賑やかな街道から外れた路地裏。まだ夕日には遠く空が青い時間、その路地をエイタと香織は歩いていた。
歩く速度は少し速く、両者の間には一切の会話がない。今までのような生ぬるい雰囲気が嘘のようだ。
そして、ある程度の距離を進んだ後、エイタが突然立ち止まる。そして、いつものように姿の見えない彼女に呼びかけた。
「カゲミ、何体隠れている?」
「うーん、気配が全部で五体分ってとこかな」
エイタの影であるカゲミが同じ影の気配を感じ取りその数を報告する。
この世界を二次元として捉えているカゲミにとって同じ影を認識するのは簡単だった。
エイタもカゲミからの正確な情報と自身が感じる気配から敵意を向けている集団の位置を把握する。
五体のうち今向いている前方に二人、そして逆側の後方に三人。
力は恐らく強くない。香織の時は明らかな術者のバックアップが確認できたが今回はその様子がなようだった。
「武器はどうする?」
「攻撃範囲が大きい奴、大型の西洋剣を大きくさせるか、それとも斧を使うか。エイタ君が好きなの選べばいいよ」
その言葉を聞きエイタはポケットから大量のキーホルダーを取り出した。
数十本に及ぶ武器の形を模したそれらからカゲミの要望通りの物を選び、目にも留まらぬ速さでそれを抜き出し空中に投げ捨てる。
それを合図と取ったのか、ちょうど五人の刺客達が肉眼で確認できる位置に姿を現した。
「エイタさん、あ、あれ」
恐らく敵襲だろうとすぐさま理解していた香織だが、このような状況に慣れている筈もなく混乱していた。
香織はそれにより理解と認識が逆転してしまい一時的な思考停止に陥っていたが、エイタはそれも気にせず攻撃の機会を待つ。
キーホルダーがちょうど頂点の位置に来た時、刺客達に異変が起こった。
「うぐ、が、がぁがああアアァァッッ!!」
苦しむような雄叫び。威嚇ではなく純粋な悲鳴による声だった。
この場で最上級の拷問を受けさせられている様な悲鳴を五体が上げる。
そして、同時に香織にとって悪夢と同じ影の花が姿を現した。
「―ッ!」
それを目にした香織が、声にならない悲鳴を上げながら後ずさる。
しかし、どちらに行っても影の花が存在する事に変わりなく、香織は二歩ほど後退しただけで留まった。
止まりこそしたが、恐怖が無い訳ではない。むしろ、全身震えている。
それにも拘らず、エイタは香織に気の効いた一言もかける事もなく対峙し続けた。
そして、空中へと投げ出されたキーホルダーが落下し、エイタの腰を超えた瞬間、それぞれが動き出す。
一番速く動き出したのはカゲミだった。
誰よりも速く、実体となったカゲミはいつもと同じように地面へ手を突っ込みキーホルダーの影を掴む。
そして、
Shadow, realizing, fixation
――影はより現実に近づいた。
彼女の呪文によりその影は現実を侵す実像となった。
地面から掴み上げたのは一本の斧。残念な事にその丈はキーホルダーより大きいものの、武器としては決定的に小さかった。
これはこの術のデメリットだ。現在、周りにはっきりとした光源がないため、影がより濃くするためキーホルダーを地面に近づけさせなければならない。
そうなると結果として、影は小さくなる。故に取り出したときの大きさが小さいのだ。
しかし、その事はエイタもカゲミも理解している。だからこそ、彼女は新たに呪文を紡ぎ出す。
Shadow,large,larger
――影よ大きく、もっと大きく。
送り込むのは彼女の『魔力』。万物の力をあらゆる指向性をもって強化できる『選ばれ者達の力』を使い影を膨張させる。
そして、同時に強度にも強化を施し、ここに一本の武器が完成した。
カゲミにとって集中した時間はかなりの物だったが、今だカゲミが現れて一秒も過ぎていない。
その圧倒的な初動のアドバンテージを持ちながら、カゲミは後方の三体へと跳びかかる。
まず、一番前にいる花に向かって斧を振り、宿主である人間には当てないよう斜めに振り下ろし茎を切り倒す。
切られた茎は案の定真っ二つに、しかし、今だ宿主とのリンクは絶たれていない。
それを断ち切るため、カゲミは宿主を踏み台にして姿勢を整えつつも、邪魔にならないように蹴り飛ばした。
空中から加速をつけて、もう一度斧を振り落とす。
宿主と花と繋がっている影の部分に寸分の狂いなく命中。コンクリートに斧が陥没するほどの衝撃を持って花とのリンクを断ち切った。
