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特集ワイド:ゆうかんなトーク 日本の政治、これから 試される、菅さんの力量

 「ゆうかんなトーク」4回目のテーマは、「日本の政治はどうなる? どうする!」です。民主党が参院選で大敗し、衆参がねじれた国会。菅直人首相の政権運営、大連立の可能性などについて近藤勝重夕刊編集長が小菅洋人政治部長と語ります。【構成・江畑佳明】

 ◇ねじれは民主党内にも--近藤勝重・夕刊編集長

 ◇政策ごとの連合しかない--小菅洋人・政治部長

近藤 参院選で示された民意は何でしょう? 衆参のねじれにより、このままだと法案は一本も通りません。

小菅 昨年の衆院選とは逆方向に民意が揺れました。3年後の参院選で民主党が単独過半数を取るには80議席近くを取るしかない。不可能であり、自民党も単独過半数を取る実力はない。従って政界再編がない限り6年間混乱状況が続く。それを承知で有権者は「民主党に白紙委任はできない」との判断をしたのでしょう。昨年の政権交代による、民主党革命を期待していた人に対しては、消費税増税の持ち出し方を間違えた菅首相の罪は大きい。

近藤 4月のトークでも言ったことですが、世論調査の影響が気になっています。最近読んだ古井由吉さんの本に「過去の経緯が飛ぶデジタル社会の怖さ」とありました。イエスかノーの世論調査では、目の前のことを情緒的に判断し、民主党政権は何故にできたのかにまで立ち戻って考えられない。性急で待てない国民になりつつあると思えるのですが、考え過ぎでしょうか。

小菅 05年の郵政選挙で自民党が300議席に迫る圧勝。07年の参院選では年金記録もれがあり、自民党が惨敗。ねじれ国会になり、昨年の衆院選で民主が大勝し、今度は大敗。中間がない。

近藤 小菅さんは前に「世論調査政局」と表現していましたが、言い得て妙です。

小菅 昔は実力者が方向性を決める「派閥政局」でした。今は支持率によって選挙に有利か不利かで判断する「世論調査政局」。「派閥政局」よりましだと思っていました。外の東西冷戦、内の55年体制が終わり、選挙制度も小選挙区制に変わった。特定政党への固定ファンが減り、その時々の空気で結果が大きく振れます。仕方がない面もある。これという政党がないし、リーダーもいないのだから。けれども、世論調査結果が「葵(あおい)の印ろう」になって、思考停止になるのは問題だとは思います。

近藤 数字が数字を呼び、世論調査が世論を作る……。

小菅 負のスパイラルというか。世論調査は原則月1回ですが、各社が競争でやるため世間から見ると毎週やっているような感じになる。世論調査は戦後民主主義の象徴のような世論を測る道具なので、否定されるものではありません。要は、伝え方です。ただ民主党政権の10カ月をみれば、このくらい支持率が落ちるのは当然だと思います。

近藤 わずか10カ月で果実を出せとは厳しいです。菅政権の支持率は毎日新聞の世論調査では、支持と不支持が五分五分。その一方で菅首相続投支持が8割。この理屈は何でしょうか。

小菅 バランス感覚でしょう。熱いおきゅうをすえたが、民主党の迷走は菅さんの力量不足だけによるのではない。短期間で首相がころころ代わるのはごめんだという気持ちだと思います。

   ■

近藤 私が出演しているラジオ番組に寄せられた川柳に「猛暑でも民主党には梅雨明けず」とありました。梅雨とは、9月の代表選での小沢(一郎前民主党幹事長)さんの動向じゃないか。ねじれは民主党内にもあるということですよね。菅さんと小沢さんの連携はありえませんか。

小菅 政治とカネの問題があるので、小沢さんが代表選に出る可能性は少ないと見ています。では小沢さんの息のかかった人物が出るか。海江田(万里・財務金融委員長)さんや原口(一博・総務相)さんの名前も挙がりますが……。菅さんへの批判票もかなり出ると思うので、人事で妥協して小沢さんと菅さんが組んで党運営をする可能性はある。

 先の人事では菅さんが小沢さんの影響力を排除して支持率のV字回復を果たしましたが、党内はねじれ国会を前にして、小沢批判だけでは事は済まないという空気です。菅さんと小沢さん、さらに鳩山由紀夫前首相との間で代表選後の党のあり方について心理戦が始まっているのです。

