今週のEconomist誌に、RFIDとiPodの記事が出ている。そこからIT業界で新しいビジネスが成功する条件を考えてみよう。RFIDの特徴は、次のようなものだ:
イノベーションは一種の芸術なので、平均値には意味がない。1000人の凡庸な作曲家より、1人のモーツァルトのほうがはるかに価値がある。しかし官民のコンセンサスで1人の作曲家を育てても、彼がモーツァルトになる可能性はまずない。モーツァルトが出てくるためには、1000人の作曲家が試行錯誤し、失敗する自由が必要なのだ。この意味で、いったん失敗したら「敗者」の烙印を押されて立ち直れない日本や欧州のファイナンスには問題がある。
- 最先端の技術を使い、これまで不可能だった新しい機能を実現する
- NTTや日立など、多くの大企業が参入し、大規模な実証実験が行なわれる
- 数百の企業の参加するコンソーシャムによって標準化が進められる
- 政府が「研究会」や「推進協議会」をつくり、補助金を出す
- 日経新聞が特集を組み、野村総研が「2010年には市場が**兆円になる」と予測する
- 要素技術はありふれたもので、サービスもすでにあるが、うまく行っていない
- 独立系の企業がオーナーの思い込みで開発し、いきなり商用化する
- 企業が一つだけなので、標準化は必要なく、すぐ実装できる
- 一企業の事業なので、政府は関心をもたない
- 最初はほとんど話題にならないので市場を独占し、事実上の標準となる
イノベーションは一種の芸術なので、平均値には意味がない。1000人の凡庸な作曲家より、1人のモーツァルトのほうがはるかに価値がある。しかし官民のコンセンサスで1人の作曲家を育てても、彼がモーツァルトになる可能性はまずない。モーツァルトが出てくるためには、1000人の作曲家が試行錯誤し、失敗する自由が必要なのだ。この意味で、いったん失敗したら「敗者」の烙印を押されて立ち直れない日本や欧州のファイナンスには問題がある。
コメント一覧
事実上の標準
研究会、審議会、協議会等なんのためにあるのかという気になりますね。
お上のやることに従った経験は幾度となくあるのですが。
池田先生、こんにちは。わけあってRFIDのISO委員をしていますが、数百の企業の参加する標準化コンソーシアムとちがって、タグメーカからなる技術志向のISO委員会はさめたもの。タグメーカからきている委員ですら、RFIDに総研外車がいうようなマーケット(1/100も)があるとは思っている人はおりません。
それとISOの場合はバーコードも同じ部会なので、バーコードとRFIDを区別していません。むしろ使い分けをすればいいというスタンス。特定の技術だけでコンソーシアムを作ると、いつのまにかその技術を使うことが目的化してしまいますね。
立場上、多少、RFIDを養護しておきますと、RFIDタグでも成功している事例は少数あるにはあります。ただ、そうした事例の多くは閉じた独自システムですし、ノウハウが漏れるのをきらって、実証実験もこっそりとやりますし、補助金を申請しないし、なんとか研究会や協議会にも参加しない。当然、マスコミ発表はお断り。というわけで公知になっている事例は99%失敗事例と考えていいと思います。
イノベーション
蛍光灯、トランジスタ、IC、液晶、LED等、やはりイノベーションがないとだめなのでしょうか。
失敗した後のファイナンスといっても難しいわけです。総論でせいぜいテキトーに育つ土壌だけ作るというスタンスには賛成なんですが、自己破産など、ファイナンス以前に法的問題も多いと思うのです。財産の多くを現金化し、裕福な生活を維持したまま、破産する人も多く。失敗を許す文化は必要だと思われますが、金融庁の指導・・・一方では厳格な資産査定を要求し引き当てをさせ、一方で失敗したものを助けよ(と表面では)言う。
彼らの本音はナンでしょうか?経産省とくっつけコノヤローとか思うこともあります。まずは企業の中で失敗する自由をはぐくみたいと思います。まだ下っ端ですが。
ちょうちん記事
>日経新聞が特集を組み、野村総研が「2010年には市>場が**兆円になる」
日経新聞、野村総研などの証券系の研究所が、「これはいける!」と書き始めると、なんかうまくいかないような気がします。
変な奴が、マーケティングを一見して無視したような
製品が、アタリになることがありますよね。
消費者はマーケティング手法のターゲットになると思うと、それだけで、引くようになったかも。
technology = tekne (art) + logy (science of) ということを、大学のcontextual studyのtutorから教えられました。
>イノベーションは一種の芸術
という表現、technologyという言語を考えた時、的を得ている様に思います。
ネットはこの10年で飛躍的な普及を果たしたと思うのですが、それよりも数十年前から存在していたと思います。ネットの歴史に詳しくないのですが、やはりこれもマーフィーの法則が働いているのでしょうか?気になるところです。
もちろん、世界の人々の好奇心を自然と引きつけ、それによって拡大して行ったのはわかるのですが、きちんとしたインフラが整っていないと使いものにならないし、これには組織な取り組みが必要にも見えますし。
ブラボー!
