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[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz(リリカルなのは×ARMORED CORE系 チラシの裏から)
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2010/08/05 20:53
報告:2010/08/05 20:52 海鳴編八話を修正しました。



           このSSを読むに当たっての諸注意



このSSはAC4のベルリオーズが、リリカルなのはの世界で大暴れする物です。

たまにベルリオーズがナニカサレタヨウダ状態(つまり、キャラクター崩壊と言う事、スミカ(ry)になるかもしれません。

また物語の進行上、数名ACシリーズからの参入者が出てきたりしますのでご容赦下さい。

パーツなどの設定は、AC4系のレギュレーションや新パーツ等を導入する流れになり、ベルリオーズも新パーツに関しては試作段階品等を、アクアビット経由で知っている物とします。

後ネクスト機が作者の趣味により大変な事になっています。

以上の事が受け入れられない方は、ウィンドウを閉じるかブラウザバックか、VOBで作戦区域を離脱してください。



[5932] 用語解説
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/07/22 15:44
・シュープリス

名前の通りベルリオーズの元搭乗機。

ベルリオーズと共に転移する際、融合型デバイスへ変化して彼と行動を共にする。

外見は20代前後の女性であり、ポニーテールに纏めた黒く長い髪と、黄色の瞳が特徴である。

デバイスコアはベルリオーズの首についているAMS接続プラグで、文字通り一心同体となっている。



・対魔力防御幕(略称:MPA)

戦闘時のベルリオーズの周囲で常に展開されており、PAの様な特性を持つ防御フィールド。

魔力攻撃に対して絶大な防御効果を発揮し、なのはのディバインバスタークラスの砲撃、或いはベルカの騎士が使うアームドデバイスでなければ、これを突破する事は難しい。

またこれとは別に、従来の魔導師が使う防御魔法も展開される。



・アーマードジャケット(略称:AJ)

次世代型バリアジャケットとも呼ばれ、通常のBJの上に装甲状のパーツを身体の各部に被せ、ネクスト同様の場所にARMSシリーズを装備し、状況に応じて武装を変更する事が出来る。



・ARMSシリーズ

ベルリオーズが使う武装バリエーションの総称である。

ベルリオーズが手や背中に装備しているこれは、はやてが使用する非人格型アームドデバイス「シュベルトクロイツ」と同様の物で、シュープリスはこれを最大五箇所(両手、両背部、肩部)に装備する事ができる。

必要とあれば戦闘中に武装を変更する事も可能で、シュープリス内部にあるデータバンクから引き出され、搭載されるハードポイントに発現されるが、術者にかなりの負担を掛けるのが弱み。

現在(海鳴編)では、ACfAに出てくるパーツの殆どが完成しており、メイとリリウムがそのテストを行っている。



・射撃魔法阻害用魔力球

ベルリオーズの肩に装備されている051ANAMから、任意に射出される所謂ハードキル型の防御魔法。

射出された魔力球に射撃魔法が一定の範囲に接近すると、無数の魔力弾に分裂して射撃魔法を阻害する。

通常の魔力弾には有効だが、ヴァリアブルシュートの様な多重弾殻魔力弾や、ベルリオーズ達ネクスト組が使う特殊な魔力弾、そして術者に対しては嫌がらせ程度の効果しかない。



・ムーンライト
アンジェが使用している近接特化型ストレージデバイスであり、待機モードではアクセサリ状にして首から下げ、戦闘時には両腕に装備する。

上記の対魔力防御幕や通常防御魔法を貫通、高い防御力を持つベルリオーズのAJに傷を付けるなどその威力が窺える。

ネクスト用の物とは違い、これは常に刀身を発生させている。

魔力攻撃にもかかわらず、MPAを抜いてシュープリスのAJを破砕したのは、流石はシリーズ通しての伝統パーツと言ったところか。



[5932] 参入者解説
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/05/22 21:13
参入者解説

ベルリオーズ・レイレナード

国家解体戦争で圧倒的な戦果をあげた、レイレナードの英雄。
きわめて優秀な軍人であり、合理主義者。
その実力により、特例として他社パーツの使用が認められている。

リンクス戦争終期のピースシティエリアに於ける複数のネクスト同士の戦いにて、アナトリアの傭兵に撃墜され、P・ダムのコジマライフルの暴走のコジマ爆発を受け、アースラ艦内の転送装置でアースラ乗員によって救助された。

と言う設定。

名字は元所属していた企業、レイレナードから来ている。

愛機であるシュープリスは後に説明する事にする。

仇名は『断頭台』

魔力光の色はファイアレッド




アンジェ・レイレナード

近接戦闘型の機体を駆る女性オリジナル。
圧倒的な威力を誇る専用のレーザーブレードを使用し、国家解体戦争では最も多くの有力レイヴンを撃破している。

ベルリオーズとは違い、彼女はGA社が保有するハーゼン工場内で、アナトリアの傭兵と対決した後撃墜され、レイレナード社がアンジェの愛機であるオルレアのジェネレータを暴走させ、コジマ爆発させた際に管理局本局内に飛ばされたという設定。

そのおりに機体は大破しており、シュープリスの様にオルレアは付いてきていないが、その武装である07-MOONLIGHTレーザーブレードが、ストレージデバイスとして転移している。

新暦63年に融合型デバイスとして復活したオルレアを受領、通常の魔導師では手が付けられなくなった。

仇名は『月光の剣姫』

魔力光の色は蒼白




シュープリス

ベルリオーズの愛機、機体の構成は悪くないのだが、『内装系だけは勘弁して!』と企業のトップから言われたからか、エネルギー消費と動力の選択ミスでその長所が殺されている。

だがその突進力は尋常ではなく、初見ではその突進力に翻弄される。

ベルリオーズと共にリリカル世界に転移し、転移の影響で黒髪と黄色の瞳を持った女性へと変貌した(つまり、擬人化と言う事、スミカ・ユーティ(ry)。

デバイスコアはベルリオーズの首にあるAMSプラグとなっている。

そのデータバンクには、ベルリオーズがアクアビット社員を経由して、手に入れた各企業の試作ネクストパーツ等のデータが納められており、それを元に武装バリエーションであるARMSシリーズを製作している。

魔力光の色は山吹色




エネ

出演はARMORED CORE 2。
火星のレイヴンであり、アリーナランクは45であるが、使用する機体『ピースフルウィッシュ』は、操縦技術さえあればランク1・アレスすら屠れる。

余談ではあるがAC界では珍しく、エロ同人誌に出演している。俺エネでグーグル先生に聞いてみよう。
そしてその同人誌は作者も探しているが見つからない……、誰か中古でも良いから譲ってくれ。

戦災孤児であり、孤児同士でコミュニティを作っていたが、戦線の拡大により散り散りとなった所で、『孤児院』の職員に『保護』され、危うく接続実験を行われそうになるが直前に謎の2人組みに救出される。

新暦61年に訓練校に2年コースでメイ達と共に入校、新暦63に卒業後試作型の銃型デバイス『ピースフルウィッシュ』を受領し、本格的に魔導師としての人生を歩み始めた。

魔力光は藍白



メイ・グリーンフィールド

AC4の続編と成るACfAから参入。

ゲーム中に使用する機体『メリーゲート(そのエンブレムからスマイリーと呼ばれる事もある)』は、重装甲が売りのGA製の中量フレームに、バズーカ、大容量ライフル、大容量垂直ミサイル、追加レーダー、大容量連動ミサイルを装備した火力支援仕様。

彼女と最初に協同した後の台詞は色々と掻き立てられる(いや、本当に色々と……)。

中流家系の出生であるが両親が事故に会って他界し、そこに『孤児院』の職員に『保護』される。

エネの前に接続実験をされたが適性が有った為、無事に終えた後、エネと後述のリリウムと共に救出される。

姉貴分であるエネ、妹分のリリウムと共に訓練校に入り無事に訓練課程を修了後、融合型デバイスの『メリーゲート』を受領した。

魔力光は深緑



リリウム・ウォルコット

メイと同様にACfAから参入。

名門生まれ、丁寧な口調、聞くもの魅了する美声、その三拍子で多くのACファンを虜にした。

使用する機体『アンビエント』は、BFF製新標準フレーム063ANシリーズに、同社の最新鋭の武装と電子機器を装備された中距離戦仕様。

右腕に装備された通称リリウムレーザーと呼ばれるEN兵装は、弾速が早い上に威力、PA貫通力が共に高く、気が付いたらAPがかなり削られている事もある。
だがその反面、右背部に装備されている追尾型ミサイルの弾速は、出てくるミサイルの中で最も遅く、撹乱用に使うには苦しい上に高負荷、こんな物を扱うリリウムが可哀想だ。

ついでに言うとリリウムを教育し、ORCAルートで見捨てた王小龍は、古参・新参のACファンから目の敵にされている(かく言う作者もその一人)。

名門ウォルコット家出身と言う事は変わりないが、祖父の他界による遺産相続のゴタゴタに巻き込まれて両親を失い、その策謀者により『孤児院』に入れられ、接続実験に参加するが生き残り、その後先の二人と同様に救出される。

上記の二名と共に訓練課程を修了、融合型デバイス『アンビエント』を受領した。

なお、受領した年である新暦63年と、フレームパーツの型番が一致したのは、作者でも驚いた全くの偶然である事を付け加えておく。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 プロローグ
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/19 19:39
                プロローグ
                断頭台降臨

―旧ピースシティ、そこが私の最後の戦場だった。
 
今まで時代遅れ等と呼ばれていたあの元レイヴンが、段々リンクスとしての頭角を現し始め、企業もその評価を改めざるを得なかった。
 
実質上リンクス戦争を引き起こし、BFFを事実上壊滅状態に追い込んだ時には、伝説の再来だと言われ始めた。
 
そしてリンクス戦争で事実上の最終局面、あの戦場で私とザンニ、アンシール、そしてP・ダムの4機を擁するレイレナード陣営、対するGA陣営はレオハルトとミド・アウリエル、アンズーの3機で、GAのネクストは全く出てこなかった。
 
本社の守りを固める為に出さなかったのだろうが、せめて1機でも出し、あの元レイヴンと共闘すれば、勝利は確実な物だっただろう。
 
戦闘を開始して最初に沈んだのは、GA陣営のアンズーだった。
 
こちらの方が数的に上であり、私がレオハルトを、ザンニがミドを相手にし、アンシールとP・ダムがアンズーに、攻撃を加えた結果だ。
 
アンズーの方がランクは上だったのだが、それでもネクスト2機を同時に相手にする技量は無く、開始から1分前後でアンズーは堕ちた。
 
そこで現れたのがあの元レイヴンだった。
 
私はアンズーを仕留めたばかりのアンシールとP・ダムを彼に差し向けた。
 
だが彼の戦闘能力は桁違いだった。
 
噂以上だったとも言える。
 
彼は手負いだったとは言え、アンシールとP・ダムの二人を、アンズーが撃破されるまでの時間で撃破して見せた。
 
次に狙われたのはミドを落としたザンニだった。
 
AMS適正的にほぼ同等の相手だったが為に、彼は当初の予想以上に被害が深刻で、私がレオハルトを落とした時には、呆気なく止めを刺されていた。
 
私との戦闘でも彼は、私の予想等まるで嘲笑うかのように、接近し、その手に持つ対ネクスト用ライフルで私を撃ち、ブレードで切り刻み、背中のミサイルで追い立てた。
 
その時私は、何故彼が伝説とまで呼ばれたのかやっと理解した。
 
何者でも追随を許さないその機動、闘争本能に順ずるかのような鋭く的確な攻撃、彼こそリンクスの名に相応しい存在だったのだ。
 
そして私に止めを刺す為、彼がブレードを振るった。

「ゴフ……」
 
薄れ行く意識の中、奇跡的に生き残ったメインカメラから脳へ送られてくる映像で、アナトリアの傭兵が地平線の向こうへ去っていくのが見えた。

「アナトリアの傭兵……出来れば、別の形で会いたかった……」
 
ふと私の横で何かが光った。
 
それはP・ダムの搭乗機、ヒラリエンスの腕部一体型コジマライフルのチャージによる物だった。
 
チャージ中に倒された挙句、安全装置が働かずにジェネレーターがまだ稼動状態と同時に、ご丁寧にコジマライフルの安全装置が外れているらしい。
 
このままチャージされ続ければ、大規模コジマ爆発でヒラリエンスを中心に1㎞は灰塵に帰すだろう。

「私の最後がこれとは、実に私らしい……。そう思うだろう?アンジェ……」
 
そして、コジマライフルにチャージされ続けたコジマ粒子が限界に達したのは、私がその台詞を吐いて直ぐだった……―



……が。

「ここは何処だ……」

何故か私は生きていた。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第一話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/19 19:39
                 第一話
                山猫の転移

状況を、説明させて欲しい。
 
私は旧ピースシティで元レイヴンに戦闘不能状態にされ、その後ヒラリエンスのコジマライフルが暴走してコジマ爆発が起き、その爆発に巻き込まれた筈だった。
 
だが目を覚まし私の眼に映ったのは、恐らく鋼材で出来た白い天井と蛍光灯を縦に並べた照明装置、そして心電図と腕に指された点滴……。
 
それらを確認していると不意に私が居る部屋のドアが開き、そこから二人の女性が現れた。

「ではあなたの氏名、年齢、出身世界と出来れば所属組織を言って下さい」

「ベルリオーズ、歳は恐らく23になる。出身は地球の旧フランス地区、所属はレイレナード社だが、今は恐らく壊滅しているだろう」
 
目の前に居るエメラルドグリーンの髪を後ろで束ねた女性、先程言った二人組みの片割れの問いかけに私はベッドから半身を起こして答える。
 
正直に答えても――もちろん所々に嘘を交えている――この身は既に死人、何ら支障は無いだろう。
 
自己紹介は既に済ませてある。彼女の名はリンディ・ハラオウン、そして傍らに居るのはエイミィ・リミエッタと言うらしい。
 
偽名かどうか疑わしかったが、彼女の態度から察するにその可能性は薄いと判断した。
 
そして私が今居るのは次元巡航艦アースラと言う船の病室で、私はこの船の転送装置と言う場所で倒れていたそうだ。
 
正直次元空間やら転送装置やらとSFな名称が出てきたが、それらの情報は後で聞きながら整理した方が良いだろう。

「ベルリオーズというのは本名かしら?」

「本名と言うよりも、芸名やネット上掲示板の固定HNと言った意味合いが強い。それに本名はとっくの昔に捨てた」

「そう……」

私が答えると彼女は暗い表情をしたが、直ぐに体勢を立て直した。
 
私の様な人物を相手にするのに慣れているようだ。

「あなたが眠っている間に色々と体を検査させて貰ったけれど、あなたのリンカーコアって随分と特殊ね」

「リンカーコア?」

「魔法を扱うに当たって必要な身体機関の事よ。これがあれば、大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積する事と、体内の魔力を外部に放出する事が出来ます。そして何よりも魔力資質に大きな影響があるわ」
 
リンディはそう言うと、私の目の前に立体画像を投影した。

「あなたの平均魔力発揮値は凡そ86万、これは平均より少し大きい数値なのですが注目すべきは魔力回復力の方で、使い切っても大体30秒前後で全回復するという、途轍もない結果が出ました」
 
リンディの言葉に後ろの少女が、かなり困惑した表情を浮かべているのが見えた。
 
その反応からして事前に報せていなかったのだろう。

「つまり、その魔力と言う事に関しては疲れ知らずと思って構わないのだな?」

「ええ、実質上永久機関みたいな物ですし、そう考えて頂いても構いません」

(なるほど……)
 
だが……。

「それで、私の体を調べてみて分かった事がもう一つある筈だ。例えばこの首の横に付いているAMS接続プラグの事だが」
 
何処か避けている雰囲気があったのでこちらから切り出すと、彼女達は苦虫を噛み潰したような表情をした。

「大方、私がどこかの組織の実験体にされていたのだろうと踏んでいるのだろう。だがそれは見当違いだ。私は望んでこの力、AMS適性と言う特異技能を使う手段を欲した」
 
そこからつらつらと私は吐露する。

私が行ってきた世界規模の企業クーデターと、その後に起こったリンクス戦争の中で死ぬまでの軌跡……。



「……」

私が話し終えると彼女達は言葉を失った。

当たり前だ。

国家解体戦争。

30機足らずの最新鋭機動兵器――こちらでは質量兵器というらしいが――により、僅か一ヶ月で世界中に存在する全ての国家を解体する。

それは神にも等しい力であると同時に、悪魔の力でもある。

「あの状況では、何時大規模で無秩序な反乱が起こっても可笑しくは無かった。それに先手を打ったのが、私が所属していた企業を含む計6グループによる企業体だ」

その後の統治と言う名の奴隷社会にも似た歪んだ物だったが、それでも国家が管理していた時よりもテロ活動は少なかった。

「とりあえずあなたが来た時の状況は分かりました。それでこれからの事なのですが、あなたはどうなされますか?こちらとしては管理局にあなたを引き入れたいと思うのですが……」

これが本題なのだろう。

どうやらリンディ・ハラオウンと言う人物は、私の予想よりもかなり柔軟性の有る思考の持ち主のようだ。

イレギュラー要素をうまく使えば良い結果が生まれると言うのを、彼女は知っているのだろう。

現に各企業は自社戦力を温存し、イレギュラーリンクスであるアナトリアの傭兵を使ってテロリスト――一部オーメルに雇われた者も居たが――を駆逐していた。



「さっきも言った通り、私は元居た世界とは別の世界へ来てしまったからな。働き口を斡旋してくれるのならそれに越した事はない。だが生憎と私は部隊運営などした事が無いが良いのか?」

「うーん、その辺りの問題は多分無いと思うけれど、正直に言うと私の船で一人軍隊として働いて欲しいのよね。豊富な実戦経験を持った未登録の魔導師候補者なんてそんなに居ないし、実戦経験を生かして戦えば魔導師ランクでは間違いなく、AAAランクかオーバーSランクの上級ランク保持者になるわ」

「だがそれも適した装備と模擬戦をしなければ分からないだろう?生憎俺にはその様な魔法知識など無い……っ!?」

「ど、どうしたの!?」

不意にAMSプラグの辺りから痛みが走り出し、私は体を折り曲げ、首筋に両手を当てながらもがき苦しむ。

(AMSプラグの拒絶反応!?いや、今まで何起きなかったのに今更過ぎる!それにこの感覚……!)

「エイミィ!直ぐに医務官を呼んで!」

「は、はい!」

懐かしい感覚で気を失いかけながら、彼女達の慌てている様子が私の耳に入ってくる。

「そ……それには及ばん!」

(彼女達は心配しているようだが、これは逆に私にとって懐かしい記憶だ!)

これは、私が初めてAMSを接続した時の痛み、そして次々と流れ込んでくるチェック項目と機体環境情報の項目リスト。

「シュープリス!」

自然と私の口から出てきた愛機の名前。

それと同時に私が寝ているベッドの前に、エメラルドグリーンに輝く直径2mほどの球体が発現した。

「こ、これは」

リンディの動揺した声と共に、ガラスが破砕したような音を立てながら球体が粉々に崩壊し……た?

「シュープリス、全項目チェック完了。通常モードで起動しました」

そこには何処かで見たようなフォルムを持つ黒い鎧を来た女性が立っていた。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第二話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/19 19:40
                 第二話
                 愛機


〈Side ベルリオーズ〉

状況を、説明させて欲しい。

私は別世界の戦闘艦に保護され、治療を施して貰った。

そして尋問を受けている最中に突然、初期接続時の最適化による痛みを訴え、自然と出てきた愛機の名前を叫び現れたのは……。

「シュープ……リス?」

「はい、マスター」

私が彼女……黒く長い髪を後頭部で束ねた女性を愛機の名前で呼ぶと、それが当然とでも言うように返事を返した。

身体の所々にアリーヤフレームを思わせるアーマーを装着し、両手にはBFF製ノーマルライフルとマーヴアサルトライフル、そして極め付けに右背部に搭載されたグレネードランチャー、肩部に装備したフレアディスペンサー、確かにあの装備は私の愛機であるシュープリスそのものだ。

「本当にシュープリス……私のネクストなのか?」

「確かに私の名称はシュープリスですが、機体概念はネクストACとは全く違う様です。その事実確認と自己チェックを行っていた為に、参上するのが少々遅れてしまった事をお詫び致します」

彼女、シュープリスは淡々とした口調で私の問いに答え、恭しく片膝を床に付けて謝罪した。

「えっと、貴女が彼、ベルリオーズさんのデバイスなのかしら?」

「はい、シュープリスと申します。デバイスの分類としては融合型デバイスに区分されると思われます」

「っ、融合型デバイス……」

シュープリスの、恐らく機体形式の辺りでリンディは顔をしかめた。

何かしらの因縁があるのだろう。

「この世界で再構成された際に埋め込まれた知識データの中から、最も私の存在に適した表現を暫定的に申しましたので、詳しく検索すれば違うのかもしれません。ですが、機能面でもそれに該当する部類が多く含まれていますので、そう区別させて頂きます」

「例えば?」

「搭乗者……こちらでは使用者でしたか。使用者が私と融合し、使用者が戦闘行動を行い、私がそのサポートをすると言った具合です」

「確かに、その特徴は融合型デバイスと全く同じね」



〈Side リンディ〉

(確かに、それは資料で見た闇の書とほぼ同じ仕様、でも彼女自体はあれとは全く違うみたいね)

融合型デバイスは、インテリジェントデバイスを極端化したものであり、姿と意志を与えられたデバイスが、状況に合わせて術者と融合して魔力の管制・補助を行う。

この形式では、他の形式のデバイスを遥かに凌駕する感応速度や魔力量を得ることができる。

私は夫の仇であるあの闇の書と、目の前に居るシュープリスさんとを重ね合わせた。

闇の書と同じ形式のデバイスである事に、危機感を覚えていないと言ってしまえば嘘になるけれど、少なくとも彼女の雰囲気に危険が含まれている様子は見られない。

「じゃあ、あなたのデバイスコアはどう言う物なのかしら?」

「はい、私のデバイスコアはマスターのAMSプラグです」

「「なんですって!?/え!?」」

話の腰を折るのは失礼な事だけど、私とエイミィは声を出して驚いた。

声を出していないけどマスターであるベルリオーズさんも、今知ったみたいで驚いているみたい……。

「……まあ、常時AMS接続していると考えれば納得できるな。つまり何時もの事か」

あ、あれ?

「べ、ベルリオーズさんは驚かないのですか!?」

「別に驚いていないが?愛機と接続して戦う事は何時もの事だ。本当に今までと変わらない……ああ、魔法による戦闘技術と今までの戦闘技術とでは全く違うか」

「いえ、光学兵器と同様で精密な弾道計算の必要性が無くなり、距離を開ける事による威力の減衰が無い為、以前よりも戦い易い筈です。それにある程度は私が補助しますので、マスターはより戦闘に専念出来ます」

「なら今まで通りで良いな」

こ、この人達は何でこうも冷静に居られるのかしら……。

「何事も合理的で柔軟性のある理解力が求められる。経験主義も良いが、それではそのうち頭打ちになるぞ?」

「人の心を読まないで下さい!」

「読心術は交渉事の基本だ」

……。

「あわわ!艦長、大丈夫ですか!?」



〈Side ベルリオーズ〉

リンディの思考がフリーズしてしまったな……少々遊びすぎたか?

とりあえず彼女の事は置いておこう、意識は何処かへ行っているようだが聞く耳くらいは立てられるだろう。

「それでシュープリス、オプションとしては何がある?」

「はい、マスター。オプションはPAの原理を応用した対魔力防御幕の生成と、データバンクからマスターが必要とする武装の発現です」

「デッドウェイトと内装、ブースタ関連はどうだ?」

「マスターが体力的、或いは精神的に限界を迎えない限り起きません。ブースタも消費アリーヤ系ブースタと変わりありません」

シュープリスはそう答えると私の魔力回復量(元々の魔力回復量から総合消費魔力量を引いた値)を表わす赤いグラフと、ブースタ噴射時の消費エネルギーを表わす黄色いグラフを出した。

「なるほど」

どうやら容量が多い分空中機動もそれなりに出来るようだ。

「武装関連は全てネクスト時代に保存したままなのだな?」

「はい」

とりあえずシュープリスの稼動に関しては問題無いな。内装も私のコンディション次第なのだから健康面に気を付ければ良い。武装も変え放題だ。

「あとは……」

呟きながらリンディに目線を向ける。

どの道働き口も斡旋して貰わなければならないのだ

「……コホン!そのAMSプラグでしたっけ?それはベルリオーズさんの脊髄と完全に融合していますし、封印処理も考えましたがそれによって、ベルリオーズさんに何か影響がある事も考えられます。
 ですからベルリオーズさんがシュープリスさんを使っても構いません」

意識が戻っていた彼女は気まずそうに咳払いをすると、期待以上の答えが返ってきた。

「貴女の理解力に感謝する。リンディ提督」

「感謝します」

とりあえず私が引き続きシュープリスを扱う事が出来るようになり、まずは腕試しとして体調を整えデバイスの調整を終えた時に、私と同じような境遇で入局した者と当たる事になった。

明日か明後日にはその相手がこの病室に来るらしく、私はその相手がどの様な者なのか楽しみにしていた。



作者の戯言

どうも魔法少女リリカルなのは With Berliozを書かせて頂いているコーラルスターです。

どうにかなのは世界に於ける導入編は終了し、次からは本格的にベルリオーズが魔法に関しての知識を取り入れて、戦闘準備に勤しんで行きます。

元々合理的で柔軟性のある思考の持ち主であるベルリオーズにとっては、魔法=自らが戦う為の知識と言う認識しかないと思われ、どんどん驚異的な魔導師になる予定です。

とりあえずは単語集と参入者に関する項目を作ろうかと思います。

では次回にまたお会い致しましょう。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第三話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/20 08:44
                  第三話
                  再開



〈Side ベルリオーズ〉

―ピピピッピ―

状況を説明させて貰おう。

少々姿形が変わったシュープリスとの再会から二日が経ち、私は収容されていたアースラの治療室から本局の病室へと移り、シュープリスに武装とアーマーフレームを解除して待機させた後、病室に投影されたキーボードを叩いている。

医務官からは明日まで安静にしてくれと言われたが、シュープリスのデータバンクの整理と、私が戦闘時に着るバリアジャケットのデザイン、魔法知識を覚えるくらいなら構わないだろう。

「ふむ……」

それも一段落が付き、私はシュープリスが淹れたコーヒーが入ったカップを手に取り、香りを楽しんだ後口に含み味を楽しむ。

あの世界でこの品質のコーヒーは高級品だったが、この世界ではかなり安く手に入り、仕事が決まり収入が出ればこの品質が毎日楽しめるのかと思うと、気分が高揚する。

それにしても……。

「何時コーヒーの淹れ方など覚えた?」

「マスターが以前ミッション開始までの暇つぶしにと、私のデータバンクに『美味しくコーヒーを淹れる方法』と言う、書物データを入れていたのでそれを元に淹れました」

……そう言えばその様な事もしていた気がする。だが入れたのは良いが、結局読む機会が無くなりそのまま忘れていたのだ。

戦闘機械であるネクストのデータバンクに、一体何をしているのだ私は……まあ、他のリンクスも音楽データや娯楽映像データを入れていたので、余り気にしない事にするか。

「いや、上手な淹れ方だと思ってな」

「有難う御座います」

シュープリスは僅かに頭を下げて答えた。

彼女はどうも戦士というよりも、騎士や従者と言った雰囲気を醸し出しており、動作する度に私への忠誠を表わすかのような雰囲気が出ている。

ネクストはリンクスが思考した動作を、AMSを介してIRSが読み取りフレームを動かす。

それは主人からの命令をこなす従者と同じような関係だ。

なるほど、そう考えればシュープリスの私に対する今までの態度は説明が付く。

「新暦61年か……」

不意に年号と年数を口走り、それによって自分がどれ程遠い所へ来てしまったのかが分かる。

昨日リンディ提督からこの世界に於ける基本年号と年数、出来事などを時事知識の取得と言う理由で聞かせて貰ったのだ。

シュープリスが自らの事を話した際に、少々不穏な雰囲気を発していた事について聞いたのが事の始まりで、7年前に闇の書事件と言う大きな事件があったらしく、彼女も同じく局員である夫をその時に亡くし、彼女の息子はその敵を討つ為に訓練したいと言い出し、上司と使い魔に預けて訓練をさせていると聞いている。

私も幼少時代にテロで両親を失い、その時自らの無力さを感じたので彼女の息子の考えは理解できる。

私は彼女にその息子は使い物になるのか?と聞いた所、大半の訓練は終わっており今年には入局すると答えた。

息子の名前はクロノと言い、その師匠である上官の使い魔からの評価では、「覚えが悪いが、一度覚えた事は絶対に忘れない」と言う物らしい、所謂秀才タイプなのだろう。

リンディ提督からはそれ以降にも息子の性格や趣味なども聞かされ、それが終わったのは6時間後だった。

「お陰で有意義な時間になったが……?」

不意に入り口の前で人が立ち止まった気配が伝わって来た。

念の為に警戒したが、病室の入り口が開いて来訪者を視界に捉えるとそれは杞憂に終わった。

「こんにちはベルリオーズさん、シュープリスさんも」

「こんにちは……、実際に会ったのはこれが初めてだから初めましてかしら?ベルリオーズ・レイレナードさん、シュープリスさん」

入室してきたのはリンディ提督と、彼女の友人兼同僚のレティ・ロウラン提督だった。

彼女は昨日の内に画面越しで紹介され、この若さで管理局本局の運用部――兵站を扱う部署だと聞いた――を取り仕切っている立場から、相当腕が立つと私は予測した。

ちなみにレティ提督が、私のリンクスネームの後にレイレナードと呼んだのは、登録する際とこれから私が使う為の苗字だそうだ。

安直だが語呂も良く、私自身も気に入っているのだが、レティ提督は妙に言い慣れている様に感じる。

「しかし、リンディも良い拾い物をしたみたいね。魔導師としての実力は未知数だけど、リンカーコアの資質だけ見ても十分にオーバーSランクは確実だし、質量兵器だけど十分な実戦経験がある魔導師候補なんて羨ましいわ」

