「三橋貴明 暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う」

三橋貴明 暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う

2010年8月3日(火)

「財政再建」なんて自殺行為だ

何十兆円も償還されて困るのは“借金”漬けの銀行

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 日本は今こそ国債を「増発」すべきだ――。こう言ったら暴論に聞こえるだろうか。

 しかし、よく考えてみてほしい。今、日本経済の最大の問題は「満足に成長できていない」ことであり、資金を潤沢に使いたくなるような産業が生まれ、そして育っていないことなのである。ここで「借金を返そう」などと号令をかけ、萎縮の道をたどるのは自殺行為に等しい。

 日本が取るべき解は正反対のところにある。世界でも最低水準の長期金利を最大限活用して国債を増発し、成長分野に注ぎ込む。そして、日本が持つ潜在力に火を付ける。

 暴論と思われても結構。ぜひ、この連載を読んでみてほしい。「日本の財政が危ない」というイメージにとらわれず、正しい「数値データ」に基づく議論をしようではないか。

 なぜ、日本国債の金利はこれほどまでに低いのか?

 2010年7月21日時点で、日本の新規発行10年物国債金利の利回りは、わずかに1.1%。もちろん、長期金利としては世界最低である。すなわち、日本政府は現時点において「世界最低の資金コスト」でお金を調達できる組織なのである。

日本政府の資金調達コストは世界最低

「財政破綻! 財政破綻!」

 と騒がれている割に、日本政府の資金調達コストは世界最低。なぜだろうか。

 ちまたをにぎわす「日本財政破綻論者」の皆様が、この問いに明確に答えたことはない。聞こえてくるのは、

「日本国債は、単に『国債バブル』になっているだけだ!」
「日本政府と銀行の間で、密約があるのだ! あるはずだ!」

 など、率直に言ってトンデモ論としか表現しようがない「言い訳」ばかりなのである。あるいは、

「日本政府の財政再建への姿勢が、国債金利を低く抑えているのだ」

 などと主張する人もいる。だが、新規国債発行残高が史上最高を更新している中、財政再建も何もあったものではない。

「民間の資金需要がない」ことが真の問題

 この手の「言い訳」をする人々に共通する姿勢は、言っていることが非常に「定性的」であるという点だ。あるいは「イメージ」で語っていると言い換えても構わない。

 日本国債の金利の低さは、イメージ的あるいは定性的に考えず、定量的に問題をとらえようとすれば、簡単に説明がつく。単純に、日本国内に過剰貯蓄があふれ、資金需要に対して資金供給が大き過ぎるためである。銀行などの国内金融機関にあふれたマネーの運用先が見当たらず、「国債が買われるしかない」状況に至っているからこそ、日本国債の金利は世界最低なのだ。

 意外に理解していない人が多いが、銀行にとって預金残高とは「負債」であり、「資産」ではない。厳密に書くと、我々がお金を預けると、銀行のバランスシート(貸借対照表)上で、同額分の資産(現金)と負債(預金)が増える。

 誰でも理解できると思うが、現金をそのまま保有していたとしても、金利は生まない。それに対し、我々の預金に対しては、銀行は金利を支払う必要があり、実際に支払っている。金利を支払わなければならない「預金」という形で調達したマネーを、現金資産として保有しているだけでは、銀行は逆ザヤで倒産してしまう。預金が「借金」である以上、銀行は何らかの手段でそのお金を運用しなければならないのである。

 日本経済の真の問題とは、財務省の言う「国の借金!」とやらではない。1990年のバブル崩壊、及び97年の橋本政権による緊縮財政開始以降、国内のデフレが悪化し、民間の資金需要が全く増えなくなってしまったことこそ問題なのである。すなわち「民間の資金需要がない」ことこそが、日本経済の真の問題なのだ。

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著者プロフィール

三橋 貴明(みつはし・たかあき)

作家、経済評論家、中小企業診断士
1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテル、NEC、日本IBMなどでの勤務を経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」において、公開データを詳細に分析し、韓国経済の脆弱な実態を暴く。これが反響を呼んで『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)として書籍化され、ベストセラーとなった。既存の言論人とは一線を画する形で論壇デビューを果たした異色の経済評論家。ブログ「新世紀のビッグブラザーへ」の1日のアクセスユーザー数は4万人を超え、推定ユーザ数は12万人に達している。2010年参議院選挙の全国比例区に自由民主党公認で立候補したが落選した。『日本の未来、ほんとは明るい!』(ワック)、『いつまでも経済がわからない日本人−「借金大国」というウソに騙されるな−』(徳間書店)など著書多数。


このコラムについて

三橋貴明 暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う

 日本がギリシャの二の舞になる? 冗談じゃない。そんなのは日本経済の構造を正確に把握していない人たちが言っていることだ。日本の真の問題とは財政赤字なんかではなく、将来への成長の道筋が見えないことである。そして、日本経済を再浮上させるのはこれまでの“常識”をうち破る成長戦略しかない。そのための国債ならばどんどん増発すればいい。そのプレッシャーを補って余りある底力が日本経済にはある。最も恐れるべきは、見かけの財政赤字に惑わされてダイナミックな政策を打ち出せなくなることだ。

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