパイロット副機長が、慌ただしく応える。

「困りましたわね。こちらは戦闘行為を望んでいないのですが・・・」

少女が困り果てた顔で言う。
そして、もう一人のパイロット機長が慌てて叫び出した。

「っ!まずい、2機の戦闘機がこっちに向かってくる!!」

「しまった!ロックオンされた」


また、ジンというMSを操るパイロット二人も8機のメビウスに翻弄されながら、
今まさに、民間船に放たれようとしていたことに気付き・・・

「くそっ!」

「このままじゃ、沈められる!!」

メビウスからミサイルが発射された。
そして、ジンのパイロットの一人が叫んだ。

「ラクス様!!」

放たれたミサイルが当たろうかと思った矢先に、突如 上から光が放たれ、
その放たれた光の先には先程メビウスより発射されたミサイルを貫通させて
ミサイルは民間船に当たることなく、爆発した。


その光景にそこにいた者達は、一瞬動きを止めた。
今しがた起こった事に理解できなかったのだから・・・。

民間船を攻撃していたメビウスのパイロットは、呆然としながら口を紡いだ。

「な、何だ!今の攻撃は・・・ど、どこから?」

突然アラーム音が鳴り、回避しようとしたら先程と同じ光が2機のメビウスに当たり、
パイロット達は脱出する暇もなく爆発と共に消えていった。

そして、民間船の前に〝それ〟は現れた。

メビウスのパイロット達は、現れた〝それ〟に戸惑いながらも話していた。

「た、隊長!」

「あ、あれは何なんでしょうか?」

「ザ、ザフトの新型MSなのか!?」

「ええい、貴様等 情けない声を出すな!
 ザフトの新型であろうと、我らの目的は変わらん!」

「そうだ、現にあれによってメビウス2機を墜とされたのだぞ!!
 攻撃目標を変更! ザフトの新型MSに向ける!!」

メビウス隊の隊長と副隊長と思われるパイロットが、戸惑う隊員達に向けて
叱咤する。
そして、攻撃目標を現れた〝それ〟に向けて攻撃を開始した。

〝それ〟を駆る少年は、どうにか民間船を守れたことに安堵のため息を吐いたら、
今度は残ったメビウス隊が、自分の向かって攻撃しようとしていた。

---いきなり仲間を討たれたことによって、矛先をこっちに向けたのか?
けれど、攻撃してくるっていうんなら、やってやる。

少年は再び、操縦桿を握って戦場を駆った。
メビウスから攻撃してくるミサイルは撃ち落とし、先端から放たれるリニアガンは
かわしながら、メビウスを一機、一機ずつ墜としていく。

そして、またジンを駆るパイロット二人も困惑しながら、話していた。
いきなり現れた〝それ〟に味方とも敵とも判断がつかずに・・・
そして、メビウス隊が〝それ〟に向かって攻撃したことに対しても 尚、
判断がつかなかった。

「お、おい。 あれはザフトの物なのか?」

「知らないぞ、あんな機体。
 それに 俺たちがあれ程、苦戦していたというのに
 たった一機で次々と墜としているぞ?」

そう会話しているとき、最後のメビウスが爆発して消えていった。

---これで終わりか? 後・・・どうしようかな。

少年は全てのメビウス隊を墜とし終えたことを確認し、
そして宙域に残っているジンと民間船に目を向けながら、考えていた。
どうしようかと思考の海に漂っていた時・・・
一体のジンの銃がこちらに向けていた。

「っ・・・まだ、攻撃してくるのかよ!」

また、戦闘が始まるかと思いきや・・・

『お待ちなさい!!』

「!?」

突如 入った通信。
どうやら、通信の発信先は あの民間船からのようだ。

『ですが、ラクス様。
 あれは先程から、アンノウンの表示が出ているのです。』

『ザフトのものであるならば、味方の信号が出ているはずです。
 だから、信用できません。』

---おいおい、言いたい放題だな・・・。せっかく助けてやったのに・・・
   それにしても、また頭痛がしてきたな。
少年はジンのパイロット達に呆れつつ、片手をこめかみに押さえ込んだ。

『二人とも、お黙りなさい!』

『し、しかしですが・・・』

ジンのパイロットの一人が焦っている。
どうやら、先程の声の持ち主はここにいる人達の主だと思う。
それとも、重要な人物なのだろうか?

『たしかにこちらでも、アンノウンの表示が示されているのは解っています。
 ですが、あれは私達を助けて下さったのですよ?』

『『・・・・・・・・・』』

二人のパイロットは押し黙る。
確かに、〝あれ〟は敬愛する主を助けてくれた。
もし、〝あれ〟が現れなければ、我々はラクス様を失っていただろう。

二人のパイロットが何も言わないことに対し、今度はアンノウンに向けて通信してきた。

『先程は、私達を助けてくださった事を感謝します。』

いきなり、こっちに通信してきたことに驚いた。
そして、今更 気付いたが・・・この声の主はかなり若い女性のようで、
甘えも怯えもない、凛と上に立つものが出すような感じがした。

「いえ、気に・・・しないで下さい。
 民間船が攻撃されていた・・のだから、助けたかった・・・だけです。」

少年は、一段と増してくる頭の痛みに耐えながら応えた。
けれど、限界のようで・・・

「・・・ご、ごめん。」

・・・

・・・・・・

『・・・はい?』

訳のわからない謝罪にそりゃ戸惑うだろうな・・・と思いながら、
薄れてゆく意識の中で、何とか言葉を紡ぐしかなかった。

「・・・後、・・・頼み・・ま・・す」

そこで俺の意識はブラックアウトした。



[19281] 第二話 記憶を失った少年とラクス・クライン
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/04 17:35
 第二話 記憶を失った少年とラクス・クライン


夢を見ていた。
暗やみの中にぽつんと座り、
祈るようなしぐさで目を閉じている女の子の夢だ。

そっと塞がれた二つの瞼、かすかに震える睫毛。
やがて唇を開いた彼女は、かすかだけどとても綺麗な・・・

そしてとても悲しそうな声で、いつもこう言う。

許して・・・どうか許してください・・・
もう わたしには止めることができない
わたしには 止められないのです

滅びるべきは わたしたち
立ち去るべきは わたしたち
この世界はあなたがた子供たちのものなのに

待ち続けた永き刻の その暗闇の冷たさが
すべてを狂わせてしまった
どうか・・・力なきわたしを許してください・・・

少女の周りには、透き通るような髪のまわりでキラキラ輝く光の粒子と、
悲しそうなその声の響きだけ。
そこで、夢は途絶えた。


キラッと輝く光・・・
そして、かすかに動き出す影。

「・・・うっ・・・」

うっすらと目を開き・・・ まだ、視界がぼやけ再び目を閉じる
そして、そっと目を開いた。
視線の先には、真っ白な天井・・・。
ここはどこだろう?俺は何をしていたのだろう・・・
そして、いつの間に寝ていたのだろうと状況が飲み込めていなかった。
そして、重い鉛のように感じながら身体を起こし、辺りを見回した。

「・・・こ・・こは?」

「気付かれましたか?」

ふいに開いた扉の先から、あの時の彼女の声だと気付く。

「僕は・・・どうして・・・ここに?」

「あなたは先程の戦闘が終わった後、急に気を失って倒れていたのですわ」

倒れていたと聞かされ、あまりにも未だに状況が飲み込めないまま、右手で顔を被う。

「覚えていらっしゃいませんか?」

彼女の声に・・・ふと、我に返った
確かに俺は民間船を助けて、それから彼女と話してる最中に意識が遠くなったんだっけ

「いや、それは覚えているよ。 ところで君は・・・誰なんだ?」

それよりも意識を失った俺を助けてくれたのは、目の前の彼女なのだろうか?
とりあえず、俺は目の前の少女の名前が何となく知りたかった。

「私はラクス・クラインと言います」

彼女は微笑み、名前を教えてくれた。
けれど最初に聞いた声と・・・何というか違和感が感じるのは何故だろうか?

「ラクス・・・クライン?」

「そうですわ。」

『ハロ ラクス ハロ』
ふと、彼女の膝元にピンクの球体が何かしゃべってきた。
耳?いや羽なのだろうか?それをパタパタと羽ばたかせて、こっちに飛んできたのだ。
そして、俺の身体の上にポスンと乗る。

「・・・それであの・・・お名前を教えていただけますか?」

突然、彼女からの声に気付き そして彼女は自分の名前を聞いてきた。

・・・・・・

「あの?」

名前を言おうと思ったら、何故か言えない。
いや・・・言えないのではなく、答えられない。
俺の名前は何なのか何一つ、思い出せなかった。

そんな少年を見たラクスは違和感を感じ首を傾げて、少年を見やった。

「? 覚えていないのですか?」

「あ、ああ・・・記憶が・・・ない?」

確かに何一つ覚えていない。
ただ覚えているのは何かの機体に乗って戦っていて、
そして、この状況だけで・・・それ以前の記憶がまったく思い出せないのだから

ラクスは目の前の少年の言葉と状況に気付いた。
彼が・・・自分の名前が覚えていないことを・・・

「記憶が失われているのですね」

そう答えた時、少年は突然激しい痛みを感じて唸った。

「・・・うぐっ」

「あっ!まだケガが治っていないのです・・・、無理になさらない方がいいでしょう」
ラクスは彼の痛みに気付き、そっと彼の身体を支えて
横になるようにと勧めたが・・・

「・・・何故、助けてくれるんですか?」
ようやく、少年は気付いた。
何故、記憶が失っているのにも関わらず 見知らぬ俺を助けてくれるのか。

「え?」

ラクスは何故かキョトンとした顔で言った。俺は何か変なことを言ったのだろうか?
そう思っていると、ラクスは突然くすくすと笑った。
俺はそんなラクスの行動に眉をひそめた。
ラクスはそれに気付いて、笑いを収め

「笑ってしまってごめんなさい。でも、あなたは私達を助けて下さったのですし、
 そのお礼もしたいのです。それに私はあなたが気になりましたので。」

「・・・はい?」
余りにも情けない声を出してしまった。
何か今、最後の言葉に色々と気になったが、とりあえず無視しようと思う。
とりあえず、これ以上話しても仕方がないので
俺はさっきまで乗っていた機体の事を聞いた。
何故だか解らないが、さっきから あの機体だけは重要な存在だと頭の中で
警告というか・・・そんな感情が駆け巡ってくる。

「ま、まあ、ラクスがそれでいいって言うなら構わないけれど・・・
 それよりも、俺が乗っていた機体はどこに?」

そう答えたとき 再び、身体中に激痛と頭痛が少年を襲いかかった。
その様子にラクスは少年の身体を支えた

「・・・すみません」

「まだ、治っていないのです。 暫く横になられた方がいいでしょう。
 それとあなたが乗っていらしたMSは格納庫にありますので、
 心配しないで下さい。」

少年が横になり、ラクスはそっと一枚の毛布をかけた時、
穏やかな声がラクスの耳に聞こえてきた

「・・・ラクス・・さん」

少年の声に、ラクスは一瞬これまでになかった感情が湧き上がった
この気持ちは何でしょう? その気持ちを抑え込みながら、ラクスは口を開く

「ラクスで構いませんわ」

「でも・・・見知らぬあなたに、呼び捨ては出来ないですよ」

「わたくしに・・・敬語は必要はありませんわ」

微笑みながら答えるラクスに、少年は戸惑った。
今、会ったばかりの彼女に呼び捨ては出来るわけがないと
それでも、彼女の瞳には
呼び捨てで呼んで欲しいという想いが輝かせていた。
少年はそっと目を閉じ・・・彼女の望む通りに答えようと決めた

「・・・なら、そう呼ばせてもらうよ・・・ラクス」

「はい!」

ここで少年は静かな寝息を立てて、眠りについた。
そしてラクスは、そんな少年に微笑みつつ
自分の中に言いようのない感情と、先程の事を思案していた。


*****

あとがき

うーん、こんなものだろうか?

