きょうのコラム「時鐘」 2010年8月5日

 人気の大河ドラマ「龍馬伝」は、岩崎弥太郎が新聞記者の取材に応じながら展開する趣向である。実在した記者で、坂崎紫瀾(さかざきしらん)という

日本最初の坂本龍馬伝を書いた明治初期の人物だ。高知に生まれ新政府の裁判官となる。長野県松本に赴任するが、すぐに辞めて「松本新聞」の編集長に就き、信州の自由民権運動の中心的存在となる。そこへ記者志願の青年、赤羽萬次郎がやってきた

人と人のつながりは意外性に満ちている。萬次郎は紫瀾を師として記者になり、東京に出て本格的な新聞人となり、1893(明治26)年8月5日、金沢で北國新聞を創刊する。創刊号には維新の原動力となった信州出身の「佐久間象山」の伝記がある

紫瀾が高知の新聞に龍馬伝を書いたのと似ている。黎明期(れいめいき)の日刊紙は、明治維新と自由民権運動とのつながりを抜きにしては語れない。紫瀾の残した龍馬伝も、一地方から日本を変えた民権運動の祖として描かれている

いつの時代も、人はふるさとを出て、ふるさとの力を知り、地方を通して、広い世界とつながるのである。地方紙を舞台にした「歴史ドラマ」はいまも続く。