絶滅危惧種なお仕事ガイド
【第3回】 2010年8月5日
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曲沼美恵 [ライター]

会えると嬉しい“天然記念物”!?
エレベーターガールは本当にムダなお仕事なのか

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 開店3分前。3人の女性がさっそうと正面玄関前に現れた。紺のワンピースにボーダーの上着、帽子に白い手袋をはめた、エレベーターガールだ。(正確にはご案内係という)

 3人のうち、インカムを付けた真ん中のひとりが扉を開け、客の前へと歩み出る。

 「みなさま、おはようございます。本日は朝早くからご来店くださいまして、誠にありがとうございます」

 スキのない身のこなし。しかも、手話付き。催しものなどの案内を終えると、彼女は優雅なしぐさでバラの一輪挿しをかざし、こう言った。

 「本日ご紹介いたしますバラは、ペーターフランケンフェルトでございます」

 バラは、この百貨店のイメージフラワーだ。色の特徴や花言葉などを説明すると、「では、開店まで、もうしばらくお待ち下さい」の言葉とともに、3人はいったん、店の中へと消えてしまう。

 しばらく余韻を楽しめ、ということなのだろうか。待っていると、開店のアナウンスと同時に彼女たちが再登場し、華々しくかつ劇的に扉が開かれた。

 『百貨店の誕生』(初田亨著、ちくま学芸文庫)によれば、世界のデパートを研究して廻っていたヘラルド・トリビューン紙の記者が1935(昭和10)年に来日した時、東京人にとってデパートが非常な勢力を持つ、1つの「ショー」である点に驚いたという。

 振り返れば、日本の百貨店はその成り立ちから、モノを売らんとするよりも人々を楽しませることで発展してきた。そこでは年中、無料の催し物が開かれ、誰でもエレベーターやエスカレーターに乗ることができた。屋上へ上れば、公園や遊具、はては動物園まであった。大衆にとって、百貨店は最も身近なテーマパークであり、流行の発信基地でもあったのだ。

 エレベーターもエスカレーターも当たり前の今日、百貨店のなかで最も珍しく、最も人目を引く存在が、エレベーターガールである。

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曲沼美恵 [ライター]

1970年福島県生まれ。日本経済新聞社記者として7年半勤務。田舎暮らしに挫折し、なりゆきでフリーのライターに。「働くこと」「生きること」「人と組織の幸福な関係」を追いかけながら、 実は「働かなくても幸せに生きる」方法を探っている。労働経済学者、玄田有史氏との共著に『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎)がある。


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「もう食えないかも」「このままだと絶滅」と言われる産業に従事する人々のなかにも、実は意外にしぶとく生きている人たちがいる。日本一でもなく、世界一でもない、「最後の下駄屋になること」を目指して働く職業や人々を追いかけ、「崖っぷちの中に見える希望」を探る。

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