2010年8月4日
ライフサイエンス(生命科学)に特化した国内初の「知的財産ファンド」が9月末にも誕生する。官民でつくる産業革新機構などが週内に記者会見して発表する。機構は最大10億円(当初6億円)、武田薬品工業など民間企業数社が数千万円ずつ出資。大学や公的研究機関に眠る特許を買い取って産業界への技術移転を加速させ、日本の強みである先端医療技術を世界に売り込む戦略だ。
政府は先端医療や次世代自動車など七つの科学技術分野を成長戦略の柱に位置づけており、知財ファンドは実現に向けた具体策の一つとなる。
ファンドの投資先は(1)臓器などの再生医療の主役として期待されるヒトのES・幹細胞(2)がん(3)アルツハイマー(4)病気の診断の根拠となる指標(バイオマーカー)の4分野。国内の大学に散らばる有望な特許だけで2千件近くあるとみており、今後3年間で特許の買い取りを進める。
ファンドの運営は、製薬大手OBらが昨年7月に立ち上げた民間会社「知的財産戦略ネットワーク」が担う。特許紛争の経験者や技術の目利き役をそろえた専門家集団だ。
ファンドは特許を買い取るだけでなく、集めた特許を補足して研究したり、関連特許を追加取得したりして複数の特許をパッケージ化。特許を使いやすい状態にして国内外の製薬会社などに使う権利を与え、新薬開発などにつなげる。大学も官民ファンドへの売却なら学内の合意が得やすく、売却で得た資金を新たな研究に回せるというわけだ。
大学の特許活用はこれまで、各大学に設置された技術移転機関(TLO)や学内の知財本部が担ってきた。しかし、大学の技術は研究目的で開発されるため、特許の範囲が狭い。医薬品などの製品化に必要な周辺特許を取っていない場合が多く、事業化に結びつかない問題もあった。
文部科学省によると、2008年度に日本の大学や公的研究機関が出願した特許は9435件。大学の特許のうち活用されるのは2割程度だ。特に企業が少ない地方の大学は産業界との接点が少なく、民間活用が進みにくい。
米国ではアルナイラムなどのバイオベンチャー企業が台頭。大学から買い取った特許を集約し、製薬大手に供与する動きを強めている。フランスや韓国も政府主導で知財ファンドを立ち上げ、生命科学の特許争奪戦が激化している。(都留悦史)