1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:32:44.70 ID:VCS3HJ5DQ
2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:37:46.46 ID:VCS3HJ5DQ
男「え?」
女「すいません。何分、声とお名前を聞かなくては誰だかわかりませんので」
男「……あ、男って言います。カウンセリングに来ました」
女「男さん……ですね。わかりました。それで、手術のことでしょうか?」
男「うん。視力、戻る可能性もあるんでしょ?」
女「そう聞いております」
女「すいません。何分、声とお名前を聞かなくては誰だかわかりませんので」
男「……あ、男って言います。カウンセリングに来ました」
女「男さん……ですね。わかりました。それで、手術のことでしょうか?」
男「うん。視力、戻る可能性もあるんでしょ?」
女「そう聞いております」
男「じゃあさ、手術してみたら?」
女「……嫌です。情けない話ですが、怖くて……」
男「そうか……じゃあ仕方ないか」
女「…………はい?」
男「え?いや、じゃあ仕方ないかなーって」
女「あの……普通カウンセラーの方は励ましたり、慰めの言葉をかけたり……」
男「そうなんだけどね。でも、それは他のカウンセラーの方がやったでしょ?」
女「はい……まあ……」
男「だったら、僕がやっても意味は無いんじゃないかな」
女「……はあ……変な方ですね、貴方……」
男「そうかな」
女「ええ。少なくともカウンセラーには向いていないかと」
男「さりげなく酷いな」
3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:40:49.07 ID:VCS3HJ5DQ女「……嫌です。情けない話ですが、怖くて……」
男「そうか……じゃあ仕方ないか」
女「…………はい?」
男「え?いや、じゃあ仕方ないかなーって」
女「あの……普通カウンセラーの方は励ましたり、慰めの言葉をかけたり……」
男「そうなんだけどね。でも、それは他のカウンセラーの方がやったでしょ?」
女「はい……まあ……」
男「だったら、僕がやっても意味は無いんじゃないかな」
女「……はあ……変な方ですね、貴方……」
男「そうかな」
女「ええ。少なくともカウンセラーには向いていないかと」
男「さりげなく酷いな」
男「そんな訳でさ。……女ちゃん、退屈じゃない?」
女「ええ。退屈しています」
男「話し相手くらいにはなれると思うよ。……面白いトークかは別として」
女「…………そうですね」
女(まず友達になって……ですか。カウンセラーの常套手段ですね)
男「あはは。じゃあ、よろしく」
女「はい。よろしくお願いいたします」
4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:44:04.36 ID:VCS3HJ5DQ女「ええ。退屈しています」
男「話し相手くらいにはなれると思うよ。……面白いトークかは別として」
女「…………そうですね」
女(まず友達になって……ですか。カウンセラーの常套手段ですね)
男「あはは。じゃあ、よろしく」
女「はい。よろしくお願いいたします」
男「こんにちはー、男です」
女「ああ、男さん。こんにちは」
男「女ちゃんさ、中庭に出てみない?」
女「中庭……ですか?」
男「うん。正直な話、病室の空気って得意じゃないんだ」
女「……そこは『部屋に閉じこもってばかりじゃ体に悪いよ』とでも言うべきでは……」
男「え?あー……そうだね。じゃあそれで」
女「よくカウンセラーになれましたね……男さん……」
5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:47:18.25 ID:VCS3HJ5DQ女「ああ、男さん。こんにちは」
男「女ちゃんさ、中庭に出てみない?」
女「中庭……ですか?」
男「うん。正直な話、病室の空気って得意じゃないんだ」
女「……そこは『部屋に閉じこもってばかりじゃ体に悪いよ』とでも言うべきでは……」
男「え?あー……そうだね。じゃあそれで」
女「よくカウンセラーになれましたね……男さん……」
男「はい」
女「……何ですか?」
男「手、握って」
女「え?……し、しかし……会って二日でそのような……ことは……」
男「だってそうしないと外に出れないでしょ?」
女「それは……そうですが……」
男「じゃあ仕方ないんじゃないかな」
女「わ、わかりました。ただし、『仕方なく』ということを忘れないでください」
男「はいはい、わかってますよー」
7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:50:16.02 ID:VCS3HJ5DQ女「……何ですか?」
男「手、握って」
女「え?……し、しかし……会って二日でそのような……ことは……」
男「だってそうしないと外に出れないでしょ?」
女「それは……そうですが……」
男「じゃあ仕方ないんじゃないかな」
女「わ、わかりました。ただし、『仕方なく』ということを忘れないでください」
男「はいはい、わかってますよー」
女「……何だか、太陽の光を浴びたのも久しぶりな気がします」
男「まあ、たまには気分転換もいいよねー。いつも仕事ばっかりだったし」
女「え?真面目に仕事をしてらっしゃるんですか?」
男「いやいやいや、毎日カウンセラーとして頑張ってますよ」
女「どうですかね」
男「……会って二日で早くも信用無くしてるよね……」
女「信用は失ってませんが、カウンセラーとしての尊厳は失ってそうです」
12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:58:30.82 ID:VCS3HJ5DQ男「まあ、たまには気分転換もいいよねー。いつも仕事ばっかりだったし」
女「え?真面目に仕事をしてらっしゃるんですか?」
男「いやいやいや、毎日カウンセラーとして頑張ってますよ」
女「どうですかね」
男「……会って二日で早くも信用無くしてるよね……」
女「信用は失ってませんが、カウンセラーとしての尊厳は失ってそうです」
男「気持ちいいね……」
女「夏なのに、春のような優しい暖かさですね……」
男「…………」
女「……男さん?」
男「……………」
女(ま、まさか私を置いて……でも、ちゃんと手を繋いでますし……)
女「…………もしかして……」
男「………グー………」
女「…………寝てるんですか、この人……一応勤務中でしょうに……」
