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2010年8月5日(木)付

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高齢者不明―調査だけでは解決しない

100歳以上の高齢者の所在や生死がわからないという事態が、全国で相次いでいる。発端になった東京都足立区の事例ではミイラ化した遺体が見つかった。だが多くは、家族にも「どこにいるのか、生きている[記事全文]

下がる長期金利―世界デフレの不安を映す

米国も欧州も、日本のようなデフレに沈むのか。そんな懸念が市場から発せられた。長期金利の指標である新発10年物国債の流通利回りが、7年ぶりに1%を割り込んだ。各国が景気刺[記事全文]

高齢者不明―調査だけでは解決しない

 100歳以上の高齢者の所在や生死がわからないという事態が、全国で相次いでいる。発端になった東京都足立区の事例ではミイラ化した遺体が見つかった。だが多くは、家族にも「どこにいるのか、生きているのかわからない」というのだから驚く。

 100歳以上のお年寄りは約4万人いる、ことになっている。誕生日を迎えた年度に総理大臣から記念品が贈られる。だが実際は、実務を担う市町村は全員には手渡していなかった。

 長妻昭厚生労働相は、100人未満とみられる110歳以上の年金受給者の対面調査をする方針だ。

 年金は、私たちが支払う保険料や税から払われている。死亡届がなければ原則、支給は止まらない。本人が行方不明でも、口座を管理する家族が、振り込まれた年金を使い続けるために意図的に届け出をしない。そんな事態も想像できる。順次、年齢の枠を広げて調べてみる。同時に、不正受給が疑われる事例を迅速に把握し、対応できないか検討すべきだろう。

 調査には、家族が拒否したときの対応や個人情報保護との兼ね合いなどの難しさもあろう。しかし、災害時の支援のためにも高齢者の所在を把握することは必要だ。この際、きちんと調べておいた方がいい。

 健康保険の記録を見て、何年も医者にかかっていない高齢者がいれば、普段から地域を回っている民生委員らの情報と総合して、不自然な事例を抽出できるはずだ。

 警察庁には身元不明死者の資料が約1万7千人分ある。その中から身元がわかる人も出てくるかもしれない。

 しかし、調査が終わったとしても、今回の事態があぶり出した問題は何も解決しない。

 一番近しいはずの家族が所在を知らず、捜索願さえ出していない。そこに浮かぶのは、よるべき家庭が崩壊し、周囲との関係も断ち切られた孤独な人たちの存在だ。

 大阪市で幼児2人が死亡した児童虐待の例を見ても、家族や地域とのつながりの喪失が共通の背景としてある。

 しかし、行政が「地域のネットワーク構築を」とかけ声をかけても、人と人との信頼にもとづく関係は一朝一夕にできるものではないだろう。

 「孤独死ゼロ作戦」で知られる千葉県松戸市の常盤平団地の自治会長、中沢卓実さん(76)は「個人で何ができるか考えよう」と話す。近所へのあいさつとおすそ分け。友だちづくり……。あいさつして返ってこなくても、繰り返すことが大切だという。

 自分の周りで孤独死や虐待死、「いるはずのお年寄りが消えていた」という事態が起きたときの衝撃を想像する。それを避けるため何ができるのかを考える。そのきっかけとしたい。

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下がる長期金利―世界デフレの不安を映す

 米国も欧州も、日本のようなデフレに沈むのか。そんな懸念が市場から発せられた。長期金利の指標である新発10年物国債の流通利回りが、7年ぶりに1%を割り込んだ。

 各国が景気刺激のために行っている超金融緩和政策で、世界の資金がだぶついている。そのマネーが株式市場を避け、より安全な資産とされる国債市場に流入したために各地で起きている金利低下の一環である。

 引き金となったのは、米国や欧州の景気停滞感の強まりだ。先進国全体がデフレに突入するのではないか、との不安すら台頭してきた。

 その結果、とりあえずマネーの行き先として選ばれているのが、先進国通貨のなかで相対的な安定感がある「円」であり、国内の投資家層に支えられて投げ売りのリスクも小さいとみられる日本の国債というわけだ。

 財政赤字大国・日本の国債が買われ、利回りが下がるという不思議な事態が、こうして起きている。

 景気過熱などで物価が上がるインフレの機運が高まれば、人々はモノやサービスを買おうとしてお金を使うようになり、金利が上がる。逆にデフレになりそうだと貯金に走ると、これが銀行を通じ国債購入に回って金利が下がる。長期金利の低下は世の中のデフレ懸念のバロメーターでもある。

 今回の金利低下がやっかいなのは、欧米でリーマン・ショック後の景気回復が踊り場にさしかかった可能性を示しているという点ではない。むしろ減速や悪化のメカニズムが、日本でバブル崩壊後に起きた慢性的なデフレと似てきたというところにある。

 銀行の不良債権が増え、金融を萎縮(いしゅく)させて消費も投資も冷やすことで全体の需要が長期的に停滞する。これが財政赤字や銀行の不良債権を再び悪化させる。こうした悪循環を打破する特効薬は見つかっておらず、回復には長い年月がかかる。

 絶壁から転落するような急激なショックではないものの、止めどなく鍋底をはい続ける可能性に、世界のマネーは立ちすくんでいる。

 国債残高が国内総生産(GDP)の2倍になろうかという日本の財政事情からすれば、当座の利払い負担が減る金利低下は歓迎したい面もある。だが、決して日本の財政運営が評価されて買われているのではない。

 気まぐれに移ろうマネーに支えられている危うさを認識すれば、値上がりした国債相場に急落のリスクが蓄積されていることも見えてくる。

 何かの拍子で売りが売りを呼ぶ可能性も排除できない。日本にとって大事なのは成長と財政健全化の両立を図ることであり、そのためにも市場で無用の波乱を招かないことだ。行き過ぎた金利低下を喜ぶことはできない。

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