「だが、それも魔法を上手く扱えなければ宝の持ち腐れだ。その為にも出来る限り知識を知り、その利用価値を読み取って応用しなければ」

「ベルリオーズさんは随分と勉強熱心なのですね」

「優秀な戦士になるには、常に自己の知識と身体の鍛錬を絶やさないのが肝要だ。それでも先天的に天才的な闘争本能を持つイレギュラーには、歯が立たなかったが……」

そう言いながら私は、私を倒した元レイヴンの機体を思い浮かべた。

あれは戦士としては既に完成されていた。そうでなければ低いAMS適合者が使う武器一体型腕部ではなく、通常の腕部を使用する事は叶わない。

「それよりも私が考案したこの魔法概念を見て欲しい。どう思う?」

確かに私が考案した魔法概念は独創的だ。

攻撃系は魔力素を僅かに操作して硬質外殻を施した魔力弾を、装備した武装でそのまま射出すると言った物であり、使用するには元はマガジンとして機能していた箇所に魔力をチャージし、そこから一定量取り出しながら射出するのだ。

その性質上威力はかなり安定するのだが、威力軽減は出来ても威力上昇は見込めない上、武装の種類毎にリロードタイムがまちまちであるが、一定量打ち尽くす、或いは一定時間使用しないと、マガジンに魔力の再チャージを行う仕様なので、実質私が倒れない限り攻撃が止まないと言う、相手には悪夢以外の何者でもない状況が発生する。

防御系はシュープリスが対魔力防護幕を展開し、相手からの魔力攻撃に対処する。

これは魔力攻撃の威力を減衰する物であり、仕様は魔法攻撃に対しては高い防御効果を発揮するが、魔法系でも貫通特性のある物や物理攻撃には弱いと言う弱点を持ち、PAと変わりないのだが、これはミッドチルダ式の防御魔法を使用すれば十分にカバー出来る。

唯一PAと違うのは魔力粒子が高濃度で滞留しても、防御幕の減衰が起きずに強化される点だ。

「単独戦闘で負ける事は無いが、それも私が使いこなせてこその物だ。明日にはこの入院生活も解けると言われたので、その時にシュープリスの機動テストを行い、その結果次第ではこの考案は破棄する事になる」

「でも本局の検査結果では、あなたは間違いなく高ランク魔導師になる資質があるわ。余り心配しなくても良いと思うけど……」

「いや、常に最悪の状況を考慮するのが私の持論だ。その為にも打てる手段は打っておきたい」



〈Side レティ〉

ベルリオーズ氏の性格は、リンディから聞いた通りのものだった。

現状に慢心せず、常に周りから知識を取り入れて応用して自らの糧とするその姿勢は、正しく彼と言う存在を体現している。

それだけでも頭の固い上層部の老人達や、最近の新人局員達にも見習わせたくなる程、果ての無い向上心が伺える。

「さて、今回の訪問はただ会いに来ただけでは無いのだろう?」

「ええ、今日はあなたの模擬戦相手を連れて来たわ。入ってきて」

彼がそう言うと、リンディはドアの前で待たせている『彼女』を呼んだ。

「それでは失礼する」

無愛想と形容した方が良いだろうか、返事が返って来るとドアが開き、彼女が入室してくる。

「お前は……」

ベルリオーズ氏が驚いたような表情をしている。彼でもこのような顔をする事も有るのかと、私は思った。

「久しぶり……いや、お前の主観時間だと1週間ぶりと言った所か」

黒い髪を肩口で切り揃え、黒い瞳を持った女性、アンジェ・レイレナードは彼にそう言い放った。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第四話前編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/22 01:13
                第四話(前編)
             合理主義者と戦闘狂 1―1





〈Sideベルリオーズ〉

「久しぶり……いや、お前の主観時間だと1週間ぶりと言った所か」

失礼だが、今回は状況を説明する暇が無いので割愛させて貰う。

「アン……ジェ……何故、何故お前がここに居る?」

私は何とか平静を保ちながらアンジェに言葉を返す。

先程コーヒーを飲んだばかりだと言うのに息が詰まる。

リンディ提督に呼ばれ入って来た模擬戦の相手は、オルレアの機能停止を確認したレイレナードのネクスト管理部が、GAの工場ごとコジマ爆発による自爆させ、遺体も残らず死んだ筈のアンジェだった。

「私も驚いているよ。GAの工場で死んだと思ったら教会の前で、これと一緒に倒れて居たのだ」

そう言ってアンジェが掲げたのは、彼女専用に組まれたレーザーブレード、ムーンライトと同じ形状をしたアクセサリだった。

恐らくはあれが彼女のデバイスなのだろう。

「彼女は貴方が来る半年前に、聖王教会の正門で倒れていた所を信者の方が見つけて、保護された際に教会からスカウトを受けたのだけど……」

「聖職者など私の性に似合わないからな。特別に、管理局の遊撃チームとして働かせて貰っている」

「なるほど……ん?」

そこで私はある事に気が付いた。

「オルレアはどうした?」

「どうなのだろうな。私と一緒に来たのはこのムーンライト、こっちではストレージデバイスと分類されるこれだけだ。
 そこに居るのは女性がお前の搭乗機、シュープリスだとレティ提督から聞いているが、お前はどう言う状況こっちに来たのだ?」

「私はP・ダムの搭乗機、ヒラリエンスのコジマライフルの臨界爆発に巻き込まれ、シュープリスと共にこの世界に来た」

「では恐らく、私達がこちらに来た時の状況で一緒に来る物が決まるのだろう。私の場合は機体が自爆するまでの記憶はあるから、恐らくムーンライトだけが完全破壊を免れたのだろうな」

「ふむ……」

私の簡潔な状況説明からアンジェは的を射た推測をした。

ネクストは核地雷の爆発を受けても、機体が完全破壊されない様に設計されている上、コックピットもそれ相応に頑丈に出来ている。

内部からのコジマ爆発でフレームだけが耐えられなかったと仮定すれば、末端部に搭載されていたムーンライトと、コックピット内に居るアンジェが一緒に来る事になる。

恐らくはフレームごと来た場合は、私と同じく搭乗機が融合デバイスへと変換し、この世界で再構築され、武装のみの場合はストレージデバイスとなって、搭乗者と一緒にこの世界へ来るのだと私は推測した。

今の所私とアンジェがこちらに来た理由として、共通するのはコジマ爆発による物と言う理由だけだ。

だとすると、ピースシティで戦った他の者達も着ている可能性が高い。

「それにしてもコジマ粒子は凄いな。コジマ汚染だけでなく次元旅行も可能だとは」

「……」

それに納得出来ないのは私だけか?と思ったが、リンディ提督とレティ提督、そしてシュープリスも眉間に皴を寄せている。

私だけが仲間外れになっていないと言う確認が取れ、少々安心出来た。

「それよりもお前が模擬戦の相手と認識して良いのだな?」

彼女の満足感を邪魔するのも無粋なので、その事に関しては記憶の片隅に置いておき、私は彼女にそう聞いた。

「ああ、その通りだ。どうした?まさかとは思うが怖気付いたのか?」

「……万が一にもその様な事は無い。トップの座はあの元レイヴンに譲ったが、これ以上私の上に立たせるつもりは無い」

「それだけ覇気が出せるのなら当日は楽しめそうだ。では2週間後、ここの訓練場で待っている」

アンジェと最初に会った当時を思い出しながら挑発合戦を繰り広げ、彼女は最後にそう言いながら去って行った。

「これで、負けられなくなったな。シュープリス、移動系を明後日までに仕上げるぞ」

「了解です。マスター」

「それからリンディ提督、あとレティ提督も時間が許される限り、アドバイス等で協力して欲しい。
 経験者からの意見は参考になる」

「ええ、良いわよ?アースラはしばらくの間点検整備が必要だし、報告書を提出すれば暇になるから構わないわ」

「私は……うん、大丈夫みたい。彼女との模擬戦当日まで少し暇があるから、出来る限りの協力はできるわ」

「感謝する」

私は感謝の言葉を言い、再びキーボードを叩き始める。

〈Sideリンディ〉

報告書を纏める為に、私とレティは彼の病室から退出した。

アースラでは冷静な性格なのだと思っていた彼が、これ以上に無いほどアンジェに熱意を向けている。

どうも彼は、強い相手に対しては全力で事に当たるタイプの人間のようで、しかも同僚で頻繁に模擬戦をしていたらしく、彼女の力量も知っている様子だ。

「それにしてもリンディ、あなたは本当に良い人材を拾ったわね。最近ではあんなに向上心がある魔導師候補なんて、そうそう見つからないわ」

「ええ、私もそう思っているわ」

適性だけを見れば、彼は普通の魔導師よりも圧倒的に高い能力を持っているし、今後の活躍もおのずと見えてくる。

その考えが取らぬ狸の皮算用なのは分かっているけれど、やはり彼の能力には期待をしない訳にはいかない。

「それで、彼が入局したらそのままアンジェさんと同じ様に?」

「ええ、遊撃魔導師として働いてもらうつもりよ。彼は優秀な戦力になる筈だから、一つの部隊で管理して腐らせるわけには行かないわ。あ、勿論適度に休暇も出すから安心してね?」

私の問いに、運用部の住人である彼女らしい意見を述べた。

彼が元の世界で使っていた質量兵器ネクストは、戦術兵器であると同時に戦略兵器として扱われていたから、そのネクストであったシュープリスさん自身の能力も合わせると、やはりベルリオーズさん一人で活動した方が良いのかしら……。

「はぁ……、せっかくうちの船で切り札に使おうかと思ったのに……」

「あら、基本の所属はあなたの艦にしてあげるから、優先して彼を呼べるのはあなたになるわよ?」

「え?」

レティの言葉に私は顔を上げて彼女の顔を見た。

「あなたがクロノ君ともう一つのカードとして、彼を必要としているのは分かっていたから、今その書類を作っている最中なの。
 現にアンジェさんの基本所属は、彼女を発見した武装隊よ?
 ミッド地上や他の次元世界に助人として行く事もあるけど、所属部隊に出動が掛かったら直ぐに原隊と合流しているわ」

アンジェさんの活躍は知っていたけれど、そんな無茶苦茶な運用をしていたなんて知らなかった。だけどベルリオーズさんなら……。



「ほう、少々懐かしく感じる運用だ。私達も国家解体戦争時はその様に運用されていたからな」



とか言うのでしょうね……。

「まぁ、それは彼の模擬戦が終わってからにしましょう?結果次第では彼の言った通り、最初から練り直さなきゃならないし」

そうだった。

彼も言った通り検査結果で全てが決まる訳じゃない。現に息子のクロノだってリンカーコアの質は平凡、魔法を覚えるのも遅いと言われているけれど、グレアム提督の使い魔と言う教師から、一線で活躍が期待できるって言うお墨付きが出た。

と言う事はその逆もあり得るという訳で、余り考えたくは無いのが本音だ。



だけどそんな私達の不安を他所に、有り得ないスピードで魔法の知識を覚えて行く、彼の姿を目撃する事になる。

一度論理や技術等を詰め込んで固まった大人の頭で、これほど貪欲に知識を詰め込める人はどれだけ居るのだろう?と思えるほどに、スポンジが水を吸い込むように吸収していった。

その後一週間、シュープリスさんとの融合テストを行い、各種魔法の動作テストの全てを終えた後、彼は本局の武装隊数名との模擬戦を開始、結果は……彼にとって模擬戦にすら成らなかった。

それでも彼は無駄を省く鍛錬を行い、アンジェさんと模擬戦を行う日がやってきた。



時空管理局本局訓練施設
〈Sideシュープリス〉

やっとマスターと私の真価が試される日がやってきました。

今まで局員との模擬戦を行ってきましたが、俗に言う精鋭部隊でも遅く感じる程で、しかも彼等が手を抜いていた事を見抜いたマスターは……。

「手を抜いたのは無謀だったな。他の奴らと同じとでも思ったか?」

と憮然とした態度で言い放ちました。

実戦では無いと言う理由で手を抜くのは、マスターが最も嫌う物です。

言われた精鋭の方々は意気消沈していましたが、先程彼等の様子を覗いた時は、鬼気迫る様子で訓練をしていました。

あの分なら彼等もまだ伸びるでしょう。

それは兎も角今回はアンジェ様との模擬戦、彼女は戦闘狂の気があるので、マスターも今持てる全力でお相手をするようです。

私もしっかりサポートをしなくては……。



〈Side ベルリオーズ〉

シュープリスが胸の前で手を組み、瞳を閉じている。

恐らくは私の勝利を願っているのだろう。

だがアンジェは半年とは言え魔導師としての経験がある。ここ2週間の経験しか無い私に対して、それがアドバンテージとなる筈だ。

だがこちらもシュープリスと言うカードがある。その経験差はシュープリスの性能で埋まる筈なのだが、それでも勝率は五分だ。

あとはその時の状況次第と言う事になる。

「待たせたな」

アンジェが訓練場に入って来た。

服装は何時もの管理局が支給する局員服、その手にはムーンライトが握られている。

「下らない御託を並べるのは好きではない。さっさと始めよう」

彼女がそう言うと、訓練場の監視ルームがあるガラス張りの場所に視線を向けた。

ガラスの向こうにはリンディ提督とレティ提督、そして数名の局員と技術官がこちらの様子を見ていた。

『それでは、模擬戦を開始します』

『両者デバイスを起動させて下さい』

「了解した。ムーンライト、セットアップ」

「行くぞ。シュープリス」

「了解です。マスター」

「「セットアップ」」

技術官の声で、アンジェはムーンライトを起動、私はシュープリスとの融合を、スタートワードを言ってセットアップを開始した。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第四話後編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/01/22 16:08
               第四話(後編)
            合理主義者と戦闘狂 1―2





〈Side ベルリオーズ〉

セットアップと同時に行う変身はほんの一瞬であり、最初のセットアップした時に、システムの最適化をする為の行程は無い。

その為目の前に現れた魔力光の保護フィールドは直ぐに消え、私は最初に現れた時と全く同じ状態で現れた。

どうやらセットアップ後の姿は、これで固定されているようだ。

身体の急所や戦闘において重要な箇所に、アリーヤフレーム状のアーマーを装着し、頭にはアリーヤヘッドその物のヘルメットに、多目的ゴーグルを搭載した物を被っている。

武装は右手に051ANNR、左手にはマーヴアサルトライフル、右背部に搭載された直射型魔力砲撃ランチャー、肩部にマウントした射撃魔法阻害機器……所謂、阻害魔法球射出ディスペンサーと言う具合だ。

これらを初めとした各種武装は、ARMSシリーズと呼んでいる。

残念ながら兵装選択はネクスト時のままで、無理をすれば両手両肩共に使えるのだが、それには多大な精神負荷が伴うので余り使わない事にする。

今までこの様なバリアジャケット(以降BJと略す)は無かった為、リンディ提督達は次世代型BJ(NBJ)やアーマードジャケット(AJ)と呼んでいる。

装甲部分は高い物理・魔法防御効果を持っており、私の周囲に展開している対魔法防御幕も合わせると、並のミッドチルダ式魔導師では傷すら付けられない。

態々デバイスの形態を変えなくて済むのを、他の局員達から羨ましがられている。

ついでに私の髪の色は、融合型デバイスの特徴として元の栗色から黒色へ変色している。

「こうして見ると、お前は余程愛機と縁がある様だな」

アンジェの声が聞こえてきたので、彼女に顔を向ける。

「それはお前もだろう?」

彼女のBJ形状はネクスト用のパイロットスーツの物で、その両腕には二つのムーンライトを装備している。

「言っておくが、ムーンライトの威力はあの世界の時と同じだ。射撃についても心配せずに全力で来い」

「元よりその積もりだ」

『両者よろしいですね?』

リンディ提督の言葉に私とアンジェが頷く。

『では始め!』

その言葉と同時に、その場に私の姿は既に無かった。



〈Side クロノ〉

「ちょっとクロノ~、走ると危ないよぉ」

「そうだクロノ、もう少しゆっくり歩こう」

後ろでリーゼ達が僕を呼ぶ声が聞こえるけれど、こっちはそれ所じゃない。



「闇の書に対抗できる鍵になるかもしれない魔導師候補が、今度本局の訓練施設で模擬戦をする事になったわ」

「!」



(あんな事言われたら見に行くしかないじゃないか!)

リーゼ達には母さんから連絡が行っていたみたいで、それを聞いて直ぐ彼女達に話そうと切り出したら……。



「うん、その話はリンディ提督から聞いているよぉ。だから、その日は見取り稽古でもしようか?」



と言われた。

僕がまだ2歳だった頃に死んでしまった父さんの仇である闇の書、7年前では取り込んでいた父さんの船ごと、グレアム提督がアルカンシェルで吹き飛ばしたけど、転生機能がある限り闇の書自体が消えた訳じゃない。

「はぁ、はぁ、はぁ……、すー……はぁー」

目的の場所に到着して一回深呼吸をして、モニター室のドアを開ける。

「失礼します」

「「……」」

「?あのぉ……」

訓練場のモニター室のドアを開け、声を掛けると母さんも他の局員の人から反応が無い。

少し疑問に思いながら母さんに声を掛けたその時。

―バシュッ!―

「「うわぁ/きゃあ!?」」

突然噴射音が聞こえたかと思うと、モニター室のガラス窓に奇怪な姿をした人形が現れ、それに驚いてモニター室に居る僕を含む全員が身構えたけど、再び訓練場に目線を移す。

そこに居るのは男女二人だけで、二人はまるで瞬間移動をしたかのような動きを行いながら、斬撃を繰り出し、魔力弾を打ち合い、お互いそれを避け続けている。

「あ、クロノ!」

やっと僕の存在に母さんが気付いた。

や、あれは誰だって唖然とするけどさ……。

「えっと、模擬戦は今始まったばかり?」

「ええ、開始してまだ30秒も経っていないわ」

―バグォ!ドガアアァァァァ!―

ガラス窓の向こうで閃光と爆発音が響き渡った。

目にも留まらない攻防戦って、こう言うのを言うのだろうか……。

訓練場に居る二人は自分の魔力の事など、気にしていないかのような動きで縦横無尽に動き回り、男の方は瞬きした時にはもう別の場所に移動し、両手に持っている銃型のデバイスで、相手の女性を牽制しつつ背中から魔力砲撃を加えている。

その女性の方はと言うと、こちらも負けずとも劣らない。

男の攻撃を紙一重で交わしながら男へと突撃して、両手の青白い刀身を持った魔力刃で魔力斬撃をするけど、男の方もギリギリまで引き寄せてから、さっきの急加速機動でそれを避けている。

リーゼ達は見取り稽古と言っていたけれど、これはとても参考にならない。

「これは……、とても参考には出来ない戦い方だねぇ。私でもあれに付いていくのは無理だよ」

「と言うか、あんな事を平然とやっている彼等はなんなんだ?どう見ても普通の魔導師じゃないぞ?」

何時の間にか来ていたアリアとロッテが、それぞれ率直な感想を言う。

確かにあの動きはとても真似出来そうにない物だ。

それに加えてあの男が身に纏っているBJ、今まで見てきたどれにも当てはまるものが無い、全く新しい物だ。

全ての攻撃を拒むような黒く硬質的で、流れるようなデザインの装甲で身体の重要な場所を固め、背面には魔力砲撃を放っている大砲と、肩には用途不明の翼の様なデザインのパーツが付いている。

一体何に使うのだろうと、思った所で女性の方が射撃魔法を発射し、そのパーツに動きがあった。



〈Side ベルリオーズ〉

「当ててくるか!」

さっきからアンジェが私の動きに追随して来た為、彼女の連続した射撃魔法による防御幕の減衰により、魔力刃によるダメージが増えてきている。

「フォトンランサー!」

再び射撃魔法を仕掛けて来るのを確認した私は、肩部のディスペンサーを展開する。

「ディフェンディングクレイモア!」

大小まちまちの大きさの魔力球を無数に射出し、魔力球は私から一定の位置で停止した。

アンジェが放った射撃魔法がそれに接近すると魔力球が弾け、無数の魔力弾となり彼女が放った射撃魔法を阻害した。

「阻害用の魔力球か、射撃系を得意とする奴には効果的な嫌がらせだな」

「お前には余り効果がなさそうだがな。第一これは阻害が目的であって、術者か私のように外殻を持った射撃魔法には、効果は期待できない」

「それでも今の様な射撃魔法に対しては効果があると、実証できた訳だろう?」

「そうだな。だからお前の様な奴が来る事も仮定して、その内の何個か浮遊機雷としての機能が有る物にしようと思う」

「……それは私に対する嫌がらせか?」

「自分で考えてみてはどうだ?」

QBで再びアンジェとの距離を離す。

だが今回の模擬戦で良いデータが取れた。

やはり空中機動時には、飛翔魔法とQBを合わせたこの用法、これが一番魔力消費を少なく済ませられるのだが、少々移動速度は低下する。

だが空中機動をする分には十分だ。

「次で決めるぞ」

「ああ」

模擬戦を開始して1分が過ぎ、そろそろ肉体的に無理が生じてきた。

「シュープリス、OBスタンバイ」

『了解しました』

「……行くぞ!」

「OBアクション!」

アンジェが飛翔魔法を使用し、低空でこちらに向かってくるのを確認した私は、シュープリスに合図を送った。

私のリンカーコアから魔力がOBユニットへと供給され、圧縮した後爆発的なスピードでアンジェと相対する。

「はぁ!」

「くっ!」

アンジェがムーンライトを振るうのを確認して、私はOBをカット、連続QBとQTでアンジェの真後ろに着き、既に展開されていたグレネードの砲口を彼女の背中へ狙いを付け……。

「予定通りだ」

そう呟き、私は楽しそうな表情で振り返った彼女に砲撃を放った。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第五話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/02/03 08:16
                第五話
               少年と音楽家



〈Side リンディ〉

『ふう、私の負けだ。やはり半年程度ではお前を出し抜けなかったか』

『いや、私の方も少々追い込まれていた。以前と比べて体力が落ちているようだ』

アンジェさんが自らの負けを宣言して、模擬戦は終了した。

今回は彼に変わって、私が状況を説明させてもらうわ。

模擬戦が開始して直ぐ、ベルリオーズさん達の戦い方を見せ付けられたわ。

自分の体なんて全く考えないような動きで動き回って、お互い相手に狙いを付けた瞬間には射撃魔法の応酬を開始した。

ベルリオーズさんの戦闘スタイルは、距離を保ちながら射撃を行って、隙を見つければ即座に砲撃を加える緩急を付けた戦い方。

対するアンジェさんは回避をしつつ距離を詰めようと接近し、斬撃を行って直ぐ離れる一撃離脱型の戦い方だった。

模擬戦が始まって直ぐに、息子のクロノが訓練場のモニター室に入ってきた。

この子も二人の戦い振りに心の底から驚いた様子で、続けて入ってきたクロノの先生でもあるリーゼ姉妹も、彼等の戦いに何か感じたみたいで、さっきから考え込んでいる。

「あんな至近距離で砲撃を放つなんて……」

彼が最後に放った砲撃に、レティは信じられないといった様子でそう呟いた。

確かに私たちが知っている魔法運用とは根本的に違う。あれが掛け値なし、ただ相手を倒す事だけに主眼を置いた彼の戦い……。
それは猫の様な滑らかな動きで、尚且つ猛禽類の様な鋭い攻撃で相手を討とうとする彼等の姿は、観る者全てを魅了する。

「今のデータを纏めろ!直ぐに解析して、これを次のデバイス開発の糧にするぞ!」

「「はい!」」

今までシュープリスさんとアンジェさんのムーンライトの、データ取りをしていた技師官達が、ホクホクした顔で取得したデータを纏めている。

彼等はベルリオーズさんとアンジェさんのデバイスのデータを元に、新しいデバイス開発の構想を練る事になる。
流石に彼等のデバイスの様な物を作る事は出来ないと思うけど……、それでも順来の物よりかなり強力になる事は間違いないわ。

『立てるか?アンジェ』

『ああ、やはり雄琴の威力は凄いな。少々魔力ダメージがきつかったが、しばらくすれば回復する』

『そうか』

「二人共お疲れ様」

『リンディ提督か。それで、私はあなたの期待通りの実力なのか?」

「勿論、期待以上よ!」



〈Side ベルリオーズ〉

「それは良かった」

彼女が喜んでいる姿を見た私はそう答えた。

『じゃあ早速だけど私の執務室に来て頂戴、管理局に入る為の必要な書類が必要だし、その関係でね。
今迎えの人をそちらに行かせるから、その人に付いてきて頂戴』

「分かった」

『じゃ、執務室でまた会いましょう』

彼女はそう言うと、手を振りながら通信モニターを閉じ、シュープリスとの融合を解いたと同時に、訓練場に入る扉から一人の少年が入って来た。

「君が案内を?」

「はい、リンディ・ハラオウン提督の息子、クロノ・ハラオウンです」

「君の事は、君の母親から聞いている。優秀な戦士になりつつあるとな」

「そ、そうですか」

少年は少々驚いたように答えた。

「戦士になるのに年齢など関係無い。志を強く持ち、自分が信ずる道を見失わず真っ直ぐに、だが常に周りの状況を見極め、押し付けずに柔軟な思考を持つよう精進してほしい。
どうも君には、秀才特有の欠点があるように見えてしょうがない」

「っ……」

私としても珍しい事に、少年に有る欠点とそのアドバイスをすると、少年は心当たりがあるのか苦い顔をした。

「君はまだ若い、今からゆっくりと色々学べば、それがしっかりと身に付く時期だ」

「マスター」

「分かっている。すまないが、簡単な自己紹介だけで許して欲しい。私の名はベルリオーズ・レイレナード、こっちは私のデバイスでシュープリスと言う」

「シュープリスです」

私がシュープリスの名を言いながら紹介をすると、彼女は軽くお辞儀をしながら自らの名を告げた。

「ベルリオーズさんとシュープリスさん……と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」

「私はそれで構わない」

「私もそれで結構です」

「分かりました。では、僕に着いて来て下さい。母さんの執務室までの道なら知っていますので」

「よろしく頼む」

私がそう言うと、クロノは頷いてから先に進んでいく。

「ベルリオーズ」

私が少年に付いて行こうとすると、アンジェに呼び止められた。

「次は手加減抜きだ。その時には体調が万全の状態と言う事を願っている」

……やはりアンジェには見抜かれていたか。

「ああ、では機会が有ったらまた模擬戦をしよう」

私がそう答えるとアンジェは軽く手を挙げ、訓練場から去って行った。



〈Side クロノ〉

母さんから模擬戦の連絡が来た時に、彼の事や彼が使うデバイスの事について聞いた。

ベルリオーズさんは新エネルギー獲得と引き換えに、自然環境が大きく損なわれた世界からの漂流者、使用デバイスはその新エネルギー技術を使った彼の元搭乗機だと言う事だ。

彼に関しては、これから強くなる者や強い者に対して、かなり饒舌になるロマンチスト。

デバイスに関しては仇である闇の書とは違って、何か危険が孕んでいると言う雰囲気は無く、彼の事を心の底から慕っていると言う印象を受けた。

「しかし、この世界は面白いな。今まで触れた事が無い知識ばかりで飽きが来ない」

「ベルリオーズさんが元居た世界では、魔法技術は無かったのですか?」

「ある意味魔法と呼べるようなエネルギー技術は有ったが、本物の魔法に触った事など生まれて初めてだ」

ベルリオーズさんは肩を竦めながら僕の質問に答えた。

「まあアクアビットの変態技術者共しか、熱心に研究していなかったがな。今頃はどうなっているのか分からん。
もしかしたら、とんでもない兵器を生み出しているのかもしれないな、例えば空中に浮かぶソルディオス砲とか」

「マスター、それは全然洒落になっていません。彼等の変態度合いから見れば、何時かは実現させるでしょう」

「……否定できないのがアクアビットの怖い所だな」

彼はそう言ってから憂鬱そうな表情をした。

そのアクアビットと言う組織がどう言うものかは知らないけれど、少なくともベルリオーズさん達の様子を見た限りでは、まともな思考を持っているとは思えなそうだ。

「ベルリオーズさん達は、以前はそのアクアビットと言う組織に?」

「いや、私達はレイレナードと言う企業の所属だった。アクアビットにもリンクスが居るが、レイレナードの子会社みたいな物だ」

「企業?」

「なんだ、リンディ提督から聞いていないのか?まぁ良い……私達は、複数の企業が統治している世界から来た」

「え……企業が統治しているんですか?」

「ああ、そうだ。こっちは管理局と言う一つの組織に集積して、次元世界を統治しているそちらにしてみれば、少々違和感があるだろう。
だがそういう世界も有ると言う事を、知っておいて損は無いと思うぞ?全ての世界がお前の常識に当て嵌まるとは限らない」

「う……」

思い当たる節があって僕は少し呻いた。

「何、私も最初は少々魔法については疑問に思ったが、ちゃんと理論や使い方を聞けば理解できた。
要は人の話を良く聞き理解しろという事だ。これが出来れば、大抵の事はどうにかなる」

「……」

僕は彼のその生き方、そして考え方に驚愕と尊敬の念を覚えた。

幾ら生きて来た世界の下地が違うとは言え、これだけ柔軟且つ的確な思考が出来る人間なんて、この世にどれだけ居るのだろうか。

「まあ私の昔話など聞いても、余り楽しい物ではない。世界の裏側に幾らでもある話しの一つ……、そろそろ彼女の元へ行こう。
恐らく待ち草臥れている筈だ」

「そ、そうですね。では行きましょう」

ベルリオーズさんに促されて、僕は再び先導を始めた。



〈Side ベルリオーズ〉

【珍しいですね。マスターがこんなに饒舌になるのは】

【なに、期待の星に対してアドバイスをしただけだ】

シュープリスが念話で話しかけてきた。

【それにしては随分とお気に入りのようですが……】

【クロノから、昔のレオハルトと同じ臭いがしただけだ。
奴も国家解体戦争時の時はなかなか頑固な奴で、自社パーツ以外のパーツを装備する私に対して、よく噛み付いてきたのでな。
自らの常識を世間の常識とする愚かさを、今の彼に教えただけだ】