近藤 小菅さんは前回「小沢さんは辞めた方がいい」と言いました。集団の中で自己主張の強い人間を嫌うと、歴史的には「黒幕化」します。そういう意味でも、「辞めた方がいい」ということかもしれませんが、本当の意味で日本の政治の黒幕はアメリカだと思います。沖縄の基地問題など、この最大の黒幕に太刀打ちするには、相当な力業が必要です。そこにも小沢待望論が出てくる素地があると思いますが。

小菅 公明党と組むとか、自民党との大連立を仕掛けるとかは、小沢さんにしかできないかもしれない。しかし問題は小沢さんが何をしたいのかが分からない。かつて「日本改造計画」では自己責任を強調したが、今はあの輝きは感じられない。小沢さんが代表選に立って「おれはこの国をこうするんだ」という場面を見たい気はします。

近藤 代表選後、ねじれ状態の国会を民主党はどう突破するんですか。

小菅 連立を組むのは難しいから政策ごとのパーシャル連合しかない。簡単ではないが、子ども手当に対して公明党は基本的に反対ではない。公務員改革ではみんなの党と連携する余地はある。

近藤 大連立の可能性は。

小菅 民主党内にも反対があり、自民党も乗るのは厳しい。でも消費税、社会保障では民主、自民で論議を進めてほしい。

   ■

近藤 「直近の民意」という論法で「早く解散総選挙を」という声もあります。

小菅 ねじれで国会が行き詰まった場合は、衆院選で国民の意思を確認して、勝った方に従おうということでしょう。菅氏にしてみれば解散を「するぞ、するぞ」とにおわせることによって求心力を保とうとするはずです。

 ただ基本的には「追い込まれ解散」で民主党が議席を減らすのは確実です。ねじれだろうと衆院で300議席あれば自分たちで予算は作れるし、大臣にもなれる。衆院議員は厳しい小選挙区の戦いをできるだけ先延ばしにしたいのが本音です。ですから最悪の場合は、3年後の総選挙まで首相をとっかえひっかえしつつ延命しようという意識が働く。安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の各首相が1年ごとに代わった自民党時代と同じです。

 当面の見通しを言えば、秋の臨時国会は乗り切っても通常国会の壁は大きい。来年度予算案も予算関連法案が通らないと実効性がない。関連法案の段階で国会が行き詰まり、打開のために解散するのか、退陣して新しい首相の下で野党と協力関係を作るかの選択を迫られるかもしれない。

 それまでに、小渕恵三元首相のように、自由党、公明党を引き込んでねじれを解消するような芸当が菅さんにできるか。政権運営のために小渕さんは命を削ったんですが……。菅さんの全人格と民主党の統治能力が試されます。

近藤 先日、菅首相夫人の伸子さんがインタビューで「菅直人が首相になること自体、日本中が小粒になった証明。永田町も草食系ばかりだし」と語っていました。

小菅 菅さんの欠点はいくらでもあるが、政界を見渡せば菅さんはなるべくしてなった実力者だと思う。伊藤博文、吉田茂がいないと嘆いたところで仕方がない。それが日本の実力で、そのリーダーの下で周囲がカバーしながらやっていくしかない。伸子さんは菅さんの欠点を赤裸々に語りながら、夫に自覚を促すと同時に、読者に「夫は欠点を自覚できないバカではない」と訴えているような気がする。

近藤 ところでみんなの党ですが、私流に言えば、つかみはOKなんですが、本芸を見せてくれと。ただ一方では4%の成長、10年後で所得5割アップ、増税は必要ないと、かなりきわどいことを言っていますが、どう付き合えばいいんですか。

小菅 有権者がみんなの党に期待するのは、政権交代を果たした民主党への期待と同じ文脈でとらえるべきだと思う。民主党がだらしないので、みんなの党に支持がいく。

 しかし、みんなの党の針路の取り方は難しい。民主党と連立を組めば吸収されるし、黙っていると存在感が出ない。常に踊りながら、飽きられてはいけないという宿命を負っている。衆院選を目標に渡辺喜美代表の手腕は見どころです。

近藤 政策面での実績を残して衆院選に持っていきたいという意味では、民主党政権と一緒に実行していく手だてを取らないとできません。最後に菅政権に提言を。

小菅 菅さんはもっと元気を出して、消費税増税もあれだけ主張したのだから、世論対策も含めて戦略的に増税をプロデュースして、再チャレンジしてほしい。実現可能性は低いですが、自民党との大連立は模索すべきだと思う。社会保障とその財源たる消費税の政策協議が、ねじれにかまけて6年間、何も進まないのではたまらない。

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毎日新聞 2010年7月30日 東京夕刊

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