きょうの社説 2010年8月7日

◎高齢者の安否確認 全県に広げたい見守り活動
 全国に広がった100歳以上の高齢者の所在不明問題は、これから、どこでも起きうる という認識で取り組む必要がある。石川、富山県内では、100歳以上の不明は報告されていないが、金沢市内では昨年、長寿祝い金の対象だった当時88歳の男性の所在が確認できていなかった。年齢をさらに引き下げて調べれば、北陸でも同様のケースがないとは言い切れない。

 石川、富山県内でも、新しい住宅地では住民の関係が希薄になっている面がみられる。 一人暮らしの高齢者が入退院を繰り返す、あるいは施設に入ったり、親類宅に身を寄せるなど、移動を繰り返すうちに、正確な居場所が分かりづらくなる状況も生まれている。

 今回の問題を所在確認にとどめず、高齢者の安否を把握できる仕組みが地域で機能して いるか、これを機に点検したい。各地で「見守り活動」も始まっているが、そうした取り組みを地域活動の柱に位置づけ、全県的に広げることが大事である。急速に進む長寿社会に対応できるよう、今ある仕組みをさらに強固にしていきたい。

 石川、富山県内では、さまざまな活動が始まっている。珠洲市や津幡町などでは、高齢 者の人付き合いの状況などの情報を盛り込んだ「支え合いマップ」、南砺市などでは一人暮らしや認知症の人が急病などになった際、親族やかかりつけ医、ケアマネジャーと連絡が取れるよう、それぞれの連絡先を書き込む「安心カード」の配布を始めた。

 個人情報保護法施行でプライバシーを尊重する傾向が強まり、住民の情報収集が難しく なったとの声も聞かれる。だが、災害時の支援なども考えれば、住民が互いの事情を知っておくことは極めて重要である。個人情報保護への過度な配慮が民生委員らの活動を難しくしているとすれば、それを是正する啓発活動も必要だろう。

 高齢者の安否確認は、介護保険や医療保険の使用状況からも把握できる。職員には不自 然な状況が見つかれば、実際に会って確認する丁寧さが求められる。自治体の安否確認システムと、地域の見守り活動を連携させ、幾重にもネットワークを張り巡らせたい。

◎原爆忌式典に米大使 強まる広島のメッセージ
 原爆死没者を慰霊する広島市の平和記念式典に、米英仏代表と国連事務総長が初めて参 列した。同式典にはこれまで、ロシア、中国やインド、パキスタン代表が列席している。核保有国が出そろったことにより、いわば非核のメッカとして世界に認知された広島からの核軍縮・廃絶の呼びかけは、一段と国際的な影響力を持つことになった。

 米政府がルース駐日大使を参加させたことは、「核を使った唯一の国として行動する道 義的責任がある」と述べたオバマ大統領の歴史的演説を、文字通り行動で示すものである。英仏、潘基文国連事務総長と足並みをそろえ、核開発を続ける北朝鮮やイランを強くけん制することにもなった。

 広島、長崎からのメッセージ力を強めることは、被爆国日本の使命である。ただ、深く 重い矛盾、ジレンマであるが、いまはまだ米国の「核の傘」が必要な現実から目をそらすこともできない。

 日米両国民の間には、広島、長崎への原爆投下に対する見解、認識で深い溝がある。ル ース大使の式典参加が、それを埋める一歩となることをも望みたい。

 原爆投下はその非人道性にかかわらず、戦争の終結を早め、多くの米兵の命を救った、 というのが大方の米国民の認識である。米国の大学が昨年発表した原爆投下に関する世論調査結果では、61%が「正しかった」と回答し、「間違っていた」は22%だった。

 原爆投下を正当化する歴史認識の中で、その非を認め、謝罪する印象を与える被爆地訪 問を実行すれば、米国民の支持を失い、政治生命も危うくなる、ということが米大統領を広島、長崎から遠ざけている。ルース大使の平和式典参加も、あくまで慰霊であり、謝罪を意味するものではない。

 それでも、米国民の意識に変化もみられる。先の世論調査では、原爆投下を「正しかっ た」とする回答が55歳以上で73%だったのに対し、35〜54歳は60%、18〜34歳は50%と、年齢が下がるほど支持者は減っているのである。米大統領の広島、長崎訪問はそう遠くはないと思いたい。