ここで夢の語りがでました。

でも、夢のことは何一つ覚えていないのです。

そして、アークエンジェルのメンバーより先にラクス・クラインとのご対面!!

二人の邂逅はどのような影響を及ぼしていくのだろうか?

作者は気まぐれなので・・・とりあえず次回、頑張ろ・・・っと。



[19281] 第三話 導かれた出会いと共に  〈ラクス視線〉
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/05 21:48
 第三話 導かれた出会いと共に  〈ラクス視線〉


ラクスは目の前に眠る少年を見ながら、思考に入っていた。

出発して、プラントから遠く離れて間もなくのこと
突然、地球軍のメビウスが接近してきて戦闘がはじまった。

私は戦闘行為は望んでもなく、停戦行為を呼び掛けてもダメだった。

その時、機長達がこのシルバーウィンドにミサイルがロックオンされ発射された
と言われたときは、一瞬 肝が冷えたのを覚えている。

ここで、私は消えるのでしょうか?と思ったら、二対の光が視界に入り
こちらに向けていたミサイルが光とともに大きな音を出して爆散したのだから。
それから、ミサイルを発射したメビウスも二対の光に飲み込まれて、消えていった。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。
けれど、生きているだろうということは分かった。
そう思っていたら、このシルバーウィンドの目の前に影が落ちてきて
一体何だろうと視線を向けてみると、見たこともない機体がそこにあった。

そして、巨大な銃らしきモノを持っていた蒼いMSに似た感じのようなモノ。
あれはザフトのMSなのでしょうか?

残った地球軍のメビウス隊が〝それ〟に目標を定めたらしい。
〝それ〟は気付いたかのように、悠然と武器を構えて飛び出す。

メビウスから攻撃してくるミサイルは撃ち落とし、先端から放たれるリニアガンは
かわしながら、メビウスを一機、一機ずつ墜としていく。
その戦いに〝それ〟から緑の色をした光が淡く放っている感じがした。
まるで、消えていく命に対しての悲しみを受け止めて昇華するかのように・・・
私はそう見えた気がした。


数秒か、数分か、どれくらい経ったのか解らないけれど・・・
〝それ〟が最後のメビウスの一機を墜としたとき、淡く光っていた色が消えていった。

この場所で起こった出来事を夢だったのかと思えるほど、静寂に包まれた時・・・
一体のジンが〝それ〟に銃を向け始めた。
このままではマズイと思い、慌てて通信機を掴んだことは記憶に新しい。

「お待ちなさい!!」

そう言ったら、二人とも動きを止めてくれた。
そして、ジンのパイロット二人から 私を心配して言ってくれているのか
嬉しくもあったけれど、それどころではない。
何故だか解らないけれど、あの機体のパイロットと話してみたいと思った。
だから、これ以上の戦闘は止めて欲しいと願った。

それでも、引き下がらないようで・・・私はもう一度言った。
今、私たちを助けてくれた行動の意味を知らない筈がないと・・・

「たしかにこちらでも、アンノウンの表示が示されているのは解っています。
 ですが、あれは私達を助けて下さったのですよ?」

そう答えたら、モニター越しの二人は やっとわかってくれたようで、
銃を下ろしてくれた。

後は、あのアンノウンに通信を・・・
あの時、私はどんな方が乗っているのか ワクワクした気分がしたのを覚えている。
助けてくれた感謝の言葉を通信越しに言ったら・・・

『いえ、気に・・・しないで下さい。
 民間船が攻撃されていた・・のだから、助けたかった・・・だけです。』

モニターには出てないけれど、声だけが返ってきて驚いた。
どうやら、声の持ち主は若い少年のように思えた。
途切れ途切れに話しているけれど、通信の調子がおかしいのだろうかと思ったら

『・・・ご、ごめん。』

いきなり、訳のわからない謝罪の言葉が飛び込んできた。
それはジンのパイロット達も、この船のクルーもその言葉に戸惑っていたようで・・・
私はその謝罪の言葉に意味が分からず・・・ただ一言、無意識に返してしまった。

「・・・はい?」

そうしたら、苦笑と共にまた訳の分からない言葉が飛び込んできた。

『・・・後、・・・頼み・・ま・・す』

また、途切れ途切れに紡いでゆくと共に声が段々と小さくなっていった。

「あの、・・・後・・・頼みますってどういう意味でしょうか?」

そう聞いてみたら何の声もなく、ただ無言しか流れてこなかった。
私は困惑してしまった。 そしたら、副機長から・・・

「ラクス様、どうやらあのアンノウンのパイロットは気を失っているようです。」

「え?」

どうやら、声が聞こえなくなったのは気を失ったから、らしい。
ここで私は機長達と、ジンのパイロット達に言った。
アンノウンの機体と少年を救助するようにと、
そしてそれに伴い 私は格納庫へと足を進めた。


格納庫に着いたら、どうやら丁度〝それ〟のコクピットを開けたところから
パイロットを降ろしているところらしい。
ジンのパイロット達やクルー達が私に気付いた。

「あ、ラクス様!」

「ご苦労様です。 それで乗っていた方は大丈夫なのですか?」

そっと、視線をストレッチャーに乗っている人を見てみると
やはり思っていた通り、赤髪で若い少年だった。
その横で、医者が答える。

「気を失った理由は分かりませんが、全身に打撲のような感じが見られます。
 ああ、生命に関わるような状態ではないので、大丈夫ですよ。」

命に関わるような状態ではないと聞いて、ホッとする。
少年が医務室へ運ばれた後、私はクルー達に伝えた。
予定通り、あの場所に行くと共に・・・この機体に触れないようにと。
そう言い残して、医務室に向かっていった。

そこで丁度、治療を終えたようで出てきた医者と一言二言、言葉を交わした後
私は医務室の中に入った。
そして入ると同時に、ベッドから微かな呻き声が聞こえてきた。
どうやら、目を覚ましたらしい。

「気付かれましたか?」

起き上がった彼の姿を見たら、頭と胸の辺りだけ包帯が巻かれていた。
そして、彼の口から弱々しい声が聞こえてきた。

「僕は・・・どうして・・・ここに?」

「あなたは先程の戦闘が終わった後、急に気を失って倒れていたのですわ」

そう答えると、彼は苦痛した顔で右手で顔を被っている。
あの時のことを覚えていないのでしょうか?

「覚えていらっしゃいませんか?」

そうお聞きして、数秒経った頃 彼は顔をこちらに向けてきて
ちょっとドキリとしたけれど、それを表に出さずに首を少し傾けた。

「いや、それは覚えているよ。 ところで君は・・・誰なんだ?」

---そういえば、まだ紹介していませんでしたね・・・私も彼の名前が知りたいですし
そう思って微笑みながら、私は自分の名前を答える。

「私はラクス・クラインと言います」

静かな声で私の名を言った彼に肯定すると、突然ピンクちゃんが
動き出して、傷付いた彼の下へと飛んでいった。
ピンクちゃんも彼のことが気に入ったようで、彼の身体の上に乗っている。

私は彼の名前が知りたくて聞いてみたら、突然動きが固まった。
何か、不味いことを聞いてしまったのだろうか?と思ったら
何か様子がおかしかった。覚えていないのだろうか?と聞いてみたら・・・
彼は〝記憶がない〟と言った。
どうやら、彼は自分の名前が覚えていなかった・・・嘘偽りのない本当の記憶喪失・・・

この時、私は目の前の彼が何とも言えない何かを感じた。
孤独で儚い、そんな彼を護りたいと思った、救いたいとも・・・
そう思いながら、痛みに唸った彼を横になるよう勧めたら
彼から思いがけない言葉が飛び込んできた。
私はついキョトンとしてしまった・・・そして笑ってしまった。
彼が眉をひそめていたことに気付き、何とか私は笑いを収めた

私は笑ったことを謝罪して、そして助けて下さったお礼をしたいとも言った。
そして、最後に自分の偽りのない気持ちを言った。

それから、彼から自分の機体はどこにあるかと聞かれて・・・
また痛みに抱えた彼に今度こそ横になるよう勧めた。
機体のことについても大丈夫なのだと伝えながら、そっと一枚の毛布をかけた時、
穏やかな声が私の耳に聞こえてきた

「・・・ラクス・・さん」

少年の声に、私は一瞬これまでになかった感情が湧き上がった気がした。
---この気持ちは何でしょう?
その気持ちを抑え込みながら、何とか口を紡ぐ。

「ラクスで構いませんわ」

「でも・・・見知らぬあなたに、呼び捨ては出来ないですよ」

「わたくしに・・・敬語は必要はありませんわ」

彼は戸惑っているようで、けれど何故かそう呼んで欲しかった。
そして彼はそっと目を閉じたかと思うと・・・

「・・・なら、そう呼ばせてもらうよ・・・ラクス」

私が望んでくれたことを言ってくれて、嬉しかった。
ここで彼は静かな寝息を立てて、眠りについた。

『ハロ ラクス』
ピンクちゃんが私の膝の上で跳びはねる。

「ピンクちゃん、私は彼との出会いに導かれてるような感じがしますわ」



*****

あとがき

ラクス視線・・・

第2話よりちょっと長い文になった。

そして途中で文が変になっていくような気がした。

さて、ラクスの感情は彼にどのような影響を与えていくのか。

次回、お楽しみに?



[19281] 第四話 与えられた名と共に
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/19 01:55
 第四話 与えられた名と共に


―――あれから一時間程経ったのだろうか?
頭痛も無くなったし、ケガはまだ痛むけど・・・だいぶマシになったと思う。
とりあえず、あの機体の所に行くしかないか 今の俺にはアレしかないし。
それにしても・・・

「よく眠れましたか?」

ラクスが微笑みながら、そう聞いた。ずっと、付き添ってくれたのだろうか?

「おかげ様でだいぶ良くなった、付き添ってくれたんだろ?
 とりあえず、ありがとう と言っておくよ」

そう言いながら、俺はベッドから降りて立ち上がった。
その様子にラクスは彼の行動に気付いたようで、

「格納庫へご案内いたしますわ。あなたの愛機が気になるのでしょう?」

何も言ってないのに、何故 ラクスは分かるのだろうか?
けれど、ラクスの言っていることは間違いはないので 俺はお願いした。
何故なら、この船のことを知らないし・・・うかつに動かない方がいいだろうと
頭の中で判断していた。

俺の機体があるであろう場所に行く途中、何人かの人と出会い
俺に向けられる視線には、興味津々に見られていた。
ここにいる人達は、どうやら目の前のラクスを本当に慕っているようで、
本当に不思議な人だなと思ってしまった。

・・・それよりも、何故に・・・俺の肩に乗っかかっているのだろう?
ピンクちゃんと呼ばれたこのハロは・・・・・・こっちはこっちで謎だ。

「どうやら、ピンクちゃんは貴方をお気になさったようですね。」

ラクスは俺に視線を向けると肩にピンクちゃんが乗っていたのを見て
くすくすと笑って言った。
そうこうしているうちに、格納庫に着いたようだ。
中には先程のジンというMSがあって、他に一体あった。
あの機体が俺の機体なのだろうか?

「ラクス、あれが俺の乗っていた機体なの?」

「はい、あなたが乗っていらした機体ですわ。」

本当に俺の機体らしい。
見たことも聞いたこともないのに、何故乗っていたのだろう?

