水説

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水説:CO2と政治的誠実=潮田道夫

 <sui-setsu>

 産業革命のころに比べ気温を2度の上昇にとどめないと、地球は干ばつや洪水が多発する「温暖化地獄」になる。

 世界中の政府がそれを科学的真実と認め防止策を話し合ってきた。ところが、米国が「急用でそれどころでない」と言い出した。おいおい、地獄になっていいのかね。

 急用というのは経済の変調であり財政赤字の拡大だ。共和党だけでなく、政権与党の民主党にも「環境対策で石炭価格が上がったりするのは困る」という議員が多い。

 民主党が決定した法案では、原案にあった05年比17%の二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス削減という目標は消し去られた。温室効果ガスの排出量を総枠規制する「キャップ・アンド・トレード」制の導入も見送りとなった。

 11月の中間選挙では民主党の敗北が確実視されており、この消極姿勢は当分続くだろう。米政府は17%を国際舞台で口にできなくなった。それなしで指導力を発揮するのは無理だから先行きは暗い。

 一部気候学者がデータ偽造に走った「クライメートゲート」事件が痛かった。これで温暖化地獄の信用性に疑問符がついたのは確かだ。

 それに米政府のやり方も誠実でなかった。例えばキャップ・アンド・トレードを導入してもエネルギー価格が上がらないかのようなことを言ったが、その「ウソ」を米国民は見破った。もちろん、排出上限(キャップ)をユルユルにすれば負担も低くなるが、それでは温室効果ガスの削減はできない。

 しかし、わが方も困る。日本の25%は「主要国の意欲的な目標」が条件で米国の17%は欠かせない。米国がフラフラしているとこちらも25%を正式な目標にできない。これが決まらないと国内対策(真水)をどれぐらいやるか決めにくい。

 日本は環境技術で食っていくつもりであり、それには何か目標があったほうがいい。しかし、当面は「ゴールは分からんが、ともかく走れ」ということになる。25%は高過ぎる目標だと思うが、いつまでも決まらないのも力がはいらずはなはだ困る。

 教訓。近ごろの有権者は米国に限らずモノが分かっているから、ウソやゴマカシを言っても見破られる。

 日本の政府・民主党も誇張癖があるから注意が必要だ。参院選では「増税しても経済成長できる」といって失敗したではないか。

 温室効果ガスの削減目標でも「高ければ高いほど経済が発展する」みたいなことを言っているが、どうかと思う。責任政党に論理の曲芸は不要である。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年8月4日 東京朝刊

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