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姿を変えた植田ジャパン(2/2)
世界バレー男子第1ラウンド
2006年11月23日
(文=米虫紀子)
チームには一体感が生まれた【 (C)坂本清 】
新布陣での勝利と思わぬ効果
しかし、10月末からの、世界選手権直前合宿では、守備型での練習をほとんど行わなかった。植田監督は、世界選手権でスーパーエース型を基本に据えることを決断したのだ。
「山本のコンディションが上がってきたということと、世界のトップレベルと戦うには、やはり攻撃力があって、二段トスをしっかりと決められるエースが必要だと考えた」
スーパーエース型は、守備型に比べてコンビのバリエーションは限られる。ずっとこだわり続けてきた「コンビバレー」の幅が狭まることを覚悟の上で、指揮官はスーパーエースの決定力に託した。
第1、2戦は、エジプト、中国を相手に苦戦した。中国戦は、セッター対角の山本を、途中、本来レフトの越川優(サントリー)に代えるなど、激しくメンバーを入れ替えた。後手に回った日本は攻撃の軸が定まらず、フルセットの末敗れ、1勝1敗となった。
第2ラウンド進出は、3勝で確定、2勝が最低条件。第4、5戦に格上との試合を残す日本にとって、第3戦のプエルトリコ戦は絶対に落とせない試合だった。その第3戦が転機になった。
第1セットを日本が逆転で取った後、植田監督は、打てるボールをフェイントで返した山本に激怒した。
「お前は何も変わってない! 今のままで勝てるわけがない。お前が変わらなきゃ、このチームは変わらないんだ!」
その言葉で、ほかの選手の心も動いた。山村宏太(サントリー)は言う。「それは隆弘さんだけじゃなくて、僕ら全員に言えることだと思った。一人一人が意識を変えていかないと、まとまるものもまとまらない。隆弘さんを一人にするわけにはいかないし」。
周りの選手たちから山本に、「二段トスは(山本に)集める。後はフォローするから、思い切り打て」という声が飛んだ。
セットカウント2−1とリードして迎えた第4セットのジュースの場面。朝長は、齋藤信治(東レ)の速攻を絡めながら、ライトの山本にトスを上げ続けた。「あそこは、信頼して上げていました」(朝長)。日本はプエルトリコの5度のセットポイントをしのぎ、7度目のマッチポイントを、山本のスパイクでついにものにした。コートの真ん中で、12人の選手がガッチリと一つの歓喜の輪になった。
大接戦を制し、山村は、「今日は本当にチームが一つになっていた」と振り返った。「昨日まではみんな、ミスを人のせいにしたり、イライラしたりしたところがあった。でも今日は、ミスしても自分で尻ぬぐいをするし、だからこそお互いにフォローにも入った。絶対勝たなきゃいけない試合だったし、一体感があった」
山本の決定率が下がったセットもあったが、植田監督は「今日は山本を代えるつもりはなかった。ここで交代したのでは、次の試合につながらないから」
勢いに乗った日本は、第4戦・アルゼンチン戦で3勝目を挙げ、第2ラウンド進出を決めた。
第2ラウンドへ向けて
石島雄介【 (C)坂本清 】
スーパーエース型の布陣で第2ラウンド進出を決め、図らずもチームが一つになった。それでも、守備型の布陣も捨てたわけではなかった。
ワールドリーグで4戦全敗を喫した古豪・ポーランドに、再び力の差を見せつけられた第5戦。植田監督は第1セット中盤、山本に代えて荻野を投入した。「悪い時の山本が出ていると感じたから。それと、サーブに崩されていたので、サーブレシーブを固めるために荻野を入れた」
守備型にしてまずサーブレシーブを落ち着かせ、コンビで相手をかく乱するのか、それともスーパーエース型にして、サーブレシーブが崩れた場合の決定力を優先させるのか。高さと速さを備え、強力なサーブを持つ強豪に対してどちらが有効なのかは、まだ探っている段階だ。
25日から始まる第2ラウンドでは、セルビア・モンテネグロ、ロシアという、ポーランドと同じタイプで、力は同等以上と思われるチームとの戦いが待っている。日本は、どの布陣で活路を見いだすのだろうか。
越川優【 (C)坂本清 】
また、2次ラウンドのもう一つのポイントは、22歳のエース・石島雄介(堺)と越川優(サントリー)。チーム随一のサーブ力とパワーのあるスパイクを持つ二人だが、サーブレシーブにはまだ不安がある。そのためスーパーエース型では、守備を安定させるためにレフト対角の一方に守備的な働きができる荻野か千葉を置いたため、若い二人が同時にコートに立つ機会は少なかった。植田監督が、「彼らがともに最後までコートに立って、勝てば、日本の飛躍にもつながる」と期待を寄せる二人の起用法にも注目したい。
<了>
■米虫紀子/Noriko Yonemushi
大阪府生まれ。大阪在住。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。バレーボールや野球を中心にスポーツの取材を続けている。
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