だが、一体を倒したのも束の間。既に臨戦態勢に入っていた影の花が、カゲミのいる位置へとツタを放った。
カゲミも着地と同時に飛び退き事なきを得るが、カゲミの居た位置にはコンクリートが抉られ先程の斧よりも深くツタが刺さっている。
その殺傷能力に、香織は唖然とする。分かってこそいるが、これがエイタ達のいる世界と実感せざる終えない。
決して、自分が対抗できるものではない。そういう錯覚に陥らされる。
カゲミにとってはそこそこの威力としても、普通の人間の視点からみればこの威力は桁外れだ。
同じ大きさの仕掛けででこの威力と肩を並べて対抗できるのは小型の爆弾ぐらいだろう。
そうなれば、ほぼ一般人である香織にどうにかなる手段はない。例えこれらが襲ってきてもエイタ達がいなければどうにもならない。
そう思ったのも一瞬。すでにカゲミは新たに動き出していた。
跳んだ先の壁に着地したカゲミはすぐさま魔力を溜め放出。魔力による加速を行いすぐさま花へと向かう。
宿主と影の花の間まで来たカゲミは、持っている斧ですれ違いざまに影との繋がりを断ち切った。
その手ごたえを感じた瞬間、カゲミは急停止を行い、遠心力を利用しながら斧を振り回しつつも身体を捻り影の茎を断絶する。
後一体。そう思いカゲミは振り向く。やはり敵は停止した瞬間を狙い、ここぞとばかりにツタがカゲミを襲った。
第一章――No.3『協力者』
同じ時、エイタの目の前にもその影の花とその宿主の姿が合った。
宿主、影の花に寄生されている人間達は、首を押さえて悶絶している。時折、泡も吹き、常に悲鳴を上げていた。
本来なら誰もが、ここに地獄があるような錯覚に陥るだろう。しかし、エイタの冷ややかな態度がそれを真っ向から否定していた。
いつものように無表情であるがそこには人間の持つ暖かさを感じさせないでいる。
そして、カゲミが第一の標的を倒した瞬間エイタも動き出した。取り出したのは偽物の拳銃。
黒を基調にとしたエアガンを敵へと向ける。そして、血管のようなものを意識しその通路にマナを高速で回転。
次第にエアガンにもその回路を繋げて行き、やがては弾の部分まで。
心で念じ必中の弾丸を思い浮かべる。
――『魔弾生成』
エイタが語りかけるように言葉を発する。それは世界に訴えかけるように、この弾が魔弾であると断言し、あらゆる異論を封殺する。
そして魔弾は放れれてこそ魔弾となるのだ。
――『魔弾』
故に放つ。現状できる限りまで意思を練りこんだ弾が高速で銃身から弾き出された。
エイタたちに向かって放たれた数十のツタは、BB弾に触れると同時に衝撃で引き千切れられ、軌道を逸らす事すらままならない。
しかし、向かってくるツタを完全に防げていないのも事実。千切れた事などお構いなしにツタの束がエイタを襲った。
だが、『魔弾』が一発とは限らない。そう、魔弾は必ず六度までは必中する。
故に残り五発をもって、全てのツタを断ち切らせるようにBB弾を放った。
射線に影の花がなく、ツタを千切るために放たれた筈の弾丸も軌道を変え影の花を襲う。
一見すると奇妙な光景でしかないが、エイタにとってはこのBB弾は必中の弾丸なのだ。それが外れるはずない。
"悪魔"の如き力によって全てのBB弾は影の花へ。そして、全ての花は抉るような衝撃を持って、BB弾により風穴を開けられた。
崩れ落ちる影の花を確認するとエイタは一気に駆け出した。すぐさまナイフを取り出し、宿主と繋がっている影を断ち切ろうとする。
影の花がエイタに向かってツタを放つが、その数は格段に少ない。軽くナイフを振るだけでエイタはそのツタを叩き伏せた。
そして、今だ悲鳴を上げている宿主をよそに彼らの影を手に持ったナイフで素早く断ち切る。
それによって、二人の宿主は香織の時と同様に意識を失い崩れ落ちた。
残り一体となったカゲミを襲ったのはまたしてもツタだった。いい加減に同じ攻撃ばかりでカゲミには驚いた様子はない。
ツタを避けるべく、カゲミは地面を蹴りつけ、上空へと飛び上がる。しかし、空中では足場がないので身動きが取れない。
それを勝機と見たのかあらかじめ決められているプログラムかどうかは分からないが、ツタの数は今までとは比べられないほどカゲミへと向かっていった。
だが、カゲミは気にした様子はない。カゲミは所詮影でしかない。本来、空中にいる方がおかしいのだ。
