[Sona-Nyl previewstory 01]
「落下」
──落ちていく
落ちていく
落ちていく
落ちていく
目を覚ますと……
ううん、違う。そうじゃない
ほんの少し前に気付いたら、こうだった
落ちていく
落ちていく
あたしの始まりそのものがそういうことだ
ほら、見たまま、感じたまま
落ちていく
あたしは落ちてる最中だった
ここはどこ?
これはなに?
わからない、何もわからないけれど
ただ、ただ、落ちていく
どこまでも続く深い深い穴の中を落ちていく
周囲を埋め尽くすのは本。本。本
無数の記録のかたち
それとも、記憶のそれ?
落ちる
ああ、どんどん、落ちていく
落下
重力
ニュートン卿
あ
碩学さまを卿って呼ぶのは……
19世紀以降の慣習だから
ニュートンさんはそう呼ばないんだっけ?
19世紀
カダスの発見
碩学
蒸気機関に機関工学
……なんだっけ。それ?
カダス?
なに、きれいな名前。何それ?
聞いたことがあるような気はする
思い出せない
思い出せない
まあいいや、いいよね。ね
いいんだ
あたしは
違う
違う
違う
ぼく、僕は、落ちていく
落ちていく
落ちていく
誰が、落ちていくの?
「だれ、が……」
「おちる……?」
誰かが、言った
女の子の声で
それは、僕の唇から出ていた、あたしの声──
※プレビューストーリー次回更新は8/9を予定しております。
※更新しますと今回の内容は閲覧できなくなります。