【……】

【レオハルトともその後から何度か言い合ったが、彼も私の有り方を理解した。話し合いは大事だと思ったのはその時からだ】

【ですが、向かってくる相手には容赦はしない……】

【そうだ。
たとえ話し合いをしようとしても、向こうがその気ならば徹底的に叩くまで、戦場と交渉の場を履き違えるのは愚者の行いだ】

【マスターの考え方には私も賛成です】

【では、私が戦場に向かうための手続きを行うとしよう】

数分後、私はクロノ君の案内でリンディ、レティ両提督の待つ執務室に到着し、入局手続きを行い正式に管理局所属の魔導師となった。




後書と言う名の戯言

どもコーラルスターです。

今回は少々手間取りました……とにかくクロノとベルリオーズとの対面、そして音楽家からのアドバイスです。

クロノはどうしても自分の常識がみんなの常識と言う様な一面がある様な気がしてならないのですよね。

特に初登場となるなのフェイ第3Rの時なんか、行き成り現れた上に「管理局だ!双方武器を収めろ!」ですから、初見の時はあれでも良いかなと思いましたがよくよく考えてみれば、真面目な物理学の学会中にMMRが現れて「話は聞かせて貰った!人類は滅亡する!」と言っているようなもの……違うか。

ともかく管理局が何なのか分からないなのははびっくりしたでしょうね。
彼女の問いに答えるどころか説明すらしない始末、まあ仕事優先で考えれば間違ってはいませんけど、あれがなのはの今後の「お話」になった元凶の一つに間違いないと作者は思います。

駄文でしたね……。まあ今回はそう言う予防接種みたいなお話です。

ではまた次のお話でノシ



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第六話前編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/02/28 01:46
               第六話 前編
               断頭台の影響




翌年 春
ミッドチルダ南部 アルトセイム地方

〈Side ベルリオーズ〉

『作戦内容を説明します。
今回の任務は質量兵器密輸人の会合場所へ強襲、護衛戦力を無力化です。
地形データを送ります』

作戦区域の地形データが届き、私は敵の戦力配置を思案する。

作戦区域西側に3つの倉庫群、南東に大型倉庫、北東にターゲットである密輸人が会合している建物がある。

私の強襲経路は倉庫群の西側、ここは比較的警備が少なく強襲経路としては最適だ。

「無人機十機、魔導師十二名、武装した兵員二十名か……」

要所毎に配置し、お互いの状態を直ぐに見られる配置になっている。

普通の魔導師を相手にするならばこれで十分すぎる配置だ。一つのグループを相手にしている間に、他のグループが駆けつけ集中攻撃に会う。

それと無人機もお互いに直ぐに援護できる配置となっている筈、この無人機は最近になって出てきた最新型だ。

どうも試作段階品の実地試験を行っている雰囲気で、今はまだ配備数が少ない。

大方、何処かの次元犯罪者が作った物なのだろうが私には関係ない。敵対行動をしてくるモノは完全に排除する。

右背部に有るグレネードランチャーを起こしながら、私は片膝を付いて砲撃する体勢に入り、大型の倉庫に狙いを付ける。

【照準補正完了】

「作戦を開始する」

シュープリスの声にそう答えてグレネードを発射、同時に体を起こして両手の武装を構え、飛翔魔法で作戦区域に突入を開始する。

飛翔魔法と魔力ブースタによって、作戦区域に高速で近付いている途中で、砲撃が大型倉庫に着弾し、警備部隊の大半が眼をそちらに向けた。

だが頭が回る魔導師が居たらしく、魔導師の一人が喚きながら、こちらに誘導性の無い射撃魔法を撃ってくる。

私はそれをQBで交わし、OBで作戦区域の真ん中まで移動した後、倉庫Bの傍に着地した。

「だ、『断頭台』だ!」

会合会場の南側に居るDグループの一人が叫ぶと、私は両手の武装から魔力弾を連射、叫んだ奴ごとDグループと無人機5を殲滅した。

「撃て!撃てぇ!」

会場東側で警備をしていたBグループが射撃を開始、私は倉庫Bを利用してBグループの死角に入り、倉庫群の中央に居たCグループと無人機4と6を殲滅。

その直後倉庫Bの影から飛び出し、先ほど撃ってきたBグループに魔力弾を撃ち込み無力化する。

(今回もARMSの調子は良いみたいだな)

【警告!誘導弾です!】

心の中で呟いていると、無人機1からミサイルが発射されたのをシュープリスが探知し、ヘルメット内に投影されるレーダーでも確認して回避行動を取り、大半をかわした後しつこく追ってくる残りの一つを、右腕の051ANNRで迎撃、左腕のマーヴでミサイルを撃った無人機1を蜂の巣にする。

「居たぞ!」

南側を警備していたEグループが駆けつけ武器と杖を構えるが、私は既にグレネードを構えて砲撃体制に入っていた。

「た、退……!」

その言葉を最後まで言い切れず、Eグループは砲撃で一網打尽にまとめて吹き飛ばす。

その間に、会場の北側を守っていたAグループと、残っていた無人機が接近して来るのを補足、無人機群とサブマシンガンで武装した兵員、そして魔導師3人を無力化しながら、最後の魔導師に高速ホバー機動で近付く。

「こ、この!」

恐らく自ら考えたであろう連射の効く射撃魔法をこちらに放つが、私はQBで瞬時に右へ移動し狙いを外させる。

「な!?くそ!」

魔導師は驚きながらも私を肉眼で捉え続けるが、体の方が私を捉え切れていない。

咄嗟に防御魔法を展開するが、私はマーヴの衝角に魔力を纏わせて突き出し、魔導師の防御魔法を突き破って銃口を突きつける。

「ま、待て!降参だ!降参すはぐぅ!?」

突きつけられた魔導師は杖を手放しBJを解除したが、私は容赦なくその魔導師にマーヴを発射した。

「……作戦区域内の全敵戦力を無力化した」

完全制圧したのを確認し、私は指揮車に制圧完了の報告を送る。

『お疲れ様です。直ぐに武装隊を向かわせますので、それまで会場の監視を行ってください』

「了解した。シュープリス、全ての窓と外に繋がるドアの取手にバインドを掛けろ」

【了解、マスター】

シュープリスの声が聞こえた直後、会場の中から喚き声が聞こえてきた。

【作戦に使用した時間は1分と38秒、記録更新ですね】

「やっと前の調子に戻ってきたな」

私の近況を説明しよう。

管理局に入ってから数ヶ月が経ち、その内2週間を訓練校の生徒相手に魔法の訓練に費やした後、武装隊の手が回らない犯罪者のアジトや会合の場への強襲、テログループの逮捕などで功績を重ね、今では陸空で一尉の階級を取得、海の方では準提督と言う地位を得ている。

僅か数ヶ月の間ではあるが、私は犯罪者から『断頭台』と呼ばれ恐れられており、大半の犯罪者は全て水面下に潜ってしまった。

だが私はあらゆる手を使って犯罪者の姿をその闇から炙り出し、居場所を突き止めると本局の信頼できる場所から許可を貰った後、瞬時に現場に急行して逮捕を行って来た。



翌日 管理局本局 アースラ停泊ドッグ

『ベルリオーズ一尉またもや大手柄!質量兵器密輸グループ幹部の大量摘発!』

朝刊の1面にそう書かれているのを確認し、記事の内容に眼を通す。

『突如として現れた管理局期待の新星ベルリオーズ一尉。
その目覚しい活躍からラルゴ・キール栄誉元帥は、ベルリオーズ一尉に対し管理局従事勲章を授与する予定であり、元帥からは、
「今後もベルリオーズ・レイレナード氏の活躍には眼を見張る物があり、彼にはより一層の活躍に期待している」と、ベルリオーズ氏にご執心の様子である。
また地上本部でその地位を高めているレジアス・ゲイズ少将は、
「ベルリオーズ氏のミッド地上に於ける活躍に、我々からも感謝している。
今後とも彼の世話に成る事もあるだろうが、何時までも彼ばかりに頼るわけにも行かず、我々もこれまで以上にミッド地上に於ける治安改善を行い、本局との連携を図る積もりである」と、ベルリオーズ氏に対する対抗意識を表わしているが、以前からあった本局に対する確執は無くなった様に見受けられた。
次元世界評論家であるI・O氏からは、
「恐らくベルリオーズ氏の合理的且つ柔軟な思考、そして冷静に判断する心構えに感化されたのではないでしょうか?彼はすごい魔導師ですよ」とコメント、ベルリオーズ氏が与えた影響を賞賛した。
余談ではあるが、ベルリオーズ氏の活躍によってのものなのか、管理局への今期入局希望者は何時もより多いようであり、企業雇用率への影響が懸念されている。図らずとも管理局と企業側とで、雇用戦争が勃発しそうである』

「随分と世間の人気者になったわね?おサボりさん?」

そこまで読み終えた所で声を掛けられ、私は新聞の紙面から顔を上げると、そこには直属の上官であるリンディが居た。

「だからと言って客寄せパンダになった積もりは無い。
……後ついでに言えば今日の私は休暇中であり、決してサボっているのではない」

「分かっているわ。少しからかっただけじゃない……隣、座るわね?」

「ああ」

私が同意の返事を返すと、彼女は私の隣に座った。

「アンジェさんも貴方と同様に頑張っているし、任務の方は……概ね指示にこなしているわ」

「……偶に相手のリンカーコアを再起不能しているのが、指示通りに動いていると言えるのか?」

「う……で、でもその指示を出したのは現場の指揮官だし、そのお陰で他の局員に被害が出ていない事も確かよ?」

「無理をして彼女の事を擁護しなくても良いのだぞ?彼女の本質は戦闘凶であって、決して指示に忠実なわけでは無い。
現に奴が決闘中に強制的に介入して止めてさせた後、その鬱憤の矛先が来たのは私だったんだぞ?」

AJのパーツの一つがムーンライトで砕け散ったのを見た時は、正直生きた心地がしなかった。

「だって彼女の相手を出来る魔導師は、管理局全体で探しても貴方くらいしか居ないし、お互いに全力でやっているから良い訓練にもなるでしょう?」

「それでも彼女のご機嫌取りの為に、私を餌にするのは勘弁して欲しい」

唯でさえ、こっちはARMSの実装で忙しいというのに……、全兵装が実装完了するまでは彼女の相手をしたくない。

レイレナードに居た頃は、オービエとザンニの二人組みが私の身代わりになったので、それほどしつこく付き纏われなかったが、今管理局に居るリンクスは私のみだ。

「いっその事、彼女の好きな様にさせてやれば良いのではないか?犯罪者には悪いが私の身代わりになって貰う。レティ提督にもそう伝えておいてくれ」

その時の鬼気迫る猛攻で、シュープリスが彼女に対してトラウマになる寸前だったからな……。

「まあ、確かに今の貴方に彼女の相手はちょっと厳しいわね」

こちらの事情を彼女は理解してくれた様で、一先ず私の問題は解消された。

ああ見えてもアンジェはレティ提督の事を気に入っているようなので、彼女からそれとなく言っておけば多分……いや恐らく大丈夫だろう。

「それより君が話したい事は、その様な事ではないだろう」

「あ、ええ、その通りよ。貴方の住んでいたのと同種の世界を見つけたわ」

「何だと?」

私がそう答えると彼女は黙って私の前にモニターを出し、青と緑、そして少し砂色が入った天体を映し出した。

「第97管理外世界、『地球』よ」

「……」

私は少しその美しい星をしばらく眺めた後、ある点に気が付いた。

「緑が多すぎる。この数ヶ月でここまで回復する事はまずありえない」

そう、私が居た地球より少し、いやかなり緑の部分が多いのだ。

私が知る限りでは、緑があるのはアナトリアコロニー周辺か無人島くらいだ。

「やっぱり、アンジェさんと同じ事を言うのね」

「アンジェにもこれを?」

「ええ、彼女も貴方と同じ事を言ったわ」

「……平行世界」

ふと脳裏にその言葉が過ぎったと同時に、私の口から出ていた。

確か何処かの物理学者が、コペンハーゲン解釈によって平行世界存在の可能性を、理論上確立させていた筈だ。

理論などは覚えていないが、こうして私が平行世界へと渡ったのを、彼等に伝えられないのは残念でならない。

「そう解釈するのが妥当かもしれないわ。でもまだ未探査の次元世界も有るし、その中に貴方が住んでいた世界があるかもしれない」

リンディ提督は私が落ち込んでいると思ったのか、私に慰めの言葉を送って来る。

「いや、私は汚染される前の地球を見られた事を感謝しているのだ。あの世界の地球の自然環境など、私が生まれる前から破綻していたからな」

私は一面砂漠と化し、生き物が住むには過酷な程荒廃した大地を思い出しながら礼を言った。

「……」

「ん?どうした?」

「いえ、あなたが余りにもあっさりとした答えをするから、少し驚いただけよ。……故郷に思い残した事は無いの?」

リンディ提督が固まっていたので声を掛けてみると、彼女はそう返してきた。

「思い残した事……か。無いといえば嘘になるな」

例えばクローズ・プランだ。

レイレナードが、国家解体戦争以前に打ち上げたレーザー照射衛星を、南極で建造されたエーレンベルクで破壊する計画だったが、それをGA側が自社の衛星を破壊する為だと誤認し、アナトリアの傭兵に破壊されてしまった。

あれの小型版が南極の別の場所で3基建造中なのを、あの世界に居た時点で聞いていたのだが、私を含む主力リンクスを全て失ったレイレナードは、無人ネクストしか対抗手段は残っていない。

元々本社の形状は、複数のネクストで防衛するのに特化された物であり、通常戦力の配備数は他企業の本社と比べて極端に少ない為、ネクストを一機か二機送り込めば直ぐにかたが付く。

恐らくアナトリアの傭兵が投入されるだろうから、エグザウィルに配備されている脆弱な通常戦力では、彼からエグザウィルを守り切る事は出来ないだろう。

「だが今の私はあの世界へ帰る事も出来ない身の上、ならばこの世界で私が出来る事をするのが常道だ」

「……何時も思うんだけど、あなたって本当に物事を割り切るのが上手よね」

「そうしなければ生き残れない世界だったからな。これからもこの考え方で行動し、管理局と言う組織に貢献するまでだ」

「はぁ……、私もまだまだね」

私が問いに答えると、彼女は溜め息を吐いてそう呟いた。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第六話中編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/02/28 01:46
                第六話 中編
               何の為に戦うのか



〈Side リンディ〉

「でも、それだと一つ疑問が残るのよね」

「何がだ?」

「そんな生死の駆け引きを多く体験しているあなた達が、なんで管理局に居続けて非殺傷設定で戦っているのか?よ」

「ふむ」

私が問いかけると彼は考え込むような姿勢で唸った。

「質問を質問で返すのは、本来はやってはならない事なのだが良いか?」

「え?ええ」

「君は管理局の事をどう思っている?」

「どうって、それは……」

私は答えを出せずにそのまま黙り込んでしまう。

確かに管理局は、現段階で次元世界を管理している巨大な組織だ。

そしてその巨大さ故に人材、特に魔導師は常に不足していて、殉職者が出る事による損失の事も考えれば、殆ど自転車操業の状態だ。

そして局内上層部の汚職や裏切り行為とも取れる行動に、民間の方から不満の声を上げているのも事実で、ベルリオーズさんはそっちの方でも摘発者を出している。

「答えられないか?では私がこの管理局に対する個人見解を言おう。
この管理局と言う組織は、綺麗事を並べ立ててはいるものの、持っている力に不相応な管理体制で自らの首を締め付けており、その隙を突かれて犯罪者達に好き勝手されているのが実情だ。
犯罪者からの賄賂を受け取り、見逃している上層部などがその最たる部分で、これまで私が摘発してきた人数はもう直ぐ二桁になる」

「っ……」

私が言い淀んでいると彼はこれ以上に無いほど簡潔に、且つ明瞭に管理局の問題点を指し示した。

人材、実行力、組織的判断力、そのどれもが彼の居た世界に比べて脆弱であり、醜いものであると、彼の言葉にはそう言い含められていた。

「このまま行けば、私が参加した国家解体戦争の管理局版が起きるだろうが、統治形態をすぐに変えられないのが統治の難しさだ。仮に成功したとしても一時的に無秩序状態が起こる事は必然だ。
国家解体戦争に参加してその事を思い知らされたからこそ、管理局がその二の舞にならないように私は全力を尽くしているのだ」

「まぁ、アンジェの場合は強い奴と戦えればそれで良いと、思っているだろうが」と付け加えて、彼はまた新聞に視線を戻した。

「そして非殺傷設定の事に関して言えば、今まで私が犯罪者達を次々と殺し続けていたのならば、管理局と言う分不相応な力と管理規模に不満を抱く者たちからすれば、次は自分達の番ではないか?と思い、不安とストレスが後押しして先走る者が出るだろう。
私はそれを緩和する手段として、全兵装を非殺傷設定にして戦っているだけだ」

彼からその事を聞いた私は衝撃を受けた。

彼が管理局に来てから数ヶ月、たったそれだけの時間で管理局が抱える問題点と、その統治を受ける民衆感情を見抜いたのだ。

「だが幾ら統治力が増えたとしても、全ての局員に殺傷設定をする事はしないだろう。
長年の間、管理局は純粋な殺し合いを経験していないが為に、多くの殉職者を出してきた背景を掻い摘んでみれば、今更殺傷設定をするという事は、その殉職者達に対して示しが付かないだろう。
そして何より遺族の者達からすれば、なぜもっと早くそうしなかったのかと、猛反発を喰らうだろう」

「……」

今まで彼の事を見てきて、彼がそこまで考えているのに気付かなかったと言う事実に、私は衝撃を受けて落ち込んだ。

そんな私を見て彼は、意外な言葉を私に言った。

「なに、君が責任を感じる理由など何処にも無いだろう。
それをするのは管理局と言う組織を束ねている老人達であり、現場で働いている我々は己の信ずるモノの為にやれば良―I'm thinker. I could break it down. I'm shooter drastic. Baby. ……―すまん」

誰かからの着信メロディを聞いて、彼は通信画面を開いた。

『マスター、たった今システムチェックが終了しました』

「そうか、では直ぐに合流するとしよう。場所は……」

掛けてきたのはシュープリスさんだった。彼女は闇の書に対抗する為、偶にこうして技術班に協力して貰っている。

『了解、では後程』

「ああ」

彼等のやり取りはとても短い。

それだけ二人が相手を理解しているのか、それとも彼が持つAMS適性による物なのかは分らない。

だけど、これこそが魔導師として最高の形であると私は思っている。

「少し話し過ぎたな」

「いえ、貴方の考えが聞けただけでも大収穫だったわ」

「そうか」

彼はそれだけ言うと新聞を閉じて立ち上がった。

「……明日はクロノが執務官試験を受ける日なのだったな」

「え?ええ、そうよ?」

「まったく、生き急いでいるのか君の役に立ちたいのか分からんが忙しない奴だ。子供なら子供らしくゆっくりと育てば良い物を、これでは君が母親としての幸せを感じられないだろう」

「でもそんなあの子でも見ていて楽しいものよ?」

「……やはり私には分からん事柄だな」

「まあ、あなたにも分かる時が来るわ」

「そのような状況になっている私の姿が想像できないが、考慮には入れておこう」

「ふふふ」

私がそう答えると、彼女は可笑しそうに口元を押さえながら微笑む。



〈Side ベルリオーズ〉

「よく笑うようになったな。
会ったばかりの時はかなり張り詰めていて、クロノよりも生き急いでいる感じだったのだが」

しばらく歩いてから私はそう切り出した。

「それは貴方のお陰ね。
貴方がここに来てくれたからこそ今の対闇の書戦略があるんだし、管理局にとって貴方は救世主……と言うのは嫌いだったかしら?」

「そうだな。私に正義の味方などと言った正の意味は不釣合いだな。どちらかと言えば山猫の類に近い、それに一人で戦う事には慣れている」

「寂しくは無いの?」

「今までそのような感情を持った事は無い。コジマ粒子による汚染を避ける為に、他のリンクス以外共に戦える者は居なかったせいなのかもしれんな」

「そう……」

リンディが悲しそうな顔をして答える。

乗っている機体故に、遠距離支援を除く通常戦力をネクストと共に出すと言う事は、それに乗っている機体のパイロットにも多大なリスクが伴う事を意味する。

加えて、機体に付着したコジマ粒子を洗い流す為の洗浄設備の建設費と、その設備を維持するための費用が馬鹿にならないと言う理由もあり、基本的にネクスト単体で戦闘を行うのが企業軍の基本戦略だ。

「私が好きでこういう戦い方をしているだけであって、君が気にする事はあるまい」

「でも……」

彼女が食い下がる。

「……降参だ。
では私一人でどうにも出来ない状況なった時には、君達に救援を要請するとしよう」

「本当?」

「ああ」

「……ならよろしい、あなたは独りにすると無茶をするから」

「恩人に心配をさせるような真似はせんよ。伊達に広告塔の効果で一尉兼副提督の座に居るわけではない」

管理局の老人達は、闇の書と同種であるシュープリスを所持している私が目障りだったのだろう。管理局に入局して直ぐに大きな任務が言い渡されたが、その任務を難なく終わらせた結果が私の地位だ。

今でも度々、普通の魔導師では到底できない次元犯罪者の摘発を言い渡されるが、私はそれに難なく、そして嘲笑するかのように終わらせ報告している。

『管理局の断頭台と月光の剣姫(げっこうのけんき)に目を付けられた時点で、その犯罪者は既に終わっている』

そんな風潮すら立っている私に対して、暗殺を企てるような真似はしないだろう。

だが用心に越した事はないのが私の方針だ。

偶に上層部の膿をぶち撒いてやりたくなる衝動に駆られるが、まだその時期ではない。

私と親しい間柄であるハラオウン親子とエイミィ等アースラ陣営、レティ提督やレジアス達の周囲に目立った影は無い。

……大量殺戮者が警察機構の切り札になるとは、『世界』と言うモノはとことん物好きと見える。

その様な事を考えつつ歩き続け、通路が切れ転送エリアへと出た所で、シュープリスと合流した。

「待たせたか?」

「いえ、私も今来た所です」

「そうか。……闇の書への対抗策の状況はどうなっている?」

「概ね二つの方法を取る事になりました。
一つは私のデータを元にワクチンプログラムを作り、それを闇の書に入力して闇の書と言うプログラムをデリートする方法。
もう一つは闇の書のプログラムを入手、闇の書に対応する修正パッチを作成し、制御の正常化を図る方法となります。
両方とも闇の書のデータと夜天の書のデータが必要でしたが、闇の書のデータは既にありましたし、夜天の書に関しては、聖皇教会との共同捜査で書が記された文献を発見したので、両方とも直ぐに完成します」

もちろん失敗すれば破壊するしか方法がありませんが、とシュープリスは付け加えた。

無限書庫の調査を行い、何故健全な魔導書だった夜天の書が、闇の書と言う危険物に変貌したのかも分り、『容疑者達』が今までやって来た事に関しては、全て不問にする訳には行かないが、概ね現所有者と一緒に保護する形で収まる具合だ。

もちろん上層部が猛反発したが、私が「ひと声」掛けると直ぐにそれも収まった。組織で甘い汁を啜り続けてきた者達ほど操作し易い者は居ない。

【危険物がどう言う物か、そしてどういった経緯でそれが作られたのかも、大して調べずに局員を向かわせるとは……、大した統治だな】

【企業時代の時はもう少し詳しい情報がありましたから、それに比べれば管理局の調査能力もたかが知れています。
人員不足とは言ってもちゃんとした統制が取れていれば、ここまでひどい人員派遣は無いと思われますが……】

シュープリスと念話で話すと、私は心の内で溜め息を吐いた。

この仕事に誇りを持っているリンディに気を使い、念話で話しているのだが……これでは陰口と余り変わらんな。

「そう言えば技師官に期待の新人が入ったそうだな?」

「マリエル・アテンザ技師官の事ですか?」

「そう言えば、エイミィがデバイスのメンテナンス要員として、自分の後輩が来るって言っていた時に同じ名前を聞いたわね。その彼女がどうかしたの?」

「その彼女のお陰で作業が大幅に進んでいるようでな。
以前は4年ほど掛かるところを3年後には、パッチプログラムとワクチンプログラムが完成する予定だそうだ」

「機能さえ正常に戻せば元の健全な魔導書ですし、同じ融合型デバイスの身としては嬉しい限りです」

「問題はその場所を特定するのが現状では困難な事だ。一応関係者であるグレアム提督に探りを入れたが、彼も未だに捜索中らしい」

「そうなのよねぇ……」

「「……」」

リンディには騙して悪いが、既に転送装置の使用記録から、グレアム提督の部下でありクロノの師匠であるリーゼ姉妹達が、地球へ頻繁に渡航しているのを管理職員から聞いているので、近いうちにリーゼ姉妹の後を追おうと思う。

だが私のプランが完成すればその意味はなくなるだろうが、ハードが固まってもソフトが無ければアクションは起こせない。

『あちら』が先に動くのが先か、こちらの準備が整うのが先かが勝負所になる。

「急いては事を仕損じる。ここはじっくりと下地を固め、確実に行動を起こせるように対策を行うべきだ」

「ええ、そうね」

私の言葉に、リンディがその瞳に強い決意を抱かせながら答える。

以前は管理局局員として、多大な被害をもたらし愛した夫を奪った闇の書を破壊したい一身に動いていた様子だったが、今では闇の書の経緯を知り、酌量処置できないか模索中の様だ。

「上層部は黙らせた。あとは我々現場の人間が上手く対処し、成功すれば大団円……とまでは行かないが、少なくとも最悪の事態になる事は無い。
だが不穏分子は出来るだけ排除する。
土壇場で空気を読まずに乱入されては困るからな」

「あなたに楯突こうとする局員なんて、一体管理局全体でどれくらい居るのかしらね」

「万が一と言う事も有り得る……が彼女は、少なくともアンジェは我々の邪魔をするような事はしないだろう。彼女は戦闘凶と呼ばれているが、戦闘凶としては比較的に頭の良い部類に入る」

それは彼女なりに今の生活に誇りを持っているからであり、でなければ彼女がここまで管理局に付く事は無かった筈だ。

彼女は強い相手と戦う事に関して無類の貪欲さがあるが、見境無く戦いを望んでいるわけではない。

事実今のところ地上本部ではゼストとクイント、聖王協会ではヌエラ・シャッハ、そして本局では私の4人が『被害』に会っている。

ただ稀に犯人側に強い魔導師が居ると、オペレーターの制止を聞かずに戦う為にそう思われているだけだ。

「彼女の事、よく知っているのね」

「あいつとは、AMSの接続テスト以来の同僚だ。彼女の戦い方や癖まで知り尽くしている」

そしてあと2人……私とアンジェが所属していた企業のリンクスは、まだあの壊れた世界に居る。

真改とオービエ、あの二人は別働隊としてGA本社に向かっていたが、主力である私達が敗れた時点で勝敗は決している。

GAのリンクスが出てこなかったのは、あの二人を迎撃する為に出撃していたからなのかもしれない。

仮定に過ぎないが、GAのリンクスにあの二人が後れを取る事は無いだろう。

何機か撃墜し両機とも中破で済むか、或いはどちらかが撃墜される事になるのは間違いない。

だがどちらにしろ、エグザウィルを防衛する事は叶わない。

GAは我々を撃破した後、アナトリアの傭兵か傘下企業のリンクスを向かわせ、あのリンクス戦争を終結させるだろう。

レイレナードが進めていたクローズ・プランの行方はどうなるか分らないが、緊急措置として次世代のリンクス候補をレイレナード関連の施設から退去させ、そのリンクス達にプランを受け継がせる案もある。

その案で結果がどのようになるのか分らないが、あの世界に救いの手が差し伸べられるのを私は願っている……。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第六話後編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/03/14 00:29
                 第六話 後編
             束の間の平和と動き出した歯車





〈Side ベルリオーズ〉

「どうしたの?急に黙り込んで」

そんな事を考えていると、リンディが私の顔を覗き込んで来た。

「いや、最近また厄介な案件が出てきて、どうやって外堀を埋めてやろうか考えていた所だ」

「最近……ジェイル・スカリエッティの事ね?」

「そうだ。
彼の擬体技術は義手に義足、そして人造臓器などの医療関係に使えるのだが、禁止されている人間のクローンに手を出したのが拙かった」

それでもクローンとは言え、ヒトの中身を全て機械に置き換えるなど狂気の沙汰であり、アクアビットの変態技術者が可愛く見えてくる。

「しかし私にはもう一つ懸念がある」

「これは……!?」

リンディに一枚の写真を渡し、彼女はそれをしばらく見ると息を呑む音が聞こえた。

「これって!」

「その『被験者』は、見つけた時には廃人に成って死んでいたそうだ」

その写真の『被験者』の首筋には、紛うことなくAMSプラグの接続端子が埋め込まれていた。

「私とアンジェ以外にも、この世界に来たリンクスかAMS技術者が来ており、そいつはジェイル・スカリエッティの研究に参加しているようだ」

「で、でも、AMS適性の人間なんてそんなに簡単に見つかるのかしら?」

「スカリエッティが、どうやって戦闘機人の被験者を集めているか忘れたか?
奴は被験者を自分の陣地内で調達可能で、その被験者の失敗データを元にAMSの適正を持つ遺伝子を作り、それを元にクローンを作れば良いだけだ」

「……」

私の淡々とした言葉に、彼女は酸素を求める魚のように口をパクパクさせている。

まるで自分の自己紹介をするように、私がジェイルのやり方を言ったのが信じられなかったのだろう。

「恐らく、既に数名のリンクス候補生が奴の手元に居る筈だ。
早急に居場所を炙り出して候補生を確保せねば、この世界でリンクス戦争が起こる。
管理局に居るリンクスは私とアンジェのみ、しかもアンジェは自分が乗っていた機体の装備しかない状態だ」

将来的戦力差は圧倒的に不利だが、今の内に何人か確保しておけばその差も縮まる。

ナカジマ夫婦にも、それに関する情報が入手次第、こちらに連絡を寄越すように言ってある。

「女帝と騎士が居ればもう少しこちらに傾くのだが……」

BFFとローゼンタール、両リンクスの仇名を言ってからはっとなり首を振る。

無い物を強請っても仕方が無い。現状の戦力で出来うる限りの対処法を検討せねばならない。

ともかく当面は、魔導師の育成に力を入れて管理局戦力の底上げを行い、情報管理の強化と『異物』の排除を優先する事に、重点を置くよう上層部に働きかけるか。

「私も丸くなったものだな」

「ここに来た時のあなたを知らない人がそんな事を聞いても、誰も信じないわよ?」

「自分がはみ出し者だというのは重々承知している。
だがこうもしなければ、管理局は犯罪者の温床になっていただろう」

半年前に比べれば大分マシになった方だが、それでもまだ改善の余地がある。

管理局の改革は始まったばかりだ。それ故にこの程度で弱音を吐く事は許されない。

「でも無理はしないでね?貴方が倒れられたら困る人がたくさん居るんだから」

「分っている」

今の出撃ペースは、ネクスト時代と同じくらいで疲れてはいないのだが、それでも社交辞令として肯定を示す返事をする。

「よろしい。じゃあそろそろお昼時だし、何か食べに行きましょう?」

「……食後に飲む紅茶に、砂糖が飽和状態になるまで入れないのならば、付き合ってやっても良い」

「う……だって、甘いのが好きなんだからしょうがないじゃない!」

「甘い物自体を取るのがいけないとは言っていない。ただもう少し限度を考えろと言っているのだ」

「リンディ提督の糖分摂取量は、通常の人間が摂取する量の約5倍です。常人ならば既に肌荒れの発生や糖尿病になっている量ですので、私からも摂取量を減らすように進言いたします」

「ついでに言うとクロノからも、どうにかするようにして欲しいと言われている。息子に泣き付く事は出来んぞ?」

「う~、クロノの裏切り者ぉ!」

リンディの叫び声を聞き、通路で屯っていた局員達がこちらに視線を向けてくる。

管理局の提督が何故か通路の真ん中で、息子の名を呼びながら半泣きで叫んでいるのだ。

かなり目立つのは間違いない。

「しかし、息子にまで心配されているようでは説得力が無いな。
今後からは糖分摂取量に気を付ける事だ」

「ううう……」

私の言葉にリンディは、猫背になりながら情けの無い表情で涙を流していた。

そこまで甘い物が欲しいのか……。

「……確かミラクルフルーツと言うのがあったな。地球原産の物だが、グレアム提督を経由して苗がミッドにも入っていた筈だ。
何でも一粒噛めば、酸っぱい物が甘くなるらしい。
恐らく舌で甘く感じる箇所以外の場所を実に含まれている物質で埋め、擬似的に甘く感じるように出来るのだろうな」

「それよ!」

突然リンディがガバッと顔を上げ、私に指を刺しながらそう言い放った。

「確かに甘い物になるけど、別に糖分を大量に取っている訳じゃないからクロノが心配する事ではないわ!
それに植物なんだから十分な光量と水を与えればまた実が成る筈、もちろん実は別売りされているのよね!?」

「あ、ああ、確かに実は別売りされているらしいが……」

「じゃあ苗の分が無くなればそれで補えるわね。それから……」

そこからリンディはブチブチと呟き始めた。

事情を知っていても、見ている方が怖くなるな。これは……。

「……もしかしなくとも私はとんでもない事をしてしまったか?」

「過程はどうあれ、糖分の大量摂取からは外したのですからそれを喜ぶべきでは?」

「そう言う事にしておくか」

シュープリスの助言に私はそう判断する事にした。

真性の甘党と言うのは、ここまで甘い物に固執するものなのか……ある意味、珍しいモノを見たな。

しかし何時までもこのままでは、リンディの体裁に悪影響が出るな。

「いい加減戻って来い。昼食の時間をふいにするつもりか?」

「はっ!?」

私の言葉に今思い出したかのようにリンディは顔を上げた。

「えーっと……えへ?」

「「……」」

空調以外に空気の流れが無い筈の通路だというのに、冷たい風が吹いたのは気のせいか?

