関連記事

【連載企画】検証口蹄疫・第1部(5)

(2010年7月31日付)

■獣医師と教育現場 急がれる次世代育成

 「パッと終わった。強く印象に残ってないな」。西都市の50代の開業獣医師は、2000年に本県を襲った口蹄疫をこう振り返り、発生時に抱いていた危機感が急速に薄れたことを認める。

 前回発生から10年。獣医師は「家畜の病気は口蹄疫だけではない。国内でまん延している寄生虫病の対応など、目の前の問題しか頭になかった」と続けた。1月に韓国、中国で相次いで口蹄疫が発生したことは知っていたが、具体的な対策は講じなかった。

 獣医師の多忙さが、口蹄疫対策を阻んでいるという現実もある。

 家畜や農業作物の災害補償を行う県農業共済組合連合会によると、県内の牛や豚など産業動物を診療する獣医師は年々減少。10年前、県内全体で約80人いた産業動物専門の開業獣医師は高齢化などの影響で、昨年は50人程度にまで減った。一方で家畜の飼育頭数は増加しており、獣医師不足は一層顕著になってきたという。

 同連合会の担当者は「現在の数では、防疫と診療の両立は難しい」。10年前の発生を教訓とするどころか、切迫した人員体制が、農家に対する防疫指導の徹底をより困難にしていた。

    ■   ■

 次世代の獣医師の育成や、危機管理の教育などを担う宮崎大も、10年前の発生を生かし切れないでいた。

 口蹄疫の影響の大きさを痛感した同大学は、5年ほど前から産業動物の感染症に強い学生を育てるための教育プログラムを強化。全国トップレベルの研究施設をつくり口蹄疫のほか、医学と獣医学を融合し、牛海綿状脳症(BSE)などヒトと動物の共通感染症の研究を進める。

 しかし、研究の充実のため教授陣が求めた「口蹄疫ウイルスの学内での取り扱い」について、国は「ウイルスが流出したら、経済的影響が大きい」と首を縦に振らなかった。

 原田宏副学長は「10年前の発生を教訓に、口蹄疫の研究を深め、教育につなげたかった」とジレンマを語る。

    ■    ■

 国内で口蹄疫ウイルスを扱っている機関は、動物衛生研究所海外病研究施設(動衛研・東京都)だけ。

 東京農工大農学部の白井淳資教授(獣医伝染病学)も「大学での研究を認め、口蹄疫研究の水準を上げるべきだ。研究材料を遺伝子に限定すれば、感染の恐れはない」と訴える。教育現場で口蹄疫の知識が広まれば、獣医師の危機意識も持続することが期待できたとも考える。

 白井教授は、10年前から変わらず口蹄疫の感染状態を調べる遺伝子検査が動衛研でしか行えないことに触れ、「国は大規模農家に感染することを想定し、現場の獣医師と距離が近い各都道府県の家畜保健衛生所で検査できる体制を整えておくべきだった」と、獣医師を生かした仕組みが必要だったと強く説いた。