ロンドンの街角には、監視カメラを複数据え付けた塔(中央)があちこちに立っている
【ロンドン=橋本聡】「行き過ぎたテロ対策が、市民の自由を侵していた」――。そんな反省の機運が英国で高まり始めた。400万台以上といわれる監視カメラの設置や警察官による身体検査などの施策をめぐり、英政府は全面的な見直しを始めた。秋に具体策をまとめる。「治安優先」から「人権」へ、振り子がふれつつある。
「英国の伝統である市民の自由と、治安対策とのバランスを回復する」。メイ内相(保守党)は7月中旬、異例の見直し着手を表明した。
風向きが変わったのは今年5月、13年間続いた労働党政権が終わり、政権交代が実現したことがきっかけだ。
なかでも、保守党と組んで第2次世界大戦後初の連立政権を発足させた自由民主党の存在が大きかった。同党はかねて、個人のプライバシーや人権問題に力を入れてきた。党首のクレッグ副首相は、前政権時代に「監視社会化」がすすんだと批判し、「市民をスパイする文化を終わらせる」とうたった。
連立政権発足にあたっての協議で、保守党もこうした政策を見直すことに合意した。
英国で監視カメラが増え始めたのは、都市犯罪が社会問題化した1990年代からだ。2001年に米国で起きた9・11同時多発テロや、05年のロンドン地下鉄テロも、その傾向に拍車をかけた。
街角の至る所に監視カメラが設けられるようになった。有力な人権団体リバティーは450万台と推定する。「1人が1日に300回、姿を写される」といわれるほどだ。
欧州議会の調査でも、ロンドンの監視区域は公的空間の40%と、18%のウィーンなど各国首都よりずば抜けて広い。顔認識技術を使ったり、個人を追跡したりするシステムも、日進月歩で採り入れられてきた。
しかし、プライバシーとのかねあいや、巨額の費用に対する実際の効果のほどについて疑問の声があがっていた。