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渡辺淳一先輩の解剖
ヨーロッパ四万キロドライブ

新新・先輩渡辺淳一氏の解剖その七

2009-12-06 11:07:20 | Weblog
       第3章劣悪医学生

 医学生伸夫を先頭とした医学生たちが低俗集団であったことが臆面もなく書かれている。当然、劣悪非道として排斥される群であったことが、明らかである。
   01献体凌辱

 この「献体陵辱事件」は渡辺氏の学部一年生の時に起こった。
彼は解剖実習のための解剖室で、献体された女性の遺体を、特に性器を執拗に蹂躙する。その様子、姿が、延々と描かれている。
「まさに屍姦以外のなにものでもない犯罪行為」を、自らが描写して恥じないことに驚愕する。
 そもそも、「献体」とは、「自分の死後自分の体を医学部に預けますから、医学を目指す医学生の解剖実習で使ってください」と遺言した遺体である。
数年間返却されないこともあり、その間、遺族は正式なお葬式もできないことを了解している。

 そのために、解剖実習の第一日目には、解剖の教授が生徒たちに述べる。
「ここにある屍体は、すべて諸君の医学の勉学のために供されたものである。ある人は本人の希望により、ある人は遺族の好意により、またある人は身よりがなくここに渡された。
過去はともかく、いまはすべて仏になられた。その意味でいつも敬虔な感謝の気持ちで接し、解剖の初めと終りには必ず黙礼することをわすれないように」と。
献体の本人や遺族そして解剖学・医師が一番大切にしていた尊厳を冒涜した行為を、なぜ、渡辺淳一氏は止められなかったのか。
 
 それは彼がそのころから、目の前の欲望を制御できなかったからである。

 以下の文章をわたしは泣きながら書き写している。(いままで、どうしても、こんなひどい話を文字にすることができなかった。)

 《(白夜・彷徨の章)二体目の屍体女性で、どういうわけか丸坊主で髪はなかったが、肌や胸のふくらみから30前後かと推測されていた。
(中略)伸夫は立ち去ろうとして自然に目が下腹部にいった。(中略)内臓は摘り出され、飛行機の胴体でも見るようにがらんどうになっていた。わずかに恥骨のまわりに残った皮膚が恥部をとりまき、まわりを淡い恥毛がおおっていた。(中略)そう思った瞬間、伸夫はいきなり叢を開き、恥部を剥き出しにしたい衝動にかられた。(中略)伸夫はあたりを見廻し、だれもいないのをたしかめると、両手を叢に近づけそろそろと恥部を開いた》
この後、伸夫は膣に指を入れるわけであるが、
この部分は、筆者の吐き気と憎悪のため転記を中止した。
その犯罪者の姿は札幌の渡辺淳一文学記念館にもある本(白夜の)彷徨の章75
ページにある。

 この場面も異常であるが、彼らが解剖学習をしながらの会話も異常である。
《「内藤が、北川昌子の弁当の空箱に、解剖で切ったペニスを入れたらしいぞ」
(中略)「女ってのは、男のペニスを解剖するとき、どんな気持なのかな」「俺たちが、女のあそこを解剖するのと同じじゃないか」(中略)
「そろそろ帰ろうか」「もういいのか」「よくないけど、昼からいじめられ放しじゃ、屍体も辛いだろう」》

これらは重大な死体損傷罪である。なによりも、医学のためと、死体を献体してくれた人々に対する、最大の侮辱である。渡辺解剖学教授が知ったら即退学処分であったろう。

 自分が「無数の患者の命を救った卒業後も10年間も継続した医師」とか「医学博士」であるなども、七十歳過ぎても鮮やかに頭の中に広がるのである。
 この行為は『失楽園』のクライマックスに愛の絆の確認として登場する。
《「ぜんぶ、脱いでくれないか」死に臨んで、いま一度、凜子の躯をしかと見届けて、この目に灼きつけておきたい。「真っ裸になって…」さらに少年のように哀願すると、凜子は母のようなまなざしでうなづき(中略)「これで、いいのですか」(中略)そして中央の股間に息付く黒く小さな繁みに達したところで(中略)跪き、祈るように訴える。「ここを、見せて欲しい」》
以下は読者が想像される通りのため略。(読みたい方は『失楽園』・講談社271ページ)

「うたかた(上230ページ)」に登場する。
本誌164ページに収録した。

そして、今度は「叢を剃る・上254」に進む。学生時代に行ったことに、一つの後悔がない。

女性性器に対する偏執はシャトウ・ルージュに行きつく。
渡辺氏の女性を見る目は、それが対象とする部分の面積をだんだんと狭めていく。戦場での兵士たちは女性を見るとき「胸と尻」を見るといわれるが、彼ももっと狭くなる。