―――いや、記憶のない俺が考えても仕方がないのかも知れない。
    何か思い出せる手がかりがあるといいんだけど・・・

「とりあえず、乗っても・・・いいかな?」

俺の機体なのだというけれど、どこか不安があるから一応、確認のために聞いた。

「ええ、あなたの機体ですから。ご自由になさってくださいな。」

ラクスは、なかなか信じられず戸惑いながら言う、俺の不安を取り除いてくれるかのように微笑みながら答えてくれた。
俺は決心し、一歩足を踏みしめて 無重力の中
コクピットであるだろう場所に向かって飛んでいき、その中に入る。
ふと視界に、緑のパイロットスーツを来た人達が俺たちの事に気付いてラクスの所に
移動しているのが見えたが、気にするのを止めた。

コクピットの中に入ると、一瞬何か異様な感触がしたが気のせいだと思う。
そして、シートにゆっくり座りながらあちこちと視線を彷徨わせた。

―――何だろう・・・なんか落ち着くような、不思議な感じがする。
     俺、ほんとにこれに乗って戦ったんだよな

シートに座った途端、不思議な感覚に包まれた感じがした。

「えーと、起動させるのはこれか?」

そうすると 起動音が鳴り、徐々に光があちこちと点滅してきた。
シート脇にあるキーボートを出して、ウィンドウを開く。
記憶の断片にある業か、何をどうしたいのか、必要な情報を全て出してゆく

「俺に関する、情報は何一つないな。ん?これ・・・この機体のことか。
 えっと、ヴォル・・レント?って言うのか」

最後に乗っていた機体の名前が分かった。
その名を呼んだ途端、ウィンドウに何らかのデータというのだろうか?
それが出てきて、知らない言葉が出てきた。

「サイ・・トロン? 何だこれ?」

本当に訳のわからない機体だ。
けれど、このヴォルレントは俺にとって大切な機体だということは分かる。
この先、俺はさっきみたいに戦う時が来るのだろうか?

そうしてヴォルレントのリンクをOFFし、コクピットの外に出たら
ラクスが最初の時と変わらずにずっと立っていて、俺が出てくるのを
待っていてくれていたようだ。
そんなラクスに俺は苦笑を浮かべながら、ラクスの下へ静かに降り立った。

「何か分かりましたか?」

苦笑を浮かべた俺に向けて、ラクスは首を傾げながら聞いてきた。
首を傾げて微笑むラクスに俺は目を静かに瞑って首を横に振り、先程調べた俺の機体に目を向けながら言った。

「俺に関する情報は何一つ得られなかった。」

俺は今、苦しんだ表情をしていると何故だか分かる。

「けれど、この機体の名前だけは分かったよ。」

「何とおっしゃるのですか?」

「ヴォルレントというらしい」

俺はその名を告げ、決心しようにも・・・なかなか踏み出せずに迷っている。
これに乗ったら、何かを失ってしまうような・・・二度と戻れない〝何かが〟失いそうで怖い気分になってくる。

「貴方はこれから、どうなさるのですか?」

ふとラクスが俺にこれからのことを聞いてきた。
これからと言われても、俺はどうしたいのか分からない。
俺の記憶を探すべきなのだけれど、どこから手をつければいいのか分からない。
だから、俺は笑ってラクスに聞いた。

「これから、どうしようか?」

そんな言葉を投げたら、ラクスは呆気にとられた顔をする。
普通は言わないだろうと思う、当然の反応だよな・・・とも思った。
それでも、一歩踏み出せる答えが欲しかった。
俺自身が進むべき道を・・・

「では、私の傍にいてくれませんか?」

その言葉に今度は俺が呆気に取られた、というより驚いた。

「何故、俺がラクスの傍に? 素性の知れぬ俺がいるのはマズイのではないのか」

本当に分からない。一体、彼女は何者だろうか?と益々、謎が増えていく。

「どうしようか?と聞いたのは貴方ではありませんか?」

―――確かに言った。けれど、それとは別の様な気がする・・・。

「貴方が私の傍に居てくれることは、既にこの船の皆さんも承諾済みです」

いつの間に!!と思った。
けれど、行く当ても無いことは確かな事で 取りあえずラクスの恩を受けようと思う。

「まあ、行く当てもないから ラクスの恩を受け止めてもいいかな。」

そう言ったら、何故かラクスは嬉しそうに微笑んでいて、
・・・顔がほんのり赤くなっていたことは見間違いだろうか?

「それから、名前はどうなさいますか?名無しでは、これから不便もありましょう。」

―――確かにこの先、いつ記憶が戻るか分かったものじゃない。
     名前がないと、色々と問題が起きそうだし・・・

「そうだな名前がないと困るよな。
 ラクスでよければ、俺に名前を付けてくれないかな?」

だから、俺はラクスに頼んだ。
彼女ならきっと、俺の名前を付けてくれるだろう。

数秒か、数分か経ったのだろうか? ラクスの口から俺の名前が紡がれる。

「・・・ウィル。 ウィル・クールドと呼んでもよろしいでしょうか?」

「ウィル・・・。うん、気に入ったよ。
 ありがとう、俺に名を与えてくれて・・・ありがとう。」

記憶を失った俺に【意志】という名を与えてくれるのは、
彼女なりの優しさなのかもしれない。
けれど、ラクスが名付けてくれた名前なのだから・・・
その名に恥じない存在で在り続けようと思う。
いつの日か記憶を取り戻す・・その時まで・・・

「ラクス、俺は・・・俺に与えられたウィルという名と、
 俺の愛機であるヴォルレントと共に歩いていこうと思う」

そう言うと、ラクスは穏やかな顔で首を縦に振った。
俺は今、迷いを振り切るように一歩踏み出したと思う。きっと・・・
だから、俺はここから始めよう。
俺に与えられた名と俺の愛機であるヴォルレントと共に・・・・・・



*****

あとがき

ようやく記憶の少年とその機体に名前が入りました。

ただ、彼の本当の名前はまだまだ先です。

その時まで、ウィルという名前で通させていただきます。

後、俺の好きな機体はベルゼルートとヴォルレントで、どちらにしようか迷いました

でもベルゼルートは接近戦は不利なので、ヴォルレントにしました。

次回は・・・まっ、お楽しみに



[19281] 第五話 意志という名を  〈ラクス視点〉
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/06/26 19:53
 第五話 意志という名を  〈ラクス視点〉


―――あれから一時間程経った頃でしょうか?

彼が目覚めて、上半身だけ起き上がり自分の身体の調子を確認するように手を開いたり、閉じたりしていた。 
調子が良くなったのでしょうか?
ふと、彼がこちらに視線を向けてきた。

「よく眠れましたか?」

私は微笑んで、そう聞くと。
彼もまた微笑んで応えを返してくれた。

「おかげ様でだいぶ良くなった、付き添ってくれたんだろ?
 とりあえず、ありがとう と言っておくよ」

そう言いながら、彼はベッドから降りて立ち上がった。
その様子に私は彼の行動に気付いた。
彼が最初に気にしていた、彼が乗っていた機体の所に行こうとしているのを。

「格納庫へご案内いたしますわ。あなたの愛機が気になるのでしょう?」

そう言ったら、彼は驚いた顔をした後、破顔一笑してお願いしてきた。
その笑った顔に私は嬉しく思ったというのだろうか?

部屋を出て格納庫に向かう途中、何人かのクルーに出会い、そのクルー達が興味津々しながら彼を見ていた。
居心地が悪くなってないだろうかと思っていたのだけれど、それは杞憂だったようでホッとする。
ふと、私は彼に視線を向けると、どうやら彼は興味津々に見られてると気付いても、まったく気にしていなかったらしい。
そして、視界に入ったピンクちゃんが彼の肩に乗っているのを見て、思わずくすくすと笑いながら言ってしまった。

「どうやら、ピンクちゃんは貴方をお気になさったようですね。」

―――私が気になった人だから、ピンクちゃんも気に入ったのでしょうね。

そうこうしているうちに、格納庫に着いた。
彼はザフトのMSであるジンに視線を向け、そして最後に彼が乗っていた機体に目を向けた。 そして、戸惑うかのように私に聞いてくる。

「ラクス、あれが俺の乗っていた機体なの?」

「はい、あなたが乗っていらした機体ですわ。」

私は彼に不安を与えないように、微笑んで答えた。
そう言った後の彼は再び愛機の方に視線を向けて、複雑な顔をしていた。
私は何故、彼がそんな顔をするのか分からなかった。
自分の機体であるのに、何故複雑な表情をするのか・・・記憶がないから、複雑な表情をしているのだろうか? 
それとも、別の意味があるのだろうか?

「とりあえず、乗っても・・・いいかな?」

彼がふいにこちらに向けて、そして聞こえてきた声は不安な声が混じっていた。
私は、もう一度まだ信じられず戸惑いながら聞いてくる・・・彼の不安を取り除くかのように伝える。

「ええ、あなたの機体ですから。ご自由になさってくださいな。」

そして、彼は何か決心したように足を踏みしめて 無重力の中
上に向かって飛んでいき、自らの機体のコクピットに向かい入って行った。
ふと視界に、緑のパイロットスーツを来た人達が私たちの事に気付き、近寄ってくる。

「ラクス様」

「よろしかったのですか?
 素性も知れないのにも関わらず、おまけに記憶がないと聞き及んでいましたが・・・」

ジンのパイロット達は先程、コクピットに彼が入っていったことを目撃し
不安と警戒を持ちつつ、ラクスの所に聞いてきた。

「大丈夫ですから、心配しないでください。 この機体は彼の物ですし・・・
 記憶を取り戻す手がかりはこれしかないのですから。」

私はパイロット達の不安を取り除くように微笑んで言う。

「ピンクちゃん、私たちは彼が出てくるまで、ここで待ちましょうね?」

「ハロ ラクス オマエモナー」

ピンクちゃんが無重力の中、フワフワと飛び回る。
そしたら、彼が乗っていた機体が徐々に碧い色が・・・淡く光っていた。
まるで、命が吹き込まれたかのように。
そして、それが彼が起動させたのだと分かった。
この場にいたクルー達は起動したことに驚いて警戒していたのだけれど、私が何も慌てなかったのを見て、警戒を解けてくれたのを嬉しく思った。

数分か経った頃でしょうか。
機体が静かに光が消えたのを見て、そしてコクピットから彼が出てきた。
何故か、私を見た途端・・・苦笑をしていた。何故、苦笑していたのか分からない。
彼は苦笑を浮かべながら、私の下へ静かに降り立った。

「何か分かりましたか?」

苦笑を浮かべた彼に、私は首を傾げながら聞いた。何か分かったのだろうか?
けれど、彼は目を静かに瞑り・・首を横に振り、先程調べた自らの機体に目を向けた。

「俺に関する情報は何一つ得られなかった。」

彼は悲しみとも苦しみともいえる様な、そんな顔をしていた。

「けれど、この機体の名前だけは分かったよ。」

「何とおっしゃるのですか?」

「ヴォルレントというらしい」

彼はその名を呼んだ時、何か決意したように・・・けれど、どこか迷っているようで。
まるで何か酷く恐れてるような、そんな表情。

「貴方はこれから、どうなさるのですか?」

私はこれからのことについて決めたことを、今ここに聞く。
出来ることなら、彼はここに残って欲しい・・・そんな希望を抱いて。
けれど、この問題は彼自身が決めることで そう言えなかった。
彼はこちらに視線を向けて・・笑って・・・笑っ・・て?

