きょうの社説 2010年8月5日

◎創刊記念日に 子どもの「読む力」育てる新聞
 北國新聞はきょう創刊117年を迎えました。この長きにわたって親から子へ、子から 孫へと本紙を読み継いで頂いている読者の励ましを思うと、胸が熱くなってきます。節目の日を機に、心を新たにして、さらなる紙面の充実に心血を注いでいく決意です。

 新聞製作に携わる私たちにとって、本当にうれしい話があります。新聞を授業に使う学 校が増えているのです。国語や社会の時間に、子どもたちが興味を持った記事を切り抜いて感想を書いたファイルをつくったり、壁新聞にしたり、使い方はさまざま。石川県や富山県の小中高校で、新聞が授業の魅力アップに一役買っています。

 実用的な知識を活用する試みとして、教育界と新聞界が協力してスタートしたNIE( 教育に新聞を)運動は、今年22年目を迎えました。2010年度の実践指定校に石川県から小学校2、中学校2、高校1の計5校、富山県からは小中各1の計2校が選ばれていますが、最近は指定校に限らず、各学校が積極的に授業に取り入れるようになっています。

 例えば、金沢市などで使用している小学校4年の国語の教科書には「新聞記者になろう 」という項目があります。子どもたちは教科書で、記事の書き方など新聞作りの基本を学び、それらの知識をもとに、数人ずつのグループをつくって壁新聞に挑戦するのです。

 新聞の題名、記事のテーマなどを話し合ってから、自分が担当する記事の取材をしたり 、取材メモをもとに画用紙に原稿を書いたりします。写真を張り付けたり、見だしを工夫するなど、いかに分かりやすく、個性的な紙面ができるかを競い合うのです。

 1カ月かけて、新聞づくりをする学校もあるそうです。この授業を機に、新聞を読まな かった子どもたちが自宅で自発的に新聞を手に取るようになり、家族と共通の話題を得て会話が弾むようになったといいます。新聞が子どもたちの「読む力」を育てる一助になっているとしたら、これほどうれしい話はありません。

 思えば私たちも子どものころ、新聞を切り抜いて壁新聞をつくったことがありました。 あのころは紙質も悪く、手がインクで真っ黒になったのを覚えています。今、きれいなカラー写真を使えば、さぞかし見栄えのする壁新聞ができることでしょう。

 学んだ知識の実生活への応用力を評価する経済協力開発機構(OECD)の学習到達度 調査(2003年)で、日本の15歳の読解力は、参加した41の国と地域の中で14位と、中位グループにとどまりました。折からの「学力低下」の議論ともあいまって、大きな社会問題になりました。

 危機感を抱いた文部科学省は「読解力向上プログラム」を作成し、「効果的に社会に参 加するために書かれた文章や資料を理解し、利用し、熟考する能力」の充実に動き出します。脱ゆとり教育にカジを切った新学習指導要領に「言語活動の充実」が掲げられたのは、読解力向上が主要目的の一つでした。小学生なら自然観察などを通して、また、中高生ならデータを読み取り、仮説を立てて検証していく。社会生活にも役立つ能力の習得に最適なテキストは何か。それは新聞だと思うのです。

 学校の先生に聞くと、新聞は生きた教材として活用できる点が最大の魅力と言われます 。古里と遠い外国との関係や、地元の伝統文化から生まれた工業技術など、身近な物事を連係させて学ぶことができる点も高評価を得ています。現代社会の授業で、事故米転売などの社会問題を新聞の続報を追うことで学ばせた寺井高校(能美市)の先生は「新聞を使うことで、事件の広がりや影響を効果的に学べた」と話しています。

 また、本紙の記事を切り抜き、感想を添えてファイルにつづる活動を続けている森山町 小(金沢市)では、初めは無関心だった児童が、自発的に記事を読むようになり、切り抜きまで始めたそうです。

 まだ夏休みの自由研究が決まっていないなら、気になる記事を切り抜いて感想を書いた ファイル帳や壁新聞をつくってみてはどうですか。子どもたちに社会参加の扉を開いてくれることでしょう。