《伸夫は産婦人科に行く気はなかった。
産科にくらべると婦人科の雰囲気はまったく違う。学生に診察を見学させるために、予め学生達を診察台の裏側のほうに集め、患者が診察台にあがり局所を拡げたときを見計らって、医者がそっと手招きしてくれる。(中略)診察していた医師は伸夫たちを手招きした。いきなり股を拡げた陰部が露出されていた。医師はひとまず全体像を見せてくれたあと、膣開口器でなかを開いた。その間、医師はなにもいわない。私語を交わしては学生がカーテンの奥にいるのがわかってしまう。(中略)最後に、医師はそっと手を入れる動作をして、伸夫にやってみろ、と目で促した。伸夫は一瞬医師を見て、それから彼と同じに白衣の裾口をくくり、指先を入れてみた。云々(105ページ)》

 《「毎日、飽きるほど女性のあれを見れる」という友に「俺は女性に夢を持っているからね、あんなものを見て、夢を失うのはご免だよ」》
こういう下品極まる話が真実ならば、なんという下劣なヒトの形をした動物たちの集団だったのだろうか。あるいは、類は類を呼ぶだけで、彼の周りに限局したものであることを祈る。
それでなければ、三十年後輩の若い医者が、彼らを恩師としていると思うと後輩たちが哀れである。

 一日中、異性の下半身ばかり考えていたようだ。
また、産婦人科の実習で産泊室に詰めていたとき、伸夫たちは病院を抜け出して、バーで酒を飲み、呼び返されてお産に立ち会う。

 それだけでなく、学生の身分で、天塩に見学に行った時、医療行為を行う。それだけでなく、麻薬オピアト注射を患者に打つ。同級生は、急性中垂炎の手術をしたという。
これらは医師法違反であり、麻薬取締法違反そして、傷害罪である。
「なんと、ドロドロとした医学校であり、腐りきった学生」であろうか!

 こうした、劣悪で屈折した医学生はなぜ生まれたのか。かれは、長く家族のことを封印してきたが、老年になって、小出しにしている。一般的に言えば「問題は家庭環境」である。ここまで書くのであれば、彼自身の言葉で語るべきである。
多感な少年時代における挫折がその後の性格を決めるとされているが、偉大な作家の歩んだ道が似ているスタンダールについてモームが述べている。

 《この頃の大変彼自身の言葉によれば、恋人も同様の愛情をもって愛していた母親に死なれ、彼は父親と母親の妹に一切の面倒を見てもらうことになった。父親は真面目で良心的、叔母は厳格で信心深い人柄だった。彼は二人を憎んだ。スタンダールは自分の幼年時代について、みじめだったと言っているが、客観的に見て、さして不満の種があったようには見えない。頭がよくて、議論好きで、ひどく扱いにくい厄介な子供だった。

 たいていの子供ならば、大きくなれば、不平不満を忘れてしまうのが普通であるのに、彼は異常で、53歳になっても幼い頃の恨みをいだきつづけた。》
卒業
 ついに卒業する。渡辺氏は北海道だからこそ、医学部を卒業できたと確信する。東京なら、刑務所に入れられていただろう。女性に対して、並はずれて異常な興味を持った人間は歴史の中には多く見られる。刑務所の外壁を歩いているヒトも無数で、大抵は「金・平謝り・結婚承諾・逃亡」などの手段で辛くも転落を免れているが、事件となることも多い。 

 新聞の三面記事はそのした事件で埋め尽くされている。
 彼はインターンを東京の三井記念病院で開始する。田舎大学から来た彼は、東大閥に囲まれて、強いストレスの中に置かれる。
医師の資格もないにもかかわらず、清田医院や高井医院で医療行為をする。これは医師法違反である。

ついに、結核を発症させて、東京から札幌に帰る。
東大に対するコンプレックスも強い。

 《東京の大病院の医長はすべて東大出身者が占めていた。東大出身者でなければ、たとえどんなに優秀でも医長になれない。他の大学を出たベテランの医師がいても医長は必ず東大からくる。(中略)初め伸夫はその東大出身の医長達の名に憧れたが、その実態を知るにつれて怒りが湧いてきた。慇懃でもの静かな医長達の背景には、大きな閥の上にのった尊大さと安堵さがあった》
 
 アルバイトを兼ねて住み込んだ開業医も「君も医者になった以上は、大学に残って教授になったほうがいいな。僕のように開業してしまったら終わりだよ」
と言ったらしいが、この本でのこうした無意味な「くどさ」は作品を文学から遠ざけものであるのに、彼は書き始めると止まらない。
半年後、伸夫は結核に罹患していることを発見され、結局札幌に帰ることになる。
 
 もし、彼が(考えられないが)明るい性格で、欲情もそこそこであったら、三井記念病院で明るく研修を終えていたら、彼の人生は今と違ったものになっていたかもしれない。

 荷風も《16、7のころ、わたしは病のために一時学業を廃したことがあった。もしこの事がなかったなら、わたしは今日のように、老に至るまで閑文字を玩ぶが如き遊惰の身とならず、一家の主人ともなって、人間並みの一生涯を送ることができたかも知れない》と。
 
 しかし、重ねて言うが、好色な医学部教授ほど迷惑なことはない。
       第4章整形外科医

 どの教室に入るかで悩む。《胸部外科には食指が動いた。やってみたいと思う。開胸すると三例に一例ぐらいは死亡する。
 
しかし、胸部外科の渡瀬(和田)教授とは、なんとなく肌合いが合わないような気がした。彼はたしかにダイナミックでファイトがあった。勇敢で新しい手術に果敢に挑んでいく。だがそれだけに、どこかで立止まり、ときに迷ったり悩む柔軟さがないようにも思えた。》