13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:01:54.16 ID:VCS3HJ5DQ女「夏なのに、春のような優しい暖かさですね……」
男「…………」
女「……男さん?」
男「……………」
女(ま、まさか私を置いて……でも、ちゃんと手を繋いでますし……)
女「…………もしかして……」
男「………グー………」
女「…………寝てるんですか、この人……一応勤務中でしょうに……」
女「……男さん。起きてください」
男「……………」
女「もう……カウンセラーとしての自覚はあるんでしょうか……」
女(でも……裏を返せば、カウンセラーとしてではなく、私と……)
女「……………」
女「…………少しだけ、ですからね」
男「……グー……」
女(こうして寄り添っていれば、離れることも無いでしょうし……)
14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:06:06.51 ID:VCS3HJ5DQ男「……………」
女「もう……カウンセラーとしての自覚はあるんでしょうか……」
女(でも……裏を返せば、カウンセラーとしてではなく、私と……)
女「……………」
女「…………少しだけ、ですからね」
男「……グー……」
女(こうして寄り添っていれば、離れることも無いでしょうし……)
男「男です。女ちゃん、調子は……」
女「む?むぐ……す、少し待ってくだ…………ふぅ。こんにちは、男さん」
男「あ、ごめん。食事中だった?」
女「いえ。ちょうど終わったところですので、お気になさらず」
男「……ここの病院の食事ってどう?」
女「マズイです。……そろそろ父に講義しようかと思っています」
男「……父……?」
16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:13:17.62 ID:VCS3HJ5DQ女「む?むぐ……す、少し待ってくだ…………ふぅ。こんにちは、男さん」
男「あ、ごめん。食事中だった?」
女「いえ。ちょうど終わったところですので、お気になさらず」
男「……ここの病院の食事ってどう?」
女「マズイです。……そろそろ父に講義しようかと思っています」
男「……父……?」
>>14修正
男「男です。女ちゃん、調子は……」
女「む?むぐ……す、少し待ってくだ…………ふぅ。こんにちは、男さん」
男「あ、ごめん。食事中だった?」
女「いえ。ちょうど終わったところですので、お気になさらず」
男「……ここの病院の食事ってどう?」
女「マズイです。……そろそろ父に抗議しようかと思っています」
男「……父……?」
15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:11:26.44 ID:VCS3HJ5DQ男「男です。女ちゃん、調子は……」
女「む?むぐ……す、少し待ってくだ…………ふぅ。こんにちは、男さん」
男「あ、ごめん。食事中だった?」
女「いえ。ちょうど終わったところですので、お気になさらず」
男「……ここの病院の食事ってどう?」
女「マズイです。……そろそろ父に抗議しようかと思っています」
男「……父……?」
女「……まさかご存知無い訳じゃありませんよね?私の父、ここの院長です」
男「………………」
女「知らなかったんですか……」
男「い、いやあ、院長さん適当だから」
女「適当なのは男さんの頭の作りでしょう……」
男「……さりげなく毒舌だよね……女ちゃん……」
18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:16:42.68 ID:VCS3HJ5DQ男「………………」
女「知らなかったんですか……」
男「い、いやあ、院長さん適当だから」
女「適当なのは男さんの頭の作りでしょう……」
男「……さりげなく毒舌だよね……女ちゃん……」
男「ところで、女ちゃん」
女「はい?何でしょう」
男「……彼氏とか居ないの?」
女「かっ……!?そ、そんなもの、居る訳ないじゃないですか」
男「でも、結構モテるって聞いたんだけど」
女「……と、とにかく!彼氏なんて居ません!変なこと聞かないでください」
男「あー、うん。……それにしても暑いね」
女「それはまあ……夏休みですから……」
男(……やっぱり寂しいのかな……)
19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:21:30.79 ID:VCS3HJ5DQ女「はい?何でしょう」
男「……彼氏とか居ないの?」
女「かっ……!?そ、そんなもの、居る訳ないじゃないですか」
男「でも、結構モテるって聞いたんだけど」
女「……と、とにかく!彼氏なんて居ません!変なこと聞かないでください」
男「あー、うん。……それにしても暑いね」
女「それはまあ……夏休みですから……」
男(……やっぱり寂しいのかな……)
男「……やっぱり、手術した方が……」
女「……いいんです。事故にあったのは不運でしたが、不幸ではありませんから」
男「え?」
女「私は赤も、緑も、黄色も、海の青も、空の青も、雲の白も知っています」
男「……………」
女「生まれつき目が見えない方だって居るのですし……私は寧ろ、恵まれています」
男「……女ちゃん……」
女「だから、いいんです。……手術、怖いですから」
21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:25:27.61 ID:VCS3HJ5DQ女「……いいんです。事故にあったのは不運でしたが、不幸ではありませんから」
男「え?」
女「私は赤も、緑も、黄色も、海の青も、空の青も、雲の白も知っています」
男「……………」
女「生まれつき目が見えない方だって居るのですし……私は寧ろ、恵まれています」
男「……女ちゃん……」
女「だから、いいんです。……手術、怖いですから」
男「……そっか。わかった」
女「すいません。私のことを…………」
男「え?」
女「……いえ、何でもないです」
女(心配……してくれている訳じゃ、ありませんよね)
男「?」
女(……男さんは、それが仕事だから言っているだけで……)
女「………気にしないでください」
22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:29:46.36 ID:VCS3HJ5DQ女「すいません。私のことを…………」
男「え?」
女「……いえ、何でもないです」
女(心配……してくれている訳じゃ、ありませんよね)
男「?」
女(……男さんは、それが仕事だから言っているだけで……)