だから、カゲミは再び二次元(影)へと姿を変える。ただの影、地面に映るただの影に。
もし、相手が影使いであったならすぐさまツタをカゲミと同じようにツタを本来の影にして追撃を行っていただろう。
しかし、カゲミはあらかじめ調べていた『種』の情報から、相手にその機能が備わっていない事を知っている。
再び現実、実像として現れたカゲミは、大量のツタを誰もいない空中に放った無防備な影の花を、その手に持っている斧で切り倒す。
そして、今まで通り宿主との繋がっているリンクも断ち切った。
香織はやはり唖然としてそこに立っているしかできる事がなかった。
エイタ達が交戦を始めて一分も経っていない。ちょっとした白昼夢でも見ている気分だった。
余りに非現実的であるが、自分もそこの倒れている人間と大して変わらない。
ただ、この人達よりも早い時期に操れてたというくらいしか、違っている物は何一つないだろう。
ただ、そう思い込むように自分に暗示をかける。なぜなら、それは本当の事を■■しているからに他ならない。
「エイタさん、この人達は?」
大体、分かっている。自分は囮だ。つまり、吉原香織と言う人間を餌としておびき寄せた。
だから、目の前に倒れている人間は、敵の刺客以外にありえない。
「十中八九、敵の送り込んだ刺客だろうな」
「どうなるんですか、この人達は?」
エイタが振り向き、何事でもないように答える。
「分からないな。ただ、このまま放置すれば死ぬだろうな」
「え?」
余りに無責任な言動。その言葉の意味を考えると、どう解釈したとしても助ける気がないようにしか聞こえない。
だが、同時に自分に対する疑問が浮かんできた。
「なら、私のときは――」
どうして助けたのか。そもそも、自分も
「俺達は朝起きるまでに香織に対して治療した憶えはない。香織が自力で回復したまでだ」
「なら目の前の人達は大丈夫なんですね」
余りにも大きな嘘をついたのを自分でも自覚している。
だけれども、こう言うしかないとも同時に思っていた。
「最初に言っただろう。このまま行くとこの人達は助からない。確実といってもいい位に死ぬ」
「そ、そうですか、だったら速く助けないと」
しかし、返ってきた答えは沈黙だった。
「エイタさん、助けるんですよね?」
そして、聞きたくなかった質問の返答は
「助ける事はない」
分かっているから、理解しているから、この事に対する反論をする気が起きなかった。
それに、次に何を言い出すのかも大体理解できたから。
「どちらかと言えば助けたいが、どうしようにも時間が足りない。
協力してくれる人間がいればどうにかなるんだが、俺達にはそんな人間はいないしな。
ああ、確かに無理もない話だ。好き好んで協力する物好きなんかいるはずがない」
そう、吉原香織がエイタ達を好ましく思っていたとしても一線を引いているのと同じように。
だが、エイタ達は無理やり協力させることもできない。そんな事をすればエイタ達の上に当たる領袖家の名にも傷がつく。
領袖家の援助あって今のエイタ達が存在しているのだ。自分の命で領袖家の名を守れるなら二人は躊躇なく差し出すだろう。
香織はエイタ達の生きてきた詳しい経緯を知らない。しかし、そのような状況ならば必ずそうなるだろうと理解する。
「協力者がいれば一日でケリがつけられる。
そうなれば当然、目の前で倒れてる"これ"をどうにかでき、全てを円く収められるだろう」
つまり、エイタの主張はこうだ。吉原香織から協力したいと申し出ろ。
こいつらを見殺しにしたいのか? お前が少し危険にさらされるだけで上手く納まるのに、そこまで自分の事が大事なのかと。
「む、無理ですよそれ、だって私はただの学生じゃないですか!」
だが、その反論もすでに論破されている事を香織は―――――――理解していた。
「ここまで巻き込まれている時点で分かっている。吉原香織はただの学生と言うには少し異常だ」
「それは嘘です。私は普通の学生ですよ!!」
自分の言い訳にしか聞こえない言葉を目の前の男は、もっとも納得できる一文を呟いた。
――この世界は物語を求めている――
全てはこの言葉で終結する。彼女がなぜ生き残ったのか、彼女がなぜこんな場違いな場所にいるのか。
全ての解答はこの一文の中に
「単に選ばれただけだ。吉原香織はこの一連の『物語』のキャスト。
ならば、こんな序盤で死んでも世界(観客)は盛り上がらないし、話が進まない。