「まぁ……疲れているのだろう。今日の所は砂糖たっぷりなり何なりは眼を瞑ろう」

「そうですね」

「ちょっ、なんなのよその可哀想な人を見るような眼は!?なによ?!私が趣味に考えをめぐらすのがそんなに悪い事なの!?」

「い、いや、そこまで言ってはいないが」

「そ、そうです艦長!」

なんだこの傍から見たら面白い状況は、私が何かしたか!?


その後数十分掛けてリンディを宥めた後、昼食にありついた。

何故か代金は私が払う事になったが……。


―閉話休題―


[PM2:36 ミッドチルダ 首都クラナガン 喫茶『カラード』]

「あーおいしかった!」

「何故昼食代だけで4桁も払わなければならんのだ……」


全額の内、4桁の札6枚と3桁の硬貨3つが消えて無くなった財布を見つつ、私はぼそっと呟いた。

「え?だってあなた質素倹約して大分溜まっているじゃない?」

「……他人の懐具合を調べるのは余り感心せんぞ?」

「良いじゃない。
部下の財政状況を見るのも上官の勤め、別にこうやって奢って貰うために調べているわけじゃないんだから」

「この状況では、説得力が無い発言だ……っな!?」

私は大幅に残金が減った財布を、リンディに見せつけながら言うと、その財布が下から伸びた手に捕まれて消え去った。

視線を脳内で仮想トレースした範囲に向けると、そこには薄汚れた病衣を着用し、ぼさぼさではあるがスカイブルーの髪を持った幼女が居た。

その手には私の財布が握られている。

「!」

手にある財布を見られたのを感じたのか、幼女は裸足のまま駆け出す。

「あの子!」

「慌てるな。見たところ彼女は衰弱しているようだ。冷静に後を追っていけば隠れ家まで案内してくれる」

「っ……」

「非情に思うか?だが上手くいけば他の仲間を一緒に捕まえられる」

リンディが返事をする間を与えずに私は追跡を開始する。シュープリスも私の後ろで追随する。

「あ!?待って!」

後ろからリンディの声が聞こえてくるが構ってはおれん。

接着式のトレーサーを付けたとはいえ、入り組んだ場所で離されては信号を捕らえ難くなるからな。



「ここか」

幼女の後を追って辿り着いたのは一軒の廃ビルだった。

「そのようです。このビルの二階からトレーサーの信号が出ています」

「ふむ……」

「はぁ……はぁ、や、はぁ、やっと追いついたわ……」

入り口辺りにトラップなどが仕掛けられていないか確かめ、入ろうとした所でリンディが追いついた。

「リンディは聖王医療院の救急車両を呼んでここで待っていろ。ビル内の探索は私とシュープリスが行う」

「はぁ……はぁ……、わ、ケホッ、分かったわ」

息を切らしても、連絡を取る手際の良さはベテランと言ったところか。

「何かあれば信号を出す。その時は武装隊の突入も考慮しておいて欲しい」

リンディが首肯するのを確認し、私とシュープリスは廃ビル内へと入っていった。



「随分と月日が過ぎているな」

私は大きくひび割れしたコンクリートの壁に触れながら言う。

「このビルは、この管理局の愁明期に建てられた物のようです。
そしてこのビルに入っていた会社が次元犯罪者の資金源だという事が判明し、武装隊による強制査察が行われた後放置されていたようです」

「管理局愁明期時代の残り香……か」

恐らくこの廃ビルは、その折に酷評を立てられテナントが来ずに、そのまま打ち捨てられていたのだろう。

私とシュープリスは崩れかけている階段を慎重に登り、目的の部屋の前まで辿り着き、数名の人の気配が漏れる扉の前まで慎重に歩を進める。

『……』

『……』

扉の前で息を潜め、中から人が話す声が聞こえてきた。

【ここだな?】

【はい、トレーサーの反応はこの扉の向こうです】

【では合図したら突入するぞ。フラッシュグレネード、スタンバイ】

【フラッシュ、スタンバイ】

私は扉を少し開け、その間隙にシュープリスはフラッシュグレネードを投げ込む。

【3……2……1……―ズバァン―GO!】

扉を閉め、中でグレネードの炸裂音が響くのを確認してから部屋へ突入する。

「動くな!窃盗の容疑で逮捕する!
……子供か」

試験的に作った拳銃型のデバイスを振りかざして周囲を警戒すると、そこには先程のスカイブルーの髪の幼女の他に、スプリンググリーンと銀髪を持った二人の少女が気絶していた。

「どうやら、先ほどのフラッシュグレネードで気絶したようです」

「……」

「マスター?」

私は彼女達に近寄り首元を確かめた。

「やはり……形状は違うが、これはAMSプラグだな」

少女達の首には、AMSプラグらしき無機物が付けられていた。

「では彼女達は……」

「ジェイル・スカリエッティ、もしくは奴が関与している施設から逃げて来たと見るべきだな」

遠くから聞こえてくるサイレンを聞きながら、私はそう断言した。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第六.五話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/03/17 23:32
                 第六.五話
                  茶会





〈Side ベルリオーズ〉

新暦61年 7月6日 13:00時
ミッドチルダ首都 クラナガン中央区 喫茶『カラード』

「では、これより『茶会』を始める」

本来4人用の席に私を含めた9人が、宛ら円卓会議のように着席していた。

テーブルには、各々が注文した飲み物とささやかな菓子が並べられ、参加者全員が私服の状態で店内の奥の席に居る為、傍から見れば同窓会を催している様に見えるだろう。

ここに出席しているのは私とリンディにレティ、アンジェ、レジアス、ゼスト、ナカジマ夫妻とメガーヌと言った陣容だ。

「議題は例の少女達とスカリエッティの関連性、そして現在進められている対闇の書対策か?」

「その通りだ。それと各自の懸案事項を提出し、相互に連携を図りたいと思う」

レジアスの言葉に私は肯定の意を表わし、それに少々議題を加える。

「少女達のAMSプラグについてだが、シュープリスが簡単に調べた結果、あれには私と同様に融合型デバイスの元データが入っていた。
恐らくはスカリエッティかAMS技師が、古代ベルカのデバイス技術を調べ上げて組んだのだろう」

「AMSプラグと融合型デバイスとの関連性はあるのか?」

「現時点ではなんとも言えないが、恐らくは当事者とデバイスとの適合率が高くなる働きがあるのだろう。
だが、それならばそのデバイスデータを入れたAMSプラグの装着者だけのワンオフになってしまう為に、接続試験に失敗した時の事も含めれば費用対効果は恐ろしく悪い。
だが成功すればそれだけで強大な戦力が約束されるだけに、スカリエッティとしても判断し辛いのだろう」

「ふむ……」

「「……」」

私の見解にレジアスは黙り込む。

アンジェ以外の者も表情を険しくさせている所から、スカリエッティとAMS技師の非人道さに虫唾が走るようだ。

「そして少女達の件だが、3人とも今は聖王医療院のベッドで眠っている。
生きてその実験施設から脱出した事から、接続試験に合格した成功例なのだろう」

私はそこでコーヒーを一口含む。

「だが彼女独力での脱出は難しい。
恐らくは別件でこの事を知った者が、彼女達が脱出する手引きをしたのだろう」

「そう考えるのが妥当だろうな。
スカリエッティとしても、自らの情報の漏洩に関しては相当注意する筈だ」

「その分その介入者は情報集めに関して言えば、管理局以上の物を持っているんだろうな……っと、これは身内である俺が言う事じゃないな」

「いや……確かにゲンヤの言う通りだ。
管理局は情報戦には大分遅れを取っている」

「それだけに犯罪者から付け込まれる隙も多いし、それは上に行くほど顕著に成るわ。
ベルリオーズの大量粛清で大分マシになったけれど、それでも悠長に構えていられるほど管理局の情報管理が固くなった訳じゃない」

「「……」」

レティの発言に皆が黙り込む。

現状の管理局の情報などの管理状態は、巨大組織と言う枠で言えば及第点と言った所だ。

それと同時に管理局と言う組織が、組織運営が相当『下手』だと言う事も浮き彫りとなった。

まるで故意にそうしているかのように……。

「話が逸れたな。
私が少女達の事を話したのは、何もスカリエッティや協力者、彼女達の脱出を手引きした者を突き止めたい訳ではない。
彼女達の保護責任者を誰かに頼みたいのだ」

「え?あなたが引き取るんじゃないの?」

メガーヌの言葉に私はやれやれと首を振る。

「……メガーヌ、私は遊撃部隊だ。何時任務から戻るか分からない男に、重要参考人を預けるというのは仕事を放棄するのと同義だ」

「う……確かに認識が甘かったわね」

「それに、彼女達はクローンではない可能性もある。
レジアス、すまないが捜索願が出されていないか調べて貰えないか?」

「言われなくともそのつもりだ」

当然だといった様子で、私に返事を返したレジアスを見て私は頷く。

「少女達の話はここまでにしよう。次は対闇の書戦略について」

「その事で私の方から注意する事がある。
とある情報筋から拾った情報だが、本局の某提督が地球……、第97管理外世界に人材探索の命で人員を派遣している」

「ほう?」

この話にレジアスが食い付く。

「私は近い内……と言っても数年以内にと言う事だが、この人物が行動を起こすと見ている」

「なんでまたそんな風に思うんだ?」

「その提督の使いは、地球のある街にしか探索に出ていないからだ。
これは何らかの危険物が、その場所にあることを示している」

「親戚か家族と言う可能性は?」

「それはまず無いだろう。それならば本人が転送装置を使用して行けば良い話だ。
私は時が来れば、この提督に釘を刺しに行こうと思う。自らのエゴの為に被害を広めるわけにはいかんからな」

「それでも強行した場合は?」

「こうするだけの話だ」

私は自分の首を、後ろから前に手刀で切断する仕草を取った。

「断頭台は敵味方関係なくその刃を振るう……か。内通者にとって君ほど恐ろしい者はいないだろう」

ゼストが感嘆とした風に言う。

「ただ物理的に抹殺するなど生温い。
その立場を失わせただけでなく、社会的にも抹殺した上で闇に葬るのが私の流儀だ。
殺るからには徹底的に殺る、そうしなければ後が怖いからな」

うわぁ、とゼストとレジアス、アンジェにシュープリス以外の皆が私にその様な表情を向ける。

「また脱線したな。
対闇の書用の修正パッチとウィルスプログラムはもう直ぐ完成する。
今は聖王協会と共同でシミュレーションを行っており、それが終わり次第最終調整が行われる」

「その後の裁判などはどうするつもりだ?」

「実行犯が闇の書……夜天の書とは言え、元凶が夜天の書を改変した者だからな。
どれ程手を尽くしても最低3年間の無償奉仕期間の適用、これは免れんな」

「その時は私の手元に置いておくが」とだけ付け加えた。

「大きな案件はこの位だな。後は皆からの懸念事項などを言って貰い、その対処について話し合おう」

その後数時間その茶会が続き、最後に追加で頼んだ物の料金を払った後、店から出て行った。










後書き

やっちゃいましたよ「お茶会」ネタ、まあいつかはやらないといけないモノですからご容赦願いたいです……。
今回は所謂幕間の様なものです。
前回保護した少女達の扱いは次回に持ち越し、ついでに協力者などの伏線をそこら中に張っちゃいましたw

さてさてどうなる事やら……。

それよりもシュープリスの影が薄い……、せっかく擬人化させたんだしどうにかしてやりたいですねぇ……。
闇の書が出てくれば大分出番が増えそうではあるんですが……。

色々と益になったお話でしたので、これを元に更なる高みへ目指したいと思います。それではまた次回で~



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第七話前編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/03/29 11:38
               第七話 前編
                 決断





「囲まれたな」

「ええ、そうみたいね」

深い森の中で黒いBJを纏った男の人と、ピンク色のBJを纏った女の人が交互に確認しあう。

「機関……か、スカリエッティとも関わっていたのは知っていたが、同時にここまで大規模な魔導師部隊を持っているとは驚いた」

「そこまで分からなかったの?」

『すまない。
僕でもここまで大規模な部隊を隠しているなんて、思っても見なかったんだ』

「まあ、お前の古巣を潰した奴等のお仲間だからな。
情報戦では向こうが一枚上手だったという事か」

「それよりもどうするの?
この娘達を連れたまま戦うわけにも行かないし、何より機関も同じ様な事をやっているから、彼等にしてみれば格好の実験材料よ?」

「それでもやるしかないだろう。……やれるな?」

『はい、マスター』

「はぁ……やるしかないみたいね。お願いできるかしら相棒?」

『私はあなたの盾であり矛です。元からそのつもりなのですから』

『僕もサポートするよ』

呆然としている私達を他所に、彼等はどんどん話しを進めていく。

「すまないがここでお別れになる。
ここから西へ進んでいけば、クラナガンという大きな街がある。
君達はそこに潜んでいてくれ」

「で、でも!あ……」

そう言って男の人は、厚みのある封筒を私に渡して頭を撫でた。

「悪いがここで問答をしている余裕が無いんだ」

「その封筒には地図と路銀が入っているわ。地図に書いてある場所で待機していて」

「しばらくすれば俺達の仲間が迎えに来る。俺たちの事は構わず……っ!」

近くで何かが爆発する音が聞こえてきた。

「奴ら、無差別に砲撃魔法でここを焼き払うつもりのようね」

「くっ!」

「悪いけど、ここでお別れね。運があれば、お互いまた会いましょう!」

女の人がそう言いながら地面を掛けていき、男の人もその後を続く。

「待って!行かないで!」

〈Side ???〉

「待って!……ここは?」

私の目が覚めた時、最初に眼に映ったのは真っ白い天井、周囲を見渡そうと顔を横に振ると私が横になっている左右には、私と同様にあのお姉さんとお兄さんの手引きで、一緒に脱出できた子達がベッドの上で眠っていた。

「良かった……」

それはこの娘達と一緒の部屋に居られたからなのか、それともここがあの部屋じゃなかったからなのか……、その判断は現状では出来そうにない。

窓がある事に気が付いて、ふらつく体を起こして壁を伝い、なんとか窓際まで移動して窓を開けると、外から吹き込む風が私の銀髪を優しく浚う。

「外……?」

その窓から見えるのは色とりどり草花と、青空と、白い雲と、見覚えのある形の建物が遠景できた。

「あ……」

ふいに涙が零れる。

「あぁ……」

悲しくないのに、痛くないのに、涙が零れ落ちる。

そこでこれが嬉し涙なのだと分かった時、ガラッと扉が開く音が聞こえて、そちらに体を向けて身構えた。

「……もう、大丈夫なのか?」

その人は黒い服を着て、黒いサングラスを掛けていた。

その人の体から出ている空気は、とても冷たくて、どこまでも孤独で、でも何故か哀しさが溢れ出ていて……。

「この様な時、どのように声を掛ければ良いのか分からないのだが、ここは以前まで君達が居た施設ではない」

「あなたは……誰なんですか?」

涙を拭いながらその男の人に問い掛ける。

「……私は時空管理局本局、巡航L級8番艦アースラ兼試験遊撃部隊所属の、ベルリオーズ・レイレナード准提督兼一尉だ」

「……随分と、兼任が多いですね」

「まぁ、管理局も人手不足でな。処理できない事は優秀な魔導師に回ってくる」

「お陰で色々と遣り易くはあるが」と付け加えて、ベルリオーズさんは苦笑しながら私の傍に近付いてきた。

「一昨日は悪かった。あの時は窃盗容疑で君達に対応していたから、フラッシュグレネードで気絶してもらった」

「……」

突然開かれた扉の隙間から、投げ込まれたあの細長いスプレー缶みたいな物、多分あれの事だと私は判断した。

「君達の事情は、管理局の中では私がよく知っている。
その首筋にあるAMSプラグの事も……な」

「!?」

そう言って彼は自分の首筋にあるモノを私に見せた。

それは私の物とも、あの娘達の物とも違う。けれど同種の物だと、私の首筋にあるソレがそう感じ取った。

「君の名前を教えて貰えないだろうか?」

「……エネ」

これが、私と父親代わりになる彼との出会いだった。



〈Side ベルリオーズ〉

状況を説明しよう。

私は茶会を終えた翌日、保護した少女達の面会に来た所、恐らく一番年上の少女であるエネとのファーストコンタクトを終えた。

幸い彼女は私に対して敵対的な意志は抱いていないので、彼女を基点に残り二人とも友好的な関係を作ろうと思う。

「エネか。苗字はどうした?」

「私捨て子だったの、でも同じような境遇で拾われた子供の孤児院で生活していて、それから……」

その時彼女の体が震えていた。

「それ……から……」

「分かった。その先は言わなくて良い」

どうやらAMSの実験が、彼女にとってトラウマになっているようだ。

「わた、私、怖くて、ぐす、でも、周りの人達は、そんな私、ぐす、達を、ひっく、珍しい物を、見る、みたいに……」

「ああ、辛かったのだな。私も同じ経験をした事があるから良く分かる」

エネの体を私の体にもたれさせて背中を叩いてやる。やった事も無いと言うのに自然とこういった行動を取った自分に、少々驚いている。

「お兄さん、も?」

「ああ、私はオリジナルと言って、最初期のリンクスだ」

「リン……クス?」

「そうだ。繋がる者と言って、機械を自分の体のように動かせる特異技能者だ」

「……その言葉、リンクスって言う言葉は、聞いた事がある……違う意味だったけど」

「ほう?どういった意味だ?」

私はエネに続きを促した。

「融合型デバイスとの適合率を高める為の物だって、古代ベルカの力を自由に扱う物だって、紫の髪の男の人が自慢するみたいに言っていた……」

「それはこの男ではないか?」

私は懐からジェイルの写真を取り出してエネに見せた。

「うん、この人が言っていた」

「……よく喋ってくれた。そして大した精神力だ。
君はこれの実験を行われたのか?ここにコードを繋いで何かを動かす物だが」

「ううん、でも連れて行かれて、戻ってきた子は殆ど居なかった……」

「そうか」

恐らくAMSの実験をされて廃人になり、そのまま廃棄されたのだろう。

「でもあの娘達は連れて行かれて戻ってきたの、その時あの人達が来た……」

「君達の脱出を手伝った者か?」

「うん……、一人は女の人、もう一人は男の人だった。プロジェクトPとか、管理者とか言っていたけれど、何の事だか分からなかった」

(プロジェクトP、管理者、また新しい単語が出てきたな。
プロジェクトPは恐らくスカリエッティ、或いはスカリエッティの協力者が行っている物なのだろうが、管理者とは一体何の事だ?)

謎が謎を呼ぶとはこの事なのだろうと、私は結論を付ける。

あの『老人』達は管理者と言う器では無い、その事からして管理者と言うのは、もっと別の存在なのだろうな。

「あ、あの、お役に立ちましたか?」

「ああ、協力に感謝する。
だからと言って何かをしてやれるわけではないが、出来うる限り君達3人の安全を保障し……「うにゅ……」ん?」

声がして振り向くと、スプリンググリーンの髪の少女が目元を擦りながら起き上がり、周囲を見渡す。

「……っ!?エネ姉に何をしているのよ!」

私とエネの姿を視認したその瞬間、彼女はハッとしたように両目を見開き、そう叫んだ後消耗した体でエネと私の間に割って入る。

「いっつ!」

「ちょ、ちょっとメイ!大丈夫!?」

「体力が消耗している上に、痛んだ体でよくそこまで動けるものだな」

私がメイと呼ばれた少女に声を掛けると、彼女はキッと吊り上げた眼で私を睨む。

「残念ながらここは君が思っている場所ではない。
ここはミッドチルダのベルカ自治領内にある聖王医療院だ。外の景色が見えるのが何よりの証拠だろう?」

「メイ、この人の言っている事は本当よ。ここはあそこじゃないし、この人は管理局の偉い人なのよ?」

「第一君達を連れ戻したのならば、この様な設備を用意しておく必要もあるまい。それ以前に君たちに暗示処置を施し、操り人形にする筈だ」

「……それでも私はあんたの事を信用はしない」

「こら、メイ!」

「いや、それで良い。その答えが聞けただけで私は十分だ」

「「?」」

私の発言に二人は怪訝な表情を浮かべる。

理解できんと見える。

「純粋に他者を信用するよりも、そうして拒んでくれた方がまだ安心できると言う事だ。
変装した奴等の仲間が、君達を浚いに来ないとも限らない」

「「!」」

そこで先程の言葉の意味を理解したのか、二人は怯えの感情を表わした。

まだ子供の彼女達には少々酷な事だが、ここは現状を完全に把握してもらった方がこちらとしてはやり易い。

「欲を言えば君達に管理局へ入って貰い、仕事を手伝って欲しいのだが……これは無理な注文か」

エネから聞いた話だと、このメイという少女ともう一人は、融合型デバイスを扱う事が出来る事は分かっている。

私とシュープリスが持っているネクストパーツのデータを元に、彼女達専用の融合型デバイスを作ろうと先程まで思っていたのだ。

エネ自身もスカリエッティかAMS技師が選んだ素材だ。

それなりの戦力になるに違いない。

それにこれで、彼女にも元の機体を扱える手がかりも手に入れた。

あとは製作に取り掛かるのみだ。

「勿論、それは君達が嫌がる事だと言う事は承知している。
だが、確実にスカリエッティとそのAMS技師を追い詰める力と成る。
一応は考えておいて欲しい。
このまま養子として引き取られ、世間の片隅で震えながら状況が進んで行くのを静観するか、自らが持つ力を使って現状を打破するかを……な」

彼女達には酷な選択肢になるが、ここではっきりと自らの立ち位置を明確にしなければ周囲を巻き込み、また新たな悲劇を生み出してしまうのは必定だ。

「今は……、今は答えを決める事は出来ません。少し、考えさせて頂けませんか?」

「そうだな……だが、時間は余り無いと思った方が良い。
君達が答えを決めたら私を呼んで欲しい、最優先でここに来る。
君もそれで良いな?」

「「え?」」

私が彼女たちの後ろを見ながら言い二人は同時に振り向くと、そこにはスカイブルーの髪の少女が上体を起こしていた。

「リリウム!」

「体は大丈夫?」

「うん」

エネとメイの問い掛けにリリウムと呼ばれた少女は短く、そしてハッキリと返事を返す。

「……それでは私はこれで失礼する。
管理局に従属したくないのならば、嘱託魔導師として管理局に関わる事も出来るが、その分干渉できる範囲が狭くなる。
悔いの無いようによく考えて欲しい」

「はい……」

エネの返事を聞くと、私は連絡先を彼女に渡して病室から出た。

「よろしかったのですか?」

病室の扉を完全に閉めると、扉の脇で待機していたシュープリスからそう聞かれる。

「下手に返答を急いては、彼女達の情緒に悪影響を及ぼす、彼女達からコンタクトが来るまでは保留だ」

「承知しました。では、私はミッド地上本部にて彼女達の身元確認を行います」

「ああ、頼む」

シュープリスにそう返した瞬間、私は次の手段を講じる為に思考の海に入って行った。

全ては勝利する為に……。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 第七話後編
Name: コーラルスター◆559fb833 ID:e0fd0e39
Date: 2009/04/09 15:36
                第七話 後編
                  選択




〈Side エネ〉

ベルリオーズさんが私達の病室から出て数時間、外に浮かんでいる太陽は、幾ら夏真っ盛りと言ってもすっかり傾いてしまっている。

あれから私達はお粥と軽いおかずを食べて、看護師の人に医療院の中を案内して貰って、本当にあの場所から出てきたのだと改めて実感した。

その間でメイとリリウムが、何時まで経っても戻ってこないから心配していたけど、ちゃんと戻ってきた。

もちろん、その後少し叱った。

「私達、本当にあそこから出られたんだね……」

「うん、そうだね」

「でも、私達に帰る場所はもう無い……」

そう、私達に帰れる場所は、あそこに送られた時に無くなっている。

私もメイもリリウムも、場所は違うけれど同じ孤児院の出身で、ある日里親に迎えたいって言う人に連れられて、施設に着いたときにはそれ自体が嘘だったと言う事を、私達を連れ出したあの二人から聞かされた。

あの孤児院は少しでも適性のある子供を選ぶ所で、入院した時と季節毎に行った身体検査の結果で、適性者を探し出して施設に送る仕組みだった。

だから、私達にはもう帰る場所は無い。

「エネ姉は運が良かったよ。私の直ぐ後がエネ姉の番だったから……」

「うん、そうだね」

そう、あの時はメイがあの人達に抵抗して遅らせた事で、その結果私の実験を行うのが次の日になったから、私はあの人の言う適性実験をやらずに済んだ。

その直後にあの人達が現れた。

そして決心する。

「……あのね」

私が切り出すと二人は私に視線を向ける。

「あの人の話、受けようと思っているの」

「……どうして?」

「私はこの目で確かめたいの、確かにこのまま証言をして、後は平穏の中で暮らすのも良いかもしれない。
でも、それだけじゃ足りない気がするのも確か、あの人はきっと強い人だと思うけど、もしかしたらあの人や私達を助けてくれたあの人達だけじゃ、切り抜けられない事もあると思うの、だから私は管理局に入る」

「「……」」

メイの問いかけに私はそう返し、二人共は私の話しに耳を傾ける。

「管理局に入ったからといって、直ぐに関わらせてもらえないかもしれないけど、私たちを救ってくれたあの人達に、少しでも報いたいのよ。
だから……「あーもう!」え?」

「エネ姉はあの人の誘いに乗るんでしょ?だったらウジウジ悩んでいてもしょうがないじゃない!
悔いの無い様に選択をしろって、あいつも言っていたでしょ!?」

「ちょ、ちょっとメイ、声が大きいわよ」

「ああ、ごめん……とにかく、エネ姉は管理局に入ることに決めたんでしょ?」

「う、うん……」

「だったらさ、後は突き進んじゃえば良いじゃない!途中で山があろうが谷があろうが、そんなの乗り越えて飛び越えて行こうよ!」

「そ、そうね……『行こうよ』?」

メイの台詞に驚いて反応が遅れたけど、最後の一言が引っ掛かった。

「うん、私とリリウムも一緒に入る!」

「え、ええー!?リ、リリウム、それ本当なの!?」

「うん、さっきメイお姉ちゃんと話し合って決めたの」

私が問い質すと、リリウムは何時もの素っ気無い口調で答えた。

「どうして……」

「だって、エネ姉だけを危険な目に会うかもしれないって言うのに、それを私達は黙って遠くから見ているなんて出来ないよ!」

「それにあの人は言っていたから、私達が持っている力は、あの人達に対抗する力になるって」

「だ、だけど……!」

私は躊躇したけど、直ぐにハッとなる。

戸惑ったのは事件に関わりたいという気持ちも分かるし、この子達に平穏な生活を送って欲しいと言う思い、そのどちらを取るか迷ったから、でも管理局で働くという事はこう言うとっさの判断が必要になる。