女「………気にしないでください」
男「じゃあ、僕はこれで」
女「はい。それでは、また」
男「……………」
女「……ど、どうかしましたか?」
男「い、いや。……じゃあね」
女「………」
男(今まで『はい。それでは、さようなら』だったのが……『また』になってたな…)
男(偶然かもしれないけど、ちょっと嬉しい)
女「……ふぅ………」
女「何故、この程度のことで緊張しなくてはいけないのでしょう……」
24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:34:58.12 ID:VCS3HJ5DQ女「はい。それでは、また」
男「……………」
女「……ど、どうかしましたか?」
男「い、いや。……じゃあね」
女「………」
男(今まで『はい。それでは、さようなら』だったのが……『また』になってたな…)
男(偶然かもしれないけど、ちょっと嬉しい)
女「……ふぅ………」
女「何故、この程度のことで緊張しなくてはいけないのでしょう……」
女「……父様ですか?」
父「ああ、ちょっとした報告があってな」
女「報告……?」
父「今日、あの男は来れないらしい。……それだけだ」
女「……そうですか、わかりました」
女「…………はあ……」
女「……あ、あれ?どうして、私は溜め息を……」
女「ね、寝ましょう。こんなのは、ただの気の迷いです!」
女「……きっと……そうですよね……」
27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:40:20.08 ID:VCS3HJ5DQ父「ああ、ちょっとした報告があってな」
女「報告……?」
父「今日、あの男は来れないらしい。……それだけだ」
女「……そうですか、わかりました」
女「…………はあ……」
女「……あ、あれ?どうして、私は溜め息を……」
女「ね、寝ましょう。こんなのは、ただの気の迷いです!」
女「……きっと……そうですよね……」
女(……眠れませんね……)
看護師「女さーん、お食事でーす」
女「あ、はい……いつもすみません」
看護師「いえいえ。……今日、彼氏さんは来れないんですって?」
女「か……彼氏……?」
看護師「あら?違うのかしら?」
女「ち、違いますよ。ただの、カウン……」
看護師「カウン?」
女「……いえ……その、知り合いです」
女(カウンセラー、でいいのに……何故私は言い換えてしまったのでしょうか……)
29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:46:06.51 ID:VCS3HJ5DQ看護師「女さーん、お食事でーす」
女「あ、はい……いつもすみません」
看護師「いえいえ。……今日、彼氏さんは来れないんですって?」
女「か……彼氏……?」
看護師「あら?違うのかしら?」
女「ち、違いますよ。ただの、カウン……」
看護師「カウン?」
女「……いえ……その、知り合いです」
女(カウンセラー、でいいのに……何故私は言い換えてしまったのでしょうか……)
看護師「知り合い……。じゃあその知り合いさんのこと」
女「いただきます」
看護師「あはは。つれないわねぇ、女ちゃん」
女「ええ、まあ……あまりにも馬鹿馬鹿しいお話でしたので」
看護師「照れてるのね?」
女「……照れてません」
看護師「それじゃ、またね」
女「はい」
女「……馬鹿馬鹿しい……です……」
31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:50:40.47 ID:VCS3HJ5DQ女「いただきます」
看護師「あはは。つれないわねぇ、女ちゃん」
女「ええ、まあ……あまりにも馬鹿馬鹿しいお話でしたので」
看護師「照れてるのね?」
女「……照れてません」
看護師「それじゃ、またね」
女「はい」
女「……馬鹿馬鹿しい……です……」
女「……ありがとうございました」
食事係「いえいえ、それでは」
女「…………不便、ではありますね……」
女「……あれ……」
女「……私、いつも一人の時は何をしていたのでしょう……」
女「……………」
女(………早く、明日に……)
32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 18:55:42.74 ID:VCS3HJ5DQ食事係「いえいえ、それでは」
女「…………不便、ではありますね……」
女「……あれ……」
女「……私、いつも一人の時は何をしていたのでしょう……」
女「……………」
女(………早く、明日に……)
男「こんにちはー、男です」
女「……こんにちは」
男「あ……あれ?何か怒ってる?」
女「……別に怒ってませんよ。ご安心ください」
男「あ……もしかして昨日来られなかったから?」
女「っ!?そ、そんな訳無いじゃないですか!別に、そんなことどうでも……」
男「……じゃあ、また明日」
女「えっ?!」
男「嘘嘘。今日は時間あるから大丈夫だよ」
女「………もう。驚かせないでください」
34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:03:03.20 ID:VCS3HJ5DQ女「……こんにちは」
男「あ……あれ?何か怒ってる?」
女「……別に怒ってませんよ。ご安心ください」
男「あ……もしかして昨日来られなかったから?」
女「っ!?そ、そんな訳無いじゃないですか!別に、そんなことどうでも……」
男「……じゃあ、また明日」
女「えっ?!」
男「嘘嘘。今日は時間あるから大丈夫だよ」
女「………もう。驚かせないでください」
男「……じゃ、今日も中庭に行く?」
女「そうですね。では、手を」
男「あ、うん」
男「あの……」
女「何ですか?」
男「凄い力が篭ってるような気が……」
女「気のせいです」
男「いたたたたた!!!痛い痛い痛いって!!」
女「気のせいです」
38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:12:35.37 ID:VCS3HJ5DQ女「そうですね。では、手を」
男「あ、うん」
男「あの……」
女「何ですか?」
男「凄い力が篭ってるような気が……」
女「気のせいです」
男「いたたたたた!!!痛い痛い痛いって!!」
女「気のせいです」
男「やっぱり、散歩してるだけでも気分転換になる?」
女「……そうですね。ずっと、病室に居るよりは」
男「それはよかった」
女「こうして、歩いているだけで幸せです」
男「それはちょっと大袈裟じゃない?」
女「いえ……本音ですから」
女(…………こうして、二人で歩いているだけで………幸せ……)