明確な敵にやられるならまだしも、このようなモブキャラ以前の敵に殺されるなんてのはバカな話だ。
世界はそんな結末望むわけがなく、どちらかと言えば山場とか見せ場とかの方が見たいらしいからな」
だから、香織もこの事について否定しきれない。
理解できるのだ。認識するかどうかは別に、世界は人のような意思を持っていて、ある理由と娯楽のためにそうしている、そのような構図が否応なしに理解できてしまう。
そして、それがどこまで荒唐無稽だとしても本当の事実だと理解する。早すぎる物事に対する理解。
そう、この理解する能力はただの女子高生と言うには異常としか言いようがない。
「そして、これだけは殆ど俺の推測に過ぎないが、香織自身が異常なのではなく、どちらかと言えば香織の周りにいる人間の方が異常なのではないか?」
カゲミが少し変だと言った朝日葛葉。そして、両方に残っている強烈であるが薄い『魔性』の香り。
むしろ、そちらの方がキャストに相応しいのかもしれない。
そして、香織も感じていた。特にエイタの一般人とは、ずれた雰囲気は見知った二人の雰囲気に酷似している。
「協力者がいれば、ここに倒れている人達の治療に割ける時間が出来る」
さて、どうするんだ? と言葉に出さずともエイタは質問を投げかける。
「は、はは」
乾いたような笑い。
何がなんだか分からない。この場で協力しないなんて、バカな選択ができるはずがない。
まともな人間なら尚更だ。例えその選択肢を選んだとしてもエイタは香織を非難する事はないだろう。
決して、お前が助けなかったから死んだ、なんて事は言うはずがない。
だが、結果は結果、事実は事実。つまり、吉原香織が見殺しにした事実はどうあっても消せない。
遊佐影太という人間を信用していた。そこそこ気に入っていた。だが、結果はどうだ?
これで切れる関係といったエイタは嘘はついて――――ちょっと待て、彼は今まで嘘をついた事があったか? そして今、自分は何を理解できた?
エイタが言った失言。そこから、ゆっくりとエイタの考えた物語は瓦解していく。
――この世界は物語を求めている――
つまり、エイタが犯した失言は、いかに湾曲しようとある事実が浮かび上がる事だ。
そう、要は吉原香織はこの世界が求める物語のキャスト、ならばどうしようと"逃げられるはずがない"
エイタに協力しようとなかろうとだ。必死になって逃げれば大丈夫かもしれない。
だが、その過程で失うものはどれだけになるかも分からないのが現実だ。
乾いた笑いが、苦笑いに変わる。なんて馬鹿なんだろうと。
そしてもう一つ、読み違えた原因としてエイタ達の勘違いがある。それは、香織には何の能力も備わっていないと思っていた点だ。
そう備わってはいない。だが、特殊技能に近いものを香織はその身で理解していた。
あらゆる物事を高速で把握して理解する。認識には至らないものの、その技能だけ見れば異常なのだ。
だから、エイタはこの後の香織の行動を読み違えることとなる。
香織が理解した事はエイタの本当の考えだった。
吉原香織は逃げられない。たとえ、どれほど悲しい現実が待ちうけようと、決して逃げられないのだ。
親友が死ぬかもしれないし、親かもしれない、そして自分がという事もありえる。
だから、その悲しみの原因が自分ではなく、遊佐影太に協力させられた事にすればいい。
全て責任は遊佐影太。彼が自分をこの舞台に上げなければ親友は死ななかったし、親が死ななかった。
そのような考えに導くためだ。その状況に陥った香織はそう思うぐらいしかできないだろう。
つまり、エイタは自らを悪役にすることで、か細い香織の精神を守ろうとしたのだ。
だから、これは知られてはいけない事。この事を香織に知られた時点で全てが台無しになる。
つまり、この時点でエイタのシナリオは破綻した。
「香織、何か言いたい事はないか」
確信に満ちた言葉で香織の発言を促がすエイタ。しかし、香織にはもう大体の事を理解できている。
「私は、協力しません」
この時のエイタの表情は顔には大きく出ていないが、香織にとっては本当に可笑しなものだった。
絶対出来ると確信していた事が出来なかったように、面を喰らったというのがよく見ると分かる。
「ただ、友達に手を貸すってのは普通の行為ですよね。
お節介とか言われそうですけど、自分で決めて、自分で相手を思って、自分を信じて行動する。