このエントリーの指摘はすばらしい。
なんとなく胡散臭くモヤモヤと感じていたことをズバリと言葉にされていて、スッキリ感満点です。
企業のマーケター・商品企画担当者は肝に銘じておくべきですね。
国土交通省のITS実験もダメな部類の典型でしょうね。
日経の特集は売りのサイン
著名な投資家が言うことには、「政府のやることは必ず失敗する。一時期は値があるがね。」
と言うことで、日経と野村は株価のみでしょうか。ある意味、出た段階で「売り」です。BRICsも売りでしょう。売りつける相手を見つけないといけませんから。
>いったん失敗したら「敗者」の烙印を押されて立ち直れない日本や欧州のファイナンスには問題がある。
高校受験の段階からそうですよね。運より実力が効いてくる分野なので仕方のないところですが。
ユビキタス
佐藤さんも私も、5年ぐらい前から「ユビキタス」はだめだ、と予言してましたよね。用途がはっきりしないのに、役所やマスコミが騒ぎ回ると、たいていだめになる。ユビキタスは、日経の関口さんが意図的につくったキャッチフレーズでした。
結果的には「情報家電」を実現したのは、そういうキャッチフレーズを何も掲げなかったアップルでした。なぜそれがソニーでも松下でもなかったのか、と問うのはたぶん愚問です。むしろ問題は、なぜソニーでも松下でもないアップルのような企業が日本に出てこなかったのか、ということでしょう。
自己陶酔の文章でしょうか
最後の段落で何を言いたいのでしょうか。
『1000人の「凡庸な」作曲家が試行錯誤し、失敗する自由』があっても、凡庸ゆえにモーツアルトにはなりえないのではありませんか。つまり彼らは、無駄に時間を消費しているに過ぎません。『この人たちに「敗者」の烙印を押』し『立ち直れな』くともむしろ余計な金を使う必要がないので良いのでは。それとも1000人の凡庸でない、モーツアルトになりうる作曲家がいるということでしょうか。それなら『官民のコンセンサスで1人の作曲家を育てても、彼がモーツァルトになる可能性は』充分ありうる話ではありませんか。
論旨全体の価値からすれば些末な点ではあるのですが…
>マーフィーの法則は必要十分条件で、5条件をすべて満たしていれば確実に失敗するが、この「逆マーフィーの法則」は必要条件にすぎない。
という部分で、「必要十分条件」や「必要条件」という言葉の使い方があまりに文学的過ぎるように思います。
>5条件をすべて満たしていれば確実に失敗する
のであれば十分条件であって、これを必要充分条件と言ってしまうと、確実に失敗するのはこの場合に限られることになります。
>必要条件にすぎない
と言いますが、必要条件だとすると、挙げられた項目のうち一つでも満たさなければ失敗することになります。
うーん、この項だけでも、Wikipediaとかへ載せれば面白いんですが。当然、日本語英語、両方で。
結局、ボコボコに荒らされてオシマイかもしれませんが、逆に、運がよければ、「Ikeda Law」って感じで有名になれるかもしれませんよ。
・・・なんで、池田さんは、自由だのフリーだのと言う割りに、自分ではそれを実践しないんですかね。いろいろな事情があるのはわかりますが、やはり言行不一致を感じます。
必要十分条件
これは確かにおかしいですね。本文を訂正しました。「必要条件」は、そのままでいいと思います。
色々大変ですね笑
池田氏は懐が深いですね。
>なぜソニーでも松下でもないアップルのような企業が日本に出てこなかったのか
成長の可能性が見える分野があると、直ぐにお役人様は自らの権限の確保と拡大の為に、既存の大企業を募ってプロジェクト化する。
まあ、企業側から働きかける事も多いのかも知れませんが。
どちらにしても、彼等の様に自己保身と自尊心が相当強い方々は、先の見えにくい分野の開発に本質的には不向きな気がしますね。
特にITなんて分野はそれ程金が掛からないので、もっと失うモノの少ない無名で野心の旺盛な広い層にチャンスを委ねるべきだと思いますね。
そして、有る程度成長してから取り込めば良いのに。
猟師だって、稚魚は海に戻すでしょ。
「勝者」のみなさんへ
>いったん失敗したら「敗者」の烙印を押されて立ち直れない日本や欧州のファイナンスには問題がある。
「敗者」は一度この烙印を押されると、もはやこの仕組みを変える大前提から追い出されてしまいます。今の日本の仕組みでは、「勝者」になるためには保身に長けてないといけません。そして、保身の姿勢だけではこの仕組みは変えられない。