41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:17:06.00 ID:VCS3HJ5DQ女「……そうですね。ずっと、病室に居るよりは」
男「それはよかった」
女「こうして、歩いているだけで幸せです」
男「それはちょっと大袈裟じゃない?」
女「いえ……本音ですから」
女(…………こうして、二人で歩いているだけで………幸せ……)
女「欲しいもの……ですか」
男「うん。買ってきてあげるよ」
女「そうですね、特に…………あ」
男「ん?」
女「えっと、その……では、一つだけ……」
男「うん」
女「ちょ、ちょこれーとを……買ってきていただけませんか……」
男「……チョコレート?」
女「似合いませんか……私がチョコレートを好きなのは……」
男「い、いや、に、似合って……」
女「声が震えてますよ」
男「痛い痛い痛い痛い!!」
女「気のせいです」
44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:21:36.28 ID:VCS3HJ5DQ男「うん。買ってきてあげるよ」
女「そうですね、特に…………あ」
男「ん?」
女「えっと、その……では、一つだけ……」
男「うん」
女「ちょ、ちょこれーとを……買ってきていただけませんか……」
男「……チョコレート?」
女「似合いませんか……私がチョコレートを好きなのは……」
男「い、いや、に、似合って……」
女「声が震えてますよ」
男「痛い痛い痛い痛い!!」
女「気のせいです」
老人「こんにちは」
女「あ、こんにちは」
老人「いい天気だのぅ」
女「そうですね」
男「……女ちゃん、患者さんと仲いいんだってね」
女「え?ああ……ここには幼い頃から通ってましたので」
男「勝手にナース服着てみたらそれが大好評だったとか……」
女「誰に聞きました?」
男「え?」
女「その話………誰に聞きました?」
男「え、えっと……看護師さんに……」
女「そうですか。……それでは、今度ナイフを買ってきていただけますか?」
男「共犯にする気満々だよね」
46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:25:08.42 ID:VCS3HJ5DQ女「あ、こんにちは」
老人「いい天気だのぅ」
女「そうですね」
男「……女ちゃん、患者さんと仲いいんだってね」
女「え?ああ……ここには幼い頃から通ってましたので」
男「勝手にナース服着てみたらそれが大好評だったとか……」
女「誰に聞きました?」
男「え?」
女「その話………誰に聞きました?」
男「え、えっと……看護師さんに……」
女「そうですか。……それでは、今度ナイフを買ってきていただけますか?」
男「共犯にする気満々だよね」
女「アレは、その……若気の至り、と言いますか……」
男「いてて……」
女「ナース服に憧れていて…………ちょっと着てみただけなんです」
男「でも患者さんの十人に一人はその写真を持っているとか……」
女「え!?……それは初耳です……」
男「何でも看護師さんがくれたとか……」
女「変更です。ナイフではなく日本刀を」
男「だから買わないってば」
47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:29:54.22 ID:VCS3HJ5DQ男「いてて……」
女「ナース服に憧れていて…………ちょっと着てみただけなんです」
男「でも患者さんの十人に一人はその写真を持っているとか……」
女「え!?……それは初耳です……」
男「何でも看護師さんがくれたとか……」
女「変更です。ナイフではなく日本刀を」
男「だから買わないってば」
女「……趣味、ですか……」
男「うんうん」
女「読書は……趣味だったかもしれませんね。今は出来ませんが」
男「あ……ご、ごめん」
女「構いませんよ。……それに、今は色々な噂話を聞いてみたりしています」
男「噂話?」
女「ええ。植物が人間になったり、だとか」
男「そりゃまた……信憑性の無い……」
女「まあ、噂話ですから。そんな物でしょう」
49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:33:41.61 ID:VCS3HJ5DQ男「うんうん」
女「読書は……趣味だったかもしれませんね。今は出来ませんが」
男「あ……ご、ごめん」
女「構いませんよ。……それに、今は色々な噂話を聞いてみたりしています」
男「噂話?」
女「ええ。植物が人間になったり、だとか」
男「そりゃまた……信憑性の無い……」
女「まあ、噂話ですから。そんな物でしょう」
男「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
女「……そうですね。風も冷たくなってきました」
女「……もうお帰りですか?」
男「うん。それじゃあまたね」
女「はい。それでは、また」
女「……はあ……」
女(まだまだ……話したいことが沢山あったのに……)
50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:38:06.43 ID:VCS3HJ5DQ女「……そうですね。風も冷たくなってきました」
女「……もうお帰りですか?」
男「うん。それじゃあまたね」
女「はい。それでは、また」
女「……はあ……」
女(まだまだ……話したいことが沢山あったのに……)
男『もしもし?』
女「あ、あの……私です。女です」
男『……女ちゃん?どうしたの?』
女「その……えっと…………た、退屈凌ぎです」
看護師「素直じゃないなあ」
女「黙っててください」
看護師「なっ!?人が電話繋いであげたって言うのに!」
男『もしもーし』
女「あ、すいません。何でもないです」
看護師「ちぇー……つまんないの」
52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:40:58.27 ID:VCS3HJ5DQ女「あ、あの……私です。女です」
男『……女ちゃん?どうしたの?』
女「その……えっと…………た、退屈凌ぎです」
看護師「素直じゃないなあ」
女「黙っててください」
看護師「なっ!?人が電話繋いであげたって言うのに!」
男『もしもーし』
女「あ、すいません。何でもないです」
看護師「ちぇー……つまんないの」
男『……いきなりだから驚いたよ』
女「あ……ご迷惑、でしたか?」
男『ううん。迷惑どころか、嬉しいよ』
女「……嬉しい……?」
男『まだまだ、話したいことが沢山あったからさ』
女「……わ、私も。私もです……」
