スダーン指揮東京交響楽団が演奏するブルックナー「交響曲第7番」がファインNFレーベルの「エクストリーム・ガラスCD」で発売される。すべての音がきめこまやかに聞こえるガラスCDの音質は驚異的だ。【梅津時比古】
CDの盤に当たる部分を従来のプラスチックからガラスに変えた「ガラスCD」は、NFの西脇義訓プロデューサーと福井末憲ディレクターが2006年に開発、世界のオーディオファンを驚かせた。福井ディレクターによると、今回の「エクストリーム・ガラスCD」はセーラー万年筆と提携して同社の研磨技術を取り入れ、「初期のガラスCDに比べて、ガラスの材質感が全くなくなった」と言う。
徹底した手作りのため価格は1枚9万8700円と高価だ。福井ディレクターは「今、スピーカー、アンプなどのオーディオ再生装置は質の良い高価なものが次々に開発されている。それに比べて、再生させる肝心のCDは質の向上が追いついておらず、非常にアンバランスな状態。ガラスCDは価格は高いけれども、再生装置の能力を最大限に発揮させる」と自負する。
「版画を例に考えてもらうと分かりやすい。絵師が良くても、良い紙と良い木を使って、彫り師と刷り師が良くなければ良い作品を楽しめません」。絶賛を浴びたスダーン指揮東響のブルックナー「交響曲第7番」は、それらの再生装置の能力を発揮させるためには最良のソフトだろう。
一方、西脇プロデューサーは、音質の良いガラスCDによって「ディスク文化を守ることも視野に入れたい」と言う。
「アメリカでは、音楽配信が急成長して、ディスクが6割弱、配信が4割強にまで迫ったが、音楽総体の売り上げとしては急激に落ち込んでいる。日本は昨年、ディスクが7割強、配信が2割強で、総体の落ち込み方はそれほど大きくない。つまり、ディスクに対する信頼は、音楽総体の発展にとって不可欠なものと思います。そのためにも、さらに優れた質のディスクが必要とされています」
NFの特徴は、特許などを取らず、ガラスCDを独占しようとしていないことだ。2人は「多くのレーベルのソフトが、ガラスCDに参入してくれればいい」と口をそろえる。
その夢の行きつく先は、個人需要にも応えること。個人がたとえば、フィッシャー=ディースカウの歌うシューベルト「冬の旅」を音質の良いガラスCDで聴きたいと思えば、レコード会社に申し込んでそれをガラスCDにしてもらうことができる、という状態だ。
「それが、優れた文化遺産である多くの録音を永久に保存することにつながると思います」と西脇プロデューサーは熱を込める。
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毎日新聞 2010年8月3日 東京夕刊