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クラスター爆弾:禁止条約8月1日発効 米など参加課題に

死亡したアリ君の墓石の脇に腰を下ろす母親のマリアムさんと父親のフセインさん=レバノン南部ソルタニーで、和田浩明撮影
死亡したアリ君の墓石の脇に腰を下ろす母親のマリアムさんと父親のフセインさん=レバノン南部ソルタニーで、和田浩明撮影

 【ワシントン大治朋子】不発弾が市民を殺傷しているクラスター爆弾の禁止条約(オスロ条約)が来月1日、発効する。市民主導の軍縮条約が発効するのは、対人地雷禁止条約(オタワ条約、99年3月発効)に続き2度目で11年ぶり。国際社会の機運の高まりを背景に、今後は米露中(条約未署名)など大量保有国に参加を促せるかどうかが課題となる。

 条約には30日現在、107カ国が署名、37カ国が批准している。発効後は同爆弾の使用、開発、生産、取得、貯蔵や移譲(輸出)が禁じられるほか、これらの活動への援助、奨励も禁止される。保有国は原則として8年以内に廃棄。貯蔵するクラスター弾の総数、廃棄の状況などは毎年、国連事務総長に報告する義務を負う。自国や管理下にある地域の不発弾は10年以内に除去、廃棄する。

 同爆弾の被害者には援助(医療リハビリテーション、心理的な支援を含む)を提供。締約国は米露中など非締約国との一定の軍事的な協力、軍事行動は認められる。

 クラスター爆弾はベトナム戦争やイラク、アフガニスタン両戦争で使われ、今も不発弾で多くの市民が死傷している。06年夏の第2次レバノン戦争では、イスラエルが同爆弾を大量に使用し国際的な批判が一層高まった。軍縮交渉「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)締約国会議」は同年11月、規制に向けた交渉開始を検討したが米露中など大量保有国が難色を示した。

 このためノルウェーなど有志国と非政府組織(NGO)は07年2月、市民主導の軍縮交渉「オスロ・プロセス」をスタートさせ、08年5月、条約案で合意。3年半で発効にこぎつけた。日本は08年12月に署名、昨年7月に批准、全廃を打ち出した。

 国連の潘基文(バンキムン)事務総長は30日、条約発効について「軍縮にとって大きな一歩だ。条約締結で示された各国政府、市民、国連の協力が条約の履行、特に被害者支援に重要だ」との声明を発表した。

 NGOによると、クラスター爆弾は米英仏露など15カ国が使用、米英独仏中露など34カ国が生産、85カ国が数十億発を保有している。

 ◇紛争終結後も負傷者

 クラスター爆弾は紛争終結後も市民、特に男児を死傷させ続けている。おもちゃと誤解しやすいからだ。第2次レバノン戦争後1年2カ月近くたって不発弾により命を奪われた男児、アリ君(6)の家族は今も悲しみの底にいる。

 「お母さん、外で遊びたい」。せがむアリ君の笑顔に負けた母マリアムさん(40)は、レバノン南部ソルタニーの自宅のドアを開けた。

 「バン」。07年10月2日午後4時半。爆発音で家から飛び出した父、フセインさん(52)の目に、血まみれで横たわるアリ君が飛び込んだ。草むらに落ちていた不発弾に触れたのだ。父はアリ君を抱き、泣き続けた。

 イスラエル軍は34日間に及ぶ戦闘で、推定400万発のクラスター爆弾の子爆弾を南部の1127カ所(レバノン軍調べ)に撃ち、うち100万発が不発弾になったとされる。

 アリ君の自宅周辺は不発弾除去が終わったはずだった。アリ君は南部に展開する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)が行った不発弾回避のための教室にも参加していた。

 それでもアリ君は犠牲になった。家族らの証言によると、アリ君の命を奪ったのは直径約76ミリの野球ボール大の緑色の爆弾。空から投下された親爆弾が650個をまきちらす。不発弾を極めて多く出す古いタイプで、国連の除去担当官は「製造から30年以上がたっている」と指摘する。草むらに残ると発見は難しく、子供はおもちゃだと思って触る。

 「花を集めるのが好きな優しい子でした。アリを失った痛みが薄れたことは、一日もありません。今日も、あの日と同じ苦しさです」。母マリアムさんの声が震える。残った2人の娘の外出が心配でならない。

 取材中にマリアムさんが中座すると、フセインさんが声をひそめた。「彼女は気持ちを落ち着かせるための薬が手放せないんだ」

 輝く緑の谷間を見下ろす丘にアリ君は眠っている。両親はいつくしむように墓石をなでた。「こんな思いをするのは、私たちで終わりにしてほしい」

 同戦争停戦発効(06年8月14日)後の犠牲者は、死亡46人、負傷340人。うち12歳以下の子供の死傷は36人に達している。【ソルタニー(レバノン南部)で和田浩明】

毎日新聞 2010年7月30日 22時32分(最終更新 7月30日 23時45分)

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