「ほんと、気持ち悪い……」
心の底からの本気の言葉。
自分が産んだ息子に向かって言う台詞じゃあ、決してないと思う。
だからそれを聞いた周囲の人達が、ギョッとした目で私を見ても仕方ないのかもしれない。
そうして口々に言うのだ。
母親として失格だと。
だけども、仕方ないじゃないか。
今の自分と同じ境遇に墜とされたら、誰でも同じコトを言うと思うぞ?
余程のマゾでも無い限りさ……
私は、前世の記憶を持っていた。
残念な事に、強くてニューゲームって訳では無い。
私が12才の時、初潮のショックで前世が男だったことを思い出しちゃったってだけ。
今思えば、そこからが不幸の始まりだった気がする。
16の時、幼馴染にレイプされた。
私は前世の記憶の影響からか、男には一切興味が無く、むしろ百合的な意味で女の子が好きだった。
小さい頃から一緒に過ごした隣家の男の子から、熱いアプローチは受けていたけれど、当たり前の様にそれをスッパリ振ったのだ。
だけどもそんなある日、両親が出かけて一人で留守番だった夜のこと、家に入り込まれ一晩中犯された。
泣き叫ぶ私に愛してると言いながら犯し続けたその男は、今では私の夫である。
憎くて恨めしい男なのに、何故? と思うかも知れないけど、世の中そんなモノなのだ。
レイプされた私は、しっかり妊娠してしまい、それを知った両親が激怒。
間違うな、レイプした男ではなく、私に激怒したのだ。
隠れてこそこそ淫蕩に耽っている馬鹿娘だとでも思ったのだろう。
違う、隣の馬鹿に犯されたんだ!って言っても嘘をつくなと頬を叩かれる。
子供を堕ろしたいって言ったら私を犯したバカが、私を愛してる、結婚を許してくれなどと言いやがり、
もとより幼なじみって事は小さい頃からの付き合いな訳で、両親も、向こうの親もそれを勝手に決めやがった。
自分を無理矢理レイプした男と結婚するのは嫌だと、何度も何度も訴えた。
でもだ、聞きやしないのだ。
レイプ魔が言う耳に優しい言葉を信じ、私の訴えを一切耳に通さない。
この時、私は少し壊れてしまったのだろう。
それ以来、両親や周囲への感情は冷めた。
徐々に大きくなる腹の中身に恐怖して、周りを気にする余裕がもうなかったとも言うけれど。
堕ろしたくても許されず、気がつけば最早手遅れな所まで追い詰められて。
男は、出産の衝撃には耐えられない。
そんな俗説もあり、前世が男であった私は、怖くて、怖くて、怖くて……
泣いて喚いてヒスって暴れて、それを優しく宥めようとするレイプ魔に同情的な視線が集まり、逆に私には冷たい視線。
両親からはレイプ魔を褒め称える言葉を終始聞かされ、精神的に限界が達したときに、出産した。
陣痛、破水、そして、スルリと異物が私の中から出ていく快感。
あれ程の快感、前世も含めて感じたことはなかった。
まあ、それから先の不快感を考えれば、そんなの何の慰めにもなりはしないけど。
私の胸にシャブリつき、お乳を嬉しそうに吸いまくる乳児を見て、私はとってもイヤ~な確信をしてしまったから。
このガキ、転生者じゃん。
産まれてまだ間もなく、目も殆ど見えず、耳も殆ど聞こえない筈の乳児が、その小さな目をギョロギョロさせる光景はあまりにキモイ。
周囲の有象無象共の言葉に一々反応してみせて、特に海鳴と言う単語で喜びの雄叫びを上げやがった。
ああ、こいつ唯の転生者じゃない、オリ主だ……
この時の私の絶望が解るだろうか?
レイプ魔の親戚で、丁度同じように出産した忌まわしい原作キャラの桃子に何度も窘められながら、私は生きる気力を根こそぎ奪われた。
この子が長じるに従い、天才だ! 神児だ! などと褒め称える言葉を右から左へと聞き流し、うつ病でノイローゼ気味の私は完全に育児放棄。
なのにこのガキ、自分でメシを作って隣家に住むなのはに振舞ったりしやがる。
10歳にもならないガキが、なんでこんな凄いメシ作れるんだよオカシイだろお前らなんで疑問にもたないんだよ死ねバカ。
「ホント、アナタは何であんな良い子に、そんな酷いことを言うのかしらね……?」
イヤミったらしく言うのは、レイプ魔の母親。
いわば私の姑だ。
それに対して桃子がさり気なく庇ったりはしてくるけど、私の心は冷たいまんま。
「酷いかな? レイプ魔の息子を愛せって言われても、どうしたら愛せるのか分からない」
姑の目は、嫌悪のまま私をギンと睨みつけた。
ここで初めて桃子が私に驚きの視線を向けたのだ。
「どう言うこと……?」
彼女が驚きに目を見開いたまま私にそう問いかけるが、もう遅い。
私は姑に手を引っ張られ、自宅へと連れ込まれる。
そのままバタンと扉が閉まり、私は諦めきった溜息を吐きながら部屋へと帰るのだ。
ベッドに身体を横たえながら、私は世界を呪詛し続ける。
滅びてしまえ、こんな世界。
ジュエルシードでも闇の書でもなんでもいい。
私ごと、すべてを滅ぼしてしまえ。
窓の外から見える隣家の庭で、私の子供の皮を被ったナニかが楽しげな歓声を上げた。
ハーレムだの、魔王だの、フェイトそんだの、はやてたんだのヴォルケンハーレーマーだの馬鹿なことばっかり言う、一応は私の息子。
ホント、少し痛い目をみたらいいのに。
それとも私にだけ厳しい世界なのだろうか?
少なくても、私にどんな目で見られても気にも止めない気づきもしないこの子にとって、優しい世界であることは確かだろう。
ほんの少しだけ『息子』に優しい目を向けた私は、だけども次の瞬間には何も写さない伽藍洞。
昼は姑の嫌みを聞き、夜はレイプ魔に犯されて、朝は異常者な息子を学校へと送り出す。
延々と、延々とその繰り返し。
早く、終わればいいのにな……
この、魔法少女リリカルなのはの世界が、終わればいいのにな……
それから半年も経たないある日の事、彼女は衰弱した状態で発見された。
彼女の息子や、隣家の娘はどうしてそうなったのか知ってはいたが、堅く口を閉ざす。
生きる気力が欠片もない彼女は、徐々に、徐々に……
そうして年も改まり、祝いに満ちた世界の中で、彼女は26年の生涯を閉じた。
後書き
スランプ対策に何か適当に書いてみた。