だから、私は影太さんの手助けを自分の意思でするんです」
そう、ここまでは若干食い違うもののエイタ達の描いたシナリオと大した違いはなかった。
「エイタさん、バレバレですよ。悪役やって何が楽しいんですか。
そういう、自己献身的な行動はですね、こう、何と言うか。そう、見るに耐えないんですよ。
だから、そうゆう態度はもうやめてください」
「それは違うぞ、香織――」
「はぐらかさないでいいですよ。私はもうこの物語から逃れられない。
だったら最後までとことん付き合うしかないじゃないですか。
だから付き合いますよ最後まで、ちゃんと覚悟が出来ましたから」
ああ、なるほど通りで、こんな茶番染みた三流ドラマに選ばれるわけだ。
エイタも理解する。吉原香織は例え平常心を失っていようと、どこまでも物事を理解する能力に長けているその事実。
ならば、こんな事に巻き込まれるのも道理なのかも知れない。
「だから、引き離せないか」
もっと前に香織を置いておくという選択や別の選択肢もあったはずだ。
だが、エイタ達は選んだ。吉原香織に協力させる道を。最善だろうが、何であろうが、引き離せなかったのは事実。
このような必然の積み重ねこそが、世界の意思かも知れないが、乗ってやろうとエイタも腹を括った。
「それで本当にいいのか。分かった上で、こちらに来るのか」
「ええ、一発です。ちょっと一発ビンタでも何でもいいから、かましてやりたい人がいるんです」
「それは頼もしいな」
「「だから、早急にこの腐った茶番(ドラマ)を終わらせよう」」
終わらせるのだ。早急に。先があるとしても、この茶番を仕立て上げた人物を速く捕まえる事に、問題があるはずない。
まだ、本当の陳腐な茶番(ドラマ)は始まっていないとは知らずに。
だが、一人隅っこにいる仲間はずれが確かに居た。
「うん、私また空気と化してるよねー。
酷いよねー。もういっそ最初から喋れないキャラにすればよかったかなー。
そうすれば身振り手振りだけになって、空気と化してもおかしくないのになー。
扱い酷いよねー、何処かの誰かさん」
しかし、その言葉にエイタは一切気にした様子がなかった。
side Lycoris
だが、決意を固める二人を見つめる女が一人。カゲミの予想通り、その居場所はエイタ達の見える位置ではない。
それよりもずっと遠く、誰であろうと関知できないと自負できる距離から見つめていた。
「バカね、コイツら」
独り言は勿論エイタ達の事だ。理由は簡単。倒れている人間達に仕込んだ花によって、その行動が観察されている点に他ならない。
カゲミ達が破壊したのは、言わば仕込んだ『種』の防衛機能。そう、今だ調査に適した能力の方は残っているのだ。
そして、その事を警戒せずに作戦会議をしている事もバカにする理由には含まれている。
三流なのはどっちだ。以前、私をバカにしたお前達は何なのか今分かった。
そう、お前達はただの三流でしかない。その点私は一流。私はお前達と比べることすら出来ないレベルなのだ。
次々とエイタは、見られている事など気にすることなく喋り続けた。
「一日準備が要る。その間、俺達の部屋で待機してもらう事になるが、安心しろ敵のレベルでは外から中に入る事が出来ない。
それにもう香織についている『種』はもう機能していない。だから、絶対的に操られる事はない。絶対にだ」
そして影の花の使い手はこの発言にも嘲笑する。
本物のバカだ、コイツは。
そう香織の『種』は機能を停止している。しかし、もう一つの仕込が残っているのだ。
香織の時の方が、多くの介入できた理由。種、花ときたら、それを形容するに『肥料』と言うべきものだろうか。
要はそれが香織の時の花が基礎スペックよりも高かった理由であり、多く介入できた理由でもある。
そして、『肥料』もう一つの機能。『種』の修復機能がある。そして、その事実はまだ知られた様子はない。
なぜなら、念を押せるほど操られる事を絶対ないと言い切っているからだ。
あとがき 3/13
自分で言うのもなんだけど、今回の話の出来は結構酷いかなーと思っています。
まあ、全体的に自分のレベルはまだまだ低いんですけどね。
もう少し、いい理由付けと自然な形で香織を協力させるようにしたかったのに、なんか、いまひとつ納得できないような感じです。
とりあえず書く所で一番苦労しそうな部分はクリアできたので一章は無事完結できそうな感じです。