自称他称問わず「勝者」のみなさんは保身をしつつ、勝者でありつづけながら、自分のためでなく日本の将来のために「敗者復活」の機会を作りあげていってほしいものです。
※踊る大捜査線の室井さんがいっぱい必要ということなのかも。
各論
RFIDのアプリケーションはショボすぎて話にならないものが多いですが、モバイルSUICA/PASMOは、かなりいいですね。どれぐらいのアメリカ人がこのシステムを知っているのでしょうか。
SONYはiPod+iTunesより先にNetWalkman+BitMusicという仕組みを作りましたね。グループ内にレコード会社を抱えていたので、却ってそれが足かせになったという側面もあるでしょう。ま、音楽の配信については、事情が複雑なので、一般論では語れないと思いますが。
日本にユニークな企業が現れないのは、ファイナンスもそうですけど「和を乱す奴は叩く」というメンタリティが最も大きな要因ではないでしょうか。政府や大企業ばかりでなく、2chを見ていてもそんな感じを受けます。
似たような事例として
大航海うんぬんも同様。
こうして無駄な税金が費やされる。
政府の失敗する自由だけは、勘弁してもらいたい
いろいろ考えさせられる。
>chengguangさん
少し前提を誤解されているのかな?
1000人の凡庸な作曲家と一人のモーツァルトが混ざっていて、誰がモーツァルトかわからない段階では、全員が作曲家を目指すようにインセンティブを与えることが重要ではないでしょか。
1000/1001の凡庸な作曲家が生活に困窮して立ち直れないような状況を作っていると、誰も作曲家を目指しません。
イノベーションにとって重要なのは、誰が成功するかではなく全員が挑戦できるようにすることだと思います。その中の一人でも成功すれば、他の1000人が失敗しても社会的には十分ペイすると思います。
有限会社デジタルインフラの岡島です。ICPFのほうは、最近ご無沙汰で・・・。
ええっとですね、基本的には面白い議論だと思います。ただ、細かな点は所詮ブログの記事なので、とりあえず無視し、書籍化の際の訂正を期待しても、大筋で一点だけ気になるところが。
この手のことを、現場で見ている私からすると、学問的なことはわかりませんが、実感と少し違うところがあります。コンセンサス重視のコンソーシアム方式が必ずしもダメなわけじゃないんですよ。まあ、政府の税金は不要ですが。うまくいくなら、民間で勝手にコンソーシアムを作る。
コンソーシアムがどうこう、コンセンサスがうんぬん、ではなく、問題は、方向性が見えてるかどうか、目標が見えているかどうか、正解が見えているかどうか、です。NTSCによるカラー放送も、北米テレビ標準化委員会によってますが、うまくいきました。じゃあ、なぜハイビジョンは苦戦しているんでしょうか。標準化における合意形成、コンセンサスに時間がかかりすぎたからでしょうか?違いますね。
答えは、はっきりいって、高精細化という目標自身がはずしているからなんですよ。解像度なんて普通の消費者は実は重要視していなかったんです。カラーは欲しがったのですが、高精細は欲しがっていない。仮に、ソニーの久夛良木さんやソフトバンクの孫さんが、「思い込み」でプレイビジョンとか勝手な構想をぶち上げていても、やはり失敗したとおもいますが、いかがでしょうか。
結局、目標や正解が見えていないときは、個人の思い込みしかないわけで、そこがコンソーシアム方式が失敗する理由でしょうし、また、池田さんの意見が大筋では正しい理由です。
コンセンサス
いや、コンセンサスが問題なのです。次世代のテレビをどうするかというとき、いろいろな提案がありましたが、ほとんど合意が得られなかった。「高精細度」というのがコンセンサスを得やすかったから、ハイビジョンができたのです。
これはプロジェクト管理でいうと、資源の集中(規模の経済)と多様性(オプション価値)のトレードオフです。製造業のように戦略の幅が小さく設備投資が大きかったときは、コンセンサスベースで「資源総動員」することが有効な戦略でした。しかしITのように市場や技術の不確実性が大きく設備投資が小さいときは、いろいろオプションを広げて試行錯誤することが必要です。だから、正解が見えているかどうかとコンセンサスが有効かどうかは関連しているのです。
おもしろいですね。
