というわけで、雇用問題の分析としては、正直おススメできない。
ただし、変な話だが、読んでいて不思議な安定感があるのも事実だ。そういえば僕自身、それほどぱっとしない後輩に進路を相談された際に、本書と同じようなアドバイスをしていたことを読後に思い出した。別にやる気もやりたいことも見つからない。それでも運よく大企業に入ることのできた人間へのキャリア指南書としては、本書はとても有効だろう。
著者の言うように、大手のスローライフで身に付くモノも確かにあり、ぎらぎらしていない人間がそれ以上を求めて飛び出すのは、僕自身もおススメしない。「やってられるかよ!」というやんちゃな人間は、著者の言うとおり10%もいないかもしれない。要するに、多くを求めない安定志向の人向けの精神安定剤的な役回りの本なのだ。
著者もこの点には気づいているようで、上記のデータのブレ(課長補佐、係長を役職にカウント)はそれを一つの物語にするために書き入れた筆なのだろう。著者の本音は、恐らく以下の言葉だ。
「係長止まりの緩い人生でいいじゃないか」(86P)案外、見えているものは同じものなのかもしれない。
それでもなお、僕は日本型雇用というシステムのゼロリセットが必須だと考える。その10%全員が腐ることなく普通の企業や官庁で活躍できるようになれば、日本は大きく変わると思うからだ。そしてそうなれば「やんちゃな人間」は10%より増えると思うからだ。その時こそ、再び坂の上に雲が見えるような気がしている。