2010年8月3日 21時47分
東京・秋葉原で17人が死傷した無差別殺傷事件で、殺人罪などに問われた元派遣社員、加藤智大被告(27)に対する4日間、計17時間に及んだ被告人質問が3日、東京地裁(村山浩昭裁判長)で終了した。「派遣切り」や容姿への劣等感が事件の背景にあるとする検察側主張を、加藤被告は全面否定。インターネットの掲示板トラブルを唯一の原因と強調し、動機を巡る検察側との主張の違いが浮き彫りになった。
この日の公判では検察官が「模倣した事件が起きていることをどう思うのか」「事件は社会のあり方を変えてしまったのでは」と追及。「申し訳なく思う」と繰り返す被告を「どうして見ず知らずの人に痛みを残すことに思いが至らないのか」と叱責(しっせき)した。
「(ネットの掲示板への)『荒らし』や偽物に嫌がっていることを伝えたかった。動機がそれだけかと言われれば、それだけです」
先月30日、加藤被告は検察官の質問に表情を変えないまま答えた。「捜査段階では、もう少し動機は複雑だったのではないか」と尋ねられると「2年間事件のことを考えて(動機の)真相に行き着きました」と淡々と述べた。
検察側は冒頭陳述で、仕事が不安定なことや容姿に対するコンプレックスを掲示板に書き込んだのに思いやりのある反応が得られなかったことが事件の背景にあると指摘。事件直前に工場の作業着が見つからずに怒りを爆発させ、事件を起こすことを決意したとの構図を描いた。
だが、加藤被告はこれを否定。「派遣切り」などの要因を動機から排除すれば情状面で不利になる可能性もあるが、弁護団関係者は「被告は『動機が掲示板のみ』ということにこだわっている」と話す。一方、検察側は法廷で「女性問題などを隠して格好つけようとしているだけではないか」と強く反発した。
加藤被告は「行動で示そうとする自分の考え方が事件の原因」と説明。母への抗議のため4年制大学に進学しなかった▽上司への抗議のため仙台市の警備会社を退職した--などと例示した。こうした考え方は検察側が指摘しなかった「母親の育て方」の影響だとも説明。一方、事件当時の記憶が途切れているとも述べた。【伊藤直孝】