看護師「私もお話したいなー」
女「だから黙っててください」
55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:44:41.47 ID:VCS3HJ5DQ女「あ……ご迷惑、でしたか?」
男『ううん。迷惑どころか、嬉しいよ』
女「……嬉しい……?」
男『まだまだ、話したいことが沢山あったからさ』
女「……わ、私も。私もです……」
看護師「私もお話したいなー」
女「だから黙っててください」
男「はい、チョコレート」
女「あ……ありがとうございます」
男「いやいや、これくらいならいつでも言ってよ」
女「…………はい」
男「……女ちゃん、少し話があるんだけど……」
女「え?」
男「仮に、だけど。誰かに……付き合ってくれ、って頼まれたらどうする?」
女「えっ!?あ、その、それは、つまり、えっと!?」
女「ど……どういう意味でしょう……?」
56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:48:37.51 ID:VCS3HJ5DQ女「あ……ありがとうございます」
男「いやいや、これくらいならいつでも言ってよ」
女「…………はい」
男「……女ちゃん、少し話があるんだけど……」
女「え?」
男「仮に、だけど。誰かに……付き合ってくれ、って頼まれたらどうする?」
女「えっ!?あ、その、それは、つまり、えっと!?」
女「ど……どういう意味でしょう……?」
男「いや……特に意味は無いけど」
女「そ、そうですね。相手にもよりますが、お慕いしている方ならば……」
女「…………でも、無理でしょう」
男「え?」
女「私は……目が見えませんから」
男「…………」
女「映画館に行っても、水族館に行っても……楽しむことは出来ません」
女「お料理も出来ませんし、一人で満足に動くことも出来ません」
女「そんな私を……誰が好きになると言うのですか」
男「…………女ちゃん……」
59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 19:53:50.30 ID:VCS3HJ5DQ女「そ、そうですね。相手にもよりますが、お慕いしている方ならば……」
女「…………でも、無理でしょう」
男「え?」
女「私は……目が見えませんから」
男「…………」
女「映画館に行っても、水族館に行っても……楽しむことは出来ません」
女「お料理も出来ませんし、一人で満足に動くことも出来ません」
女「そんな私を……誰が好きになると言うのですか」
男「…………女ちゃん……」
男「……大丈夫だよ。目が見えなくたって、きっと……」
女「誰が好き好んで目が不自由な女性と付き合いたがるんですか?」
男「……………」
女「……目が見えないだけで、ハンデがありすぎるんですよ」
男「……ごめん……そんなつもりじゃ……」
女「…………いえ。私の方こそ……すいませんでした」
61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:00:49.31 ID:VCS3HJ5DQ女「誰が好き好んで目が不自由な女性と付き合いたがるんですか?」
男「……………」
女「……目が見えないだけで、ハンデがありすぎるんですよ」
男「……ごめん……そんなつもりじゃ……」
女「…………いえ。私の方こそ……すいませんでした」
男「……手術、しない?」
女「言ったはずですよ。……怖いから嫌です、と……」
男「手術が怖いのはわかるよ。でも……」
女「……怖いのは……手術じゃありません」
男「…………え?」
女「もう二度と私の目は見えないんだ、ってわかってしまうのが……怖いだけです」
男「……………」
63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:05:40.71 ID:VCS3HJ5DQ女「言ったはずですよ。……怖いから嫌です、と……」
男「手術が怖いのはわかるよ。でも……」
女「……怖いのは……手術じゃありません」
男「…………え?」
女「もう二度と私の目は見えないんだ、ってわかってしまうのが……怖いだけです」
男「……………」
女「もう、この話は止めにしませんか?」
男「……そうだね」
女(……ごめんなさい、男さん……)
男「えーっと……あ、そうそう……さっき看護師さんが」
女「え?」
男「『昨日の電話、熱々でしたね☆』って言って来たんだけど……」
女「……………」
男「そして患者さんに言い触らしてるみたいだけど……」
女「……ナイフ、買ってきていただけました?」
男「今度、買ってきてもいいかな……って気になってきたよ……」
66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:10:43.29 ID:VCS3HJ5DQ男「……そうだね」
女(……ごめんなさい、男さん……)
男「えーっと……あ、そうそう……さっき看護師さんが」
女「え?」
男「『昨日の電話、熱々でしたね☆』って言って来たんだけど……」
女「……………」
男「そして患者さんに言い触らしてるみたいだけど……」
女「……ナイフ、買ってきていただけました?」
男「今度、買ってきてもいいかな……って気になってきたよ……」
看護師「……髪を切って欲しいの?」
女「ええ。そろそろ欝陶しくなってきたので」
看護師「そう。じゃあ、ちょっと待っててね」
女(……男さんは、気付いてくれるでしょうか……)
女(鈍いから、気付かないでしょうけどね……)
看護師「切るよー」
女「はい。切りすぎないでくださいね」
69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:16:29.53 ID:VCS3HJ5DQ女「ええ。そろそろ欝陶しくなってきたので」
看護師「そう。じゃあ、ちょっと待っててね」
女(……男さんは、気付いてくれるでしょうか……)
女(鈍いから、気付かないでしょうけどね……)
看護師「切るよー」
女「はい。切りすぎないでくださいね」
男「男です」
女「あ……お待ちしてました」
男(ん、今日は何かご機嫌……?)
女(……気付いて……くれるでしょうか……)
男(……あ、そうか)
男「女ちゃん」
女「は、はい!何でしょう!?」
男「ちゃんとチョコレートは買ってきたからね!安心していいよ」
女「…………………」
72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:21:40.50 ID:VCS3HJ5DQ女「あ……お待ちしてました」
男(ん、今日は何かご機嫌……?)