「これから、どうしようか?」

彼の言葉に私は呆気にとられた。
どうしようか、などと聞かれるとは思ってもいなかった。
何故かそう言った割にはあんまり困った顔なんかしていなくて、笑っていて
そんな彼に、私はどこかで嬉しさと喜びと切なさが出てきて・・・

「では、私の傍にいてくれませんか?」

その言葉に一番驚いたのはジンのパイロット達でもなく、クルーの人でもなく、
記憶喪失の少年だった。

「何故、俺がラクスの傍に? 素性の知れぬ俺がいるのはマズイのではないのか」

「どうしようか?と聞いたのは貴方ではありませんか?」

そう答えると、彼は困惑した表情をしてきて・・・
ここで私は彼が寝ている間に、クルー達に言って承諾してくれたことを言う。

「貴方が私の傍に居てくれることは、既にこの船の皆さんも承諾済みです」

そう言うと、今度はビックリとした表情をしていて何だか可笑しく思ってしまった。
彼の色んな表情が見られて、どこか嬉しい反面があったと思う。
彼は少し考えて、そして今度は穏やかな表情で言ってきた。

「まあ、行く当てもないから ラクスの恩を受け止めてもいいかな。」

彼が言った言葉に私は嬉しくて、微笑んで・・・
この時、顔がほんのり赤くなっていたことを私は気付かなかった。

―――彼が私の傍に居てくれる事が決まった今、今度は彼の名前が必要となるでしょうね。

「それから、名前はどうなさいますか?名無しでは、これから不便もありましょう。」

そう聞くと、彼は何か考え事をしていて・・・
どのような名前にするのか考えているのだろうと思っていたのだけれど、違った。

「そうだな名前がないと困るよな。
 ラクスでよければ、俺に名前を付けてくれないかな?」

今度は私に彼の名前を付けて欲しいと言われた。
どこまで彼は優しいのだろう。過去を求め、そして今を生きようとする
彼の道はどのような道を辿るのだろうか。
そんな彼に私は、彼に相応しいとも言えるのか言えないのか分からないけれど、
いつの日か掴んで欲しいという思いを込めて名前を伝える。

「・・・ウィル。 ウィル・クールドと呼んでもよろしいでしょうか?」

ウィルの意味は【意志】という意味。
記憶のない彼に、この名を決めたのは自らで未来を手に入れて欲しいという思いがあったからかもしれない。
そして、彼自身の記憶が思い出させることを願っての意味も含まれてるのかもしれない。たとえ、そうでなくても何故かこの名を与えたかった。
その名に恥じない存在で在り続けることを、いつの日か記憶を取り戻す・・その時まで・・・

「ラクス、俺は・・・俺に与えられたウィルという名と、
 俺の愛機であるヴォルレントと共に歩いていこうと思う」

そう言った彼に私は穏やかな顔で首を縦に振った。
彼、ウィルは迷いを振り切るように一歩踏み出して・・・前へと歩みはじめた。
与えられた名とウィルの愛機であるヴォルレントと共に。


*****

あとがき

ラクス視点、微妙に変な文章になっている気がする。

まあ、読者様の反応を待つ俺です。

さあ、次の展開は・・・

・・・・・・・・・次回をお楽しみに。



[19281] 第六話 哀しみの星々の海の中で
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/07/03 18:54
 第六話 哀しみの星々の海の中で


現在、ウィルは私の傍で座っている。
あれから、ウィルから〝この世界のことについて色々と教えて欲しい〟と
言われたため、立っているのもなんなので 客室デッキに移動し、このような状況にいる。

ウィルはヴォルレントの中にあったのか、ノートPCを持ってきて色々な情報を漁っていた。

―――これでは、私が教える意味がありませんわね。

ラクスは顔には出さないが、不満そうだった。

ウィル、自分で言っておきながら、それですか?

「ラクス?」

ウィルはラクスの様子に気付き、話し掛けてきた。

「は、はい!」

ラクスは急に呼ばれたことに驚いて、思わず叫びにも似た声を出してしまった。
そんなラクスの声にウィルはどうしてそんなに驚くのか分からなくて、首を傾げる。
ラクスは何とか落ち着きを取り戻しながら、呼び掛けられた事に理由を聞こうとした。

「あの、何か分からないことでもありましたか?」

「ああ、一応少しは分かったようで分からない事もあるけど、この〝ユニウスセブン〟って?」

ウィルがPCに私に向けさせて、〝ユニウスセブン〟という画面と言葉を見て聞き、私は顔を沈ませた。

俺はラクスの表情が沈んだ顔になったのを気付き、不味いことを聞いてしまったのだろうかと思った。

「ごめん、なんか聞いちゃ不味かったみたいだな」

俺は慌てて、謝罪しながら別の話題を探そうとしたら

「いえ、お答えします。 この世界について色々と教えて欲しいと言ったのですから。」

ラクスも慌てて答えた。
ウィルが教えて欲しいと言われたのだから、それに応えようと。

「無理…しなくてもいいけれど?」

ウィルはラクスの表情がまだ曇っている感じがして、話題を別のことに変えようと
思っていたが

「大丈夫です。」

それでもラクスは教えてくれるらしい。
もっとも、ラクスは別の意味で応えようとしているのだが…ウィル自身は気付かない。

俺は軽く首を縦に振った。
それを見たラクスは静かに言った。

「〝ユニウスセブン〟は私達が住むプラント120基あるコロニーの一つで、食料生産コロニーでもあったのです。」

ラクスはウィルに分かるように静かに話していく。

「今から…一年程前の事です。
 その日に『血のバレンタイン』という〝ユニウスセブン〟の悲劇が起こったのです。」

ラクスは両の手を握り締めて、再び顔を曇らせた。
ウィルは顔を顰める。

「『血のバレンタイン』? 重要な誰かが亡くなったの?」

「いえ、そのコロニーに核ミサイルを撃ち込まれて…
 〝ユニウスセブン〟に住んでいた24万3721名が犠牲になったのですわ。」

「…そんな悲しい事件があったのか。」

ウィルは核と24万という犠牲に驚き、そして心の中で嘆く。

「…はい。それで私達は今、デブリベルトに向かっています。」

私は今、これから向かう場所の事を告げる。

「デブリベルト?」

そう告げたら、デブリベルトのことも知らないようで 私は再び答える。

「そこに〝ユニウスセブン〟があるのです。
 私達は『血のバレンタイン』の一周年式典に際し、ユニウスセブンの残骸への追悼慰霊団の派遣調査の為に行くのですわ。」

「そっか、その道中 俺に出会ったというわけだね。」

「はい」

ラクスはこれからのことについて詳しく教えてくれた。
色々と教えたことに満足したのか、曇っていた表情がなくなっていた。

俺はそんなラクスにほっとした気分もあったが、このユニウスセブンのことを考えると
これほどの悲しい事件があったのに、何故記憶に無いのか思い出せないのか
複雑な気分だった。
ウィルはPCのキーボートを叩きながら、色々と考えていた。

ラクスは再びPCに向けたウィルを見ていた。
そして、先程24万という犠牲になったことを驚いたウィルの表情を思い出していた。

―――あの表情は驚いていたというよりも、悲しみ嘆いていたようでしたわ。

あの表情は一瞬の出来事だったけれど、忘れたくないと思った。
私が話している時、ウィルはただただ静かに聞いてくれたおかげか 心地良い時間を感じていた。

そんな思考の海に漂っていると…耳元に声が聞こえてきて

「…ス、ラクス」

「あ、はい?」

今度は、ポケっとした返事をしてしまった。

―――私って…どうしてこう返事してしまうのだろう

微笑みの顔でウィルに向けた私は、今度はどんな質問なのだろうかと首を傾げる。

「こんな事、訊くのはどうかと思うけど…さっき、核ミサイルが撃ち込まれたって言ったよね?」

「…はい」

「何処が、核ミサイルを撃ったんだ?」

本当に訊いちゃ不味いことだって分かるけど、どうしても知りたかった。
PCに載っていることが真実だとは限らないと思ってきたから。
何故ならPCに記載されてる情報は、プラントの自爆作戦だとか自作自演だとか
批判されてるような文章が書いているのだから。

「・・・・・・」

―――あ、沈黙・・・別の話題に変えよ。

「あ、えっと・・・その悲劇の引き金によって戦争が始まったんだよね?
 どこと、どこが戦っているのか教えて欲しいんだけど?」

PCによる情報は戦争が始まっただけで、どことどこが戦っているのか分からなかった。
だから、今度はこっちの質問に変えたのだ。

―――ホントにこの情報 意味ないや・・・いや、役に立たないな。

そう聞いてくると、今度は答えてくれた。
というよりも、何処が核ミサイルを撃ったかも教えてくれた。

「詳しいことは分かりませんが、地球連合軍が核ミサイルを撃ったとも聞いています。
 そして今、起きている戦争は地球連合軍とザフトの両軍が戦っているのです。」

ラクスは哀しみという表情で目を伏せている。

「地球連合軍とザフト? 」

ウィルはまた首を傾げて、頭の上にクエスションマークが見えた気がした。
今度は地球連合軍とザフトのことについて、詳しく教えようと思ったラクス。

「今度は地球連合軍とザフトのことについて教えてあげますわ。」

「あ、ごめん」

くすくすと笑うラクスにウィルは申し訳なさそうに謝った。

「地球連合軍とザフト。
 つまり、ナチュラルとコーディネイターに分かれているということです。」

今度は聞いたことのない別の単語に、俺は首を傾げた。
これだけの単語が記憶にないというのは一体どういうことなのだろうかと思った。

「自然と調整?」

首を傾げて、そう答える彼に私は苦笑してしまったと思う。

「意味はそうですが、違います。
 一切の遺伝子操作を受けず、自然に生まれた人々をナチュラルと呼び・・・
 遺伝子操作によって生まれた人々をコーディネイターと呼ばれています。」

「それがナチュラルとコーディネイター」

「そして私は、コーディネイターの一人でもあります」

「そっか」

私がコーディネイターであることを告げたら、ウィルは驚きもせずにただ一言きっぱりとはっきりとあっさりと返していたことに、ポカンとしてしまった。

「あの・・・気にならないのですか?」

「・・・何が?
 あぁ、ナチュラルとかコーディネイターとか俺はそんなの気にしてないから」

これもあっさりと返ってくる。
ウィルは嫌悪とか嫉妬とか そんな感情もなく、ただ純粋な思いで言ったのだ。
私はどう反応して良いのか困惑してしまったけれど、何故か嬉しい気分になった。

―――もし記憶があっても、きっと同じような事を言っていたでしょう。
     心配することはありませんでしたわね。

横でラクスが嬉しそうな顔をして笑っていて、俺はほっとした。
何故なら、最初に見た曇っていた表情が無くなっていたから。だから、俺も笑った。

―――これで、だいたい・・・この世界の事を知った。 今、起こっていることも。
     なら、さっきのは地球連合軍の奴らか。 また、彼らがこの船を襲う可能性も高い。
     だったら俺はヴォルレントの力で守ろう。

そんな事を思い、俺は色んな事を軽く話してくるラクスと、笑い合った。


静かな星々の海の中で、シルバーウィンドは哀しみに渦巻くデブリベルトへ着々と近づきつつあった。


*****

あとがき

とりあえず、こんなもんで・・・

ウィルはコーディネイターとかナチュラルとか、興味はないのです。

その理由は別の何話かで明らかになるでしょう・・・と思う。

では、次回をお楽しみに。



[19281] 第七話 脱出
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/07/11 02:50
 第七話 脱出



順調にデブリベルトへと航行していたシルバーウィンドはここで問題が起きた。

航行中に地球連合軍の艦艇に出会い、停船勧告を受けてしまったからだ。


「民間船に対して、停船勧告するとは何を考えてるんだ。ナチュラル共め」


「仕方があるまい、抵抗すれば攻撃を仕掛けてくるんだ。 ここは、大人しく従うしかあるまい。」


シルバーウィンドのコクピットにいる、機長と副機長がそんな会話しながら、
停船勧告を従うように、船を停船する。



客室デッキでは・・・


「どうなさったのですか?」


私は船が止まっていることに気付き、そして慌てて近づいてきたクルーに聞いた。


「申し訳ありません、ラクス様。
 先程、地球連合軍の艦艇と接触しまして、臨検すると停船勧告を受けてしまいました。」


「それは、仕方がありませんわね。」


私は、困ったように答える。
さりげなく隣にいるウィルの方を見ると、彼は険しい顔をして窓から何かを見ている。


クルーが申し訳なさそうに謝りながら言うのを横で聞きながら、
俺は窓から覗くと・・・丁度、地球連合軍の小型艇がこちらに到着したのが見える。
そして、この船の横に止まっている地球連合軍の艦艇の方をを見た。