後者はよく言われるけど、前者をまとめたのは珍しいかと。
後者の、
>>必要条件にすぎない
>と言いますが、必要条件だとすると、挙げられた項目のうち一つでも満たさなければ失敗することになります。
私も最初はおかしいかと思いましたが、これは「iPod的な成功」のための必要条件であって、「iPod的な成功」以外にも成功のパターンはあると言うことだと思います。
次世代DVDはおそらく失敗する
>ハイビジョンができたのです。
次世代DVDもまた「高精細度」のために存在しているわけですが、ハイビジョンと同様の理由で失敗すると思います。
今のDVDの画質に満足できないのは一部のマニアだけです。言わば、次世代DVDは、VHSに対するSVHSみたいなもので、マニアにしか普及しない。
使い勝手や機能は現行DVDと同じで、画質のみが向上するというだけでは、マスへの訴求力は乏しいでしょう。
DVDの規格は5条件をすべて満たしていますが、成功しています。
DVD(物理及びビデオフォーマット)規格は当時最先端の技術でしたし(1)、大企業が参入して実験を行い(2)、DVDフォーラムには多数の企業が参加しました(3)。
政府も後付けですが外郭団体経由で補助を出し(4)、日経等もDVD市場の予測は出していたはず(5)。
次世代DVDはともかく、現行DVDは成功しています。
ピンはず
>DVD(物理及びビデオフォーマット)規格は当時最先端の技術でしたし
DVDはそれ以前に確立していたビデオテープの役割を代替・改善したもので、「これまで不可能だった新しい機能を実現する」ものではありませんでした。
あと、こういう反例を示していると言うのは、「だから行政の関与もそう捨てた物ではない」とでも言いたいのでしょうか?
DVD以前からビデオディスクはあった
DVDは、当時ですら最先端の技術でもなんでもなかったですよ。MPEG2データをCDサイズのディスクに押し込んだだけで、記録再生技術はCD技術の延長です。
DVDは、それ以前にCED,VHD,LDという失敗作が散々ありました。CEDはともかく、VHDとLDは、当時、マルチメディア的な使い方が考えられていました。それを利用したパソコンも出てましたし。
つまり、DVDは、ビデオディスクの失敗の連続、試行錯誤の中から、ようやく生まれたのです。そして成功した理由は、CDサイズに小型化して、取り回しが楽になったという、ただそれだけの理由です。
しかも、DVDは統一規格とは言いがたい側面があります。ディスク形状が同じであるだけで、再生互換性のない規格をたくさん包含しています。
長文失礼
>日本にユニークな企業が現れないのは、ファイナンスもそうですけど「和を乱す奴は叩く」というメンタリティが最も大きな要因ではないでしょうか。
日本はユニークな企業だらけのかなりトンデモな国ですよ。 スティーブジョブスの憧れの企業はSONYだったわけですし。
「ユニークすぎる(あるいは自社独自技術に拘り過ぎる)&政治力のなさ」で世界標準化に失敗する事はよくありますね。 携帯電話(欧州のGSM vs 日本のPDS)しかり、HDTV放送(今のところ日本方式を採用する国はブラジルだけ)しかり。 技術的には優れているのに。
アップルにもそういう側面があって、自社製ハードウェアに拘って、汎用PCで動くMicrosoft製OSに圧倒的にシェアで差を付けられ、90年代にはSONYやSun Microsystemsに買収される(SONYには全くその気がなし、Sunはマクニーリが値切りまくりで交渉決裂)なんて噂があったぐらいでした。 Windows95が発売になる遙か前の話です。もうその時点でアップルって死にかけていたんですよ。90年代をそんなレームダック状態で何とか生き延びたアップルが、21世紀になってiPodで復活どころか、パソコンのアップルではなく、携帯音楽プレーヤーのアップルとして見事に大変身して見せました。
一方のSun Microsystemsは今、虫の息ですし、SONYも苦しそうですね。 これらの企業も元々は自社独自技術に拘るかなりユニークな企業でした。
ユニークなら世界標準化できるってものでもないんですね。 (企業を含む国の)政治力&世の空気を読むマーケティング能力が必要になるんですね。
電子カルテの場合
全部当てはまってます・・・。
実際、現場の医師からは怨嗟の声しか出て来ないシロモノなんですけどね・・・。