本当は「渡瀬教授つまり心臓移植の和田教授であるが、彼を逆恨みしているころの作品であるが、極めて、好感を抱いていたような書き方である。「復縁を期待する気持」など深い考えがあってのことと思う。
「よくも、医師免許取り消しとか逮捕されなかったなー」という呆れてしまった。
(中略)入局し五年目にもなれば、一応、整形外科医として基礎的なものはマスターしたと考えられる。
(中略)人はそれぞれ自分の立場に応じて自分を正当化させる理由を考え、それで納得しようとする。それは悪いというより、生きていく上の知恵として、誰しも必要不可欠なものかもしれない。
        01医学博士へ

 彼は後に心臓移植を野心のために、患者をモルモット扱いにしたと、胸部外科和田教授を口汚く罵るわけであるが、渡辺氏が所属する整形外科教室においても「彼らと何ら変わらない臨床実験」がなされていた。動物に対して残酷な身体的暴力を加える。
渡辺氏は犯罪者として自覚がないため、悔悟が無い。その上、彼は売れることを唯一の目的として記述するため、思考することなく、ベラベラと書いてしまう。
ゴミといえる実験にこんなに多くの小動物の命が奪われている。小さな田舎大学では何万匹という数となる。
 全国では、何百万頭もの小動物が…と考えると心が痛む。もう既に奪われた命。今現在も奪われつつある命。殺した医者たちは人類になにを残したのか。
ゴミを無数に集めてもゴミの山に過ぎないことは歴史が示している。このことは分析(14)まとめる。

【面に怒りの猫の屍】 
 博士号を取得して、有頂天になっている渡辺氏自身、そして、その夜、薄野に繰り出し、らんちき騒ぎをする教授・助教授達が描かれている。ホステス達は教授・助教授をアタックしている。先程、儲かるんでしょう、といった女は早々に教授の膝の上に馬のりになっている。助教授は、女性に導かれて胸元に手をつっこんでいる。「なにをする」だが、すでに女の手は教授の個間をしっかりと握っている。「ここにきたら気取っても駄目よ。学もチンもみんなおいてきなさい」「助けてくれ」教授の笑うとも泣くともつかぬ悲鳴をききながら、伸夫は明日昼休みにでも「博士」の肩書きの入った名刺を作りに行こうと考えた。
     02講師になる
 数年後、他を飛び越えて講師となる。
渡辺氏においては、医師とか医学博士などが、世間で特別扱いされるべという傲慢な意識が75歳以上になっても持続する、というかしがみついている。中身のある医者は、自分が人類からみれば無と言える存在を自覚しているから、医師講師医学博士などの単語には触れないのである

 数年後、他を飛び越えて講師となる。
《突然教授室に呼ばれたのは、芥川賞候補になってほぼ半年経った夏の日の午後だった。 
「今度、君に講師になってもらおうと思ってね」(中略)教授のいったことが、はっきりと実感されてきたのは、教授室から研究室へ戻って、自分の机の前に座ってからだった。
「俺が講師か…」つぶやくとともに、夏雲がわいてくるように、全身に喜びがわいてきた。伸夫は三十二歳で、医局に入ってまだ八年しか経っていなかった。その若さで講師になることは、まさしく抜擢であった。(中略)
 
研究室の隅にあるモルモットの飼育籠の前にしゃがみこんだ。「おい、俺は講師になったらしいよ」(中略)「どうだ、凄いだろう」なにもわからぬモルモットになら、平気で本心を告げることができる。(中略)「俺は別に争うつもりはなかったが、気がつくと、親しい友達を蹴落して先に到着したことになる」(中略)多少の不安があっても、一つの組織のなかで地位が上がると、いままで気が付かなかった新しいものが別の形で見えてくる。

 伸夫が少し遅れて外来にいくと、すでに待合室は冠付添いの人達で溢れている。遅れていいという理屈はないが外来で一番上席の医師が、あんまり早く新患診察室に入ったのでは格好がとれないという気持があるからでもある。》
酔いしれる渡辺氏においては、医師とか医学博士などが、世間で特別扱いされるべという傲慢な意識が75歳以上になっても持続する、というかしがみついている。
 
 中身のある医者は、自分が人類からみれば無と言える存在を自覚しているから、医師講師医学博士ぐらいの単語には触れないのである。
【御加増を取る奴いつもごもっとも】

 《講師になって、伸夫が最も充実感を覚えたのは新患の診察のときである。
外来でも最も大きな部屋を与えられ、側につく看護師も外来看護師長らヨウなベテランが配置されていた。
彼は、権威を保つために、患者を待たせて、遅れていく。二人の若い医師がつき、急に偉くなったような気持ちがする》【薬箱初にもたせてふりかへり】
【やつと共を連れる身分になった医者、晴れがましくも、大得意でふりかえりながら歩く】
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