「そう……だよね」

「エネ姉?」

「分かった。貴女達も、管理局に入れてくれるように頼むわ」

「やった」

メイはリリウムとハイタッチを交わす。

「でも、これだけは約束してね?
無理をしない事、何があってもベルリオーズさんの言う事を聞く事」

「言われなくても分かっているわよ。
さっきは目の前に、あいつが行き成り居たから動揺してあんな事言ったけど、管理局に入ったらあいつが上司になる可能性もあるでしょ?
こっちは協力させて貰っているんだから、そんな馬鹿な事しないわ。あいつの事は気に食わないけどね!」

「もう……、リリウムは?さっき言った事は守れる?」

「……一つ目は少し難しいけれど、二つ目は守れる」

「……それで良しとしましょう」

世の中にはああいう人を人として扱わない人が居るのだから、少しは無理をしないと解決は難しいかもしれない。

私は14歳、メイは13歳で世の中を少しは知っているつもりだけれど、リリウムは10歳を少し越えたくらいなのに、これだけしっかりしているのは、孤児になる前の生活が良かったからなのかもしれない。

あくまで推測だけどね。

「じゃあ、明日ベルリオーズさんに連絡するわね」

二人が頷くのと同時に、夕食を運んできた看護師さんがドアをノックした。



〈Side ベルイオーズ〉

翌日、リンディの執務室で彼女の仕事を手伝っていると、私の携帯電話にエネから返事の電話が来た。

「そうか……分かった。確認するが、後悔はしないな?
……分かった。
では後日人事部の者と共にそちらに向かう。
ああ、君達が思うように進めば良い、では切るぞ?」

私は受話器を置き、彼女達の個人データを見直す。

エネは彼女の証言通り根っからの孤児で出生した家は不明、しばらくは別の孤児院で世話になっていたが火事が起き、焼け出された後『孤児院』に入れられて今に至る。

メイはグリーンフィールドと言う中流家庭の生まれだが、半年前に親を事故で失い親戚を盥回しにされ、エネとは別の『孤児院』に入れられ今に至る。

最後のリリウム、彼女は二人とは少し違いウォルコット家という名門の生まれだが、祖父の遺産相続に両親が負けて離散、『孤児院』に入れられて今に至る。

「まだ小さいのに……」

「この様な事、数多くある次元世界では極一部の出来事であると同時に、世の中に溢れる話しの一端に過ぎない。
孤児院が本物かどうかの違いは別だがな」

横で書類のチェックしていたリンディの言葉に、私はそう答える。

戦争、人災、天災、身内のゴタゴタ、病や寿命、それらによって肉親を失う話など、集めていては切りが無いほど出てくる。

結局はその瞬間になってみなければ分からない事態も多くあり、少しでもその可能性があるのならば、それに備える事も可能ではあるのだが、死は突然やって来る上、理不尽なまでに全てを奪ってゆく。

だが死は生物である限り必然的にやって来るモノであり、それを回避する手段は無い。

「とにかく、私は明日レティ提督と共に彼女達の元へ向かう。君は……リンディ?」

そこでリンディが私を凝視している事に気が付いた。

「あなたはあの娘達の保護責任者に成らないの?」

「君も知っている筈だ。
ジェイルの件以外は、もう直ぐ終わるとは言え、私は幾つもの事件捜査を扱っている。
次に来る案件の事も考えれば、とても養子を取る暇など無い」

リンディの突然の発言に、私は彼女を見ながらそう答える。

現に私は忙しいのであり、今まで管理局で盥回しにされていた案件を、私に引き受けさせようという動きもあるくらいだ。

どこでも新しいモノは嫌われるものだが、この管理局の老人達の思考は、理解し難い程に酷いレベルの排他的思考であり、これまで管理局と言う組織が続いたのが軌跡と言える。

「それなら管理局の訓練校に入れてはどうかしら?
校長はファーン・コランド三佐、元戦技教導隊員の出身で人柄も良いし、理解力もあるから貴方の眼鏡にも適うと思うけど?」

「ふむ……」

少々事情聴取の為に時間を取るが、それでも多数の入局希望で、臨時に発生した冬季の入校には間に合うだろう。

そして訓練校とは言え管理局の施設であり、現段階で恐らく準備段階である彼等が、管理局の施設に手を出す事は出来まい。

とは言っても、警備能力は他の訓練校より上げて貰うつもりだが……。

「訓練校の最低入校年齢は10歳から、リリウムさんはギリギリ対象範囲内だし、あなたが基本的な魔法を仕込めば、十分に入校可能だわ」

「彼女達のリンカーコアは調べたのか?」

「ええ、3人ともリンカーコアの存在を確認できたわ。
エネさんのものは平均的な数値だけど、魔力総量ではメイさんとリリウムさんが、あなたの1.5倍の数値を出しているし、魔力回復量も貴方とほぼ同じ数値ね。
世の魔導師達にとっては羨ましい高スペックね」

「これだけ高い能力は珍しいのだけど……」と、リンディは付け加えたところで、私や彼女たちの様な存在はイレギュラーの様だ。

「そんなに珍しい物なのか?」

「それはそうよ。
魔力を消費してもすぐに回復し、事実上術者の体力が無くなるまで魔法が使えるなんて、今までの魔導師達から見れば、貴方達のスペックはロストロギア並のものよ?」

暗に危険物だと言われている様な気が……いや、実際そう言っているのだが、今はあの三人が戦力に成る事を喜んでおこう。

「保護責任者は貴方、後見人は私、入学までの勉強や魔法の訓練は貴方と私、そしてアースラスタッフで行うという事で良いわね?」

「最終的にはそうなるのだろうな。それに私には保護した手前もある」

「あの娘達の事はこちらに任せて頂戴」

「ああ」

リンディが言わんとしている事は分かる。

つまり、もう少し自分達を頼って欲しいと言いたいのだろう。

まったく……ここの連中は人が良すぎる。

それが心地良くもあるのだが……な。

その後詳細を調整した後、翌日に私とレティが彼女達の元に向かった。

私が彼女達の保護責任者と成る事に、レティと三人はそれこそ信じられないものでも、見たかのような眼で私を見ていたが、最終的に三人はそれを受け入れてくれた。

後日その事をナカジマ夫妻とゼスト、メガーヌにレジアスを酒場に集めて話すと、「それは仕方ないだろう」と言われ、少々癪に障ったのでSCG(空間チェスゲーム)で勝負を仕掛け一方的な試合で5人抜きし、飲み代を払わせた。

半年後、基礎的な魔法と知識を仕込んだ三人が訓練校に入校、私も未解決事件に借り出され、リンディ達も任務に従事して2年の時が過ぎ、私はようやくジェイルが行っている研究の片鱗に触れる事となった。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 最終話前編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/04/18 23:00
        第八話
     戦闘機人、暗躍する陰





〈Side ベルリオーズ〉

―バシュン―

MPA(Magic Primal Armorの略称、和訳すると魔力粒子装甲となる。対魔力防御膜では長い為こちらに言い換えた)の表面に魔力弾が命中した音が聞こえるが、魔力弾はMPAに遮られて消失し、魔力粒子に帰っていった。

【マスター、MPA耐久値が60%を切りました】

「分かっている。オゴトで一気に敵勢力を一掃するぞ」

私の言葉にシュープリスは、返事よりも火器管制制御を優先する事で私に答える。

ガイドラインを敵集団、……昨今になって現れたディソーダーと呼ばれる、機械知性体の群れに合わせる。

奴ら個々の性能は大した事は無いが、群れになって射撃魔法を撃ってくる為、一般の魔導師にとっては厄介な相手だ。

そう考えているうちに私は砲撃を放ち、通路を塞いでいたディソーダー群を殲滅した。



現在の状況を説明しよう。

あの三人の身柄を、私が保護責任者として預かり、半年間私とアースラに所属する武装隊の訓練を受けた後、無事に訓練校に入学させる事ができた。

元々やる気があった為、三人は何も文句を言わずに訓練を受けたのが、私にとっては好印象だった。

今では訓練校に入って丸2年が経っており、何も問題が無ければ来年の冬には、訓練校を卒業する筈だ。

その間に起こった出来事といえば、ARMSシリーズの既存兵装と、新機軸兵装の実装が完了した事と、アンジェの機体であるオルレアが復活した事くらいだ。

アンジェも最初はまた愛機を扱えるのに歓喜し、その際の流れで模擬戦に付き合わされたが、同僚の喜びに水を指すのも無粋だろうと思い快く引き受けた。

まぁ……以前よりも彼女の凶悪さが増したが……。

ああ、あの三人用のデバイスも調達できた。

エネはインテリジェントデバイスだが、メイとリリウムは私とアンジェ同様に融合型デバイスだ。

夜天の書のデータと、シュープリスのデータによって安全性は確立されている。

それについては後ほど説明するので、今進行している現状の説明に入りたい。

つい先日地上本部の捜査により、スカリエッティの本命の研究が行われている研究所を発見、それを襲撃している最中だ。

構成メンバーは私とアンジェ、ゼスト、クイントとメガーヌの他に武装局員多数、後方にはゲンヤと、以前行った密輸組織会合場所襲撃に、私のオペレーターだったエマ・シアーズ准尉、そして医療班と糧食班が待機している。



「こちらベルリオーズ、B―3エリアの制圧した」

『こちら指揮車、確認しました。
隣のエリアB―4にてクイント、メガーヌ両陸曹の部隊が、負傷した局員を抱えて防戦していますので、そちらに向かってください』

「分かった。ルートを頼む」

『少々お待ちを……送ります』

三次元マップが投影され、そこにクイント達が居るエリアへのルートが反映される。

「ルート確認した。行くぞシュープリス」

【マスターの御心の儘に】

シュープリスからの返事を聞き、魔力ブースタを吹かしてクイント達の元へ向かった。



〈Side クイント〉

「第1分隊、撃て!」

「第3第6分隊は負傷者の搬送を優先して下さい!その他の分隊は順次応戦を!」

狭い通路を敵味方の魔力弾が交差する。

大半は敵の魔力弾を落とすための飽和射撃ではあるけれど、こちらは負傷者も出ていて局員の消耗が激しい。

だけどあちらはベルリオーズさんからの報告では、機械知性体であるからこちらみたいに疲労する事がない。

持久戦になれば、こちらが不利になる事は明白、なんとか突破口を開かないと……。

「でもこの中を掻い潜って仕掛けるのは無茶がある……」

『クイント!』

「あなた?!」

『今ベルリオーズがそっちに向かっている。もうしばらく粘ってくれ!』

「断頭台が!?」

「レイレナード一尉がここに?!」

その通信を聞いて、疲労していた局員の目に再び闘志が沸いてくる。

「皆!もう少しすればレイレナードさんがこっちに来るわ!それまで持ち堪えて!」

「「応!」」

『いや、君達は良く持ち堪えた。後は私に任せろ』

「え?」

メガーヌさんが鼓舞したその時、音声だけの通信から聞きなれた声が響いた。

―ズガァ!―

突然局員とディソーダーの間の壁が爆発とともに崩れ、そこから飛び出した影が敵前衛を吹き飛ばした。

「ベルリオーズさん!」

魔力光の色を見て、私は直ぐに彼の名前を呼んだ。

「ここは私に任せろ。君達は負傷した局員達を後方へ下がらせてくれ」

「分かった。メガーヌ、彼の援護をお願い」

「了解したわ」

「動ける局員は負傷者を後方に移して!」

「まだ行ける?アスクレピオス」

『Yes sir.』

「よし、良い子ね。
ブーストアップ・バレットパワー!」

『Boost Up. Barret Power.』

メガーヌが補助魔法を掛けると彼の射撃の威力が増し、一発で数体のディソーダーを貫き始めた。

「メガーヌ、こちらはもう良い。軽傷者の治療を頼む」

「ええ、任せて頂戴」

そう言っている間にも、彼の撃墜数が加速度的に増していく。

(元々ネクストは対多数との戦闘が専門だと言っていたけど、たった一つのサポート系魔法を加えるだけでこの戦果……、反則過ぎるわ)

「こちらベルリオーズ、報告が遅れた。
1025時、クイント・メガーヌ隊と合流、現在敵戦力の6割を殲滅完了」

『指揮車了解、その奥が研究施設の最深部です』

「了解した。
クイント、ゼストはどうした?」

「隊長なら、後送している負傷者の護衛をしているわ」

「そうか、ならばこの通路制圧後に隔壁の破壊を頼みたい。破壊突破は君の十八番なのだろう?」

「人を危険人物みたいに言わないで、それに近代ベルカ式でも私のは特殊なんだから、しょうがないでしょう?」

「破壊突破が得意と言うところは否定しないのだな。
エマ陸曹、残敵の残りがどれくらいか分かるか?」

『今撃墜したのを含めれば、敵戦力の8割を殲滅しました。そろそろ弾幕の濃度も薄くなる筈です』

エマ陸曹の言う通り、確かに1秒辺りに飛んで来る魔力弾の数が減ってきている。

そろそろ行けそうね……。

「ベルリオーズさん、そろそろ抜けられそうですので、援護をお願いします」

「分かった」

そう言ってベルイオーズさんは、再びオゴトを構えてディソーダーに砲撃を撃ち、放った魔力弾が着弾して爆炎が発生して、しばらく立ち込めていたけれどそれが晴れた時には、既に通路上に居るディソーダーの数は、十数体程しか残っていなかった。

「よし、進路確保した」

「行きます!はあぁぁぁ!」

ベルリオーズさんの合図と共に、私は両手のリボルバーナックルに装填されたカートリッジを、それぞれ1本ずつ使用して魔力を発生させ、シューティングアーツ唯一の射撃魔法の準備を始めたと同時に、ディソーダーの射撃を掻い潜って隔壁に近付く。

今から撃つ射撃魔法は威力がある分射程が短いからだ。

ディソーダーから放たれた魔力弾が、私の肩を掠めていく。

「っつ!ディボルバー!」

だけどここで止まる訳には行かない!

「シュート!」

隔壁が射程圏内に入ったと同時に、両手を交互に、だけど間隔を出来る限り短くして撃ち放つ!

―バグン!バゴォ!―

一撃目で隔壁に大きな歪みが発生し、二撃目で隔壁が吹き飛んび、床に叩きつけられる音が通路に響き渡る。

「突破完了!」

「よし、最深部に突入する」

私が振り返ってベルリオーズさんに報告した時には、既に残りのディソーダーは物言わぬ残骸と化させ、メガーヌと一緒に私の方へ向かって来る所だった。

(何度見ても、この処理速度の速さは半端無いわね)

「クイント、被弾した所を見せて頂戴、治療するわ」

「ありがとう、メガーヌ」

〈Side ベルリオーズ〉

『敵戦力の全滅を確認しました』

クイントがメガーヌの治療を受けるのを確認した所で、エマからの通信が入った。

『こちらでも残敵の反応は無……いや待て、最深部に魔力反応だ』

「……」

「「!?」」

ゲンヤの報告で私とクイント、そして彼女の治療を終えたメガーヌが身構える。

だがクイントの突破で発生した煙が立ち込めており、内部の様子は分からない。

「シュープリス分かるか?」

【はい、数は3つ、形状は人型ですが魔導師にしては異質です。
恐らくは自動迎撃機構か……】

「無人機か」

【その可能性が高いかと】

「どうするの?」

「入ってみるしかあるま……伏せろ!」

クイントからの質問に答えようとした所で、重い発射音と共に砲弾が飛来してきた。

クイントとメガーヌは指示通りに地面に伏せ、私は空中に飛んで攻撃から逃れたが、外れた砲弾は後ろで着弾し爆発を引き起こす。

「質量兵器!?」

クイントが自分達に放たれた物に驚き、発生した爆風で立ち込めていた煙は拭い去られ、部屋の内部が見られるようになった。

(……ノーマルACとカプセルに入れられた少女二人?)

そこにあったのは、サイズが人間の大人ほどに縮小されたノーマルタイプのAC、その傍には小さな女の子を入れたカプセルが、二つ並んでいるだけだった。

「作業ロボット……という雰囲気では無さそうね」

「あれは純粋に戦闘用に製造されたものだろう。だが……」

それはこの世界では異質の物だ。

赤と黒で塗り分けられたフレーム、背中には連装型ミサイルランチャーとグレネードらしき装備、右腕部には光学兵器と思われる射撃兵装、そして肩には黒い球体に黄色く9と描かれたエンブレムが、それの存在を表わしていた。

『……暫定危険分子2657ヲ確認』

「新勢力と接触、目標はこちらに明確な敵意を示した。
尚、目標の呼称はナインボールと命名、目標は要救助者を人質にとっているものと思われる」

不明勢力からの声を聞くと同時に、私は後方のゲンヤにそう伝える。

『こちら指揮車、交戦を許可します』

「了解、シュープリス、全兵装をアクティブにしろ」

【了解しました】

「クイントとメガーヌは要救助者の救助を最優先にしろ。アレの相手は私が引き受ける」

「そうした方が良いみたいね……。メガーヌさん、サポートお願い」

「了解です!」

『暫定危険分子2657ノ排除命令確認。危険分子ト再認識、排除、開始』

その言葉と同時に、ナインボールはパルスライフルの三点射を行いながら、猛スピードでこちらに突っ込んで来た。

―パパパァン、パパパァン、パパパァン―

回避したパルスレーザーが床に着弾し、軽く爆ぜる音が連続して鳴り響くが、出来うる限りカプセルから距離を取るように誘い出す。

しばらくはパルスライフルで攻撃してきたのだが、ナインボールはバックユニットに装備しているグレネードキャノンを展開し、こちらに狙いを付けてくる。

『危険分子2657ノ戦闘能力値ヲ上方修正、任務、危険分子2657トノ戦闘データノ収集二変更』

「させるか!」

私は牽制の為にオゴトを一発放ち、ナインボールは上方に回避、即座にマーヴと051ANNRの照準を向け撃ち放ち、ナインボールに命中した。

向こうもそのお返しとばかりに、あの三点射パルスレーザーを連続照射してくる。

その折にMPAが削られたのか、何発かがAJに被弾する。

「当ててくるか!」

AJ越しに発生した熱を感じながら、私は連続QBで回避行動を取る。

元々ネクストとノーマルACは機動性が段違いであり、例え一流のレイヴンが扱うハイエンドノーマルでも、その勝率は8割を切らない上、決して退こうとしなかった。

だが今相対している脅威は違った。

『……大き過ぎる』

「!」

先ほどまでの片言な声ではなく、はっきりと鮮明な声で呟く。

『余りにも大き過ぎる。修正が必要だ……』

そう言い放つと、ソレは先ほど私達が入ってきた通路の向こうへと、消えていった。

その後、地上で待機していた地上局員の部隊に警戒を呼びかけたが、アレが現れたと言う報告は無く、その後の探索で通路の途中に大きな穴を発見し、その穴の向こうには森林地帯が広がっていただけであった。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 無印開始前 最終話後編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/05/21 23:51
                  第八話 後編
                  始まりの序曲





〈Side ベルリオーズ〉

襲撃作戦の事後処理に、ひと段落着いた時には既に9月に入っていた。

襲撃作戦の折に保護した二人の少女はナカジマ夫妻に引き取られ、大きい方をギンガ、小さい方をスバルと名付けた。

それと同時に引き取った三人は、無事に訓練校を修了、メイとリリウム、そしてエネのデバイスも無事にロールアウトし、本局で起動する事となった。

〈時空管理局本局 技術部研究区画〉

「デバイスとの同調率95……97……99同調完了!
被験者の身体、精神状態共に問題無し!
本日、新暦63年11月3日、午前11時3分、デバイスの起動に成功しました!」

観測官からの報告で室内に、技術者達の歓声と拍手の嵐が巻き起こった。

目の前のモニターにはAJを身に着けた、メイとリリウムの姿が映し出されている。

今日は管理局製融合型デバイスで、初めての適合者が誕生した瞬間だ。

「レイレナード一尉、初の融合型デバイス正常起動、おめでとう御座います!」

今回のネクストデバイス計画の主任であるシオン・ヴァールが、私に賛辞の言葉を掛けてくる。

「私は何もしていないぞ?
殆どはシュープリスのデータを元にした物だろう」

ちなみに当のシュープリスはAMS内で休眠中だ。

人間で言えば自分の内側をさらけ出した様なものであり、かなりのストレスを感じたのだろう。

「それでも君達が貢献した事には変わりないよ。
まあ彼女達が最後のリンクスだと信じたいけれどね……」

同じ技術屋でも、この世界の技術屋はまだヒトの心を持っているようだ。

この男には死に別れた妻との間に儲けた娘が居り、その事も影響しているのだろう。

「正直、正気の沙汰じゃないよね。
こんなか弱い女の子を実験の材料にするなんて、人間のする事じゃないよ。
彼女達を助けた二人組に関しては何か掴めたのかい?」

「いや、情報が抽象的過ぎる上に、戦闘があったらしい場所を見つけはしたのだが、その痕跡は見つからなかった」

彼は「そうか」と言いながら彼女達のバイタルデータを見る。

「痕跡が見つからなかったという事は、まだその二人組が生きている可能性もある。
二人共かなりの腕なのだろう」

そう言いながら私は、起動実験を行った実験室へ入った。

「二人共、気分はどうだ?」

「ん~、少し違和感があるけれど大した事じゃないわ」

「そうですか?
私は何も問題は無いのですが……」

「リリウムは適性が高い、その分デバイスとの同調性も優れている事になる。
それでも二次起動にはもうしばらく掛かるが……」

「えー、シュープリスさんみたいな擬似人格が直ぐに現れるんじゃないの?」

メイが少々残念そうな声色で私に尋ねる。

「擬似人格の形成には登録者の身体データなどが元となる。
メイが感じている違和感は、その為のスキャニング作業と情報整理を行っている証だ」

「ふーん、なるほどねぇ」

「とりあえず明後日までは安静だ。
スキャニングの途中で激しい運動などをされると、それがバグになる可能性があるからな」

「は~い」

「分かりました」

メイとリリウムの様子を見たところ、目立った異常は出ていないようだ。

やはりAMSの適性が高ければ、それだけデバイスとの適合がスムーズだという事か。

「それでエネねぇは?」

「訓練室でクロノと模擬戦をしているが、もう直ぐ終わるだろう。
魔力保有量などは平均的だが、戦いにおける素質は十分にあると私は見ている」

「デバイスの形式と名前は?」

「ああ、試作型の銃型デバイスだ。名前はピースフルウィッシュ」

「平和への願望……か、エネねぇらしいネーミングだね」

「はい……、姉様は優しい方ですから」

メイが微笑みながら言うとリリウムもそれに続いた。

ピースフルウィッシュは、以前私が使っていた試作型に、ベルカ式のカートリッジシステムを組み込み、取り回しを効かせたハンドガン型のインテリジェントデバイスだ。

攻撃を行う際にはカートリッジ内の魔力を使用する為、使用者は補助魔法などに専念する事ができる。

一発の威力こそミッド式の杖型デバイスや、ベルカ式の剣・槍型デバイスより低いが、ハンドガンというコンパクトなサイズの為、閉所での取り回しが効く。

「じゃあ、お疲れ様でした。メイさん、リリウムさん」

「うん!
あ、シオンさんも研究に熱中しすぎて、ソフィさんとメイちゃんをほったらかしにしないようにね?」

「あはは」とシオンが苦笑いしてメイの忠告に答える。

その後細々とした報告を技師官から聞いて纏め、私達は訓練場へと向かった。



〈Side クロノ〉

「ハアアァァァァ!」

「遅いぞ。それでもあいつの妹分か?」

「っく!」

「……」

「うわぁ、すごいねぇ……」

ありのまま今起こった事を話す。

僕はエネと模擬戦をしていたと思ったら、いつのまにかアンジェさんに負けていた。

何を言っているのか分からないと思うけど、僕も何をされたのか分からなかった。

頭がどうにかなりそうだ。

幻術魔法だとか高速移動魔法だとか、そんなちゃちなものじゃ断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……と言うか。

「なんでアンジェさんがここに居るんだ!
彼女は別の訓練場で、他の局員達と模擬戦をしていたんじゃないのか!?」

「や~、どうも、その局員達でもアンジェさん相手では、十人纏めて掛かっても5分持たずに全滅したみたいで、仕方なくこっちに来たんだって。
でもクロノ君凄いねぇ。
一人でアンジェさん相手に2分も持ったんだから」

僕の問いかけにエイミィが答える。

彼女は僕とエネとの模擬戦の管制官をしていたんだけど、アンジェさんの乱入でその管制を行っている。

いや、僕も彼女相手に2分持ったって言う事は誇りに思うよ?

でも、「暇だから一戦交えて欲しい、それで勝った方がエネとの模擬戦の相手をしよう」と言うのは、どう考えても無茶としか思えない……。

「……気にしても仕方あるまい。
アレはそういう性質なのだからな」

「あ、レイレナード副艦長!」

「ベルリオーズさん……」

「うわぁ、エネねぇも大変だね~。ここまで持ったなら結構良い方じゃない?」

「でも、そろそろ終わりそうですね。最初から結果が見えていますから……」

『キャッ?!』

『勝負あり……だな』

「アンジェさんWIN!経過時間は1分13秒です!」

「アンジェ相手に1分持ったか、クロノと模擬戦をした後それだけ持ったのだから、誇っても良いだろう。
エネ大丈夫か?」

『あ、兄さん。
はい、体のほうに問題ありません』

『まあ私も加減していたからな』

「加減してあれって……、いや僕もおかしいとは思っていたよ?でもね……」

クロノが床に手を着いて落ち込んだ後、叫び声を上げながら頭を掻き毟っている。

どうやら彼の魔導師としてのプライドに、絶大なダメージが入ったようだ。

「まあそう言うな。
それよりもエネ、メイ、リリウム」

「「?」」

「訓練校修了、そしてデバイスの受領おめでとう、これで君達は立派な管理局員だ。
その力を存分に振るって欲しい」

「「はい!」」

彼女達の返事に私は頷き、アンジェ、クロノにエイミィも新人局員に拍手を送る。

その後、彼女達はアースラに所属し、アースラの保有戦闘力は管理局髄一となった。

その後半年は大して大きな事件も無く、時空間内は平穏を保っていた。

とある貨物船の消息事件に巻き込まれるまでは……。




後書きと言う名の戯言

どうも、コーラルスターです。
お陰さまで無印開始前編が無事終了致しました。
来週の日曜日に、当SSはなのは板かその他板に移ろうかと思います。
それに際してどちらの板に移籍すれば良いのか、皆様からご意見を頂きたいと思います。
それでは無印編でまた会いましょう。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第一話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/07/17 20:45
                  第一話
                 始まりの鐘




〈Side ベルリオーズ〉
〈時空航行艦アースラ〉

「輸送艇の護衛任務?」

「ええ、スクライアと言う部族が発掘したロストロギアの輸送を行うのだけど、どうしても発見者自身が届けたいって連絡が来たの」

「非戦闘員でも専門家でもない一般人が行うだと?
十分に安全対策はしてあるのか?」

「ええ、スクライア一族は防御系と補助系魔法が得意な部族だし、船が沈められるとか余程強い衝撃がなければ、封印が解かれる事はないわ」

つまりセキュリティ面では万全と言う事か。

流石に時空間内を航行中の、輸送艇を襲おうとする輩は居ないだろうが、こちらも出来る限りの準備をしておく必要があるな。

「了解した。
シュープリス?」

「此処に」

シュープリスの名を呼ぶと、彼女は私の直ぐ横に具現化した。

「AJ、兵装、全てのチェック完了。
何時でも出撃できます」

「では直ぐに向かおう」

「気をつけてね」

リンディの言葉に首肯で答え、私とシュープリスはブリッジを出た。



〈Side リンディ〉

―パシュウ―

「はぁ……」

ブリッジドアが閉まって私は溜め息を吐く。

ベルリオーズさんのお陰で管理局の膿は大方取り除かれ、溜まりに溜まっていた未解決事件は、彼が来る前の3分の1にまで減っている。

そして長年管理局が抱えていた魔導師の人手不足も、彼が管理局で不正を行っていた局員を取り締まる事で、彼に憧れて入局する人が居り、管理世界の管理局の連絡所に、魔力資質を持った魔導師候補が尋ねてくる回数も増え、尋ねてきた全ての人が訓練校に入るわけじゃないけれど、それでも入校人数は例年の1.4倍程にまで増加していた。

ここ三年間で、彼の管理局内での地位を確実に築き上げ、「レイレナード氏無くして今の管理局は無い」と言う風評も出ている。

「はい、艦長」

「ありがとう、エイミィ」

エイミィが持ってきたトレイの上には、彼が進めてくれたミラクルフルーツ1粒とレモンが数切れ、そして小さなコップに注がれたスポーツ飲料水がある。

以前、調子に乗ってレモンを取りすぎて下痢になってしまった時に、彼が提案した物だ。

『どれだけ体に良くとも、取りすぎれば薬でも毒物になるのは当然だ。
これからはレモン何切れかにつき、コップ一杯のアイソトニックドリンクを取る事にした方が良いだろう』

民間療法だがな、って付け加えてくれたけど実際に効果はあった。

私がレモンの取りすぎで下痢になったと言う情報は、エイミィから聞いたものらしいけれど、こうして改善されたから不問にしておきましょう。

「ん~、酸っぱい食べ物なのに甘く食べられるなんて、やっぱり素晴らしい物ね!」

「見ているこっちの方は見るに耐えない光景ですけどねぇ……っと、艦長、エネさん達がもう直ぐで帰還するそうです。
クロノ君も若干遅れているけれど、問題は無いそうです」

