ザ・コーヴ:上映始まる 警備厳戒、混乱なく

2010年7月3日 11時30分 更新:7月3日 13時1分

米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」を上映する劇場周辺を警備する警察官=横浜市中区で2010年7月3日午前9時1分、武市公孝撮影
米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」を上映する劇場周辺を警備する警察官=横浜市中区で2010年7月3日午前9時1分、武市公孝撮影

 和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に描いた米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)の上映が3日始まった。この映画については、「反日的だ」として上映中止を求める民間団体の抗議活動による観客や近隣への迷惑を理由に、三つの映画館が上映を取りやめ、言論・表現の自由を巡って論議が起きている。

 当初は6月26日公開予定だった。3日は、青森県八戸市▽仙台市▽東京都渋谷区▽横浜市▽大阪市▽京都市の6映画館で上映開始。

 横浜市中区の「横浜ニューテアトル」では午前10時の上映開始前から警察官十数人が待機、ものものしい雰囲気での封切りとなったが、約50人が入場した。

 同館については、横浜地裁が6月24日付で民間団体に対し、近隣で拡声機などを使った抗議活動を禁じる仮処分決定を出しており、上映開始時点では、抗議活動を行う団体はなかった。一方、上映を支持する市民団体は「表現弾圧を許さない」と書かれたプラカードを掲げて支援した。

 映画を見た横浜市南区のカメラマン、高橋晃さん(57)は「主張が一方的で、共感できない。内容的にも質が低いが、上映の機会を奪ってはいけないと思った」と話した。また、横浜市港南区の無職男性(63)は「イルカが高値で取引されていることなど、知らなかった事実が分かってよかった」と語った。

 また、東京都渋谷区の「シアター・イメージフォーラム」周辺でも抗議活動を禁止する仮処分決定が出されているが、上映開始1時間前の正午から、民間団体のメンバーが約20分間、拡声機などを使った抗議活動を展開した。

 アンプラグドの加藤武史社長は「内容については、公開前から賛否両論あったが、上映自体については、さまざまな方に支援をいただいた。公開が実現できたこと、上映を支えていただいた皆様に感謝しております」とのコメントを出した。

 ザ・コーヴは3日上映開始の6館ほか、順次、全国18映画館での上映が決まっている。

 ◇視点や撮影手法 国内では賛否

 「ザ・コーヴ」は、和歌山県太地町で行われている漁船と網を使って入り江に追い込むイルカ漁の実態を描いており、反イルカ漁の視点に貫かれている。米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞、海外では高い評価も受けている。しかし、日本国内では一方的な描き方だとする意見や撮影手法を問題視する声もあり、上映前から映画関係者や識者らによるシンポジウムなども開かれ、賛否が割れている。

 授業でこの問題を取り上げた大学もある。6月22日に早稲田大学(東京都新宿区)で開かれた授業には、出演している米国人保護活動家、リック・オバリーさん(70)も飛び入り参加した。学生からは「イルカ漁に反対するのはなぜか」「エスキモーは捕鯨をしているではないか」--などの質問が相次いだ。

 オバリーさんは「イルカには生死の認識があるほど知能が高い。今の太地町でのやり方は残酷だ。エスキモーはたんぱく源の一部として考えている。太地町のイルカ漁とは違う。一考の余地はある」などと答えた。

 撮影手法を巡る論議も盛んだ。大勢の同町漁協関係者が登場するが本人の承諾はなく、漁協側は、肖像権侵害を主張。日本での配給会社「アンプラグド」に上映中止を求めた結果、日本版はモザイク処理された。

 早稲田大の授業を担当したアジアプレス・インターナショナルの野中章弘代表は「ドキュメンタリーは物事の本質を伝えるためにはいかなる手段・方法でも用いる」と撮影手法などを擁護する。

 また、東京・霞が関で6月21日に開かれたシンポでも製作手法が取り上げられた。映画監督の崔洋一さんは「プロパガンダ(宣伝)映画なので、事実検証の下で作られたとは言い難い」と指摘。また、ジャーナリストの田原総一朗さんは「面白い映画だ。よくできている」と評価した。

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