女(……気付いて……くれるでしょうか……)
男(……あ、そうか)
男「女ちゃん」
女「は、はい!何でしょう!?」
男「ちゃんとチョコレートは買ってきたからね!安心していいよ」
女「…………………」
女「……………」
男「あ、あれ……何で黙ってるのかな……女ちゃん……」
女「……はぁ……」
男「……?」
女「……髪を切ったんです」
男「え?あ……ああー!うん、そうか!髪をね!うん!気付いてた気付いてた!」
女「…………本当は?」
男「すいません……気付いてませんでした……」
75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:26:50.38 ID:VCS3HJ5DQ男「あ、あれ……何で黙ってるのかな……女ちゃん……」
女「……はぁ……」
男「……?」
女「……髪を切ったんです」
男「え?あ……ああー!うん、そうか!髪をね!うん!気付いてた気付いてた!」
女「…………本当は?」
男「すいません……気付いてませんでした……」
女「……まあ、いいですけど……女性と付き合った時、困ると思いますよ」
男「うーん……大丈夫。その時もまた、こんな風に許してもらうから」
女「……誰もが私みたいに許すとは限らないのでは?」
男「え?……いや、だから……」
女「?」
男「…………何でもないよ……」
女「……いつも変ですけど、今日は一段と変ですね……」
76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:31:26.93 ID:VCS3HJ5DQ男「うーん……大丈夫。その時もまた、こんな風に許してもらうから」
女「……誰もが私みたいに許すとは限らないのでは?」
男「え?……いや、だから……」
女「?」
男「…………何でもないよ……」
女「……いつも変ですけど、今日は一段と変ですね……」
女「……美味しいです……」
男「本当にチョコレート好きなんだね……」
女「ええ、まあ……お一つ、食べますか?」
男「え?ああ、うん……じゃあもらおうかな」
女「……これが唇ですよね?」
男「う、うん……」
女「では……どうぞ」
男「…………渡してくれれば自分で食べるのに……」
女「折角ですから。……唇、柔らかいですね」
男「……褒めてるの?」
女「ええ、勿論」
78 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:36:15.42 ID:VCS3HJ5DQ男「本当にチョコレート好きなんだね……」
女「ええ、まあ……お一つ、食べますか?」
男「え?ああ、うん……じゃあもらおうかな」
女「……これが唇ですよね?」
男「う、うん……」
女「では……どうぞ」
男「…………渡してくれれば自分で食べるのに……」
女「折角ですから。……唇、柔らかいですね」
男「……褒めてるの?」
女「ええ、勿論」
男「じゃあね、女ちゃん」
女「ええ。また明日。……いえ、今日の夜……電話してもよろしいですか?」
男「……うん。いいよ」
女「ありがとうございます。……それでは」
男(……このままでいい……訳ないよな……)
男(明日……もう一度ちゃんと話そう)
男(……それが原因で嫌われるかもしれない)
男(……………それでも……説得する)
79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:40:52.76 ID:VCS3HJ5DQ女「ええ。また明日。……いえ、今日の夜……電話してもよろしいですか?」
男「……うん。いいよ」
女「ありがとうございます。……それでは」
男(……このままでいい……訳ないよな……)
男(明日……もう一度ちゃんと話そう)
男(……それが原因で嫌われるかもしれない)
男(……………それでも……説得する)
女「……………」
男「……だから、手術を……」
女「止めてください」
男「……え?」
女「その話はしたくないと……言ったはずです」
男「でも、女ちゃんだって目が治ってほしいって……」
女「治ってほしいですよ。……だから怖いんです」
男「怖いのはわかる、わかるけど……可能性がある限り諦めてほしくない」
女「……止めてくださいって言ってるじゃないですか!!その話は!!」
81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:44:40.61 ID:VCS3HJ5DQ男「……だから、手術を……」
女「止めてください」
男「……え?」
女「その話はしたくないと……言ったはずです」
男「でも、女ちゃんだって目が治ってほしいって……」
女「治ってほしいですよ。……だから怖いんです」
男「怖いのはわかる、わかるけど……可能性がある限り諦めてほしくない」
女「……止めてくださいって言ってるじゃないですか!!その話は!!」
男「悪いけど、今日は退かない」
女「…………もういいです」
男「…………」
女「帰って……くれませんか」
男「……女ちゃん……」
女「帰ってください……そして……」
女「もう二度と……ここに来ないでください……」
男「………………」
83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 20:49:32.71 ID:VCS3HJ5DQ女「…………もういいです」
男「…………」
女「帰って……くれませんか」
男「……女ちゃん……」
女「帰ってください……そして……」
女「もう二度と……ここに来ないでください……」
男「………………」
男「……わかった」
女「……………」
男「今までありがとう。……ごめんね」
女「…………っ……」
女(何も……悲しむ必要なんてありません……)
女(男さんは結局……仕事でここに来ていただけなんですから……)
女(それなのに……私は…………馬鹿みたいに喜んで、期待して……)
女(…………………)
99 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:18:32.60 ID:VCS3HJ5DQ女「……………」
男「今までありがとう。……ごめんね」
女「…………っ……」
女(何も……悲しむ必要なんてありません……)
女(男さんは結局……仕事でここに来ていただけなんですから……)
女(それなのに……私は…………馬鹿みたいに喜んで、期待して……)
女(…………………)
父「……女……彼は帰ったのか?」
女「……ええ。そして二度と……ここには来ません……」
父「…………そうか」
女「もう、カウンセラーを雇わなくても結構です。……無駄ですから」
父「そのつもりだ。そうでなければ、既に新しいカウンセラーを雇っている」
女「……? ついさっきまでは、男さんが私のカウンセラー……」
父「……何を言っている?彼は、初日にこの仕事を降りたぞ」
女「…………え?」
100 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:23:13.43 ID:VCS3HJ5DQ女「……ええ。そして二度と……ここには来ません……」
父「…………そうか」
女「もう、カウンセラーを雇わなくても結構です。……無駄ですから」
父「そのつもりだ。そうでなければ、既に新しいカウンセラーを雇っている」
女「……? ついさっきまでは、男さんが私のカウンセラー……」
