北野武インタビュー 「アウトレイジ」にいたる「数学」的映画観
(週刊朝日 2010年06月18日号配信掲載) 2010年6月9日(水)配信
北野 うん。うだつの上がらない、どうしようもないヒモみたいなオヤジが子供と旅行して帰ってきたときにはじめて菊次郎になれた。
岩切 「アキレスと亀」(08年)も1についての物語です。
北野 3分の1って0・333…と割り切れない。3分の1×3=1なのに0・333…×3=0・999…になってしまい、どこまでいっても1になれない。そんなパラドックスにはまってしまった芸術家の話。
岩切 で、最後に1になる。1って何ですか。
北野 すごい難問だよね、1はなぜ1なのかって。2もそう。同じ人が2人いるのか、チョコレート1個にバナナ1本でも2なのかとか。そんなパラドックスから抜けられない芸術家が最後に缶カラ蹴飛ばして、これをとりあえず1にしようと思う。
岩切 1になるんじゃなくて1にするんだ。じつはあの映画は芸術家と妻の2の物語でもあった。
北野 1を作るためには2が、2を作るには1が必要なんだよ。
岩切 0は?
北野 0は考えないな、オレ。0の0乗は0だけど、1の0乗も2の0乗もあらゆる数の0乗は1だから、0は1として扱う。
岩切 あ、マス北野の顔になった(笑)。数学は前提を考える学問だと思うのですが、お笑いってその前提をひっくり返すわけだから本来数学的です。
北野 前提を見せといて、それをちょっとひねって逆さまにしちゃうとか。
岩切 「赤信号みんなで渡ればこわくない」ですね。A=Aという数学の大前提が最後まで壊れたままの映画もありました。「監督・ばんざい!」(07年)です。あの監督は分身の人形といつもいっしょにいた。
北野 A=A'なんだね。A'が人形で。
岩切 文楽人形が出ていた「Dolls」(02年)。あの映画は数式で表すとどうなりますか。
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