バレーボールの用語辞典「バレーペディア」を発行した理由は
◆スポーツの専門用語は、昔から使われてきた言葉と海外で生まれた新しい言葉が交ざっています。バレーボールの場合、「レシーブ」と同じ意味で「キャッチ」や「レセプション」があります。テレビ視聴者など一般の人に分かりにくい上、指導時にも混乱が生じています。あいまいな用語を整理するため、日本バレーボール学会で5年間議論を重ね、出版しました。競技の用語をまとめた本は他競技を通じておそらく初の試みです。
どんな内容の本ですか
◆技術やルール、ポジション名など350語の解説や語源をまとめました。また、「回転レシーブ」や「一人時間差」など日本発の技術の誕生秘話やルールの変遷、最新の戦術理論も紹介しています。
なぜ、専門用語は一般の人に分かりにくいのでしょうか
◆過去に世界一だったバレーボールは保守的な体質が強く、昔のルールの言葉がそのまま残っています。
例えば、コート後方からの高いトスを意味する「二段トス」。これは77年以前、ブロックのワンタッチを1回目と数えていたころに、レシーブで上がった球をそのままスパイクする「二段攻撃」が語源です。二段攻撃のトスは、コート後方からの高い軌道になることが多く、いまの意味になりました。
ただし、現在はルール変更で「二段攻撃」を知らない人も多く、「二段トス」は分かりにくい用語の代表格です。誰もが分かる言葉に変えるべきです。
誤った用語が、競技力向上の障害になったこともありますか
◆80年代に、サーブレシーブの負担を減らして攻撃に専念する選手を意味する「スーパーエース」という和製英語が生まれ、背の高い選手たちの間に「苦手なレシーブやトスはしなくていい」という誤った考えが広まりました。それが、大型選手のパス能力低下の一因になっています。
今後、日本バレーボール界にどのような変化を期待しますか
◆サッカー界は、日本サッカー協会が中心となって、世界の最先端の用語を積極的に取り入れる一方、バレーボール界は、60~70年代に世界一だったという昔の栄光にとらわれています。もっと、柔軟になるべきです。スポーツは言葉が分かりにくければ、普及が進みません。バレーボールの実況中継では「バレーペディア」に基づいた用語が使われる予定です。用語の整理が、バレーボールの普及、競技力の向上につながればと期待しています。【聞き手・小林悠太】
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■人物略歴
甲斐市在住。前山梨大バレーボール部監督。現大東文化大教授(スポーツ心理学)。95年に発足した日本バレーボール学会の発起人の一人で、09年4月から会長を務める。同学会の15周年事業として、バレーボール用語をまとめた「バレーペディア」(日本文化出版)を5月に出版した。
毎日新聞 2010年6月16日 地方版