父「……何を言っている?彼は、初日にこの仕事を降りたぞ」
女「…………え?」
父「……何だ、知らなかったのか」
女「……意味が、よく……わかりません……」
父「明日からはカウンセラーとしてではなく、女ちゃんの話し相手として来ます」
父「確か……そんなことを言っていたか」
女「そんな…………そんなの……知らない……」
父「あえて……言わなかったんだろう」
女「……………」
105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:29:03.58 ID:VCS3HJ5DQ女「……意味が、よく……わかりません……」
父「明日からはカウンセラーとしてではなく、女ちゃんの話し相手として来ます」
父「確か……そんなことを言っていたか」
女「そんな…………そんなの……知らない……」
父「あえて……言わなかったんだろう」
女「……………」
女(私……私は……)
父「しかし……そうか、駄目だったか……」
女「…………」
父「彼ならば、もしや……と思ったんだが……」
女「………何故、そう思ったのですか」
父「……これは伏せておいてくれ、と言われたんだが」
女「……………」
父「男君は……生まれつき、目が見えないんだ」
109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:34:20.05 ID:VCS3HJ5DQ父「しかし……そうか、駄目だったか……」
女「…………」
父「彼ならば、もしや……と思ったんだが……」
女「………何故、そう思ったのですか」
父「……これは伏せておいてくれ、と言われたんだが」
女「……………」
父「男君は……生まれつき、目が見えないんだ」
女「な……何を言い出すのですか!?男さんは、そんなこと一言も……!!」
父「…………」
女「それに、いつも私と手を繋いで中庭に……!!」
父「ああ、知っているよ。片手にお前の手を。片手に……杖を握って」
女「――!!」
『……最近、妙な音が聞こえるんです』
『妙な音……?』
『ええ。石と石をぶつけるような――』
女「…………あ……」
115 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:39:49.90 ID:VCS3HJ5DQ父「…………」
女「それに、いつも私と手を繋いで中庭に……!!」
父「ああ、知っているよ。片手にお前の手を。片手に……杖を握って」
女「――!!」
『……最近、妙な音が聞こえるんです』
『妙な音……?』
『ええ。石と石をぶつけるような――』
女「…………あ……」
女「……嘘……」
父「心辺りは……あるだろう?」
女「…………」
『……髪を切ったんです』
『すいません……気付いてませんでした……』
女「……あります……」
父「…………しかし、それが彼の望みだったんだろう」
女「…………」
父「同じ境遇としてではなく……『一人の話し相手』として……それが望み……」
121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:45:43.15 ID:VCS3HJ5DQ父「心辺りは……あるだろう?」
女「…………」
『……髪を切ったんです』
『すいません……気付いてませんでした……』
女「……あります……」
父「…………しかし、それが彼の望みだったんだろう」
女「…………」
父「同じ境遇としてではなく……『一人の話し相手』として……それが望み……」
父「ああ、私はもう行かなくては」
女「…………はい」
女「……………」
『映画館に行っても、水族館に行っても……楽しむことは出来ません』
『お料理も出来ませんし、一人で満足に動くことも出来ません』
『……目が見えないだけで、ハンデがありすぎるんですよ』
女「……どんな気持ちで……」
『怖いのはわかる、わかるけど……可能性がある限り諦めてほしくない』
女「貴方はどんな気持ちで私の言葉を聞き………その言葉を告げたのですか……」
女「…………男さん……」
124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:50:32.12 ID:VCS3HJ5DQ女「…………はい」
女「……………」
『映画館に行っても、水族館に行っても……楽しむことは出来ません』
『お料理も出来ませんし、一人で満足に動くことも出来ません』
『……目が見えないだけで、ハンデがありすぎるんですよ』
女「……どんな気持ちで……」
『怖いのはわかる、わかるけど……可能性がある限り諦めてほしくない』
女「貴方はどんな気持ちで私の言葉を聞き………その言葉を告げたのですか……」
女「…………男さん……」
女「……父様……」
父「どうした、女」
女「男さんの住所は……わかりますね?」
父「ああ、わかる。………何だ、彼を呼び戻してほしいのか?」
女「……いいえ。私は、『もうここに来るな』と言ってしまいましたから」
父「…………」
女「もう一度男さんに会う為には……私が自らの足で、男さんの元に行かなくては」
父「……そうだな」
女「父様。……手術をお願い出来ますでしょうか」
父「…………無論だ」
128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 21:55:41.05 ID:VCS3HJ5DQ父「どうした、女」
女「男さんの住所は……わかりますね?」
父「ああ、わかる。………何だ、彼を呼び戻してほしいのか?」
女「……いいえ。私は、『もうここに来るな』と言ってしまいましたから」
父「…………」
女「もう一度男さんに会う為には……私が自らの足で、男さんの元に行かなくては」
父「……そうだな」
女「父様。……手術をお願い出来ますでしょうか」
父「…………無論だ」
看護師「……よし、頑張ろうね」
女「……はい」
看護師「私は頼りないかもしれないけど……院長が居るから」
女「大丈夫ですよ。……自信を持ってください」
看護師「う、うん。頑張る……って、これじゃあ立場が逆よね」
女「……そういえばそうですね」
看護師「あはは。……じゃあ、行こうか」
女「……………はい」
129 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:00:37.16 ID:VCS3HJ5DQ女「……はい」
看護師「私は頼りないかもしれないけど……院長が居るから」
女「大丈夫ですよ。……自信を持ってください」
看護師「う、うん。頑張る……って、これじゃあ立場が逆よね」
女「……そういえばそうですね」
看護師「あはは。……じゃあ、行こうか」
女「……………はい」
女(……男さん)
女(私……気付いたんです)
女(手術して、駄目だった時のことを考えると……凄く怖い)
女(…………だけど、それよりも……)
女(貴方に会えなくなることの方が、ずっと怖いってことに……)
女(だから……待っていてくださいね。男さん……)
134 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:07:47.00 ID:VCS3HJ5DQ女(私……気付いたんです)
女(手術して、駄目だった時のことを考えると……凄く怖い)
女(…………だけど、それよりも……)
女(貴方に会えなくなることの方が、ずっと怖いってことに……)