―――あの船の砲塔、全てこっちに向けてる。威嚇のつもりなのか?
     いや・・・違う。墜とす気なのか、この船を・・・。


そう思っていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
どうやら、連合の艦長と何人かの兵が無遠慮に入ってきて、クルーと口論しているようだ。


「この船は、ただの民間船です。これ以上、臨検する必要はないでしょう!!」

「ただの民間船なら、何もやましい事はないだろう。 それとも、客席室に見せられないモノでもあるのかね?」

「そ、そんなわけはないでしょう!」

「だったら、問題はないはずだ。」

幾人かの連合兵が立ち塞がるクルー達を強引に押しのけ、小太りの艦長らしき男が入ってきて、客室デッキを見回していた。
ふいに男の視線が奥の席に座っている俺達の存在を認め、こっちに近づいてくる。


――― 一応、いつでも対応出来るようにしとかないといけないかな。


そう思っていると、俺の手に何かが被い被った感触がして、そちらの方を見てみると・・・
ラクスの手が俺の手を握っていた。 しかも微かに震えている。
この緊張感に増した状況が不安で怖いのだろう・・・だから、俺は前を見たままラクスの手を軽く握り返してラクスしか聞こえないように小声で言う。

「大丈夫、俺が傍にいる・・・守るから。」

不安を取り除かせるように答えた それらの行動はラクスに届いたようで、ラクスも軽く握り返してきたのを、俺はほっとすると共に、これからの事態に対応できるよう気を引き締めた。


小太りの艦長が、ある程度近づいて来るとラクスの存在を認めて驚愕した顔に変わる。

そして、醜悪な顔へと変わる。


「これはこれは・・・ラクス・クライン嬢ではありませんか。 何故このような場所にいるのですかな?」


そう言われたときラクスは男に気付かれないように、また俺の手を軽く握り締めて毅然とした態度を以て男の問いに答える。


「お務め、ご苦労様です。 わたくし達はユニウスセブンの追悼慰霊のために事前調査に行かれるところです。」


「ほぅ・・・ユニウスセブンとな。
 なるほど、このような所まで来るとは 私は運が良いというべきなのかな?
 何故なら、かの有名なプラントの歌姫と呼ばれたラクス嬢に出会えたのですからね。」


小太り艦長は嬉々揚々と喋る、そんな男に俺は嫌悪感を持つ。


「しかも、護衛も無しに来るとは・・・もし、他の地球連合軍が発見していたならば、たとえ民間船といえどもコーディネイターの船であるという理由だけで撃ち落とされかねませんぞ?」


俺は男の言った言葉に嫌な予感を覚えた。


―――護衛も無しに?
     ・・・そういえば、あいつらによってここにクルー全員集められた中に、ジンのパイロットの二人が見えない。・・・・・・まさか。


そう思っていると、男はまだ話を続けていた。


「・・・だからこそ、我々が貴方を保護し護衛をお務めいたしましょう。」


下心丸見えだ、この男は・・・。と、俺は心底、ため息をつきたくなったが何とか堪える。


「あ、あの・・・?」


護衛を務めると言った男の目は、欲望の目だった。

そして、保護というのは明らかに人質と何らかの利用価値があるだろう意味を含めているということが分かる。

貪欲という名の濁りきったその瞳が、ラクスを舐め回すように見ていた。

その瞳を見たラクスは、嫌悪感を持った。


「さぁ、参りましょうか?」


手を伸ばしながら言う男の行動を見たラクスは身を固くした。

それと同時に、クルー達は慌てて叫ぶ。


「ラ、ラクス様・・・!」


クルー達は、銃を持った兵士に突きつけられて手出しが出来ない。

あと少しで男の手がラクスの手を掴むと思いきや、それは遮られた。

何故かというと、ラクスの手に触れる寸前にウィルが男の手首を掴んで止めたからだ。

ウィルは立ち上がりながら、男の手首をギリギリと握り締めて突き出す。


「ぐあっ!!」


突き出された男は悲鳴を上げながら、後ろへ下がった。
そして、男は苦痛した顔で俺を睨みつけながら叫ぶ。


「な、なんだ! 貴様は!!」


―――あなたの苦痛と睨みつける、その顔に俺は痛くもかゆくもないですよ。


そう思いながら、俺はにっこりと笑って答えた。

      
「ラクスの護衛は、俺が引き受けていますので・・・あなた方の手も足もまったく必要ありません。 ですから、どうぞお帰り下さい。」


「ウィル・・・!」


ラクスは歓喜するように立ち上がりながらウィルの名を呼んだ。

そして、俺はラクスを守るように後ろへと庇う。


そんな光景を見た男は、激昂して叫んだ。


「小僧、彼女をかばおうとする心意気は買うがな。 貴様のような奴が護衛とはお笑いにもある。 ふざけたことをぬかすな!」


男は突然殴りかかってきた。けれどウィルにとって、その拳のスピードは遅いようでまったく脅威にはならなかった。

俺はあっさりそれをかわし、逆に腕をつかんでねじり上げた。

男がみっともなく床に転がるのを、兵士たちが目を丸くして見る。

俺は転げ回る男を上から見下ろすように、笑みを崩さないまま言った。


「俺は、あなたに殴られる筋合いはありません。
 それとあなたの下心丸見えですから、バレバレですよ?」


本当は男の感情を逆撫でするような発言はしたくなかったけれど、何となくむかついたから、これで良しとしようと思った。
どのみち、危険であることは変わりなかったから。


「なんだと!?」


男の顔が怒りと屈辱で赤黒く染まる。

兵士たちが慌てて駆け寄り、俺を拘束しようとしていたが・・・後ろから自由になったクルー達が彼らに襲いかかった。


「ラクス様、お逃げ下さい!」

「ここは私たちが・・・っ!」

「ウィルさん!ラクス様を頼みます!」

「こ、この! コーディネイター共が!!」


いきなりのクルー達の行動に、連合の兵士たちと乱闘になった。
俺はクルー達の行動と、クルーの一人が俺に向かって叫んだ声に唖然とした。
クルー達が携帯していた銃は取り上げられているから、丸腰で彼らに対抗しているのが分かる。
・・・長くは保たないと分かっているのだろう。 そして、最初から沈められることも。
だからこそ彼らは捨て身で連合兵と取っ組み合い、ラクスを俺に託そうとしている彼らの想いが分かった。

そして機長である男に声を掛けられて、気を取り戻した。


「お二人共、こちらへ! 脱出ポッドがあります!」


機長が慌てて、俺たちを案内しようとしている。

俺は彼らの想いを無駄にしないためにも、ラクスと共にこの場から逃げようとしてドアから出ようとすると・・・視界の端に、先程の艦長の男が銃をラクスに向けられていたのを見て、俺はラクスを庇う。


―――ドンッ!!


銃声がした。

そして、腕に激痛が走る。どうやら、貫通したらしいことが分かった。


「っ!!」


撃たれた俺は何とかラクスと共に客室デッキの外に出て、機長が客室デッキのドアをロックする。


「ウィル!!」


ラクスは撃たれた腕を押さえる俺を心配して駆け寄るが、このままここに居るわけにもいかないし・・・時間がない。だから、俺は安心させるようにラクスに言った。


「大丈夫、かすっただけだから。 それよりも早くここから離れよう!」


そう言った俺の言葉に、ラクスは何か言いたげな顔をする。
けれど、今の状況が危ういと いうことを分かっているのでラクスは口を引き締めて肯定した。

長い廊下を抜けて、下への階段を降りていく。そして、脱出用と思われる頑丈な扉に行き着いた。

機長が扉の横にあるキー・スリットにIDカードを通し、ドアを開けた。

そこには、小型の簡易型脱出ポッドが一つあった。


「ラクス様、乗ってください!」


「あなた方はどうなさるのですか!」


ラクスが何かに気付いて、叫ぶ。そして、機長が笑って答える。


「このポッドは一人用です。ですから、ラクス様と共に行動するのはここまでです。それに我々はここでラクス様を守らねばなりません。」


ラクスは悲しみの顔をするが、分かっているだろう、彼らの覚悟とその想いを・・・。

そしてラクスは俺に視線を向けた。その視線を受けた俺は心配するなと首を横に振って


「ラクス乗って!俺はヴォルレントがあるから、そっちに行くよ。それにさっきも言ったように傍にいて守るから。」


その言葉に安心したのか、それともまだ納得してないのか分からないけれど、ラクスはゆっくりと首を縦に振った。


「ポッドを射出してください。」


俺は機長にポッドを出すよう伝えて、背を向けて移動しようとしたら、機長から声が掛かる。


「・・・ウィルさん、ラクス様を頼みます! どうか、お二人ともご武運を。」


「・・・必ず、守ります。」


俺は強く頷いて言った。そしてヴォルレントが置いてあるだろう、隣の格納庫に向かう。

そこで俺は違和感を覚えて周囲を見回すと連合兵が一人も見当たらず、そこにあったのは二人の屍だけ・・・。その二人の死体はあのジンのパイロット達だった。
俺は顔を顰めたが、今はラクスを守ること優先しなくてはならないため、ヴォルレントのコクピットに向かい着席したら、突然 衝撃と揺れがきた。


「っ・・・あいつら、この船を攻撃しているのか!」


俺は急いでヴォルレントを起動させながら、先程コクピットに乗る前に手に取ったコードを撃たれた腕に縛った。血をこれ以上流すことがないように。
そして、事前に機長がハッチを開放させたのだろう、その外の先を見て宇宙空間へと飛び立った。


*****

あとがき

長い文章になった。

少し文章を切ろうと思ったけど、出来なかった。

とりあえず、俺はこれでいいかなと思っているので・・・。

さて、次回は連合軍との戦闘シーンが入るんですが、どんな風にしようか迷ってます。



[19281] 第八話 果てなき闇に漂う生者と死者
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/07/18 03:48
 第八話 果てなき闇に漂う生者と死者



外に出ると同時にラクスが乗っているであろう脱出ポッドが射出されたのを見て、俺はそちらに向かった。

そして、大きな振動を与えることのないようにポッドを掴む。

後方で大きな音が響いているのを聞き、反転すると地球連合軍の艦艇がシルバーウィンドを容赦なく撃ち続けていた。

砲弾を浴びながら、あちこちと爆発してもうもうと煙を上げていく。

たくさんの命が消えていく・・・。



―――今、助けたとしても あれでは、もう・・・・・・。



俺は今、悲痛な顔をしながら、モニターを通じて見ていた。
ほんの短い時間の中で出会ったとはいえ、彼らは命の恩人でもあった・・・それもお互いに。
でも、ここで悲しんでいる場合ではない。いずれ、地球連合軍は矛先をこちらに向けるだろう。
そして彼らに託されたラクスをここで死なせるわけにはいかないから。

俺は、いつでも反撃できるように〈ビームライフル〉を構えた。
ポッドを抱えているとはいえ、やりにくいだろうが何とかするしかないと思った。
それにまた これに乗った途端、頭の中に何かが流れてきた。
幼いとも言える声が聞こえる。・・・ラクスの声だろうか?



