北野武インタビュー 「アウトレイジ」にいたる「数学」的映画観
(週刊朝日 2010年06月18日号配信掲載) 2010年6月9日(水)配信
岩切 たけしさんの映画にも、ぼくは数学を感じますよ。「座頭市」(03年)では、たとえば大勢の敵と斬り合うとき立ち回りをカッコでくくって思いっきりはしょってみせたり。
北野 編集でわりかし因数分解みたいなことやってるから、オレ。
岩切 あの映画は金髪とタップダンスとチャンバラというふれ込みだったけど、その連立方程式の解がどうしてもイメージできなかった。ところが実際に観ると見事に成立していました。
北野 座頭市=勝新太郎さんでしょ。座頭市といった瞬間、あの白目をむいた小太りの姿が目に浮かぶ。勝さんの座頭市には絶対勝てっこない。だから最初断ったんだけど、好きに撮っていいからと口説かれて、ああいう映画になった。
岩切 あの連立方程式を成り立たせている空間はやっぱり浅草ですか。
北野 浅草といえば浅草だし、ヘタするとストリップ劇場、それもフランス座って感じがする。ステージがあって金髪のヌードダンサーがいてね。そこに持ち込んだからあの映画は見られたんで、勝さんの世界に入ってたらどうにもならなかった。
岩切 そのフランス座でコントを書いていたのが、先ごろ亡くなられた井上ひさしさんです。
北野 申し訳ないと思うよ、井上さんには。だって井上さんがいたころの浅草はあらゆることの発信地だったのに、当然あってしかるべき落語と漫才と大衆芸能の小屋がないんだもん。じつに間抜けな町になっちまった。時代遅れを追っかけてんだね。大勝館なんてボウリングブームが終わりかけたころボウリング場を建てていた。
岩切 「菊次郎の夏」(99年)にも浅草が登場します。ずっと菊次郎という名前は出てこなくて、最後に子供に名前を聞かれて「菊次郎だよ、バカヤロー」と、ようやく菊次郎=菊次郎になる。半端だった菊次郎が1人の菊次郎になる。つまりあれは1の物語でもあった?
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