「分かったわ」

さぁってと、お仕事お仕事……。



〈Side ???〉

「道中気を付けるのだぞ」

「大丈夫ですよ長老、通り航路は比較的安全な所だし、それに管理局の人が一緒なんですから」

長老からお言葉を頂いてからそう返した。

「その局員さんは?」

「船の中で待っていますよ」

「そうかそうか、では何時までも待たせるわけにはいかんな。
じゃあ、気を付けて行くんじゃぞ」

「はい!じゃあ行ってきます!」

族の皆に手を振って見送られ、僕は輸送艇に駆け込むと長い金髪の長身男性と、優しい雰囲気の女性に出迎えられた。

「お待たせしました」

「いや、問題は無い。
一時の別れの挨拶は済ませたか?」

「はい、ベルゼーさんとセフィリアさんにお待ちして貰って申し訳ありません」

「いいえ、族と言うのは大きな家族の様なものですから」

「家族の挨拶に水を注す事などせん。
では行こうか」

「はい!」



〈輸送艇内〉
〈Side ベルリオーズ〉

運び主のユーノ・スクライアと合流し、彼の一族が探索していた世界から出て数日が経った。

習ったばかりの幻影魔法だが、ユーノ少年を欺けるくらいの効果はあるようだ。

「そろそろ休んではどうだ?」

「はい、後はお願いします」

ユーノがブリッジから出て行き、私とシュープリスがブリッジに残される。

「9歳だと聞いたが、その割にはしっかりしているな」

「流浪の部族だと言っていましたし、特殊な環境が彼をあそこまで育てたのでしょう」

「少々責任感が高く危うい所も多いが、筋は良い」

ここ数日、彼と話していたが、彼は捕縛・治癒・結界魔法等、補助系魔法をほぼ全て会得していると話してくれた。

「積荷の状態は?」

「今の所は問題ありません。
封印もしっかり効いているようで安定しています」

「このまま何もなければ良いが……」

シュープリスの返事に私はそう答える。

危険物と言っても、その危険度は笑い話で済ませられる物から次元世界が崩壊する物までと千差万別であり、実際過去に何件か事例があり、その時は最大規模で戦術核程度の被害範囲で済んだが、下手をすれば次元断裂と波で滅茶苦茶になっていたと言う。

「作戦行動中にトラブルは付き物です。
あのピースシティでの乱戦でもそうだったではないですか」

「ピースシティか……」

砂漠の狼を倒して頭角を現して来ていたが、アナトリアの傭兵があれほどの力を持っていたのは想定外だ。

「クローズプラン……どうなっているのだろうな」

「元々成功率の低い計画ですし、あまり気に掛ける事では無いかと……。
ですが、そうやって陰で御友人を気に掛けるマスターの心意気は、とても大切なことだと思います」

「そうか……!」

その時、船体が大きく揺れた。

「シュープリス!」

「これは……次元跳躍魔法!
それもかなり強力なものです!」

「MPAを最大展開!多少船体に被弾しても構わん、とにかく威力を軽減させる事に専念しろ!」

シュープリスに指示を出し、私は艦内に警報を発すると、すぐにユーノが艦橋に駆けつけた。

「どうしたんですか!?」

「何者かがこの船に次元跳躍魔法を放ってきた。
幸いシュープリスがMPAを最大展開して直撃は免れたのだが、駆動部に大きなダメージを負ってしまった」

ダメージコントロールの項目を開くと、エンジン部分とその周辺が真っ赤になっており、深刻な被害を負っている事を伝えていた。

「この船はもう駄目だな。
近くの次元世界に……っ!」

また船体が大きく揺れる。

「船体ダメージ更に増大、損傷率が6割を超えました」

「仕方あるまい。
カーゴを投棄、十分な距離を置いた所で、カーゴを自爆させろ。
散らばって、近くの次元世界に漂着した所を回収されるだろうが、まとめて奪われるよりは幾らかマシだ」

「了解」

「そんな!」

「焦るな。
このまま船と一緒に心中するか、散らばったロストロギアを現地で再び回収するかの二択だ。
任務を無事に達成し生還できるならば、私は後者を選ぶ」

「っ……」

納得は行かないという顔だが、私が言いたい事は伝わったようだ。

さて第三波が来る前に脱出するとしよう。

時限装置を3分後に爆発するようセットしてからカーゴを切り離し、脱出艇にて近くの次元世界に向かう。

「近くに次元世界はあるか?」

「その件についてなのですが、近くにある次元世界は第97管理外世界だけのようです」

「そうか……」

時間が取れたら、少々探索もかねて向かおうと思っていたが、この様な状況で向かう事になるとは……。

「では輸送艇から離脱します」

「任せる」

―三分後―

「そろそろ起爆時間だな」

そう呟くと遠くから爆発音が聞こえてきた。

「カーゴの起爆を確認」

「よし、それでは我々も……っ!」

そこで脱出艇が大きく揺れ、その衝撃で何処かに頭をぶつけた。

薄れ行く意識の中、ユーノ少年が私とシュープリスに手を沿え、何かを呟いた事を確認した所で、私は意識を手放した……。



『管理局に痛手!?レイレナード氏、任務中に消息を絶つ。

新暦63年4月3日、輸送艇護衛の任務に就いていた、ベルリオーズ・レイレナード氏が任務中に消息を絶った事が分かった。

情報を開示したのは匿名の管理局員であり、彼女からの話によれば、4月2日の午後15時頃にベルリオーズ氏が乗る輸送艇からの信号が途絶、それ以降連絡が着かない状況になっている。

管理局にとってレイレナード氏はキーストーンであり、彼を失うことで、今まで彼の出現により息を潜めていた犯罪組織が、吹き返す可能性がある。

だが管理局には、彼が養子として引き取った少女が三人、そして『月光の剣姫』として名を馳せているアンジェ・レイレナード一尉が居り、彼が抜けたことによって出来た穴は、彼女達が埋める事になる。

管理局は今後もレイレナード氏の捜索を続ける方針だが、数ヶ月経っても発見されなかった場合は、MIA(作戦行動中行方不明)と認定し捜索を打ち切る方針だ。

彼の行方不明に関して評論家のI・O氏は、『彼がそう簡単に死ぬような人物とは思えない、恐らく彼の行方不明は息を潜めている犯罪組織を、誘き出す為の欺瞞情報ではないでしょうか』と語っている。

様々な憶測が飛び交う中、少なくともレイレナード氏の行方不明という事態に、次元世界の裏社会は一層慌しくなりそうである』



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第二話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/07/17 20:45
                  第二話
               山と海に囲まれた街





〈Side ベルリオーズ〉

「っ……」

目を開けると、新緑の合間から漏れる、僅かに赤みを帯びた日の光が目に入る……新緑?

「ここは、っつ」

側頭部に鈍い痛みを感じ、頭を抑えると包帯が巻かれていることに気が付いた。

「マスター!
気が付かれましたか?」

幻影魔法を解いたシュープリスが私に声を掛ける。

「シュープリス……か、状況は?」

「はい、我々が乗っていた脱出艇は次元跳躍魔法の第四波を受け沈みましたが、直前にユーノ少年が転移魔法を発動し、沈む前にこの第97管理外世界……地球に転移しました」

シュープリスの言葉に、私は意識を失う前の記憶を掘り返す。

気を失う前にユーノが何かを呟いていたのを思い出す、恐らくアレが転移魔法を発動させるキーだったのだろう。

「彼には感謝しなくては……それで、当のユーノは?」

「彼は散らばったロストロギア、ジュエルシードの探索に向かいました」

「全く……、魔導師と言う者は誰も生き急ぐ人種なのだろうか……」

私の呟きに、シュープリスは苦笑いを浮かべながらも頭に巻かれた包帯を解いた。

「もう大丈夫のようですね」

「この治療も彼が?」

「はい、攻撃系の魔法はサッパリのようですが、サポート系はメガーヌ陸曹と大差ないかと思われます」

完全に後方支援向きか、戦闘では余り前に出さない方が良いだろう。

「それとマスターの怪我の具合ですが、側頭部に擦過傷及び打撲痕が見受けられます。
しばらくは私との融合による戦闘は避けるべきかと……」

「そうか、……幻影魔法が解けているようだが、我々の正体を彼に知られたか?」

話している途中で気が付いたが、服装などが元の姿に変わっていた事に気付き、シュープリスにその事について聞く。

「いえ、幻影魔法は私が制御を代行していたので、彼の前では解けませんでした」

「今になって気付くとは……」

「恐らく疲れているのでしょう。
もうしばらく休まれた方がよろしいかと」

「そうするとしよう」

「では、失礼します」

私がこたえるのを確認してからそう言うと、シュープリスは自らの膝の上に私の頭を乗せた。

「これは?」

「はぁ、こうすると男性の方はリラックスできると、リンディ提督に言われたので実践してみようかと、……どうでしょうか?」

「……問題は無い」

後頭部に人肌の感触があるというのはどうも違和感がある。

ただ単に私がそのような経験が無いからかもしれないが、これはこれで気分が落ち着いてきているので良いとしよう。

「しかし、この世界に管理局の連絡所が無いのが不味いな。
本局との連絡が着かない」

「捜索部隊が、この世界に降下してくるのを待つしかないでしょう。
それまでの間は、この世界に落ちたジュエルシードだけでも回収しませんと」

「そうだな……?」

そこまで言うと、傍から草を掻き分ける音が聞こえて、私は幻影魔法を展開した。


「ユーノか?」

さっきまで囁く程度の音量で会話していたので、会話を聞かれていたと言う事は無いだろう。

「あ、やっぱり人が居たんですねぇ……って大丈夫ですか!?」

藪から顔を覗かせたのは眼鏡を掛け、ハイスクールに通っているくらいの年齢の少女だった。

驚いているのは、私の頭部に包帯が巻かれているからだろう。

「ああ、少々ドジを踏んでな。
足を滑らせて頭を打ってしまった」

演技で苦笑いを浮かべながら眼鏡の少女に、有澤の社員から習った日本語で答える。

「おぉい、美由希ぃー!」

「美由希ぃー、何処だぁー!」

少し離れた場所から人を呼ぶ声が聞こえて来た、状況から察するにこの眼鏡の少女が美由希と言う名前らしい。

「あ、お父さん~恭ちゃん~こっちだよ~」

彼女は私の意識がハッキリしていると判断したのか、先程とは打って変わって間延びした声で自分の身内を呼ぶと、少女が掻き分けてきた藪から新たに二人の男が顔を覗かせた。

「おお、最初は美由希の聞き間違いかと思ったが、本当に居たとは」

「大丈夫ですか?」

恐らく『恭ちゃん』と呼ばれた青年がそう聞いて来ると、私は首肯で返答をする。

「意識はハッキリしているようだな。
『フランスの方……かな?
英語は分かりますか?』」

「『ああ、母国の言葉だからな。
だが日本語も喋れるぞ?』」

「『それは失礼、どうも貴方からは『懐かしい臭い』がしたのでね』
このままでは不都合があるでしょうし、ここは私を信用して、伝の病院できちんと見てもらうと言うのはどうでしょう?」

「身元不明の者に対して物好きなことだ。
だが我々には手持ちが無いぞ?」

「大丈夫です。
代金は私が受け持ちますので」

「感謝する」

「よし、話は纏まったな。
恭也、美由希、父さんはちょっとこの人達を病院に運ぶから、お前達は母さんにその事を伝えておいてくれ」

「分かった」

「りょ~かい」

どうやら、青年と少女はこの男の血縁者の様だな。

「ああ、自己紹介がまだでしたね。
私は高町士郎、さっきの二人は私の子供たちで、恭也と美由希と言います」

「ベルゼー・ロシュフォール、彼女はセフィリア・アークス。
詳しくは言えないが特殊任務中とだけ言っておこう」

「こういった仕事では詮索屋は嫌われると言うのが常識だからね。
少し痛むかもしれないけど我慢してくれよ」

そう言いながら士郎は私に肩を貸す、彼の助けを借りて立ち上がり、シュープリスに念話を飛ばして詳しい状況を確認する。

【シュープリス、私はどれだけ気を失っていた?】

【はい】

私は『事故』から2~3時間ほど眠っていたらしく、ユーノ少年は私に簡単な治癒魔法を施した後、ジュエルシードの探索に出たそうだ。

軽傷を負っていたそうだが、自分で怪我の処置くらいは出来るだろうから問題は無い。

【念の為に念話を掛けてみては?】

【それもそうだな……む?】

【どうしました?】

【いや、ユーノ少年に念話を送っても返事が来ないのだ。
シュープリスは彼の捜索に出てくれないか?
後でマーカーを設置する】

【了解です】

「ミスタ高町」

シュープリスから返事を聞き、私は士郎に話しかけた。

「士郎で結構です。
どうかしましたか?」

「すまないがトラブルが発生した」

「トラブル……仕事関係ですか?」

「その様なものだ。
彼女には後で、私から合流する場所を教えるつもりだ。
出来うる限り面倒事には巻き込まないので、彼女を捜索に向かわせたいのだが」

「それならお構いなく、私も恭也達もちょっとやそっとの争い事には対抗できますから」

「すまない……」

私が目配せをすると、シュープリスは頷いた後、藪の中に駆け込みその姿を眩ませた。

「彼女、相当の手馴れですね」

「彼女は一見美しい女性だが、その中身は山に生息する猫科のそれだ」

「はは、それじゃあ僕も気を付けないとね」

その後、彼と雑談をしながら山を降りて舗装された場所に出て、彼が呼んだタクシーが到着するとそのまま病院へと向かった。

高町士郎、37歳、職業、喫茶翠屋のオーナー兼ジュニアサッカーチームの監督。

元はボディーガードの仕事に従事していたが、彼の妻の夢である店が出来た直後にテロに巻き込まれ重傷を負い、数年間生と死の合間を彷徨っていたが無事に回復、ボディーガードの仕事を辞めて喫茶店のオーナーに就いたと言う事。

家族として妻の高町桃子、そして彼女との間に出来た大学生の高町恭也、ハイスクール2年生の高町美由希、エレメントリィスクール3年生の高町なのは、3人の子供が居る事。

対して此方も事情を話した。

我々は某大国の諜報部員であり重要案件の確保を命ぜられ、任務の途中で事故にあいここに漂着して捜索中だと話す。

全てが嘘ではないから正体がばれた時にも対応が可能だ。

そこまで話して此方の意思を組んでくれたのか、士郎はそれ以上入り込んでは来なくなった。

伊達に要人警護をしていた訳ではない様だ。



【マスター】

【シュープリスか、どうした?】

【はい、捜索の結果ですが、ユーノ・スクライアの発見には至っていません。
魔力反応が無い事から、なにかしらのトラブルに巻き込まれたものかと】

【それは良い状況ではないな】

ジュエルシードの特性を、最も知っている彼が行方不明と言うのは良くない状況だ。

【捜索を継続しますか?】

【そうだな「ベルゼーさん」……すまないが後で連絡する】

【了解】

その時、士郎が私に声を掛けてきたので念話を一時中断する。(け、決して念話と通常会話の同時進行がめんどくさいからって訳じゃないんだからね!)

む、変な信号を拾ったが、今は士郎の話を聞くとしよう。

「どうした?」

「ああ、いえ、とりあえず言っておく事があるのを思い出したので」

「?」

私が怪訝な表情で彼を見ると、コホンと咳を入れた後こう言った。

「ようこそ、山と海に囲まれた街海鳴市へ」

と……。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第三話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/09/04 21:52
                  第三話
                 気高きもの





〈Side ???〉

私は夢を見ている。

どこか分からない場所で、私と同い年くらいの男の子が何かを追われている。

途中で腕に怪我をしたのかな……結構血が流れているし、長い間追っていたからかひどく疲れている。

その時近くの藪に動くものがあった。

男の子がしばらく周りを見回してそれに気付くと、何か赤いビー玉みたいな物を取り出して身構えると、何か見たことも無い文字と輪が出てきた。

何かそれが危ないものだって思ったのかな?毛むくじゃらのお化けみたいなのが藪から飛び出して、男の子に向かって突進してくる。

そして……。



『わはー、わはー、わはー、わはー』

「……」

『わはー、わはー、わhry』

「なんか、変な夢見ちゃった……」

いや、この目覚ましの音声もおかしいとは思うんだけどね?

最近買い換えて貰ったばかりの機種だし、目覚ましの音を確認しないでセットしたら、こんな音声が入っていたのは予想外と言うかなんと言うか……。

「う~~~ん、はぁ……」

とりあえずベッドから降りてから、少し背を伸ばして意識をハッキリとさせる。

私の名前は高町なのは、私立聖祥大学付属小学校に通う小学三年生、ここ高町家においては三人兄妹の末っ子さんです。

「おはよ~」

「あ、なのは、おはよう」

「おはよう、なのは」

「じゃあ、これお願いね」

「はぁい」

この二人は私のお父さんとお母さん。

「ちゃんと一人で起きられたなぁ、えらいぞ~」

こっちはお父さんの高町士郎さんは駅前の喫茶店、喫茶翠屋のマスターで一家の大黒柱。

「もう直ぐ朝御飯ができるから、恭也達を呼んできて頂戴」

で、お母さんの高町桃子さんはその翠屋のお菓子職人さんで、なのはが一番大好きなお母さん!

「お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

「ん?まだ道場に居るんじゃないか?」

「あ、じゃあ呼んで「いや、私が呼んでこよう」え?あ!ベルゼーさんにセフィリアさん、おはようございます!」

「おはよう、なのは。
士郎に桃子も」

「おはようございます」

振り返るとそこに居たのは、昨日お父さんが家に泊めたいって言っていた、ベルゼーさんとセフィリアさんでした。

二人はこの町には仕事で来たって言っていたけれど、外国の人でお父さんが連れてきたんだから、やっぱりそっち関係の人なのかな?

「じゃあ、頼みます」

「了解した」

「私も何か手伝える事があれば……」

「ん~、じゃあ出来た物を並べてもらえるかしら?」

「了解しました」

……了解って言っているし、軍人さんとか警察の人なのかな?

と、とにかく、怖い雰囲気は無いから良い人なのかな?



〈Side ベルリオーズ〉

「「「「「頂まーす!」」」」」

「「頂きます」」

しかし、オゴトを取りに行った時に有澤で習った日本の風習が、この様なところで役に立つ日が来るとは……、世の中何が役に立つか分からんものだな。

……ああ、状況を説明しよう。

あれからシュープリスも二回目の探索に出たのだが、結局ユーノ少年を発見することは出来なかった。

何かしらのトラブルに巻き込まれて魔力を絞っているのか、パッシブでも発見する事はおろか痕跡の特定も出来ないでいた。

状況は悪い方へ向かっている。

ジュエルシードの事を良く知っている知識人が行方不明、私の体調も万全ではない、唯一シュープリスのみが自立行動を取れるが、ここで戦力の分散、或いは戦力の消耗は避けたい。

とりあえずは彼を見つけるか、私の体調が戻るまでの間、ここで生活する事になった。

幸い士郎の知り合いで、訳ありの顧客に対するマンションの案内も行ってくれるそうなので、残る問題は資金面と言う事になるが、手持ちには1ヵ月暮らすのに十分な金塊を用意してあるので、金銭面の問題もクリアしている。

その上、微弱ながら広範囲に渡って救難信号を出している為、資金を使い切る前に誰かが救助しに来るだろう。

使い切ったら使い切ったで、何処かから資金を調達するしかあるまい。

「そう言えば変な夢を見たんだけど……」

「夢?」

なのはが話題を切り出し、士郎がそれに答える。

それにしても彼女の声を聞いていると、変なビジョンが見えてくるな。

確かくじ引きだかアンバランスだかそんな単語が……。

「うん、なんか不思議な夢」

彼女が言った夢の内容は、九歳前後の男児が何かに追われており、抵抗したが力尽きて倒れたと言う内容だ。

木が乱立していたと言うから、場所は森林か雑木林の中だろう。

「乱立した樹木はこれから何をすれば良いのか分からない不安、少年が何かに追われていたというのは、自分がその不安に追い詰められているという状況を、第三者の視点から見ているのだろう」

「あら?ベルゼーさんって、相談役もしてらっしゃるの?」

「ああ、立場上部下から相談される事も多いのでな。
本などで取り入れた知識で覚えた付け焼刃程度のものだが、そのお陰でチーム内のトラブルも無いので感謝している。
それよりも身内の事に突っ込んでしまって申し訳ない」

「え、ああ、気にしなくても良いですよ」

「うんうん、ベルゼーさんのお話って、とても的を射ている気がするもん」

士郎と美由希が私にフォローをし、恭也、ミス桃子になのはもそれほど気にはしていないようだ。

ミス桃子となのはを除いて、彼等もまた戦士としての気骨はあるようだが、何分彼等と私とでは戦い方の根元から違う、対戦は行えないだろう。

朝食が終わり、恭也は大学、美由希は高校、なのはは小学校へ向かった。

「では、我々も探索に出るか」

「そうですね」

「ミス桃子、我々は探索に出るが……」

「ああ、それならお昼頃にうちのお店に寄ったらどうかしら?」

「良いのか?」

「食べた後、厨房で皿洗いを手伝ってくれればね♪」

「ふ……では言葉に甘えるとしよう」

何事もケースバイケース、そう上手い話はないな。



携帯電話も無いので、ミス桃子から店の電話番号と場所を聞いてから探索に出た。

とにかく午前中は、我々が発見された山周辺の捜索を行いユーノの行方を追い、午後は海側の捜索に出る事にする。

「それにしても、何処へ行ったのだろうな」

「念話にも反応がありません。
もしかしたら本格的に危険な状況になっているのでは……」

「ならば早急に発見するまでだ」

だがシュープリスと融合して捜索を開始してから3時間が経ち、山側一帯を捜索したが手がかりは見つけられなかった。

仕方なく我々は当初の予定通り翠屋に赴く事にした。

―カランカラン―

「あら、いらっしゃい」

入り口のドアに付いている鈴から、小気味の良い音色を鳴らしながら入ると、丁度カウンターに居た桃子が我々を出迎えた。

「他に寄る場所も無いのでな。
それに、しばらくはここに留まるのだから、現地の人間と顔見知りになる事は、情報源が増えると言うメリットはあるが、デメリットになる要素が思いのほか少ないのでな」

そう言いながら丁度二席空いていたカウンターに座った。

商品棚を見てみれば数多くのケーキが並んでいる。

……そう言えば、BFFのフランシスカがケーキ好きだったな。

アナトリアの傭兵に倒された時は、BFFの事実上の壊滅と弟の重体、自身もAMSの過負荷で下半身不随も重なりかなり参っていたな。

何とか持ち直していると良いが……。

「……お客様、本日は当店お勧めのケーキが御座いますが如何でしょう?」

「……頼む」

「では私もそれで」

「畏まりました」

一礼してから桃子は厨房に入っていった。

一般市民である桃子にも悟られたか、我ながら緩くなったものだな。

しかし時空管理局に入って3年目でホームシック、いやこの場合はワールドシックか、緩くなっただけでなく心もナイーブになっていたとは……、私らしく無い。

―カランカラン―

「ここなん?」

「ああ、その通りだ」

「ほう、中々良い雰囲気だな」

「そうですね」

後ろから新たな客が入店してきた。

それにしても女の子の兄らしい男、声色がレオハルトにそっくりだな。

他の二人は親戚か何かか?

「いらっしゃいませ……あら、レオハルトさんにノブリスさん、そちらの方は?」

「っ!」

桃子の言葉を聞いて私は戦慄した。

レオハルトに……ノブリス……だと?

「ああ、ミス桃子。
今日は親戚と一緒に来ましたよ」

「レオ兄の親戚の八神はやて言います」

「同じく八神シグナムと言います」

「……」

恐る恐る振り向くと私はさらに愕然とした。

そこには短く切った金髪と碧眼の双眸を持った男。

「あ、ベルゼーさん紹介するわね。
こちらはレオハルト・ローゼンタールさん、そしてノブリス・オブリージュさんよ」

「始めまして、レオハルト・ローゼンタールと言います」

あのピースシティの戦いで、私がこの手で倒したリンクス、ローゼンタール所属リンクスNo.4、レオハルト本人が居たのだから。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第四話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/07/18 14:55
                 第四話
              不屈の闘志(前編)




〈Side ベルリオーズ〉

「始めまして、レオハルト・ローゼンタールと言います」

「ベルゼー・ロシュフォールだ。
彼女は連れのセフィリア・アークス」

「セフィリアです」

「ベルゼーさんにセフィリアさんですね」

状況を説明しよう。

午前の捜索を終えて翠屋に来た我々だが、目の前にはこの手で倒したはずのレオハルトが居た。

アンジェや私と言う前例もあるので、恐らくピースシティでコジマ爆発に巻き込まれ、私と同様に次元の壁を越えたのだろう。

それよりも気になるのは、隣に居るピンクの髪を後に纏めた女性の事だ。

私の記憶が正しければ彼女は以前交戦記録の映像で見た、夜天の書の守護騎士の一人だったと思う。

と言う事は状況から察するに、大きく分厚い本を大事に抱えている車椅子に乗った少女、八神はやてが夜天の書の主だと言う事になるな。

あの長い銀髪に青い瞳の女性は愛機であるノブリスの、人間としての姿なのだろう

(まったくもって扱いにくい状況だ)

【マスター、どうします?】

心の中でそう呟きながらコーヒーを飲んでいると、シュープリスから念話が飛んできた。

【とりあえずは現状維持だ。
第一こちらは夜天の書の修正パッチを用意していない。
今の状況で彼等と関わるのは無駄な闘争を生むのみだ】

【では今後は変わらず?】

【そう言うことだ】

レオハルト達は少し離れたテーブル席で軽食を頼んでいる。

「あらあら、それじゃあシグナムさんは5人姉妹でこちらに?」

「ええ」

「私は元から身寄りの無い彼女の世話をして欲しいと、彼女の担当医である石田女史から頼まれていたが、まさか彼女たちまで来るとは思いもしなかった」

「私達も行けと言われただけでして、こうして親戚が集うとは思っても見ませんでした」

……上手くシナリオを作ったな。

はやての方は少々やり辛そうな顔をしてはいるが、小学生でこの演技力ならば将来化けるかも知れんな。

各陣営の社長程までとは言わないが、重役くらいの者達ならば簡単に手玉に取れるだろう。

やはりここで失うには惜しい人材だ。

早急に本局へ帰還し、グレアム提督に早々この件から手を引くよう伝えておこう。

あちらがここ一年ほど慌しかったのは、恐らくレオハルトとノブリスの出現、予想よりも早い一次覚醒とイレギュラーが続いたのが原因だろうし、下手に手を出されてはこちらの計画に支障が出る。

「そう言えばベルゼーさん達はどういう理由で日本にきたん?」

「我々は仕事でこちらに来てな、企業機密なので悪いが詳細は言えない」

「大事なお仕事っちゅうわけやね」

「そう言う事だ」

私は彼女に返事を返しながらコーヒーを一口含む。

「……」

「レオ兄どうしたん?」

「ん?
いや、彼のコーヒーを飲む仕草が、少し知り合いに似ていてね」

「へぇ~」

はやてがレオハルトに質問をすると奴はそう答えた。

「それで実際のところどうなん?」

「いや、私の思い違いだ。
それに、彼とはもう会う事も無いだろうし……な」

「仲違いでもしたのか?」

「いや、お互い肩入れしていた組織同士の抗争で対峙して、激しい抗争の末あいつの組織は壊滅したが、未だに生きているのかどうかも分からず仕舞いだ……」

そう予測しているという事は私が墜ち、コジマ爆発が起こるまで奴も生きていたというのか……。

奴も悪運が強い奴だ。

……そろそろいい具合の時間になったし、探索を続けることにしよう。

「ミス桃子、勘定を頼む」

「はーい、ええっと……840円になるわね」

「そうか、ではこれで丁度だな」

「……確かに、でも律儀に払わなくても良いのに」

五百円硬貨一つと百円硬貨を三つ、そして十円硬貨が四つある事を確認すると、彼女はそう言った。

「借りは作りたくない主義なのでな。
コーヒー、美味かったぞ」

「ありがとう」

出口に向かう途中に桃子から声を掛けられ、私は軽く手を振りながら店を出た。

約一名の視線を受けながら……。



翠屋を出てから4時間半が経過した。

その時、我々は臨海公園近くで魔力粒子の痕跡を発見した。

シュープリスの調査によるとそれはユーノ少年と、正体不明の魔力粒子である事が判明した。

跡を追ってみたが、不自然に枝が折れている広い場所で途切れていた。

そろそろ時間と言う事もあり、我々は調査をもう少し行ってから打ち切り、高町家に戻る事にしたが他に痕跡を見つける事は適わなかった。

その帰りの道中で、ビルから見知った人物が出てきた。

「あ、ベルゼーさん!セフィリアさん!」

「なのはか、こんな時間まで何を……と言うまでも無いか」

私がビルの出入り口を見ると、そこには塾と言う文字が書かれた看板があった。

「塾……か、今終わったところか?」

「うん!」

「ちょ、ちょっとなのは、この人誰なの?」

私がなのはにそう答えると、後に居た金髪の少女が彼女の肩を揺すって問いかけた。

「そちらの方々は?」

「私の友達のアリサちゃんとすずかちゃんです。
アリサちゃん、すずかちゃん、この二人がさっき言っていた居候の人達で、ベルゼーさんとセフィリアさんって言うの!」

「ベルゼー・ロシュフォールだ」

「セフィリア・アークスです」

「月村すずかです。
なのはちゃんと同じ聖祥大付属小学校の3年生です」

「私はアリサ・バニングス、なのは達と同じ聖祥大付属小学校の3年生よ」

こちらが自己紹介をすると、彼女達も自らの紹介を行った。

立ち居振る舞いから、かなり良い家の出身だと見える。

「それでベルゼーさん、探している人は見つかったの?」

「いや、痕跡は見つけたのだが、その後の足取りが掴めていない。
いっそ捜索を打ち切り、探し物の方を優先しようかと思っている」

「え?でも……」

「なのはさん、仲間の足取りを掴んでいて、その仲間の遺体が見つからなかったと言う事は、生存している可能性があるのです。
つまり彼も任務を継続している訳であり、こちらも探し物を優先していればいずれ彼とも合流できる筈です」

