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手がけた作品も素晴らしく、その人の個性も忘れ難いのがトーラー・クランストン(カナダ)だ。
1995年、中国人として初めて世界選手権を制したルー・チェン。そのチャンピオンプログラムであるクランストンの「ラスト・エンペラー」は本当に素晴らしい作品だった。私はこの世界選手権でジャッジをしており、アジアの勝利を素晴らしいプログラムで見られたことを中国人のジャッジとともに喜びあったことを覚えている。
トーラーは奇をてらったところがない、フィギュアスケートの正統の美しい作品を作り上げられる振付師だ。長野五輪の時には荒川静香のSPとフリーを振付けてくれたのだが、当時高校生だった荒川は、まだ曲に乗って身体を動かしているだけ。言われたとおりに足を上げて、下げて…と、後の五輪チャンピオンの面影もなかったのだが、トーラーが滑ると荒川のあのプログラムがなんて素敵な作品なのだろう…と驚いたことをよく覚えている。スパイラルなども彼が見せればバシッと曲に合う動きになるし、彼自身が音楽の中に乗り込んでいき、音楽を彼の身体で飲み込んでしまう…そんな雰囲気だったのだ。
さすが芸術家、と感心したが、実はトーラーは絵画の分野でも活躍している本物の芸術家だ。私も彼の展覧会を訪れ、絵を買ったこともあるのだが、それは素晴らしい才能の持ち主だ。しかし芸術家だから、空港に大事なお客さんを迎えに来る時でも、絵具の付いたままのつなぎ姿で出かけてしまうし、選手と振付けの約束をしていても、すっぽかして絵を描くためにメキシコ辺りに飛んでいってしまう。
やっと真面目に振付けを始めたかと思えば、次の日にはまったく違う動きを一から作り直して選手を混乱させたりもする。気まぐれで、日によって仕事に対するモチベーションも大きく違い、ちっともビジネスマンではないのだ。今の振付師でいえば、デビッド・ウィルソン(カナダ)と少し気質が似ているかもしれない。
トーラーは、付き合っていくうえでは難しいところもある人だったが、彼はお金のためではなく、ほんとうに自分の心から湧き出るものを表現するために、スケートのプログラムを作っていた。スケーターにも心から惚れこんで作品を作り、気にいらなければ何も作らない。しかし思えばその当時は、そんな仕事の仕方をするのは、トーラーだけではなかった。ジョゼッペ・アリーナ(イタリア)もフィリップ・キャンデロロ(フランス)に惚れ込んだからこそ、あれだけの作品が作れたのだし、サンドラ・ベジックにしてもサラ・カワハラ(ともにカナダ)にしても同じだろう。
しかしその後、フィギュアスケートにビジネスの色彩がついてくると、振付師の仕事にも大きなお金が付きまとうようになった。当時の少しのんびりした空気の中、自分の作りたいようにプログラムを作っていた彼らに比べると…今の振付師の世界は、少しだけ世知辛くなってしまったかもしれない。(続く)
(2010年6月30日15時37分 スポーツ報知)
1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。
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