女(だから……待っていてくださいね。男さん……)
看護師「……今日であの手術から一週間。……落ち着いてきた?」
女「はい。……もう、殆どバッチリです」
看護師「手術後直ぐに動き回れるってもんじゃないからね」
女「そうですね……」
看護師「……そろそろ、いいんじゃない?」
女「私……実はこの一週間、行こうと思えば男さんの元へ行けました」
看護師「…………」
女「でも……嫌われていたら、とか、まず何て謝ろう、とか……色々考えてしまって……」
看護師「うん。無理もないね」
女「でも……もう行きます」
看護師「……覚悟が決まったの?」
女「いいえ。怖くて仕方ないですが……もう我慢出来ないんです」
女「……早く……男さんに会いたくて」
138 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:12:57.68 ID:VCS3HJ5DQ女「はい。……もう、殆どバッチリです」
看護師「手術後直ぐに動き回れるってもんじゃないからね」
女「そうですね……」
看護師「……そろそろ、いいんじゃない?」
女「私……実はこの一週間、行こうと思えば男さんの元へ行けました」
看護師「…………」
女「でも……嫌われていたら、とか、まず何て謝ろう、とか……色々考えてしまって……」
看護師「うん。無理もないね」
女「でも……もう行きます」
看護師「……覚悟が決まったの?」
女「いいえ。怖くて仕方ないですが……もう我慢出来ないんです」
女「……早く……男さんに会いたくて」
女「はあ、はあ、……はあ……っ」
女(息が苦しい……)
女(肺が苦しくて……倒れてしまいそうで……)
女「はぁ、はあっ……」
女(それでも足が止まらないのは……)
女(肺以上に……胸が苦しいからなんでしょうか……)
女「…………ここ、ですね……」
女「男さんのお家は……」
142 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:16:19.57 ID:VCS3HJ5DQ女(息が苦しい……)
女(肺が苦しくて……倒れてしまいそうで……)
女「はぁ、はあっ……」
女(それでも足が止まらないのは……)
女(肺以上に……胸が苦しいからなんでしょうか……)
女「…………ここ、ですね……」
女「男さんのお家は……」
男「…………どなたですか?」
女「私です……女です」
男「女ちゃん?……待ってて、今開けるから」
男「どうやって……ここまで……」
女「……………」
男「……女ちゃん?」
女「……あはは。私……馬鹿みたいです……」
男「え?」
144 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:20:22.70 ID:VCS3HJ5DQ女「私です……女です」
男「女ちゃん?……待ってて、今開けるから」
男「どうやって……ここまで……」
女「……………」
男「……女ちゃん?」
女「……あはは。私……馬鹿みたいです……」
男「え?」
女「貴方に会いたくて……手術をして……目が見えるようになりました」
男「……そっか。良かった……安心したよ」
女「なのに……肝心の貴方の姿が見えないんです……」
男「え?」
女「……涙で、ぼやけて……見えないです……」
男「……あはは」
149 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:25:32.43 ID:VCS3HJ5DQ男「……そっか。良かった……安心したよ」
女「なのに……肝心の貴方の姿が見えないんです……」
男「え?」
女「……涙で、ぼやけて……見えないです……」
男「……あはは」
女「だから……もっと近づいていいですか……?」
男「……うん」
女「………………」
男「どう?見えた?」
女「まだ……まだハッキリと見えないです……」
女「もっと……もっと顔を近づけないと――」
男「じゃあ……こうしようか」
女「……はい……」
女「……ん………」
男「……………」
女「ふふ……やっぱり……唇が柔らかいですね……」
151 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:30:35.24 ID:VCS3HJ5DQ男「……うん」
女「………………」
男「どう?見えた?」
女「まだ……まだハッキリと見えないです……」
女「もっと……もっと顔を近づけないと――」
男「じゃあ……こうしようか」
女「……はい……」
女「……ん………」
男「……………」
女「ふふ……やっぱり……唇が柔らかいですね……」
男「でも……いいの?」
女「……何がですか?」
男「……僕は目が見えない。女ちゃんの言う通り……面白みの無い人間だよ」
女「はぁ……何を言ってるんですか……」
男「え?」
女「そんなの関係ありません。……貴方が傍に居てくれるなら」
男「…………」
女「それにこうして抱き着いてしまえば……いくらでもお互いを感じられるじゃないですか」
男「……ありがとう」
155 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:35:09.16 ID:VCS3HJ5DQ女「……何がですか?」
男「……僕は目が見えない。女ちゃんの言う通り……面白みの無い人間だよ」
女「はぁ……何を言ってるんですか……」
男「え?」
女「そんなの関係ありません。……貴方が傍に居てくれるなら」
男「…………」
女「それにこうして抱き着いてしまえば……いくらでもお互いを感じられるじゃないですか」
男「……ありがとう」
女「……ふぁ……朝ですか……」
男「ああ、起きた?女ちゃん」
女「はい……」
男「ぐっすり寝てたね」
女「そ、それは……今までずっと病院に居たのに激しい運動をしたから……疲れたんですよ」
男「ああ、走ってここまで来てくれたんだっけ」
女「ええ、まあ……朝ごはん、作りましょうか?」
男「……うん。是非」
162 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:42:51.75 ID:VCS3HJ5DQ男「ああ、起きた?女ちゃん」
女「はい……」
男「ぐっすり寝てたね」
女「そ、それは……今までずっと病院に居たのに激しい運動をしたから……疲れたんですよ」
男「ああ、走ってここまで来てくれたんだっけ」
女「ええ、まあ……朝ごはん、作りましょうか?」
男「……うん。是非」
女「えーっと……メニューはどうしましょうかね……」
男「ああ、その前に……一つだけいい?」
女「……何ですか?」
男「…………今日の空の色は、どんな色?」
女「……今日の、空の色は……」
女「澄み切った――青です」
終
180 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 22:49:56.09 ID:VCS3HJ5DQ男「ああ、その前に……一つだけいい?」
女「……何ですか?」
男「…………今日の空の色は、どんな色?」
女「……今日の、空の色は……」
女「澄み切った――青です」
終
完結です。読んでくださった方、ありがとうございました。
それでは、また機会がありましたらお会いしましょう!ノシ
それでは、また機会がありましたらお会いしましょう!ノシ
◎ 日間記事アクセスランキング