日本の長期金利が約7年ぶりに1%を切った。長期金利とは10年物国債の利回りのことで、市場で国債買いが進むと債券価格が上昇し、利回りは下がる。1%割れは、国債の大量保有者である金融機関の間で、依然として国債の購入熱が高いことを示している。
背景にあるのが、日銀の超緩和政策を受けた金余りだ。企業の借り入れ需要が弱いため、金融機関はタダ同然で調達した資金を「とりあえず安全そうだから」とこぞって国債に投じている。米欧の景気見通しが悪化し、世界的に国債買いが活発化したことも、購入に拍車をかけた。
この現象を見る限り、「日本もギリシャのようになる」と財政悪化への危機感を唱えた菅直人首相の言葉はウソのように思えてくるだろう。先進国一の借金大国ながら、国債は暴落するどころか大人気じゃないか、と増税や歳出削減に反対する人たちは言いそうだ。
しかし、「値下がりしそうにないから」と国債を買いまくる今のバブル現象はむしろ警戒すべきだろう。財政がこれほど悪化したにもかかわらず、金利上昇という市場の警報装置が作動しないのは、日本国債の95%もが国内で買われているという特殊事情と関係がある。リスクに敏感な投資家が日本国債を手放し資金を海外に引き揚げる、といった心配がないため、みんなで安心している。
しかし、国内依存をいつまでも続けられるわけではない。人口の高齢化による貯蓄の取り崩しで、近い将来、海外の投資家にもっと買ってもらわなければならなくなる。その時、格付けが安定していれば問題ないかもしれないが、それは不確かだ。
ギリシャのようになっていない理由の一つに、日本に残された増税余地がある。だが、「余地」はあっても、政治の決断がなければ何も変わらない。「金利が低いから」と財政再建を先送りすれば、格下げの引き金となりかねない。
菅首相はこのところ追加経済対策に前向きな発言をしている。円高が再び進行しており、景気対策要求が高まる恐れもある。しかし、「財政再建については一歩たりとも引くつもりはない」と言う以上、首相は安易な財政出動に逃げてはならない。
利回りが1%を切るほど国債価格が上昇したということは、それだけ下落のリスクが高まったと見るべきだ。国債を大量に買っている銀行や保険、年金の資金は元をたどれば私たち国民のお金なのである。
この金利低下は決して安心の材料ではない。国債の利払いに年10兆円も費やしている国の指導者なら、常に金利が上昇に転じたときのことを頭に置いておくべきだ。
毎日新聞 2010年8月5日 2時30分