《―――いつか〝  〟が、その剣を持つときが来たら・・・その剣でわたくしを守る存在となって下さい。》


《うん、約束するよ。 〝   〟》



霧にかかったようなその先に覚えのない光景が見えた気がした。
そして、あれは一体何だったのだろうか、と俺は頭を振るう。
今の状況を優先するためにやらなくてはならないことがあるから。



【地球連合軍・宇宙戦艦】


「くそっ! コーディネイター共め、ふざけた真似を!!」


怒声を上げながら言う この男の正体は、先程の小太りの艦長だ。
そして、ウィルの腕を撃った張本人である。

男は画面に映し出された、この艦から砲撃を浴びせられて炎を上げながら沈んでゆく民間船を見て、にんまりと満足げに笑みを出した。
そして、己に暴力を振るい歌姫を守る騎士気取りの少年の事を思い出す。
あの小僧、護衛とはいえナチュラルではなくコーディネイターなのだろう・・・とねじりあげられた腕を掴み、忌々しげに言葉を吐く。


「あの小僧・・・よくも、わしを傷つけおって!
 あの船の攻撃はもういい、次は脱出した救命ポッドの回収に向かわせろ!」


男の命令に従い、砲撃は止まる。
そして、歌姫が乗っている救命ポッドを回収すべく船を移動させようとすると・・・
一人の管制官が叫ぶ。


「艦長!
 レーダーにMSの反応あり、照合ありません! アンノウンの表示が出ています。」

「何だと・・・モニターに映せ!」


言われたとおり画面に映し出された。そして、艦長の補佐官が呟く。


「確かに、見たこともない機体だ。 ザフトの新型でしょうか?」


そう言われた時、艦長は腕に疼くのを感じた。
あのMSに乗っているパイロットは恐らく、あの小僧だろうと思った。
まだ、生きておったのかと・・・。


「何故、あのMSの事を報告しなかった!」


確か、格納庫の方にも兵を送った筈だ。
それなのに、あのMSのことについて報告がなかった。
そして、格納庫の方から通信が入り、一人の兵士が答える。


「申し訳ありません!
 最初から船を沈める予定だと聞いたものですから、報告は必要無いと思いまして」


それを聞いた男は感情を露わに叫ぼうとしたが、ふと何かを思いつく。


「ちっ、役立たず共め・・・。 まあいい、歌姫と共にあの新型MSも手中に収めるとしよう。」


それを聞いた補佐官が答える。


「パイロット共々ですか?」


「そうだ、あのMSのパイロットは恐らく あの小僧だろう。
 わしを傷つけた事を後悔させてやるわ!!そして、屈辱の中で服従させてやる! MAを発進させろ、艦砲も援護だ。」


醜悪とした顔で叫び出す男に、ブリッジにいた人達はそれに従うべく指示を出していく。



その頃、出来るだけ地球軍の宇宙艦から離れたウィルは。



「・・・こっちはラクスがいるし、あいつらの攻撃に巻き込まれるわけにはいかないよな。やっぱり、巻き込まれる前に早めに終わらせよう。」



俺は一瞬、考えを巡らませた後、一度構えた〈ビームライフル〉を解除し、〈ロングレンジビーム〉に替える。
そして、照準先を敵艦からMAが発進されるであろう格納庫辺りをロックした。



《〝   様〟私たち、人は何かを手に入れるために戦うのでしょうか?》



《・・・〝   様〟その問いは私には答えられませぬ。》



―――まただ、一体何なんだ。さっきとは違うけれど、これは俺が見た記憶なのか?



再び、頭に流れてくる。
俺は頭の中から見た何かを何度も横に振り払った。
そのせいで撃つべきだった格納庫から、八機のMA〝メビウス〟が発進された。
俺は醜態を吐く。
これ以上、発進されることのないように俺はトリガーを引いた。


ヴォルレントのあちこちから、輝く緑の光が溢れ出す。
そして銃口から、凄ましい程のエネルギーが放たれた。
一瞬視界が真っ白におおわれ、察知した地球軍の艦は慌ててかわそうとしたが、太い光条は格納庫をもぎ取り、威力は削がれることなく、発進された二機のMAが巻き込まれ、爆発、四散した。


地球連合艦では、煙が上っていて、あちこちから悲鳴と警報が鳴り響いていた。


「な、何が起こった!?」


「わ、分かりません! しかし、攻撃方向はMSとポッドがある位置です。恐らくMSから発射されたとしか・・・」


艦長は今しがた起こった出来事に頭がついていけず、クルー達に罵声を浴びせる。
そして、クルーの一人から有り得ない言葉を聞く。


「ば、馬鹿な・・・あれだけの距離があるんだぞ! いくら何でも遠すぎる!!」


「か、艦長! 先程の攻撃により、格納庫を被弾!」


そこで、外のMAからの通信が入る。


『ブ、ブリッジ、こちら・・・いや、至急援護を! いきなり、奴のMSが―――』


一人のパイロットが最後まで言うことなく、ブツッと通信が切れる。
そして、他のパイロット達からの悲痛な叫び声がブリッジに流れ、クルー達を蝕んでいく。


『うわっ!な、なんだこいつ!どうやって現れ・・・!!わあぁあ!!』


『さ、散開しろ!!』


『だ、ダメだ! 振り切れない!! ぐあぁっ!!』


『な、何だ!こ、攻撃が効かない・・・う・・・あぁっ!!』


『ブリッジ! なにかのバリアみたいなものに遮られて、攻撃が効かな・・・うわああ―――プッ・・・』


MAのパイロット達からの通信が途切れ、ブリッジにはいやな沈黙が支配していた。



その頃。
発進されたMAを全て〈ビームライフル〉で沈めた俺は・・・。


「ふぅ、これでメビウスは全て墜とした・・・後は、あの艦を墜とすだけだ。」


先程の〈ビームライフル〉を構えて、トリガーに指をかける。
これが放たれる光の先は、また多くの命が消えていくだろう。
けれど、これは先程シルバーウィンドと共に散っていた者たちの報いとして思い知ればいい。

そうして、ヴォルレントはゆっくりと消えていく。

この時、俺は悲痛な顔をしていたことに気付く良しもなかった。


「ええい、被害状況を報告しろ!」


「一番、二番デッキ、共に被弾! またメインエンジンを直撃され損傷してます!」


「障壁閉鎖をしろ! やつのMSはどうなっているっ!」


「さ、先程、反応が途絶え・・・」


管制官が最後まで言おうとしたら突然、警報アラームが鳴り響く。
そして気付く、消えたMSの反応が今、どこにいるのかを。


「っ!め、目の前です!!」


そう言われたとき、ブリッジのクルーらが正面の艦橋窓に視線を向ける。
そこには、緑の光を放つ蒼いMSの姿が目の前にいた。 そこで一瞬MSの両目の光が灯ったのを見てしまった。

艦橋の空気が凍りついた。

艦長が怯えるような震えた声で呟く。



「ば、バケモノめ・・・」



艦長達の視界の中で、ヴォルレントがこちらに銃口を向ける。

そして、光が放たれた。

至近距離で艦橋を破壊され、それに従うようにあちこちへと激しい誘爆が起こり、赤い炎を上げていく地球連合艦は、爆散していった。


爆散していった地球連合艦を見届けた俺は、長いため息を吐く。



「ふぅ、ようやく終わった。
それにしても、このオルゴン・クラウドというのは凄いな・・・攻撃を受けることもなく無傷で切り抜けられる。あと、時空を越える事が出来るのか? 」



先程の〝メビウス〟戦で、ヴォルレントの新たな特殊能力が二つ分かったのがある。

一つは、オルゴン・クラウドと呼ばれるバリア的な機能を果たすらしい。

そして、もう一つはどれだけ動こうとも、どれだけの武器を使っても、エネルギーが回復してゆく。まったく、便利な機能だ。

そして、最後に分からないのが一つ・・・その場所に行きたいと思えば、いつの間にかその場所に居た。どうやら転移することが可能らしい。



「何で、俺こんな訳の分からない機体に乗っていたんだ。 それに戦闘の最中で時折見た、あの映像みたいなの何だったんだ、本当に・・・。」



そこで、俺は抱えているポッドにいるラクスがいたことを思い出す。



「っと、ラクスは無事なのか?」



ラクスが乗っているポッドに通信をしようとしてみたが、繋がらない。
外に出ようと思うが、パイロットスーツを着てないので無理だった。
モニターとレーダーで周囲を調べてみる。



「・・・近くに施設はないか。 取りあえず、ここにいるよりも目的地であるデブリベルトに行った方がいいかな。ポッドから救難信号が出されているから、誰かが気付いてくれるだろうし。」



モニターで周囲を見回すと、沈められたシルバーウィンドと地球連合艦が引力に引かれるように、ゆっくりと移動していた。

引力が引かれる先にはデブリベルトがある。

まるで、デブリベルトという墓場の亡霊が死者を導くかのように。

それを見た俺は、ポッドに負荷と振動を与えることのないように、フットペダルをゆっくりと踏み込み、バーニアを噴かす。

いつまでも輝きを失うことのない星と果てなき闇という虚空の中で・・・

生者である俺たちが、それに導かれ着いて行く。

そこには何が待つのか・・・。


*****

あとがき

戦闘シーン、何とか出来たけど・・・どうだろう?と悩む。

とりあえず、精一杯書いたから良しとする俺です。

次回はようやく彼らが登場します。



[19281] 第九話 凍てつく宇宙の大地での邂逅
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/07/26 23:31
 第九話 凍てつく宇宙の大地での邂逅



流れ着いたその場所〝デブリベルト〟に俺は顔を顰めた。

〝デブリベルト〟とは、宇宙のゴミが流れ着き、集まって漂う軌道。
破壊されたMSや戦艦、コロニーの残骸など、さまざまな物体が流され運ばれてくる。


ある意味、宇宙の墓場と言った方がいいだろうか。その墓場の中に先程、沈んでいった二つの艦が加わっていく。


そんな光景を見届けたウィルは、ポッドに岩石や何かの残骸やら当たることのないように避けていくが、さすがに避けるのに、一苦労した。


少し落ち着いた場所で、ヴォルレント内にあった救命キッドの中から包帯を取り出して、撃たれた腕に応急処置し、そして ここに来るまで何度もポッドに通信を試みたが、一向に繋がらない。


ラクスが無事であることを祈るしかなかった。


とにかく、救難信号が唯一の手段なので待つしか道はない。 
一日経っても来なかったら、こちらから動くしかないだろうとウィルは思った。


人間、水と食べ物がなくては生きていけない。幸い、〝ヴォルレント〟には緊急用の食料と水が置いてある。ポッドの方にも必ずあるだろう。
水だけでも、何とか生きていけるだろうが俺はともかく、ラクスは女の子であり、そんな真似をさせることは、さすがに・・・と気を配るウィルだった。


そして、視線をゴミが漂う宇宙へと向けようとすると、〝ヴォルレント〟のコクピットに、警戒警報が鳴り響いた。


俺は、少々驚きレーダーを見るが、はて、この〝デブリベルト〟にはセンサーがあまり役に立たないのではなかったのだろうか?と思ったが、とりあえず二機のMSの反応が示されていた。


モニターに流れた文字は二つ、〝ZGMF-LRR704B〟――強行偵察型、複座の〝ジン〟という文字と、〝UNKNOWN〟つまり不明という文字だった。


けれど、その一つである〝ジン〟はザフトの機体だから、そこに向かうべきだろう。
もう一方の不明な機体は、分からないが・・・。


とりあえず、俺はまたポッドに負荷と振動を与えることのないように、スラスターを噴かして、そこに向かう。


モニターの先を見ながら進んでいくと、デブリの向こうで、何か動いたような影があった。その影から、一条の光が放たれる。
そして、爆発が明るく周囲を照らした。


センターに反応していた、〝ジン〟の表示が消えた。
つまり、不明の機体が〝ジン〟を撃墜したのだろうということが分かった。



「っ!この不明のMS、敵か? これって、行くべきか?」



俺は一瞬、判断に迷っていた。 けれど、たとえ相手が何者であれ、行くしか道はないだろうと思う。
この賭が吉となるか・・・凶となるか。 警戒という名と覚悟を以て、スラスターを噴かして、そこに向かった。


そこにたどり着くと、モニターの向こうには見たこともないMSがいた。
四本の角を生やしたかのような頭部、すらりとしたボディ。
胸部と腹部が鮮やかな青と赤、四肢は輝くような白、そして背には赤い翼と言った方がいいのだろうか? 
―――明らかにザフトの〝ジン〟とは違う形状だった。 そして、両の手にはライフルと盾を持っている。



「・・・地球連合軍にはMSはないと聞いているから、ザフトのなのか?」



俺は首を傾げた。
でも、さっき〝ジン〟を墜としたのは間違いなく このMSだろうから、仲間割れでもしたのだろうか? 訳が分からず、敵なのか味方なのか判断出来ずにいる。


とにかく、通信してみて判断するしか道はないだろう。
通信をしようとスイッチを入れようとしたら、向こうのMSがこっちに気付いたらしいようで、ライフルをこっちに向けてきた。


―――って、ちょっと待て!俺は戦う気はないって!