「マスターは合理的な方ですから」と付け加えて、シュープリスは説明を終えた。

尤も、始末されてその遺体を処分されたと言う可能性もあるが、それは私の心の内に留めておく事にした。

「警察に届けた方が……って届けているんなら、わざわざ探さないわよね」

「そう言う事だ」

彼女たちと会話していると、リムジンが塾の前に止まり、車内から初老の男性が出てきた。

「アリサお嬢様、すずか様、お迎えに上がりました」

「ご苦労様、鮫島」

「鮫島さん、何時もありがとう御座います」

「いいえ、主人のご家族とその御友人に尽くすのは、執事として当然の事ですから、……それでそちらの方々は?」

鮫島と呼ばれた執事は、こちらを一瞥すると僅かに身構える。

「この人はベルゼー・ロシュフォールさん、それで隣にいる人は部下のセフィリア・アークスさん。
私の家の居候さんだけど、お父さんが連れてきた人だから悪い人じゃないよ?」

「そうですか、それは失礼致しました。
改めて自己紹介をさせて頂きます。
私はバニングス家に仕えさせて頂いている鮫島と申します」

ミスタ鮫島はさっきとは打って変わって、穏やかな雰囲気でこちらに謝罪する。

「ベルゼー・ロシュフォールだ。
主人の傍に、不審な者が居れば警戒されるのは分かっている、余り気にしていない」

「セフィリア・アークスです。
ミスタ鮫島、あなたのその忠誠心に感服致します」

「そう言って頂ければ幸いです。
では、アリサお嬢様、すずか様、どうぞ車内へ」

「ええ、じゃねなのは、ベルゼーさんにセフィリアさんも」

「なのはちゃん、明日詳しく聞かせてね?
あと、あのフェレットの事も」

「うん、出来る限り説得してみる。
じゃあね~」

なのはがミスアリサ達に答えて手を振ると、リムジンはゆっくりと発進して行った

「……説得?」

「うん……詳しい事は夕食の時に言うから」

僅かな疑問を抱いて呟くと、ミスなのははこちらを見上げて私の疑問に答える。

「分かった。
それでは帰ろうか」

「はい」

「うん!」

この話題はこれまでと結論付け、シュープリスとなのはの返事を聞き、我々も帰路に着いた。





あとがき

昨日通っている訓練校の敷地内で、三ヶ月くらいの子猫を拾いました。

特に病気も持ってなかったです。

元から住んでいる猫(茶太郎【ちゃたろう】今年で13歳)と少しトラブルがありましたが、今はお互い距離を取って様子見の様です。

名前は性別が男の子で、訓練校で拾ったので練太【れんた】と名付けました。

こいつの兄弟は昨日の内は見つからなかったのですが、今日になって見つかり、少々可哀想ですが、それぞれ別の場所で暮らす事になりました。

その関係で更新が遅れるかもしれませんが、ご了承下さい……。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第四.五話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/08/05 20:19
                第四.五話
                 剣姫





〈Side アンジェ〉

三日程前、輸送艇の護衛を行っていたベルリオーズが行方不明になった。

管理局の遠距離観測班からの報告によれば、空間跳躍魔法の反応を確認、その攻撃を受けて大破、或いは撃沈された可能性が高いそうだ。

管理局員は管理局のエースがやられた事で、局内は上から下への大騒ぎになってしまっており、ベルリオーズの存在がどれ程大きかったのかを窺い知れる。

だが私の直感は、奴はまだ死んでいないと告げている。

あいつは、今までどのような状況でも生き残ってきた本物の戦士だ。

奴の言葉を信じれば、唯一の敗北はアナトリアの傭兵と対峙した時くらいであり、奴と同等かそれ以上の存在と対峙しなければ、ベルリオーズを倒すことなど不可能だろう。

「しかし……、このような状況でそちらが接触してくるとは、どういう風の吹き回しだ?
グレアム提督」

私は振り返り、ソファーに座って紅茶を嗜んでいる初老の男性に、そう問いかけた。

その両サイドには使いまであるリーゼとアリアが控えていた。

「そう身構えるものではない。
我々は交渉するためにここに来たのだ。
それに、君相手ではリーゼとアリアでは数秒と持つまい」

彼我の戦力差を把握した上でここに来る……か。

「それで、我々に何を渡し、何を与えれば良い?」

「何簡単な事だよ。
我々は闇の書……いや、夜天の書への干渉を行わない事にした」

「なに?
夜天の書は貴様にとって最も因縁深い懸案の筈だ、何故今になって手を引く?」

「……私は、今までの管理局、君達が来る前の管理局に対して、余り忠誠を誓っていなかったのだ。
信頼できるのは我等が女王陛下と、地球の友人知人のみ、私はあの娘、八神はやてと言う少女を犠牲にして暴走した闇の書を封印し、管理局に危機感を持って欲しいが為に、あの娘へ生活の支援を行ってきた」

「……続けろ」

「だが、君達が入ってからこの3年間で管理局は、本来の行うべき機能を取り戻しつつある」

「それで、八神はやてから手を引く事にしたのか?」

「その通りだ。
正直、あの娘を犠牲にしてまで管理局を揺すっても、あまり効果は無いと思っていた事もあってね。
後は、君達に管理局を任せることにしたのだよ。
勿論、彼女への支援は続けるがね」

そう言うとグレアムはリーゼに合図を送り、彼女は懐からデータディスクを取り出して、テーブルの上に置いた。

「それには、監視を開始してから今日に至るまでの、夜天の書のデータと八神はやての周辺映像が入っている」

私は一応何時でも動けるような体勢で、データディスクを取り、アイコンタクトで了承を得てから、中身を確認した。

「……不審な点はないな。
ここでウィルスでも仕込んでいるような雰囲気があれば、容赦なく切り捨てていたところだ」

「君たち相手に、そこまで大それた事はしないよ。
ところで、ベルリオーズ君はどこへ行っているのかね?
彼がそう簡単にやられるとは思っていないのだが……」

「極秘事項だ」

「そう……か」

私の言葉で全てを読んだようだ。

「それでは、失礼させてもらうよ」

「ああ……ひとつ聞きたい」

「なんだね?」

私が呼び止めると彼は立ち止まり、私のほうへ振り返った。

「貴様はこれからどうするつもりだ?」

「そうだな……。
管理局を退職して、故郷で静かに余生を過ごすことにするよ」

「……分かった。
奴にはそう伝えておく」

私がそう答えると、彼とは軽く会釈をして別れた。



《アースラ艦橋》

「今戻った」

「ああ、アンジェさん。
どうだったの?」

出航する前の慌しさを尻目に艦橋へ上がり、私を最初に出迎えたのはリンディだった。

「これを貰った。
それと、彼は管理局を引退するそうだ」

「そう……、でも、このまま夜天の書を暴走させられるよりはマシね。
そうなったら仕方が無いとは言え、知人が殺されるのは良い気はしないもの」

「そういうものか……」

私は彼女の言葉を聴いてそう答えるしかなかった。

元居たあの世界では、友人知人が明日になれば敵になる事など、そう珍しい話ではなかったからだ。

「艦長、エネさん達の乗艦を確認しました」

「分かったわ。
彼女達もブリッジに来るように伝えて」

「了解!」

「彼女等も連れて行くのか?」

「ええ、彼が居ない今、彼女達を実験台にしていた組織の全貌どころか、まだ影すら踏んでいないというのに、彼女達を個別に動かすのは危険だわ」

「それもそうか……」

ベルリオーズが行方不明になってからここ数日、絶好の活動期間だというのにまったく活動する兆しが無い。

とは言え、気が抜ける状況ではないのも確かだ。

今の次元宇宙は決壊寸前の堤防と同じで、少しの衝撃か水量が増せばすぐに氾濫する。

そのような状況だ。

「ベルリオーズさんの救難信号が、発信されている場所はある程度特定できたのね?」

「ああ、あとはその宙域に向かってから観測を行い、発信源の特定に入る事になる」

「そう……」

今回の件で最もダメージが出たのは、このアースラの乗組員達、今は一番落ち着いているが、リンディとクロノ、それにエイミィがその中で一番酷かった。

漂流事故とは言え、奴と最初に接触したのは彼女達であり、夜天の書の犠牲者の遺族の中で、その恨みからいち早く早く脱したのは奴のお陰だと、彼女達は言っていた事から、奴に対してかなりの貸しがあるのだろう。

【マスター】

【オルレアか?】

【はい、全ての兵装チェックと、システムの最適化が完了したので再起動しました】

「オルレアさん起きたの?」

「ああ、今起きたところだ。
オルレア、発現しろ」

【了解、マイマスター】

返事が返ってくると同時に、私の隣で光が収縮し始めた。

光が収まった時には、ブロンドの髪を後ろにまとめ、中世ヨーロッパの服を身に纏った女性が現れた。

「通信以外でこうして顔を見せ合うのは始めてね。
私はリンディ・ハラオウン、この船、時空航行艦アースラの艦長です」

「アンジェの融合騎、オルレアです。
本日付けで正式稼動すると同時に、グランドマスター、ベルリオーズ殿の捜索任務に参加いたします」

「ええ、お願いね」

「では、引き続いて兵装のチェックを行いたいので、これで失礼します」

それだけ言うと、オルレアの姿は徐々に薄くなって行き、最後にはその姿をブリッジからその姿を消した。

「随分と無機質な性格ね」

「恐らく、ネクスト時代の自らの姿を私の中から見つけたのだろう、その生き様を真似ようすると言うのは、随分と可愛らしいと思わないか?」

「ネクストって残留思念が形成される事があるの?」

「とある場所からの実験報告なのだが、死亡したリンクスが使っていたネクストに、別のリンクスがAMS接続をすると、自分とは違う何かが感じられたそうだ。
恐らくオルレアが感じたのはそれだろう」

「……そう考えてみると、ネクストというのはただの質量兵器では、ないのかもしれないわね」

「あくまで仮説の話しであって、そういった事象も極偶に発生するというだけだ。
必ずしもネクストの中に、残留思念が形成されるという事では無い」

「でも魔力を使っていない機械なのに、残留思念が形成されるというのもおかしな話ね」

「とある学者の実験なのですが、緻密で精巧な機械になればなるほど、不可思議な動作異常を訴えると言う、統計の結果があるそうです」

突然後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、そこには奴が養子として迎えたエネ、メイ、リリウムの三人が立っていた。

「それってどういう事かしら?」

「つまり、その緻密且つ繊細に設計された機械などは、何らかの意思があると言いたいわけだな?」

「あくまで統計上は……ですので、必ずしも不可思議な故障が発生するわけではありません」

「それもそうだな……エネにメイ、どうした?」

二人に視線を向けると二人して身を縮ませていた。

「い、いや~私その手の話は苦手で」

「私もちょっと……」

「大丈夫だ。
メイとリリウムが扱っている融合騎は、新規に作成された管理局純正の物だ。
過去の記憶から、自らの元となった存在を真似ようとする事は無い」

「そ、そうなんですか……」

「それに、思念があったとしても勝手に動き出すわけでもなし、だからその辺りは考慮に値する物ではなかった。
ネクストの事もそうだが、エネのデバイスもこの世界ではかなりの変わり物だな。
複数のデバイスパーツ製造会社の部品を合わせて作れるとは、まるで私とベルリオーズが居た世界に居たハイエンドノーマルのみたいだな」

「でもパーツ自体の値段がかなり高いんですよね……。
最も安い物でも、管理局のデバイスパーツの二倍近くですし、これだけ集めてもまだ三つもパーツを接続できますから」

「幾ら掛かったの?」

「メイ達程じゃありませんけれど……」

「「うえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

「あらまぁ……」

「随分とするな……」

「もう少し安いと予想したのですが……」

エネが言った金額は、高級車一台分は買える金額であり、私とリンディ、そしてリリウム以外は悲鳴を上げた。

「桁は間違えて……いないみたいね」

「あまりに高額だったから、兄さんに相談してみたんだけど、「別に良いぞ」って……」

「ず、随分とあっさり……」

「あの人って、単独行動や危険な世界への活動が多いから、特別手当や危険手当をもらい放題なのよね……」

「そうなんですよね……っと、港湾管理区から出航の許可が下りました」

「分かったわ」

リンディはそれだけ答え、顔を引き締めた。

「では本艦はこれより、ベルリオーズ・レイレナード一尉の捜索の為に出航します」

その声が発せられてから出航の手順は滞りなく終わり、時空管理局・巡航L級8番艦アースラは、次元の海へと旅立った。





後書きと言う名の自機のアセンブリを晒すコーナー

フレーム

ホワイトグリントフレーム

内装

アリーヤジェネレータ
INBLUE
ラトーナMB
ラトーナBB
ラトーナSB
AA搭載型ジュディスOBもしくはアリーヤOB

兵装

RA:MR-R102
LA:ACACIA
RB:SAPLA
LB:SAPLA
RH:EB-O600
LH:EB-O600

スタビライザ

WHITE-GRINT/HORN
03-AALIYAH/LBS1

FPS

積載量:重量微過多が無くなるまで
EN出力、容量:MAX
レーダー更新間隔:MAX
MB、OB:MAX
MB&SBQB:20
残りはBB以外のブースタ系に適当に割り振り



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第五話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:e0fd0e39
Date: 2009/09/21 23:33
                   第五話
                不屈の闘志(後編)






〈Side ベルリオーズ〉

「と言う訳で、そのフェレットをうちでしばらく預かれないかなぁ……って」

「フェレットか……」

なのはの頼みを聞き、士郎は腕を組んで考え込んだ。

なのはも自分の意見が通るか不安なのか、少し身を乗り出して父親の顔を覗き込み、そんな彼女らの様子を見つつ、私は水を口に含んだ。

「フェレットってなんだ?」

―ずるっ―

「ぶふぅ!」

私は口に含んでいた水を僅かに噴出し、話を聴視していた各々が脱力のリアクションを取る。

幸いコップを口に付けた状態で吹いたため、被害は私の襟元に留まった。

「イタチの仲間だよ。
父さん」

「大分前からペットとして人気の動物なんだよ。
それよりもベルゼーさん大丈夫?」

「ああ…ごほっ、問題ない」

結局桃子の助言で、なのはがきちんと世話をするのならば、フェレットを高町家で預かっても良い事になった。

「良かったな、なのは」

「うん!」

恭也がそう言うと、なのはは嬉しそうに返事を返した。

夕飯の時間を終えてから数十分ほどして、先に風呂に入るように勧められ、15分ほど入らせて貰った。

風呂などを勧められた時は、厚意を受けて15分~20分ほど経った後、風呂から上がるのがマナーだ。

……何を言っているのだろうな……私は、ともかく、我々が就寝してから数分後、高町家から少し離れた場所で異常な魔力反応が発生した。

「マスター」

「分かっている」

互いに確かめ合うと我々は音を立てずに玄関口から出た。

その時、なのはの靴が無い事に気付く余裕は無かった。

「少し距離があるな」

「はい、融合を行いますか?」

正門から出て呟くと、シュープリスがそう進言してきた。

「そうするとしよう」

「了解、融合開始します」

シュープリスが融合の宣言をすると、山吹色の魔力光が我々を包み込んだ。

外から見れば、魔力で出来た球体が視認できる筈だが、それも一瞬発生したのみであり、魔力光の球体が弾け飛んだときには、甲冑とも捉えられそうな、シュープリスのAJに身を包んだ私が佇んでいた。

【各部衝撃吸収用ACS動作安定、FRS、IRS、FCSの正常稼動を確認、融合型デバイス『シュープリス』の融合、完了しました】

こちらでもそれを確認すると、私は魔力ブースタを使用して住宅地の上空へと上昇し、オーバードブーストの噴射口を展開した。

空気と魔力粒子が圧縮される音がし、次の瞬間には私のバイザーに投影されている速度計には、時速1200kmをマークしていた。

普通なら生まれるソニックブームで、下方の民家に多大な影響を与える所だが、OBを展開する際にシュープリスが封時結界を、広域で且つ連続して展開している為、その影響は無い。

【目標地点到達まであと5秒、MPA展開します。
各武装モーニングコール……正常、安全装置を解除……目標地点に到達と同時に魔力保有者を2つ確認、あれは……】

「なのはか」

何かが激突したのか、陥没した道路の傍でなのはの姿を視認した。

【遠方に正体不明の魔力反応5】

「随分と静かだ。
なのはの近くにある魔力反応は……これはユーノの物だな」

【はい、どうやらあのフェレットに変装しているようです。
先ほど観測された魔力反応もありません】

「と言うことは、なのはが拾ったフェレットと言うのはユーノの事の様だな。
探す手間が省け、これで本格的にジュエルシードの探索に出られる」

【その前に、彼と接触しなくてはいけませんが……】

「その通りだ」

シュープリスにそう答えると、私は浮遊魔法を切ると同時に、弱出力でブースタを吹かして緩降下を行いながらなのは達に接近する。



〈Side なのは〉

「ふぇ!?
こ、今度は何?!」

やっとお化けを倒したと思ったら、今度はロボットみたいなのが来ちゃったよぉ……。

「あ、あなたは!?」

「へ?
フェレットさん、あれを知ってるの?」

「うん、彼は時空管理局第一機動遊撃隊隊長のベルリオーズ・レイレナードと言って、入局からわずか三年で一尉まで昇進し、次元犯罪者からは管理局の断頭台とまで言われているスーパーエースだよ!」

「そ、そうなんだ」

フェレットさんの勢いに飲まれたけれど、言っている事は本当だと思った。

だってフェレットって喋らないし……。

「どうやら自己紹介の必要はないようだな。
突然の来訪に驚かせてしまい申し訳ない。
が、こちらにも事情があるので、その辺りは考慮してもらいたい」

そう言うとレイレナードさんは私の横、フェレットさんに視線を向けた。

「スクライア一族出身、ユーノ・スクライアであっているな?」

「え?あ、はい!」

「色々と話があるが、とりあえずは場所を移動しよう。
この場に留まるのは賢い判断ではない」

「え?」

私がそう返すと、遠くからパトカーのサイレンが響いてきた。

「恐らくこの世界に治安機構のものだと思うが……」

「ど、どうしょう……」

「謝って済まされる被害ではないからな。
逃げるとするか」

「ご、ごめんなさい~!」



「はぁ、はぁ、すぅ~はぁ……」

とりあえず逃げて来ちゃったけど、絶対明日になったら大事になっているよね……。

家の塀や電柱、凹んだ道路も普通じゃあんな壊れ方しないし、事情を聞こうにもフェレットさんは気絶しているし。

「ふむ、明日になったらテロだのマフィア同士の抗争だのと騒がれそうだな」

と言うかこの声って……。

「あの……」

「なんだ?」

「もしかしてベルゼーさんですか?」

「ベルゼー……、もしやこんな顔ではなかったか?」

そう言いながら、レイレナードさんは奇妙な形をしたヘルメットを脱ぐと、そこにはベルゼーさんの顔があった。

「やっぱり、ベルゼーさんだったんだ……」

「魔法の事が無ければ、こうして正体を明かす事も無かったのだが、そこで気絶しているユーノが君を巻き込んでしまったようだな」

『マスターそろそろ我々の正体を言ったほうが……』

「ふぇ?
セフィリアさん?」

『ああ、これでは私の姿が見えませんね。
マスター、周辺に魔力反応はありませんし融合を解除しますが……』

「ああ、許可する」

「え?
それってどう言う……きゃっ!?」

私が言い切る前にレイレナードさんの体が山吹色の光に包まれたんだけど、余りにも眩しいからつい目を瞑っちゃった……。

「うう、一体何が……」

「宣告も無しに融合を解くのは拙かったですね」

う~、目がちかちかするぅ……。

「夜間で山吹色の魔力光だからな。
スタングレネードを放り込まれたのも同然だろう。
……大丈夫か?」

「ふぇ?わわ!?」

霞んでいた目の前が治ると、そこにはベルゼーさんの顔が!?

「ん?
ああ、これは失礼した」

「ほっ……」

ベルゼーさんが私から顔の距離を離すと、文字通りほっと息を吐いた。



〈Side ベルリオーズ〉

その後二三言葉を交わし、詳しい説明は後日話す事になった。

成り行きで初陣を乗り越え、ロストロギアを封印すると言う重要な役を行ったのだ。

今日は休んだ方が良いと判断した為だ。

高町家に戻り、少々小言言われたなのはだったが、事の次第を隠しながら私が説明すると安心したように桃子がなのはを抱きしめた。

シナリオとしては、何か胸騒ぎがすると思って飛び出したなのはが、原因が分からず半壊した動物病院を目にし、幸運にも敷地内に逃げ出していたユーノを拾ったと言う設定だ。

【一般人とは言え魔導師の素質を持ち、ロストロギアをも簡単に封印する魔力と、制御能力を持った魔導師候補……か】

高町家の庭に出て星空を見ながら私がそうつぶやく。

【局の現状を考えれば最適な人材では有りますが……】

【彼女はまだ9歳の少女だ。
成長期もまだ過ぎておらず、クロノの様に何のしがらみも無い彼女に、彼女を戦力に組み込むのはまだ早計だ】

【そうですね……それを決めるのは】

【ああ】

私とシュープリスが顔を向けると、そこには笑顔でユーノを出迎える高町家の面々の姿があった。

【彼女次第だ】

【ユーノ氏と合流できましたが、これからの予定はどうなさりますか?】

【一先ず局の捜索隊と合流するまでは、士郎が手配してくれたセーフハウスが本拠地になるだろう。
それまでなのはには、ジュエルシードの捜索を協力してくれる様頼むが、受けるかどうかは彼女次第だ】

【レオハルト等はどう致しましょうか?】

【向かってくるならば迎え撃つ、向かってこなければ予定通り接触するまでだが、どちらにしても、管理局と連絡を取れる様にしなければいかんな】

修正パッチを持ってこなければ、闇の書の守護騎士が勝手に収集を始めてしまう。

過去にも比較的温厚な主が居たようだが、その時のタイムリミットは3ヶ月から4ヶ月、あの守護騎士が覚醒したばかりならば、まだ時間的余裕はあるのだが、既にタイムリミット間近まで経過していた場合、かなり状況が悪くなる。

しかもこれ以上救難信号の信号波を大きくすると、その守護騎士とレオハルトに勘付かれてしまう可能性もある以上、弱い魔力波で救助を待つしかない。

(間に合ってくれれば良いのだが……)

そう思いながら私は再び星空を見上げた。





後書きと言う名の妄想パート1

なのは、フェイト、はやてをAF(一部仮想AF有)に置き換えてみた。

なのは=ソルディオスオービット搭載型ソルディオス

フェイト=スティグロ

はやて=スピリットオブマザーウィル



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第六話
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b1b1e3b7
Date: 2009/12/25 00:15
今回から長編になります、お覚悟を(作者の更新が伸びる的な意味で)
それと今回で彼女の携帯の目覚まし音声で、ネタをやるのは無しにしようと思う。
うん本当に――――――――――――(笑)





        第六話
        先天性





〈Side なのは〉

『はぁ……またか
何をやっているか、分かっているのか?
これから先が思いやられるな
なんだ?
ふざけたことを……、馬鹿、馬鹿、馬鹿、もう一緒にやれんよ、馬鹿野郎が(エコー)

どらぁ!どぅす!だぁがぁ!

貴様……

AMSから……アッーーーー!

よし、すぐに戻れ、やることhry』

「……またなの?」

(昨日のあれから、目覚ましの音楽を電話の中にあった別の曲に変えたのに、この携帯電話なんか変だなぁ……。
変更したばかりだから変えるのもあれだし、お兄ちゃんに頼んでSDカードに曲を入れて使おう……)

そう思案しながら私は眠気で重い瞼を擦りながら、着替えを終えて一回へと降りていく。

「あ、なのは、おはよ~」

「おはよ~、お姉ちゃん」

「ユーノ君の調子は?」

「うん、さっき様子を見たら大分元気になったみたい」

「そっか」

お姉ちゃんはほっとした表情で私に応えた。

実際ユーノ君の怪我は、それほど対した物じゃなくなっていた。

ベルリオーズさんの話によれば、フェレット形態に成る事で魔力の消費を抑えて、余った魔力を傷の治療に当てたって言っていた。

あの後、私を巻き込んだ事に関してベルリオーズさんは、『しっかりと補償を行うので、一先ずは仕事に協力してほしい』って言ってきた。

けど私は……。



〈Side ベルリオーズ〉

高町なのはからの返事が来た。

任務への協力を行いたいと言うものだ。

こちらとしては駄目元で言った事なのだが、何がどう転ぶのかわかった物ではないな。

10歳にも満たない少女を、戦力として組み込むのは気が引ける話だが、元の世界でも管理局でも日常茶飯事だったので、些細な心の機微は切り捨てる事にした。

なのはは念話の使い方を覚えた後、何時もの通り学校へ向かい、休憩時間にこちらへ念話で合図を送り、管理局の事、そしてロストロギアの事ついて詳しい説明を行う事にした。

(なのは)
【つまり……犯罪者を捕まえたり爆弾を解体したりする。
警察の様な軍隊と言う事で良いのかな?】

(ベルリオーズ)
【やけに斬新な比喩だが、大体合っているのが何とも……な】

(シュープリス)
【概ねその通りなので仕方ありません。
弁明する必要は無いかと】

(ユーノwith若干空気)
【あの、僕も何か手伝いを……】

(ベルリオーズ)
【お前は治療に専念しろ。
外傷は無くとも、身体・精神的の疲労は馬鹿に出きる物ではない】

(ユーノ)
【はい……】

(なのは)
【あれ……なんかユーノ君の姿が薄く……】

(ベルリオーズ)
【なのは、何事も口に出してはいけない事もあるのだ】

(なのは)
【?
なんだかよく分からないけど、とりあえずそうしようかな】

(ユーノ)
【(´Y`)……】

幸いなのはは頭が良く、管理局の創設理由やその活動目的、そして次元犯罪者などの細々とした要点を理解してくれた。



(14:25 海鳴臨海公園)

一通り説明が終わり念話を切った私は臨海公園へと足を運び、しばらく捜査を行った後ベンチに腰を掛けた。

「早々見付からない物と思っていたが、こうまで反応が無いとは……。
やはり強制的に活性化させるしか方法は無いのか?」

「ですが、下手に活性化させればそれなりのリスクも発生します。
ここは回った箇所に置いたセンサー群からの報告を待つしか……」

「それも……そうだな。
……ん?」

視界の端に捉えたのは、先日会った八神はやてと……。

「もう一人は湖の騎士と呼ばれているシャマルか?」

「その可能性はあります」

「護衛が支援系魔導師一人と言うわけではあるまい。
近くに魔力反応は?」

「……3つの反応ありました。
内2つはレオハルトとノブリス・オブリージュ、残る一つは剣の騎士では無い様です。
恐らく鉄槌の騎士か楯の守護獣のどちらかでしょう」

「ならば早めに立ち去った方が良いな。
これ以上接触していざ交渉する際に警戒されても困る」

「そうですね」

私はベンチから腰を上げ公園の出口に向かい、出る直前に幸せそうに笑う八神はやてを見る。

それが、幼い頃に見た色褪せた光景と重なった……。



(15:35 海鳴市繁華街)

「ここでも収穫は無し……か」

「やはり、活性化を待つしかないのでしょうか」

「いや、未活性でもそれなりに魔力が検出されるはずなのだが、我々のセンサーでは検出されないようだな。
アースラが居れば追加レーダーを装備できるが……、無い物を強請っても仕方あるまい」

私が魔導師と言うものを始めてから色々試したが、レーダー画像に映るのは金属物以外にも、魔力反応が有る物も含まれており、カメラアイの性能も擬態魔法を見破る効果がある事が分かっている。

それ故に今後はレオハルトに接触するのを、極力避ける方針にしているのだ。

「一つの事例が全てではあるまい。
しばらくは様子を……!」

「融合、開始します!」

様子を見ようと言い出そうとした途端、山の方で大きな魔力反応があったのを確認し、我々は即座に戦闘体制へ移行した。

シュープリスが私との融合を開始、融合が完了し魔力の防護壁が解けた時には、我々は臨海公園の遥か彼方へ移動していた。



「反応はこの辺りの筈だが……、もう終わっていたか」

「その様ですね」

我々が発信源である神社に到着した時には、既になのは達がジュエルシードを封印し終えた所だった。

「あ、ベルリオーズさん!」

「昨日に続き今日も君に先を越されたか。
これでは管理局のエースの名を返上しないといかんな」

「そ、そんな大袈裟な事をしなくても良いですよ!?」

私がなのはをそう評価すると彼女は慌てさせてしまったようだ。

まだ彼女にはこの手の冗談は分からないようだな。

「先日魔法に目覚めたばかりの女の子に遅れを取ったのだ。
これでは嘗て最強と言われていた私にとっても、最大級の課題であるから軽視出来ん」

「あわわ……」

「それにしてもロストロギアの封印を、力任せとは言え連続で成功させるとは、やはり君は素質があるようだな」

「そ、そうなの……かな?
えへへ」

照れている彼女を見ながら私は、昔読んだある論文の名前が思い浮かんだ。

『ドミナント仮説』

卓越したという意味であり、とある科学者により提唱された「先天的に戦闘適正に優れた者」と言われており、過去の伝説的なレイヴンは皆ドミナントである、とされている。

まだその統計が取れていない故に、当初は机上の空論と言われていたのだが、彼女のこの二日間の成績を考えれば、強ち絵空事ではないのかもしれない。

まだ彼女がドミナントで在るかどうかは分からないが、少なくともあのリンクス、アナトリアの傭兵は少なくともそれに値する戦闘力だった。

「もう……二度と会う事も無いだろうが」

「ふえ?
ベルリオーズさん何か言いました?」

「いや、何でも無い。
では今日はこの辺りで切り上げるとしよう。
どうやら対策を練らなくては成らない事が有るようだ」

「あ……はい!
じゃあまた明日!」

なのははそう言いながら、神社の鳥居を潜り階段を駆け下りていく。

「今回も無事に封印完了した……か」

「いったい彼女は、どこまで伸びるのでしょうか?」

「それは分からん。
だが、彼女は真改の言葉を借りれば、まだ熱い鉄の状態だ。
叩けば叩いた分だけ成長するだろう。
それだけの伸び幅はあると私は思う」

「……そうですね」

(もしかすれば、彼女がこの世界でのアナトリアの傭兵になるかもしれんな)

