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2010年8月4日(水)付

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普天間先送り―現実的な選択ではあるが

せいては事を仕損ずるという。菅直人首相が重いバトンを引き継いだ沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題である。名護市辺野古への建設で合意した代替滑走[記事全文]

大阪2児遺棄―虐待防止に一歩踏み込め

どれほど寂しくて、苦しかったことだろうか。大阪市のワンルームマンションで、3歳の姉と1歳の弟が寄り添うようにして死亡していた。2人は母親にほったらかしにされ、食べ物も水も与えられていなかった[記事全文]

普天間先送り―現実的な選択ではあるが

 せいては事を仕損ずるという。

 菅直人首相が重いバトンを引き継いだ沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題である。

 名護市辺野古への建設で合意した代替滑走路の具体案について、日米両政府は月末にまとめる報告書ではひとつに絞らず、双方が主張する複数案を併記する方向だ。最終案の決定は11月の沖縄県知事選以降に先送りする。

 菅首相は「日米合意の実行は内閣の意思だ」としつつ「(地元の)頭越しの決着は考えていない」と明言した。

 普天間の危険は、できるだけ早く取り除きたい。しかし、県民の理解を得られないまま、しゃくし定規に日米合意の履行を急げば、かえって事態はこじれる。両政府の判断は、ひとまず賢明で現実的な選択だろう。

 ただ、辺野古移設が厳しい政治状況は変わるまい。名護市長は、いかなる工法であれ、受け入れには反対だ。県内移設に反対する知事が誕生すれば、可能性はさらに狭まる。

 なにより、米軍基地の75%が集中し続ける過重な基地負担を「沖縄差別」と感じ、県外・国外移設を強く願う県民世論がやわらぐとは考えにくい。

 結論の先送りで、普天間問題を知事選の争点からぼかそうと政府がもくろんでいるとするなら考え違いである。

 いま、政府がなすべきことは、沖縄との信頼関係の再構築に向け、具体的な一歩を踏み出すことだ。

 沖縄の負担軽減、基地の危険性の除去と安全保障上の要請をともに満たす解答は、簡単には見つかるまい。どんな打開策を探るにせよ、沖縄の一定の理解がその土台になければならない。

 政府が検討中の沖縄との協議機関の設置について、仙谷由人官房長官は辺野古移設受け入れが前提になると受け取られかねない発言をした。

 しかし、負担軽減と、今も残る本土との格差是正のための振興策は、普天間問題の進展にかかわらず、取り組むべき責任が政府にはある。前提条件をつけて進めるような話ではない。

 菅首相は再三、沖縄の負担軽減に取り組むと述べている。日米間の移設先の協議に先行して、その実現に力を尽くさなければならない。

 普天間周辺住民の騒音被害に対し、国に賠償を命じた普天間爆音訴訟の二審判決は、夜間・早朝の飛行制限を盛り込んだ日米両政府の騒音防止協定が「形骸(けいがい)化している」と厳しく指摘した。騒音の軽減に向け、政府は米国に対し強く問題提起すべきだ。

 沖縄の海兵隊8千人のグアム移転についても、米国政府は2014年までの実現を事実上断念した。受け入れ態勢が整わないからだという。

 地元の負担と基地の危険はいつまで残るのか。日米政府が知恵を絞らなければならないのはこれからだ。

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大阪2児遺棄―虐待防止に一歩踏み込め

 どれほど寂しくて、苦しかったことだろうか。大阪市のワンルームマンションで、3歳の姉と1歳の弟が寄り添うようにして死亡していた。2人は母親にほったらかしにされ、食べ物も水も与えられていなかった。

 死後1〜2カ月たち、遺体は白骨化していた。あまりの痛ましさに胸がふさがる。

 23歳の母親は大阪府警に逮捕され、「自分の時間がほしくて、育児から逃げ出したかった」と供述している。はなはだしい育児放棄であり、虐待だ。

 激しい夜泣きや「ママーっ」と泣き叫ぶ声が部屋から聞こえていた。住民の一人が3月末から5月中旬にかけて児童相談所に3度通報した。相談所の職員は5回にわたって訪問したが、いずれもインターホンに応答がなく、手紙を残しただけで立ち去っていた。

 母親は昨春、離婚した。風俗店につとめ、マンションの部屋は店が寮として借り上げていた。その部屋はもともと分譲で、不動産管理会社が転貸していた。誰が住んでいたのか、管理会社も把握していなかった。

 児童相談所は調査を打ち切った理由を「住人を特定できなかったため」と説明する。だが、隣近所に聞き取りもせずに、子どもの安全を確認するのに手を尽くしたといえるだろうか。

 児童虐待防止法は、虐待の疑われる通報には住民らに協力してもらってでも、子どもに直接会って安全を確認するよう求めている。そのために立ち入り調査の権限が児童相談所に与えられ、警察に応援を頼むこともできる。

 今回の事件では、管理会社に合鍵を借り、警察と連携して立ち入り調査ができたのではないか。救える命を救えなかったことが残念でならない。児童相談所は最悪の事態を想定して、一歩踏み込んだ対応をしてもらいたい。

 都会では今回のように転貸によって住人の特定が難しいマンションは少なくない。深夜や早朝の虐待と疑われる通報には、一刻を争うケースもあるだろう。しかし、児童相談所の限られた態勢ではすぐに対応できない。警察が相談所からの要請を受けたときに、立ち入り調査の手助けだけでなく、単独ででも子どもの安全をいち早く確認できるような法改正をするべきだ。

 母親は外泊を重ね、子育ての現実から逃れていた。親として未成熟で、虐待死の責任はきわめて重い。だが、子どもに愛情を注いでいた時期もあったようだ。母親もまた孤独の中で救いを求めていたのだと考えたい。

 住民の多くが異常な泣き声に気づいていたが、通報したのは1人だけだった。確かに泣き声だけで虐待と判断するのは難しいかもしれない。だが、近隣の異変に気を配ることが、子どもの命を社会で守ることにつながる。いま一度そのことを確かめておきたい。

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