俺はため息を吐いて、いつでも反撃出来るよう身構えたが・・・ふと気付いた。
ライフルがこっちに向けてきたにも拘らず、ずっと構えたまま一向に撃ってこなかった。


―――これは、警戒されてるのか?忠告なのか? まぁ、すぐに戦闘にならなくて済んだからいいけど。 にしても、埒が明かないな、どうしよう・・・。



《人の出会いは、色んな出会いがあるのです。だからこそ、戦う前に話し合うことも大切なのかもしれません。》



―――くっ、またか! でも俺は何故か、そうしたいと思っていた。  俺がそう思うと教えてくれるのか?このビジョンは・・・。



時折見る この映像を俺は、〝ビジョン〟と名付けた。
きっと、この〝ビジョン〟は俺にとっても、重要な記憶を取り戻すきっかけの一つなのだろうと思う。


モニターの方を見てみると、相変わらずライフルを向けたままだ。
このままじゃ埒が明かないので、通信をしようとまたスイッチを入れようとしたら、いきなり通信が入ってくる。



『あ、あの・・・聞こえますか?』



ビックリした、まさか向こうから通信してくるなんて思わなかった。



『あの、そこの・・・MS、聞こえていたら応答してください。』



更に向こうのMSのパイロットは声からしてどうやら若い少年のようだ。



『・・・回線が違うのかな・・・? それとも・・・の、乗っていないのかな?』



「・・・回線繋がってるから聞こえているし、乗っているよ。」



『あ、繋がって良かった! えーと、何かあったのですか? そのポッドから救難信号が出ているんですけど・・・』



―――どうしたものかな・・・まだ、味方とは限らないし。


「・・・訳があって、俺たちが乗っていた民間船が沈んでしまったから。ここで救助を待つ身なんだ。」



一応、〝地球連合軍に撃ち落とされた〟とは言わないようにしたけれど、どんな反応を示すか、俺は様子を伺った。
そうしたら、彼はライフルを下ろしてくれた。とりあえず、戦わなくて済んだようでホッとする。
そして、向こうから通信してくる。


『えっと・・・一応、聞いてもいいですか?』


「いいけど?」


『あの、あなたは僕らの敵じゃないんですよね?』


〝敵〟と言われて、俺はどう答えようか迷った。  
けれど、今、優先すべき事を考え・・・俺は答える。



「とりあえず、俺は敵じゃないということは断言出来るのかは分からない。 けれど・・・戦う意志はないと、これだけは言えるよ。」



『・・・分かりました。でしたら、僕に着いて来て下さい。 〝アークエンジェル〟まで案内します。』



―――〝アークエンジェル〟? 聞いてことないな・・・ってあるか。確か意味は・・・。


「・・・大天使?」



『えっ?』



向こうの方で、戸惑うような声が聞こえた気がするが、違うのか?
数秒経って、向こうから慌てたような声が聞こえる。



『いえ、意味はそうですけど、いや・・・そうじゃなくて・・・その・・・』



「あー、ちょっと取りあえず落ち着いてくれるか。俺の質問が悪かったんなら、謝るけど?」



『いえ、あの・・・謝らなくて良いです。 そのさっきの〝アークエンジェル〟のことですけど、僕が乗っている地球軍の船の名前なんです。』


―――なるほど、そういう意味ね。 しかし、弱ったな 地球軍の船だとは・・・。
     でも、この少年の声を聞く限り、大丈夫そうな気がするんだよな。


「分かった、君に従うよ。」



『それじゃあ、付いてきて下さい。一応、〝アークエンジェル〟の位置も伝えますね。』



彼がそう言うと、反転して移動し始めた。 それに付いていくように、俺も従って移動する。



―――〝アークエンジェル〟の位置まで教えてくれるのはいいけど、敵か味方かも分からない人に普通、教えるか? 
      それとも、単なるお人好しなのか?



案内された場所には、この宙域には似つかわしくない白く輝く戦艦が留まっていた。
さっきのMSといい、この戦艦といい、データにないなんて一体どういうことだろうか?ザフトと地球軍のデータはあるというのに。


―――それにしても、いつまで待たせるのだろう?


ウィルはポッドと共に、〝アークエンジェル〟の近くで待機していた。
そして、俺のヴォルレントの隣には、先程の少年が乗っていたMSがいて、さっきから通信越しに申し訳なそうに謝っている。―――もう少し、待って欲しいと。
何やら、〝アークエンジェル〟の中で揉めているというか、話し合っているそうだ。



【アークエンジェル・ブリッジ】



案の定、ウィルが思っていたとおり、男性一人と女性二人が揉めていた。
いや、正しくは揉めているというよりも、悩みながら互いに意見を出し、相談していると言ったほうがいい。
その意見と言うのが先程、キラ・ヤマトが保護したというより連れてきた、救難信号を発した救命ポッドとそれを抱える謎のMSのことだ。


通常、救難信号が出ているなら、人道的立場から救助し、保護するのが正しいだろう。
けれど、そう出来ない問題があった。 その原因は謎のMSである。
ザフトの物でも地球軍の物でもないから、敵なのか味方なのか判断出来ず、こうして互いに話し合っている。



中立国オーブ連合首長国の資源衛星〝ヘリオポリス〟で地球連合軍向けの新型MSが開発されていたことから、情報がどこからか漏れたためか、ザフトによる侵攻を呼び込んでしまう。その最中に、ザフト軍によって新型MSを4機奪われた。
そして、襲撃を受けた連合軍部隊も激しく抵抗し戦闘が激化。最終的には〝ヘリオポリス〟崩壊という最悪の展開となってしまった。


それから、友軍を頼りにユーラシア連邦の軍事要塞〝アルテミス〟に逃げ込んだが、その要塞司令官ガルシアによって拘束された。船籍登録もなく識別コードがない不明艦という理由で。
同じ連合軍とはいえライバル関係にある大西洋連邦の新兵器である〝ヘリオポリス〟で奪われなかった新型MS 5機の中で最後の一機となったMS〝ストライク〟と、この強襲機動特装艦〝アークエンジェル〟の情報提供を求めたのだ。
その最中に、ザフト軍の奇襲に遭い〝アルテミス〟は事実上壊滅、アークエンジェルクルーは からくもその場から逃れることが出来た。


そうして〝アルテミス〟で補給を受けることが出来なかった。
〝ヘリオポリス〟であわてて積み込んだ物資では、とうてい保たないことは目に見えていた。
色々と模索した中で〝デブリベルト〟で補給を受けるしかないと判断し、こうしてこの宙域にいる。 
死者の眠りを妨げるつもりはない。ただ失われたものの中からほんの少し、いま私たちに必要なものを分けて貰うだけだ。―――生きるために。
たとえ墓場を荒らす罪という汚名を得ようとも。



「ふぅ、色々と問題がありすぎて大変だわ。」



ため息をつきながら、どうしようかと迷う女性。

彼女の名は、マリュー・ラミアス大尉。些細なことから〝アークエンジェル〟の艦長になった人である。義務よりも人情に厚く、それ以上に強い責任感の持ち主。



「まったく、あの少年はとんでもない落とし物を見つけてくれるものです。」



毅然とした態度の女性が苦々しさと少し諦めの入った声で言う。

この女性は、ナタル・バジルール少尉。アークエンジェルの副長であり、CICで指揮を執る有能な戦闘指揮官。代々軍人家系に生まれたためなのか、任務遂行を第一と考え、常に軍規に忠実であろうとする。


そして、最後に二人の女性によって頼りにしている一人の男性。
名はムウ・ラ・フラガ大尉。彼は、MA〝メビウス〈ゼロ〉〟を駆り、月での戦闘で優秀な戦果を挙げた軍人。その戦績から「エンデュミオンの鷹」と呼ばれるようになった。ヘリオポリスで所属の艦が撃破されたために、アークエンジェルと行動をともにすることに。主要クルーの中では、最年長であることもあり、実質的な艦内のまとめ役である彼が・・・。



「だったら、〝デブリベルト〟に ほっぽり出したままにするか?」



その言葉に、マリューはぎょっと目を見開く。けれど、後で彼は冗談だ、と言った。
・・・彼の楽観的で気さくな性格から出てくる助言はあまり参考にならない。
そして、にやにや笑いながらとんでもないことを言い出すのは止めて欲しい。



「まあ、俺としては受け入れてやってもいいと思うけどね。 あまり、時間を掛けているわけにもいかないだろう?」



それを聞いたナタルが、異議ありと否定的なことを言った。



「私は反対です! 確かに救難信号を発したポッドを保護するのは、我々軍人の役目です。ですが、問題はポッドを抱えている謎の機体と素性の知れぬパイロットです。地球軍のものでもないとしたら、ザフトのものでスパイの可能性もあるんですよ! それに何故この宙域に彼らがいるのか全く分かっていません!それを受け入れるなど・・・。」



「ま、まあ・・・そうなんだけどさ。」



すらすらと正論なことを言い詰められて、ムウは返答に困ってしまった。



「けれど、ここで放り出すわけにもいかないわ。」



マリューからの正論な一言に、ナタルは窮してしまう。
ナタルが窮した後、少し思案した顔をして答える。



「確かに私も、ここで見逃すということは賛同出来ません。だから、受け入れましょう。」



マリューは安堵と喜びの顔をして ほっとため息を吐いたが、この後 続けられたとんでもない発言に凍りついてしまった。



「それに、あの謎の機体とそのパイロットも希少価値があります。それに今の我々にはMS一機だけでも貴重な戦力です。」



これが揉めている原因である。
そんな話し合いをしていることを知らない、ウィルは・・・。



―――・・・一体、いつまで待たせるのだろう?



ボーッと、モニター越しの向こうに映る凍てつく宇宙の大地を見ながら、コクピットの中で待機していた。  勿論、警戒することを怠らないように・・・。


*****

あとがき


予定より、遅れた。

今のところ、文章に問題なしということで、満足してます。

そして、最後のボーッというセリフ、今の僕の状況にあります。

だって、暑いから・・・。

んで以て、雨と曇り空で憂鬱・・・青い空と太陽よ、姿を見せておくれー!!

次回は、彼らとの顔合わせです。どんな出会いになるのかな?



[19281] 第十話 空気を読んで欲しいのは誰だろうか?
Name: 碧輝◆324c5c3d ID:28ca8c51
Date: 2010/08/07 02:36
 第十話 空気を読んで欲しいのは誰だろうか?