私はそう考える。

「兎に角、一端戻るぞ。
しばらく仮眠を取った後、また捜索をするとしよう」

「了解」



その後、夜中の捜査にて、辛うじて半覚醒状態になっていたジュエルシードを二つ、丘の上の学校の校庭と市民プールで発見、封印処理を行った。

だが、それと同時に新たな魔導師がこの世界に侵入してきたのを、我々はそれを気づいていなかった。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第七話前編
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:b1b1e3b7
Date: 2010/02/14 18:14
         第七話
     魔導師と山猫達 前編




〈Side:Out〉
〈とあるビルの屋上〉

夜の明かりが爛々と光る繁華街、その繁華街の中で比較的大きなビルの屋上でカツンと、体重の軽い人間の足音が響く。

これで人影が無いのであれば、何かの拍子で物が貯水タンクに当たった音と聞こえるだろうが、元より人が居ないこの場所ではその聴衆すら居らず、ましてや夜の屋上に出る物好きは居ないだろう。

星空を見に来たと言う理由でこの場所に来たとしても、空は生憎の曇り空でありその物好きの希望は叶えられない。

だがその音を立てた場所には、このような場所に居るにはあまりにも不釣合いな、まだ年端も行かない一人の少女と、その付き添いであろう一人の女性の姿があった。

先ほどの足音は彼女達が立てたものであり、彼女達こそがその唯一の聴衆でもあった。

彼女達を言い表すのであれば、少女の方は金髪に赤い瞳を持ち戦斧持った中世の騎士、女性の方はそれに従ずる赤毛の狼人間と言ったところか。

「それでフェイト……、何か反応はあったのかい?」

女性がそう言う。

この場に居るのが彼女達だけならば、金髪の少女の名はフェイトと言う様だ。

「まったく反応が無いね……。
やっぱり発動を待ったほうが良いのかな?
アルフはどう思う?」

フェイトと呼ばれた少女が、恐らく傍に居る女性の名を言いながら質問を返す。

「私に聞かれてもねぇ……。
私は殴り合いの方ばかりだから、こういった封印とかは専門外だし……」

「そう……だったね。
ごめん」

「フェイトが謝る事は無いさ。
私もちゃんと、リニスから魔法の勉強を受けておくんだったって、後悔してるからさ」

「ここに居たか」

「探したぞ」

フェイト達の後ろから、二人の男の声がして彼女達はそちらに振り返る。

「そっちはどうだったの?」

フェイトが男達にそう聞く。

「こちらは微弱な反応は捕らえたのだが、細かい場所までの特定は出来なかった」

「私の方も収穫は無かった。
何分この手の任務は不慣れでな」

昆虫染みた赤い甲冑と、胴体以外に装甲を余り付けていない銀色の甲冑を着た男達が、そう答える。

「そっちもかい。
こりゃ時間が掛かりそうだねぇ……」

「依頼主は気長に待つと言っていたが、かなりキナ臭い印象がある。
注意したほうが良い」

「言われなくても分かっているさ、魔術師さん」

「では、今回はこれまでにしておこう。
あの輸送艇の乗員が生き残って、回収作業をしている可能性もある」

「そうだね……」

「戸籍とセーフハウスはこちらで用意してある。
この時代程度のコンピュータならば、進入して戸籍の偽造を行うなど容易い。
ついて来い」

赤い甲冑の男がそう言いながら移動を開始すると、残りの者達もその男の後を追った。



〈Side:ベルリオーズ〉
〈海鳴市 市営バス停留所〉

「ふう……」

昨日に続き今日も海鳴市を巡回する作業に一段落付け、私はバスの停留所にあるベンチへ腰を下ろした。

運営している者がこの場に居れば白い目で見られるのであろうが、今の所それらしい人物は居ないので問題は無い。

一見してみれば、融合してから見て回った方が手っ取り早いように見える。

だがこれは私の様な者に当て嵌まる事だが、未活性状態で魔力粒子をそれ程出していない物が相手では、自分が使っているブースタが放出する魔力が邪魔をして見つけ難い為、こうして地道に歩いて回った方が効率的なのだ。

私は携帯端末のカバーを開け電源を入れ、ワープロソフトを立ち上げ報告書の作成に入った。

―現地時間4月5日AM10:47―

―現地協力者と共同でジュエルシード全21個中4つを回収、今の所捜査に影響は無い為、このまま第97管理外世界での回収作業を続行する―

―また、攻撃してきた勢力との接触の可能性もある為、その勢力との戦闘に関しては特務規定第9条の第4項に基づき、現場の判断で応戦する事を事後承諾での許可を願いたい―

そこまで書き私の所属名と名前を記入し、見直した後端末の電源を切った。

「よし、次の調査ポイントへ行くぞ」

「了解」

「あら、ベルゼーさんにセフィリアさんじゃない」

「ミス桃子か。
士郎には世話になったな」

「いえいえ、困った時はお互い様ですし、それに久しぶりにコーヒーの味に注文を付けられたって、士郎さんも喜んでいましたから」

「そうか……」

不味い合成コーヒーで何とか旨い物を淹れようと、悪戦苦闘して得た知識が通じたのをしり、私は心の内で少々喜んでいた。

「それで、今は買出しの途中か?」

桃子が店のウェイトレス姿で、エコバッグの中から茶葉やコーヒー豆のパックが、顔を出しているのが見えてそう聞いた。

「ちょっと茶葉とコーヒー豆が切れかけていたから、買出しに行っていたの」

「確か店のケーキなどは貴女が作っていたはずですが……、それは大丈夫なのですか?」

「ええ、少しはストックが置いてあるし、それに恭也達も大体の物は作れるからね」

「しかしそれだけの物を片手で持つのは大変だろう。
私が持とう」

「え、良いのかしら?
これ結構重いのだけど……」

「なに、仕事柄力仕事には慣れている」

「じゃあ、お願いしちゃおうかしら、……よいしょっと」

私がバッグの紐を持ち、桃子が手を話すと少し重みが掛かった。

バッグの大きさはそれほどまでも無い上、入っているものが茶葉の入った缶や、コーヒー豆を詰めたパックばかりでそれほど重くないが、それでも気を付けなければたたらを踏む羽目になりそうだ。

「お菓子職人として、下積みをしていた頃に付いた腕力に自信があったんだけれど、やっぱり長い間そういう仕事から離れていると、かなり落ちているものなのね」

「筋肉は成長期に付いたものはなかなか落ちないが、成人になってから付いたものは直ぐに落ちるようだからな」

「んー、これでも18年前にはフランスで下積みをしていたんだけどなぁ」

「……待て、今なんと?」

「え?
フランスで下積みを……」

「いや、もう少し前だ」

「その前……18年前と言った辺りかしら?
あ、一応言っておくけど私はまだ37ですからね!
ベルリオーズさんは、そんな失礼な事を考えていないと思いますが一応です!」

……恭也は確か今年で19になると言ったな。

つまり……奴はロリコンということ。
ベルリオーズ・レイレナードだ( ・`ω´・)ノシ

【深くは突っ込まないでおくか】

【そうですね】

今が幸せなのだから何も言うまい。

「いや、少し気になっただけだ」

「?
なら良いのだけど……」

頭にいくつか疑問符を浮かべたが、桃子はそれ以上の追求は行わなかった。

「そう言えばベルリオーズさんはまだここでお仕事を?」

「ああ、何分探し難い物品でな。
オカルトの研究をしているとある人物からの依頼なのだよ。
別段その様な物は信じていないが、仕事であるからには全うしなければ業界の信用にひびが入るからな」

「それってどのような物かしら?」

「菱型をした蒼い宝石の様な物だ。
全て集めれば願いが叶うとかそう言った代物だが、依頼人からはそれらを集めて誰の手にも渡らない様に、厳重に保管したいので集めてきて欲しいと頼まれたのだ」

「そんな物がこの街にあるなんて……、まるで昔の週刊誌にあった漫画みたいね」

「まあ、大方ガセの可能性が大きいだろうがこれも仕事だ。
あとはキリスト教やらなんやらの、宗教事に巻き込まれるのは勘弁願いたい」

「あらあら」

わざとらしく苦笑いを浮かべながらそう言うと、彼女は口元を手で隠しながら小さく笑った。

「では、我々はもう少し探索を行う。
恐らく昼食は翠屋で取らせて貰う事になるだろう」

「ええ、お待ちしていますね」

私達と桃子が軽く会釈すると、彼女はそこから離れていった。

「よろしいのですか?
機密ではないとは言え、魔法技術の一片を言ってしまいましたが」

「なのはの事が何時、彼女の知人友人にばれるかも分からん。
それならば今の内にどういった経緯でここに来たのかを、断片的にでも伝えて置いた方が良かろう」

「ですが、彼女の親族が容易に受け入れるとは……」

「その時はその時だ。
惜しい人材だが、彼女はまだ幼い。
本格的な戦闘技術を身に着けるにしても、時期が早すぎるからな。
拒絶された場合は諦めるしかない」

「そう……ですね」

「それよりも探索だ。
今回は……」

その後一日探して回った結果は不漁だった。



唯一市民プールに遊びに行ったなのはが、ジュエルシードを一つ確保したのみであり、捜査の難航が露呈し始めた。

目標が小さく、未活性状態だとろくに探知できないのが悩み所だ。

【やはり、捜索範囲を絞った方が良いのかもしれないな】

【でも、それだと僕達を襲った魔導師が回収に来るかもしれません】

【その可能性も否定できんが、今は目先の問題に注力した方が良い】

(それに闇の書がジュエルシードの魔力を使って、覚醒されてしまうという、まずい状況になる可能性がある。
その為にも、海鳴市内のジュエルシードは全て確保した方が良い)

【えっと、ベルリオーズさん、明日はどうするんですか?】

【そうだな……】

(思えばなのはの体調を考えていなかった。
余りにも優秀なのでそちらに目が向いてしまったか)

【なのはは明日の捜索には参加せずに少し休んでおけ、慣れない封印作業で疲れているだろう】

【え、でも】

【頑張ってくれるのは嬉しいが、少しは年上に任せておけ】

【私からも同じ意見です。
成長期に無茶な魔法行為は避けるべきです】

【んー……分かりました】

【素直で宜しい】

【あの僕は……】

【お前はなのはの傍に付き、彼女に魔法の種類やその使用用途を説明しておいて欲しい。
お前の危惧する緊急時には時間を稼げるだろう】

【分かりました】

【それではこれで終わりだ】

【お疲れ様です】

【お疲れ様でした】

【お疲れ様でした~。
明日はすずかちゃんの家に遊びに行く約束だったから、どうしようかと思っちゃった】

【なのは……】

【ふふ】

(友人の家に遊びに……か)

その様な悠長な思い出など無い自分に嘲笑をしながら、翌日にあのようなジュエルシードの争奪戦が開始される事になるとは、夕飯の準備をする私には予期していなかった。




あとがきの様な置き手紙

遅れてほんっとうに申し訳ないです!
お詫びにちょっとかーちゃんの足の下に行ってきます。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第七話後編
Name: コーラルスター◆559fb833 ID:b284f4ad
Date: 2010/07/10 17:29
                第七話
             魔導師と山猫達 後編




〈Side:ベルリオーズ〉

【サーチャーからの収穫は無し……か】

【他の魔導師が居るので余り多用はしたくないのですが、致し方ありません】

前々回での大量収穫がまるで嘘のように、前回と今回の探索は空振りに終わっている。

今までは、レオハルト達に勘付かれない様にサーチャーを使って来なかったが、そのレオハルト達に拾われても困る為、早急な回収を余儀なくされていた。

「しかしこうして見ると、この街の周辺はとても緑豊かだ。
ついでに温泉も有ると聞く。
仕事ではなく休暇で来たい所だ」

「それも、マスターの内部摘発で人員が減ってしまった結果、現在育成されている局員候補が正規局員になるまで、そのような贅沢は出来ないかと」

「一人捕まえた後、ああも芋蔓式に不正した者が明るみに出てきたのだ。
仕方が無かろう」

管理局の連中は、我々の様に所謂陰謀慣れしていないのだ。

表では良い面をしていたいが故に、連帯的に互いを監視するようになってしまい、一部が甘言に促されるまま吐露すると、そのままズルズルと引き抜かれたのだ。

私はただ『日常会話』をした後、「答えてくれれば『それなり』の対処はしてやる」と、言っただけなのだが……。

「まあマスターの言葉の真意を見抜けなかった、あの方々の考えの甘さもありますからしかたありませんが」

「我々の方が策謀慣れしていると言う事か。
それにしても一介のパイロットにここまで掻き回されるとは、情報部等も一新させたほうが良いか?」

「その事については管理局に帰還してからにしましょう。
今は目先の問題を解決するのが賢明かと」

「それもそうだな」

そう言いながら私達は、掛けていたベンチから腰を上げた。

臨海公園と言う名に恥じないかどうかは分からないが、この場所はとにかく緑が多く植えられており、海からの潮風と樹木の匂いが混ざって落ち着く。

冷静に考えたい時や、軽くトレーニングをしたい時には絶好の場所だ。

「我々が居た世界でも、海が汚染されていない場所であれば、ここと似たような場所はあったのだろうな。
生憎私は見た事も無いが」

リンクスの素性は企業の最重要機密であり、大多数の社員以上の権限を与えられる代わりに、容易に外出できないと言う足枷が付いている。

それ故に社外の様子は社員伝に聞くだけであり、自ら外の様子を見る時は作戦区域への移動中か、戦闘行動をしている間だけなのだ。

ネクストでの市街地への進入と戦闘はそれこそ緊急処置であり、そのような機会など回って来なかった。

「久しく忘れていたな……」

「マスター?」

「いや何でもない」

「そうですか……。
それよりも『彼』は来るのでしょうか」

「あそこまであからさまな標記を書いて出したんだ。
生真面目な奴なら必ず来るよ」

「言ってくれるな。
その辺りは相変わらずと言った所でもあり、偽者でもないようだ」

不意に背後から声を掛けられそちらに振り向くと、そこには見慣れた柔和な顔付きのフランス系の男、レオハルト。

宗教画に出てくる天使の様な中性的な印象を持つ女性、ノブリス・オブリージュが立って居た。

「まさか、また貴方に会えるとは思っても居なかった。
今は何を?」

「まぁ、警察機構のような組織に身を置いていると言って置こう。
時が来れば詳しく話す」

「……時空管理局ですか?」

再会の握手を交わしながら互いに言いあうと、レオハルトはそう切り出した。

「知っていたか」

「彼女達から詳しい事情を聞いたし、何より貴方から魔力反応を検知した。
最近飛び交っている偵察ドローンのような物も、全部貴方の仕業なのでしょう?」

「確かにそうだ。
本来の任務は危険物の輸送だったのだが、何処かの誰かが輸送に使っていた時空航行船を攻撃、大破したので我々はこの世界への退避を最優先にした。
……時空航行船については?」

「この世界の他に時空を隔てて他の世界が有り、その世界の間を行き交う為に時空航行技術と言う物があると言うのは、彼女達から説明を受けている。
それに魔導師の事も」

「ならば説明する手間は省けたな。
我々は脱出する際に、積荷が入ったカーゴの自爆機能を起動させてから分離後、脱出艇で同乗していた一般の魔導師と共に脱出したのだが、カーゴの自爆と同時にその脱出艇も攻撃を受けてな。
転移魔法でこの世界へ漂着することになったのだ」

「相変わらずやる事が徹底していますね。
まあそのぐらいやらなければ、貴方らしくないと言いたい所ですが」

「煽てても何も出んぞ?」

「別にそう言うわけでは無いが……まあ良いさ。
それで、貴方の用件は我々と不干渉条約か?」

「それもあるが、まあ話しても構わないだろうな。
本来ならば、もっと後にお前と接触する予定だったのだが、先も言ったようにカーゴの自爆で危険物がこの街に漂着、輸送艇が狙われた事も鑑み早急な回収を求められる状況だ。
だが何の因果かこの街にはお前と闇の書、それを守護するヴォルケンリッター、そして闇の書の主である八神はやてが居た。
私としては無視しても良かったのだが、偶発的戦闘行為で消耗するのは喜ばしくない。
そこでお前からヴォルケンリッターに、我々と接触しても戦闘を行わないように伝えて欲しい」

「それで此方にメリットがあるのか?」

「そちらが回収の協力を自主的に行うのならば、私はこれまで行ってきた破壊活動による罰則を軽減、それに加えて闇の書への修正パッチを提供すると約束しよう。
闇の書が普通の魔導書では無い上に、正常稼動していない事は、お前なら分かっている筈だ」

「ああ……はやての身体障害の原因が闇の書である事は、私とノブリスが確認している。
あいつ等には……言ったら暴走する事ぐらい分かっているからな」

「同類だからか?」

「茶化さないでくれ……そうか、あの本の活動が正常になるのが本当ならば、こちらのデメリットはかなり少なくなるな」

「そうだ、闇の書が正常稼動する事により夜天の書に変わるのならば、闇の書が起こしてきた事件事故は闇の書の『消滅』によって、全て片が付く。
上の連中が口煩く言ってくるだろうが、すぐに収まるだろう」

「立場的にでもお前相手に強く出られないとは、相当苦労したみたいだな」

レオハルトが軽く息を吐きながらそう言う。

「まあ、昨今では大分マシになった方だが、未だにそう言う輩が多いのも事実だ」

「そうか……でノブリス、さっきから静かだが何を?」

「あ、いえ、久しぶりに同じ存在と接触したので合意の上で、リンクシステムを使って情報交換をしておりました」

「今終了しましたので、これより通常モードに移行します」

「む、それは野暮な事をしたな」

「いえ、それよりもはやて殿に電話を入れた方がよろしいかと、積もる話もおありでしょうから」

「それもそうだな……では済まないがベルリオーズ」

「ああ、支障をきたさない程度にな」

―そんな事はしない―と言いながら、レオハルトは公衆電話がある場所へと向かっていった。

「お前は一緒に行かないのか?」

「主の状態は常にモニターしていますので、何か異常が有った場合は直ぐに向かえます」

「そうか」

「マスター、私はノブリスと細かい情報交換を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「許可する。
だが余り長くなるなよ?」

「了解」

「ではまずは現状の闇の書の状態と、八神はやての身体状況についてでよろしいでしょうか?」

「ええ、こちらの過去の調査記録との照らし合わせもありますので」

「了解、ではリンクを開始します」

ノブリスが宣言するとそれ以降二人の会話は無くなった。

(神話に出てくる天使の会話も、案外こう言うものなのかもしれないな)

よく天使同士の会話はテレパシーを用いられると言われているが、天使が未来から送られてきたサイボーグやアンドロイドと、似たような存在ならばこの一説も説明が付く。

「全く……柄でもないな」

元来私のような人間は神様などと言う存在には否定的だ。

あの頃にもよくカルト教団等の自称司祭からは、「今の状況は神から与えられた神罰である!」と、身勝手な神学論をひけらかしながら説法をしていたが、あの様に神と言う存在にしか頼れなくなる事こそ、神罰だと私は思っている。

所詮神と言うのは弱かった人類が偶像した心の支えであり、数々の自然現象や事象を解明して行くほど、事象に宿っていた神性は薄くなる。

要は神と言う存在は、心の弱い人間が生み出した偶像に過ぎないのだ。

レオハルト自身も、自らを騎士や貴族と自称し敬虔なクリスチャンではあるが、自ら神に頼ると言う事はしていない。

そんな事では多大な精神負荷の掛かるリンクスなど、やっていられないと言うのを自覚しているのだ。



「待たせたか?」

「いや、こちらも少し考え事をしていただけだ」

「そうか……ならば「!?」」

レオハルトが何か言おうとしたその時、急激な魔力集中を検知した。

「シュープリス!」

「ノブリス!」

我々がお互いの愛機の名を叫ぶと、彼女達は即座に融合を開始、融合が完了すると同時に臨海公園から飛び出した。

「無理に付き合う必要は無いのだぞ?」

「関係者の自主的な捜査協力で彼女達の刑が軽くなるのだろ?
ならば貴族の誇りに掛けて全力で貴方を援護する」

「ふっ、その性分、余り長生きせんぞ?」

「貴方こそ」

【ベルリオーズさん!】

互いに微笑み合うとユーノからの念話が入った。

【ユーノか?
今現場に急行中だ。
強力な助っ人も確保できたので、出来るだけ無理をするな。
なのはにも徹底しろ】

【え、助っ人って……分かりました。
なのはにもそう伝えます!】

「とばすぞ、行けるな?」

「言われずとも」

レオハルトがそう答えると私はOBの巡航モードを起動、一途現場と思われる月村邸へと向かった。



[5932] 魔法少女リリカルなのは With Berlioz 海鳴編 第八話
Name: コーラルスター◆8d7bd614 ID:b284f4ad
Date: 2010/08/05 20:52
               第八話
              交差、撤退





〈Side:なのは〉

「ユーノ君、詳しい場所は分かる!?」

「ええっと……、ここまままっすぐ行けば反応があった場所に着く筈だよ!
それに、もう直ぐベルリオーズさんも来るからそれまで休息にしよう!」

「うぅ……、運動は余り得意じゃないのにぃ~!」

もう息切れまっしぐらなんだけど、それでもベルリオーズさんの手伝いを受けた身としては、少しでも役に立ちたいしでも息は苦しいわけで……。

(近くだからって歩きで向かったのが間違いだったよぉ~!)

でも、もう直ぐジュエルシードがある場所まであと少しの所に来ているから、教えてもらった飛行魔法を使うのもなんだか気が引けるしなぁ……。

「そろそろ着きそうだからBJに着替えようかな」

「うん、その方が良いね」

ベルリオーズさんから常に警戒して行けって言われていたから、私は魔力反応があった場所の少し手前でBJに着替える。

「んしょっと」

この変身にも大分慣れてきたかな?

前に「なんで変身するときに、服が全部脱げちゃうの?」って、ベルリオーズさんに聞いてみたけれど……。

―それはBJの装着に必要な事だからだ。
BJは魔力粒子で編み込まれた防護服で、装着者の身の回りに障害物があると、そのBJの防御機能が上手く作動しなくなってしまうからだ。
それ故に機能の邪魔になると判断された服飾は、一度素粒子レベルまで分解されてデバイス内で保管される事になる。
変身を解いた後元の服装に戻るのはそのお陰だ。
仕事が終わった後裸では何かと問題があるからな―

って答えてくれた。

まだ難しい単語があるけれど、その内分かるようになるのかなぁ。

[ウナァァアアアゴ]

「ふえ?」

なんだろう……猫の声に聞こえるけれど、それにしてはちょっと声の大きさが……。

「……兎に角行ってみよう?」

「う、うん!」

ユーノ君に背中を押されながら、私は猫?の声が聞こえた方に足を向ける。



そして少し移動した私達が見たモノは……。

「……ネコ?」

「ネコ……なのかな?」

そこには背丈が周りにある木よりも大きな猫の姿が!

[ウナァァァアアゴ]

「えっと……、これもジュエルシードの影響……なのかな?」

「多分……、きっとあの猫の願いが正しく?実行されたんだと思う」

それって早く大きくなりたいって事……だよね?

「しかしあれでは、骨格が自重を支えきれなくなるぞ」

「あ、ベルリオーズさん……と何方です?」

「紹介しよう。
偶然この世界で見つかった友人の……」

「レオハルト・ローゼンタールだ。
以後お見知りおきを」

「あ、もしかしてお父さんのお店に最近来るようになったっていう……」

「む、あの店の親類だったのか……。
ベルリオーズ、このような事は聞いていないぞ?」

「聞かれなかったからな。
だが今は目先の問題に対処しよう」

「封印はバインドで四肢を抑えてから行う事にするか。
あの大きさの動体では封印している間に逃げられてしまう」

うう、なんだか本当に軍人さんみたいな会話になっているよぉ……。

【!
警告!中距離からの魔力攻撃を確認!】

[ウニャァァアアアア!]

「「「「!」」」」



〈Side:ベルリオーズ〉

「ああ、ネコさんが!」

黄色い魔力弾の直撃を受けてよろめいた猫を目の前で見て、なのはが動揺する。

【こちらに指向性の魔力波を検知!】

「各員分散!
固まっていると狙い撃ちされるぞ!」

「了解した!」

【魔力波の発信源特定、2時方向距離500、高度10m、魔力収束を確認、二次攻撃の準備だと思われます。
優先目標は目標物だと思われますが、我々を先に排除する可能性も有ります】

私は武装を選択しながらブーストジャンプを行い、発射準備中の敵性魔導師に照準を合わせた。

周囲はレオハルトが既に封時結界を展開しており、周辺へ爆発音などの騒音は聞こえないはずだ。

【警告!ターゲット付近から探知用魔力波の勝者を確認、数2!】

【レオハルト!】

【了解した。
そちらにタイミングを合わせる!】

レオハルトの方を向くと奴は、既に両背部の通称翼スタビライザーと呼ばれている、三連装レーザーキャノンを展開していた。

こちらは既に、優先ターゲットを周辺の随伴魔導師にロックしなおしてあるので、即座にOGOTOを発射すると、レオハルトもそれに続いて6条の直射型魔力砲を放つ。

こちらの攻撃行動を察したのか3人の魔導師は即座に分散、魔力榴弾と魔力レーザーはそのまま通り過ぎて森林に突き刺さり、着弾地点にその傷跡を残す。

【敵性魔導師の詳細を確認、AAAクラスの通常魔導師1、ネクスト型魔導師2です】

地面に着地したと同時にシュープリスからの報告を受ける。

【ネクスト型魔導師のAJ形状と、武装の照合を開始……照合完了。
オリジナルリンクスサーダナ搭乗ネクスト、アートマン、ジョシュア・オブライエン搭乗ネクスト、ホワイト・グリントと酷似】

「な、何で急にこんな……こんな事をするの!?」

被弾した猫を庇いながらなのはが、金髪の魔導師に問いかける様子を一瞥した後、再度同クラスの魔導師達に視線を向ける。

「状況がつかめないな」

【状況推測から、我々の輸送艇を襲撃した者と見た方がよろしいかと】

「ふむ……」

【あうう……、ベルリオーズさんどうしよう……】

【だ、大丈夫だよなのは】

不安がるなのはにユーノが宥めようとするのだが、それは酷と言うものだ。

既に周りの空気の流れは戦場のそれであり、その中でも今のなのはは軍隊にしてみれば、訓練課程もろくに受けていない新兵同然だ。

【新たに反応を確認……敵の伏兵の模様】

【2.75対3.25か……、貴方と戦ったときに比べれば幾分かマシですね】

【あれ?
こっちもあっちも4人なのに何でそんな数字になるの?
それになんで0.5?】

なのはが初見で聞けば最もな質問を聞いてくる。

【単に熟練度と重要度の比率だ。
私とレオハルトはかなりの実戦経験を積んでいる。
それは向こうにいる同種の魔導師も同じだろう。
それに比べて君とユーノ、そして向こうの通常の魔導師は恐らく実戦を経験していない。
だが魔法修練は十分に積んでいるのだろう。
それに比べて君はまだ未成熟、ユーノは防御や支援一辺倒で大した影響力は無い】

【あうう……】

【うっ……】

【なに、前線は我々に任せろ。
君は後方からの支援攻撃に専念してくれ】

【あ……はい!】

【分かりました!】

レオハルトが落ち込んでいるなのはとユーノにフォローを行う。

こうして見るとレオハルトの方が指揮官向きなのかも知れんな、私にはあいつの様に上手くフォローなど出来ないだろう。

【ではどうするべきか……】

【不明勢力から再度の攻撃を確認!】

そうこうしている内にあちらから攻撃を仕掛けてきた。
ノブリスのセンサーがいち早く感知し警告したため、こちらに向かってきた魔力弾をすべて交わす事に成功する。

【ここは撤退することにしよう】

【そ、そんな!】

【何故ですか!?】

【こちらには戦力が足りていないからだ。
同数ならばどうとでもなるが、戦力的にこちらが不利な今ではイレギュラーが起こらない限り勝利はありえん】

【恐らくあちらの通常魔導師はなのはよりも技量が上だろう。
直射魔法と飛行魔法を教えたとは言え、未だに錬度不足の君が相手に出来る者ではない。
ここはベルリオーズに従って退くんだ!】

【わ、分かりました……。
なのは、退こう】

【う、うん……、じゃあ先に退きます!
あ、でもその前に子猫を……】

ユーノは私とレオハルトの意見に納得したのかなのはに退くよう促し、彼女も頷き、魔力弾で分離されたのか元の姿に戻った子猫を回収し、この区域からの撤退を開始した。

【誘導弾の接近を確認】

【阻害弾射出】

私は051ANAMから阻害弾をばら撒き、レオハルトと共にその場から撤退を開始、誘導弾は阻害弾に迎撃され、結界から出る際に複数の爆発音が聞こえたが、その時には既に領域を離脱していた。



〈Side:フェイト〉

向こうの魔導師達が引き下がっていくのを見て私は呆気なさを感じたけど、彼らが最後に残していったトラップに戦慄を覚えた。

迂闊に飛び出したアルフが空中に浮かんでいた置き土産に引っ掛かったからだ。

「空中機雷とは、中々味な真似をする」

「だが合理的な配置分布だ。
向こうの魔導師も中々やるな」

ジョシュアさんとサーダナさんは、あの黒い魔導師を評価しながら機雷を除去していく。

「うう……ごめんよぉ。
私が迂闊に突っ込んだばかりに……」

「いや、君のお陰で機雷の存在に気付けたのだから、その辺りには感謝している。
しかし単発作動式で良かったな。
連鎖作動式だったら君は既に戦闘不能になっている筈だ」

「だが次回は気を付けた方が良いな。
向こうもそれなりの準備をして相対してくるだろう。
イレギュラーが無ければ……の話しだがな」

「分かりました……」

私はそう答えながら魔導師達が撤退していった方へ目線を向けた後、ジュエルシードの回収作業に入る。

『Sealing form.
Set up.』

(ジョシュアさん達の説得のお陰で、私のオリジナルからの足枷が取れた母さんが受けた依頼だけど、こんな危険なロストロギアを一体何に使うんだろう……)

『Sealing.
Captured.』

そう思いながらジュエルシードの回収を終えて、私達は本拠地にしている時の庭園へ帰還した。


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