劇場版ヒットにみる「アニメ新ビジネスモデル」ORICON BiZ8月 6日(金) 17時 3分配信 / エンターテインメント - エンタメ総合
10年1月〜6月に公開された主な単館系アニメ一覧ほか図表付き記事 『借りぐらしのアリエッティ』や、『トイ・ストーリー3』といった大作が大ヒットを記録している今夏のアニメ映画興行。一方で、昨年後半から今年の前半にかけて、コアファン層をターゲットにした単館系の劇場アニメも好調な動きを見せ、『涼宮ハルヒの消失』の興収8 億円突破をはじめ、『銀幕ヘタリアAxis Powers Paint it, White(白くぬれ!)』、『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』などのヒット作が相次いだ。 こうした劇場作品の活況は、裏を返せば、従来のようなテレビアニメ放送、パッケージセールスによる製作費の回収、というビジネスモデルに変化が起きていることを示している。これらコア層に向けたアニメは主に深夜、製作委員会が番組枠を買い取って放送に載せていた。ところが、近年は、目の肥えた観客を満足させるためのハイクオリティな作品作りが求められており、そのため、製作者サイドは一定の予算を確保する必要がある。だが、パッケージセールスが低下している現状では、パッケージの売上のみで、放映枠に投資した額をリクープするモデルは成立し難しくなってきている。 ■興収・パッケージ売上・グッズ販売の3本柱 6部作連続の劇場作品という大型企画『ブレイク ブレイド』のプロデューサー、バンダイビジュアルの大河原健氏は「テレビではできないクオリティで届けるためにアミノテツロ監督以下、『ガンダム00』の柳瀬敬之さんら、手描きでしっかりとロボットアニメを描けるスタッフを揃えて劇場作品という戦略をとりました」と語る。また、連作とはいえ「テレビで毎週かけるよりは、2、3 か月に1 本の方が丁寧に作れる時間が確保される」(大河原氏)と、公開形態が作品クオリティにはっきりと反映される状況を指摘する。 こうした劇場新作を連作していく手法は07年〜 09年にかけて公開された『空の境界』が最初だ。当初2 館だけでの公開であったが、商圏に集中した戦略が功を奏し、連日札止めになるほどの活況を呈した。プロモーション効果を十分に発揮し、未公開の地域でもDVD セールスに結びついた。さらに同作は、劇場でのグッズ販売も非常に好調で、単館系アニメは興収・パッケージ・グッズ販売の3 点でビジネスが成り立つという様式を確立した。 ■5年ほどで増加した劇場版アニメ作品数 こうした傾向が始まったのは「05 年の東映アニメーション作品『AIR』から」と語るのは、シネマサンシャイン池袋を運営する佐々木興業の佐々木武彦専務。その後、『CLANNAD』や『天元突破グレンラガン』、『マクロスF』など、『AIR』での成功を受けて上映する作品数も増加している。前述した『ヘタリア』、『ブレイク ブレイド』では、興収全体の半分を同所で売り上げるほどだ。舞台挨拶も数多く行われるため、声優目当てのファンが押し寄せ、劇場アニメの“聖地”的な存在になっている。上映の売り込みも多く、配給会社からだけではなく、コンテンツホルダー(製作委員会)からの上映の売り込みもあるという。コンテンツホルダー主体の場合、上映館数を絞るため、自社配給でのコントロールもきき、より観客のニーズにあった展開が可能になるという。『空の境界』や『なのは』もアニプレックスによる配給だ。 一方で、テレビシリーズと劇場での展開を絡めた作品もある。フジテレビ・ノイタミナ枠で人気を博した『東のエデン』は、テレビシリーズ1 クールを放送し、その続編を2 作品公開するという珍しい形態の展開を行った。アスミック・エース エンタテインメントの遊佐和彦氏は、「公開のブランクが空いた期間には総集編を上映したりイベントを行うことでファンに継続感を与え続けました」と語る。作品やブランドの読み通り、客層は女性やカップルが多く来場。これは“ノイタミナ”ブランドの特長でもあるが、制作スタッフ陣を揃え、テレビシリーズが高クオリティになったことで、その総集編を劇場で上映しても比較的遜色ないフィルムになっている。同社では今年、『Yahoo!動画』で実績を残したWEB アニメ『イヴの時間』シリーズを1本の劇場作品にまとめ、上映する展開も実施している。 このように、現在、劇場作品を展開するうえでは、パッケージ発売までの“継続感”をいかに作れるかが重要になってくる。『ブレイク ブレイド』では公開とパッケージ発売の日程をあえて近づけて、公開からパッケージ発売までの一連の流れを、ファンにとっての“お祭り”として演出した。確かに劇場の動員数はテレビで放映するよりも、数が絞られることになる。しかし、前記のように、演出の仕方次第で、劇場公開からパッケージセールスにつながる成功事例や、イベント感を求めて劇場に足を運ぶアニメファンは、着実に増えつつある。デジタル上映の普及がさらに進み、よりロイヤリティの高いファンを獲得する場所として、劇場という空間は今後ますます重要な位置を占めるだろう。 【関連記事】 タワーレコード×水樹奈々、異色コラボの収穫(10年7月29日) YUIプロデューサー・近藤ひさし氏インタビュー(10年7月23日) ・「アニメでまちおこし」の10年後を考える(10年5月3日) ・『デュラララ!!』最新刊、アニメ効果で初動が約5倍に(10年6月29日) 『イナズマイレブン』ヒットの背景(10年7月22日)
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