ナタルの発言に、マリューは顔を顰め、ムウは顔を顰めつつも難しい顔で考え込んだ。
マリューは反論する。


「ナタル、あの民間人を利用して戦わせる気なの。」


「彼が民間人であれ、あの不明な機体に乗っているのですから、ただの民間人ではないと言い切れないでしょう。
もし、民間人だというなら〝ヘリオポリス〟で〝保護〟した彼ら学生達も民間人です。それはどうなるのです?」


今度はナタルの発言に、マリューが窮してしまう。

〝ヘリオポリス〟で保護した学生達。
元々は〝ヘリオポリス〟の住人で些細なことから、軍の重要機密を知り、戦闘に巻き込まれてしまった人達だ。

その一人である〝キラ・ヤマト〟という少年は、《友達を守りたいから》その理由であの最後のMS〝ストライク〟に乗って戦っているのだ。
そして、キラを手助けするために巻き込んでしまったキラの友達、サイ・アーガイル、トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウ、カズィ・バスカークの四人も協力してくれている。
巻き込んでしまった彼らに、自分の不甲斐なさを実感してしまい、苦悩した顔になる。


その横でムウが助け船を出すように答えた。



「まぁ、あれこれ言っても仕方がないし・・・それに坊主達のことは成り行きでああなってしまったんだから、仕方がないんじゃないか。」



ムウが重苦しくなった空気を変えようとしたことを気付いたナタルは、自分がした行動に気付き、そして抱く感情を全て放出するように溜め息を吐いた。



「・・・申し訳ありませんでした、艦長。 どうやら私は、色々と問題だらけの状況の中で、少しピリピリとしてました。」



先程より幾分か落ち着きを取り戻したナタルは苦笑気味に言うと、マリューも苦笑で応じた。



「いいのよ、ナタル・・・私も少しピリピリしてたのよ。この状況だから、仕方がないわ。」



こうして、救命ポッドと共に謎の機体も収容することを決定する。


収容することを決定したと聞いたウィルは、安堵と不安の渦中にいた。
もし彼らが、あの時の欲望を持った地球軍の艦長と同じような人間だったら、俺一人では守りきれるだろうか・・・と。
そう思いながらも、前方で誘導してくれてる機体についていった。



【アークエンジェル・格納庫】



オペレーターの指示に従って、救命ポッドを静かに下に降ろし、ヴォルレントを指定の場所に移動して、待機する。
ようやく落ち着ける。と思ったのだけれど、ここは地球軍の船だから、まだ警戒を解くわけにはいかなかった。

モニターから外の様子を見ると、一人の毅然とした女性が少々苦々しい顔で、何やら少年に言っているようで、言われた少年は憮然とした様子で答えない。

その近くでは、二人の男女が目と目を交わし、小さくため息をついている。

救命ポッドのそばで、首にタオルを巻き、ぼさぼさ頭で無精髭の、明らかにさわやかとは言えない風貌の男が、ロックを操作し、今まさに開けようとしていた。

ハッチがかすかな音をたてて開いた。それに従うように、周囲に待機していた兵士たちが銃を構える。

俺もそれに従い、いつでもラクスを助けて守れるように操縦桿を握り締めた。
ここが地球軍の艦であることを、気付いて欲しいと願いながら。


そこへ―――


〈ハロ・ハロ・・・・・・〉


間抜けな声を発しながら漂って出てきたのは、ピンク色のボール型の物体、ラクスがピンクちゃんと呼んでいたハロだった。
耳をぱたぱたと羽ばたくように動くハロを見た彼らを見ると、何者が出てくるかと身構えていた一同は、完全に毒気を抜かれたようだ。



「ありがとう。 ご苦労様です」



ハッチの中から、ラクスの声が聞こえたのを聞き、俺はホッとした。どうやら、無事のようだと・・・。その視界の先に、一人の少年が慌てながらハッチの方に目を向けなおしている。俺もつられて見ると。


ふわり―――と、淡いピンクが漂っていた。

何度もその姿を見ているが、改めて見ると、ほんわりと白い肌、ほっそりとした腕、やさしく愛らしい顔は、見る者を幸せにするような笑みがたたえられている。その少女が宙に浮かんだ様子は、まるでシャボンの泡のように、綺麗ではかなげに見えた。


俺は、その姿をどこかで見たことがある錯覚を覚えた。いつの頃だったのかも分からない小さいときに見たことがあるような一人の女の子の姿を。
俺は、かぶりを振っているとラクスの声が聞こえる。慌ててラクスを見ると・・・。



「あら・・・あらあら?」



慣性でそのまま漂っていってしまいそうになるラクスの体を、先程見た少年が手を掴んで止めてくれたようだ。 

ハロは、ハロハロと言いながら飛び回るなと言いたい・・・。



「ありがとう」



「あ いえ・・・」


ラクスがお礼を言うと、掴んでくれた少年の顔が赤くなりながら、一言返す。純粋な少年だと思った。ふと、ラクスの顔が疑問符を浮かべていたのを見て、ようやくここがどこなのか気付いてくれたようだ。 ラクスの目の先が、少年の制服の徽章にとまっていたのだから。



「あら?・・・・・・あらあら?」



ラクスはくるくるとあたりを見回している。そして、おっとりとした口調で言った。



「まあ・・・これはザフトの艦ではありませんのね?」



「はい?・・・」



間抜けというか呆気に取られながらの声で発した女性。
それを見た俺は一拍おいて、深々とため息をついた。
それと同時にウィルと同じように頭を抱えながら、ため息を吐いた女性がいたことをウィルは知らない。

そろそろ俺も、ここから出なくちゃならないだろう。そう思い、俺は上着を腕に通してコクピットを開ける。



沈黙漂う格納庫内で聞こえるのは、ただ一つだけ。



〈ハロ ハロ? ラクス!〉



ラミアス艦長は思っていた。
先程まで緊張感が漂っていたのに、一瞬空気が緩んでしまった。
なんだか、どっと疲れた気がすると・・・。

その緩んだ空気の中で、先程待機していた蒼い機体からコクピットが開く音が聞こえ、格納庫内は再び、緊張感に包まれた。
銃を下ろしていた兵士たちが、さっと持ち構えている。


そして開かれたコクピットから、ウィルの顔を出すと、クルーの間にざわめきが走った。



「・・・え?・・・はっ!?」


「おいおい、なんだってんだ。」


「ま、また・・・子供?」



その子供は、この状況をものともせず、無重力の中、悠然と舞い降りながら先程の少女の下へと向かう。

現れた彼は、キラ達とは さして変わらぬ少年だった。

―――けれど、コーディネイターなら、それほど驚くものでもないだろう。

ここにいるクルー達は、前例であるキラの時よりも、驚愕は大きいものではなかった。


少女の隣へと降り立った赤髪の少年は・・・。私たちクルーを無視して、軽く少女と話す。



「ふぅ、大丈夫だった?」



「ええ、そちらも御無事で何よりでしたわ。ですが・・・」



少女がその続きを言う前に、少年がこちらに向けてきた。いきなり向けられたことに、ちょっと動揺してしまった。


赤髪の少年が、答える。



「受け入れてくださって、ありがとうございます。 お陰様で助かりました。」



そう言い終わった後、それっきり言うことなくなり、先程のピンクのボール型の物体が、少年の肩に乗った。



『ハロ ハロ オオキニ』



何というか、また緊張感が吹っ飛んでしまった。
その隣の少女は、何か言いたそうな顔をしながら、少年を見ているけれど。

厄介な人達を受け入れてしまったのだろうか?それとも、これで良かったのだろうか?と微妙で曖昧な思いは、ここにいるクルー全員と同じ思いだった。


ただ一人、保護し連れてきた少年を除いて・・・。



数分経った頃だろうか? なかなか話し掛けてこない彼らにウィルは、どうしようかと思ったら、ようやく一人の女性が話し掛けてきた。



「あっと、とりあえず、ここで話すよりも別の部屋で話を聞いた方がよさそうね。」



もの分かりのいい女性だと思った。もしかして、この艦の艦長なのだろうか?
俺とラクスは、その女性に従うように足を進めた。隣にいるラクスが物言いたげな顔をしてるけど、一体何なんだろう?
足を進めて一人の少年を横切った後、いきなり左腕を掴まれて、俺は顔を顰めた。



「・・・っ!」



ちょっと声が漏れてしまった事に内心、舌打ちしたくなったのを堪える。
その周りには、クルー達が驚きと戸惑いの表情をしていた。
どうやら俺の腕を掴んだ、この少年の行動に驚いたらしいようで・・・。
けれど、いつまでも離さない少年に俺は答えた。



「あの・・・何か?」



「・・・キラ君?」



その後ろから先程の女性が、どうしたのかと?聞いてくる。
【キラ】と呼ばれた少年は、はっと気付いて、顔をわずか曇らせながら、俺の左腕を見ていた。


―――そろそろ離して欲しい、凄く痛いんだけど・・・。


一瞬、間が経った頃・・・キラが答えてきた。



「すみません、腕・・・見せてもらえませんか?」



「・・・え?」



間抜けな声を出してしまった。と同時に、キラは俺の上着の左袖を捲ろうとしたのを気付いて、慌てて叫ぶ。



「あっ、ちょっと!!」



その叫びは虚しく、強引に・・・というかゆっくりと捲られてしまった。
捲られて、現れた左腕には白い包帯とは言い難く、じわじわと真っ赤に染まっている。
それを見たキラと言う少年は、驚いて言った。




「ひどいケガをしているじゃないですか! ケガをしてるんなら、ちゃんと言って下さい!」



見知らぬ少年に、怒られたことに俺は戸惑ってしまった。
どうしたものかと困惑した顔で、俺はその隣にいるラクスを見ると袖手傍観していた。どうやら、ラクスはこの事を言いたかったらしい。ということが今になって分かった。
その状況を見た、先程の艦長と思われる女性が話し掛けてくる。



「えっと、そのケガどうしたのかしら?」



そう問われたことに俺はため息を吐いた後、苦笑気味で答える。



「それについては、後でお話しします。・・・今は、治療させてもらえないでしょうか?応急処置しただけで、ずっと我慢してたんですけど、やっぱり痛みがひどくて限界なんです。」



「あっ、そうね。キラ君悪いのだけれど、彼を医務室に連れて行ってくれないかしら?」



「分かりました。えっと、案内します。」



キラと呼ばれた少年は戸惑うことなく、俺に言ってきた。他の人達は若干、警戒心を出しているというのに、このキラは俺に何の警戒心を持っていない。同い年だからなのだろうか?そう思いながら、俺も応える。



「ああ、お手数を掛けて悪い。」



俺はキラと共に行こうとしたら、後ろから引っ張られる感覚がして振り返ると、ラクスが俺の上着を掴んでいて、ラクスの顔が不安げな顔をしていたのを見た。



「あ、ごめん。えっと、彼女と一緒でいいですか?俺は彼女の傍から離れるわけにはいかないんで・・・。」



そう言うと、女性艦長が深々とため息を吐いていた。その横にいた帽子を被った女性も呆れながら、ため息を吐いて頭を抱えている。

緊張感漂っていたはずなのに、色々と空気が和んでいって困惑と諦めと呆れが、あちこちから一気に吐き出されたのを感じた。

かくいう俺も、きっとその一人だろうと思う。・・・たぶん。



『ハロ ハロ オマエモナ』



こうして色々な空気が漂う中、ラクスと共に医務室に行くことを許可してくれたのである。

俺の肩に乗るピンクのハロと、隣で立つラクスの姿の視界に入れながら・・・。

これから、どうなるのだろうかと、そう思うウィルがいた。


*****

あとがき


一週間遅れ、申し訳ない。

さて、アークエンジェルとの顔合わせですが。

良い出会いなのか、よく分からない俺がいます。

でも、これでいいと思うこともあります。

撃たれたのは左腕にしました。利き腕は右腕なので・・・。

利き腕が不便だったら困るでしょうよ。

まあ、この話は これで良しとしよう。


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