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東京・足立の「111歳」遺体:自宅でミイラ化 不可解、32年誰も触れず

 <追跡>

 ほこりをかぶった将棋盤、78年11月5日付の赤茶けた朝刊、そしてミイラ化した遺体。東京都足立区で7月、都内男性で最高齢の111歳とされる加藤宗現さんとみられる遺体が発見されてから4日で1週間。年金約1850万円を受給し続けた家族は警視庁千住署に「即身成仏したいと言い出し、約30年前に自室に閉じこもった」と説明する。近所の住民も不審に思いながら何もできなかった。100歳以上の所在不明者が全国で相次いで発覚する端緒となった不可解な事件は、閉じた「家庭の殻」を破ることの困難さを象徴する。【神澤龍二、内橋寿明、伊澤拓也】

 7月28日、JR北千住駅から北約500メートルの閑静な住宅街にある2階建て住宅を数人の捜査員が訪れた。1階6畳和室のふすまをこじ開けると、激しい異臭とともにミイラ化した遺体が目に入った。

 32年前、加藤さんは部屋に閉じこもり79歳で息を引き取ったとみられる。この部屋だけ時が止まったようだ。家族が千住署に提出した資料は、1927年の中央大法学科の卒業証書、旧制中学・高等女学校の教員免許、弁理士資格証明書など数枚だけだった。

    ■  ■

 加藤さんは1899年、岐阜県池田町で16代続く名刹(めいさつ)・正道寺の次男として生まれた。正道寺住職の母親(72)は「この寺の敷地で育ったと思うが、宗現さんの写真や記録は一切ない。こんな田舎町で亡くなったらすぐ分かったはずなのに」と話す。本人には会ったことはないという。

 長女の夫(83)は千住署に「こもって2年後に白骨化した義父を見た」と述べた。だが遺体を放置した理由について、家族は「厳格で絶対な存在。怖くて誰も近づけなかった」と説明。千住署幹部は「家族が死んで落胆している様子はみじんも感じない」といぶかる。

 千住署は加藤さんの死亡を隠ぺいして年金を不正受給し続けた可能性があるとみて、詐欺容疑での家族の立件を検討している。

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 「30年も家族みんなでうそをついていたとしたら恐ろしい」。93年から加藤さん方を訪問している民生委員の女性(73)はそう振り返る。年に1回、高齢者宅を回り都営バスと地下鉄の無料パスを配布していたが、加藤さんだけは家族に面会を断られ続けた。「(対面が求められている)生活保護の受給者でもないし」と17年が過ぎ、報道で加藤さんの死を知り言葉を失った。

 近所の住民は「家族がいるし私たちがどうこうできる話ではない」と話す。民生委員の女性は「独居老人ではなく家族のいる人の死が見過ごされるなんて。寂しい世の中だね」と漏らした。

 葛飾区の霊園に、04年8月に101歳で死亡した妻の墓が立つ。線香や花が手向けられてきた形跡はない。

毎日新聞 2010年8月5日 東京朝刊

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