日米「ブロードバンド競争」第2幕、
日本は「光の道」構想で勝てるのか?

2010.05.07(Fri) 池田 信夫

日本経済の幻想と真実

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 今の携帯電話のような貧弱なインフラでは、データをサーバに置いたままインターネット経由で利用する「クラウドコンピューティング」はむずかしい。

 次世代の無線技術では、「LTE(Long Term Evolution)」や「WiMAX」などの高速無線通信技術によって数十メガビット/秒の速度が実現でき、HDTV(高精細度テレビ)も見ることができる。こうした新しい無線技術に周波数を割り当てるためには、テレビが無駄に占拠している帯域や、業務用無線が細切れに使っている帯域を再編して汎用の高速無線に開放する必要がある、というのがFCCの考え方である。

 ところが総務省にはそういう問題意識がないらしい。先月の当コラムでも指摘したように、次世代モバイルに割り当てられる帯域はわずか40メガヘルツ。これを3~4社で分けると、1社当たり10メガビット/秒程度のスピードしか出ず、国際的な周波数と合わないのでiPadもiPhoneも使えない。

イノベーションのカギは規制ではなく起業家精神

 NTTの経営形態をめぐる論議は1985年の民営化の時から続き、「公正競争のためにNTTを分割すべきだ」という主張と「NTTの国際競争力を維持するために経営の一体性を守るべきだ」という主張が対立してきた。

 その妥協として99年に、持株会社の下に「市内網の会社」と「長距離網の会社」がぶら下がる経営形態が取られたが、これは最悪のタイミングだった。当時、すでに通信の主流はインターネットになり、市内と長距離という区別はなくなっていたからだ。

 そこで2000年に回線が開放され、翌年にソフトバンクが「ヤフー!BB」でDSLに参入した。これによって数十メガビット/秒のブロードバンドが月3000円以下という破格の料金で提供され、日本のブロードバンド人口は2000万世帯を超えて、世界のトップになった。

 それを可能にしたのは、ソフトバンクの起業家精神だった。孫氏が訪米してFCCのパウエル委員長(当時)に会った時、彼は「FCCはできることはすべてやったが、1つだけ足りないものがある。それはあなたのような “crazy entrepreneur” だ」と語ったという。

 これまでのNTTをめぐる論争が教えるのは、規制によって公正競争を保証することは、イノベーションの必要条件ではあっても、十分条件ではないということだ。世界各国のブロードバンド競争の第1幕で日本が勝者になった最大の原因は、規制ではなく起業家精神だった。

 その第2幕をリードするのは、無線に進出したアップルやアマゾンかもしれないし、通信業の免許を申請したグーグルかもしれない。

 何が起こるかはまだ分からないが、今度はソフトバンクが社会主義的な光ファイバー整備を主張している日本より、電波を開放して自由なイノベーションを刺激しようとする米国の方が有利だろう。

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