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進化し続ける“包装” 〜松下の包装技術〜
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第5回 エアーは未来の包装材だ「QOOPAQ(クーパック)」
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DVDプレーヤーなどのAV機器やパソコン、そのほか家電製品を購入して、箱から取り出すときというのは心躍るもの。電源を入れてとりあえず一安心、さて……と後片づけを始めた際に、その存在がにわかにクローズアップされるものがある。発泡スチロールなどの緩衝材だ。
冷蔵庫など大型家電の場合は、配送業者が引き取っていってくれるが(その後リサイクルされる)、こういう発泡スチロール、皆さんはどうしてますか? とりあえず外箱に戻して押し入れに突っ込んでおくこともあるけれど、そればかりというわけにもいかない。筆者らの住む地域では不燃ゴミ扱いなので、週に1回の回収日まで保管することになる。
「進化し続ける“包装”」の最終回は、この発泡スチロールに変わる、新しい包装材の開発ストーリーを紹介する。しかもその素材は、私たちのもっとも身近なところに存在し、環境に全く負荷を与えないもの――空気である。
空気を用いた緩衝材が今回のテーマ。手前が取材をしている筆者らの様子。
これが、空気を用いた衝撃材QOOPAQ。外箱の中に、このような状態で製品が納まっている。
取材をしたのは、空気を使った新包装材、「QOOPAQ(クーパック)」の開発を手がけたパナソニックAVC ネットワークス社と生産革新本部CS技術革新グループの皆さんだ。CS技術革新グループは、松下の包装技術の歴史の核を担ってきた部署でもある。
グループマネージャーの田中省三さんは言う。
「QOOPAQは、“包装材を全体的に減らしていく”という全社目標があり、その目標達成に向けて開発したものと理解ください。発泡スチロールだけでなく、包装材全体を減らしていく。それが基本的な考え方なんです」。
今までの包装は、既存の材料を活用しつつ、使用量を減らしたり、石油系材料から紙系材料に変更するなどの取り組みによって環境対策を図ってきた。その効果は確かにあった。だが、材料の削減だけでは効果がほぼ限界に達してきたこと、石油系材料の代替材料としてきた紙系材料の弱点(湿度に弱いなど)がはっきりしてきたことなど新たな問題も発生。こうした課題を克服し、いっそうの環境保全対策を進めていくには、新素材の開発、あるいは新しいシステムの構築が不可欠となっていた。
その観点からも、新素材への取り組みは、おおいに意義がある。とはいえ、衝撃からのバリア機能があること、低コストであること、そして軽量であること、さらに、環境への負荷がないこと……これらの条件をすべて満たす素材を見つけだすのは、ちょっと考えても一筋縄ではすまなさそうだ。が、そんな素材が案外身近に存在していた。
生産革新本部品質エンジニアリングセンターのグループマネージャーを務める田中省三さん。
そう、空気という素材の登場だ。主席技師の辻 敏満さんは言う。
「空気には従来から着目していました。環境保全の究極、それは廃棄物を発生させないということでしょう。廃棄物ゼロの包装が実現したら、それは究極の包装ですよ。空気には究極の包装材としての可能性があります」。
開発に携わったパナソニックAVC ネットワークス社の細川和彦主任技師が続ける。
「空気はいくらでもある。しかもこの素材自体にコストはかからない。もちろん包装材として用いるための開発費用をはじめ、本格的な実用化に向けては解決しなければならない課題がたくさんありました。実は、外箱も緩衝材もなくし、空気を使った袋だけで製品包装ができないか、というところから、われわれの開発は出発したんです」。
ノー緩衝材という発想から、空気で包装材をつくること。これこそ、松下独自の取り組みのスタート地点だった。
ただ、ここまで読んでくださった皆さんのなかには「空気を使った包装材なんて、別に目新しくもないのでは? ほら、よくあるじゃない!」とお思いの方も多くいるだろう。筆者らも思い浮かべていた。お菓子の箱などに入っている「プチプチ」「エアーシート」などと呼ばれている、透明ポリエチレンフィルムに空気の粒が並んでいる、あれを。
脳裏をかすめたあの緩衝材だが、プチプチなどは商標であり、一般名称は「気泡シート」と言う。確かに、並んだ気泡、つまり空気を利用した衝撃からのバリア力を持つ包装材だ。では、気泡シートとQOOPAQはどう違うのだろうか。
それは、互いの製造法を見比べてみるとよくわかる。
気泡シートは、2枚の熱可塑性樹脂からなり、1枚目を金型で成型しその直後に空気を挟むかたちで2枚目を貼り合わせて完成させる。空気は、樹脂を貼り合わせた際にたまたまそこにあったものを、“採って捕まえた”ようなものと言える。
対して松下のQOOPAQは、高い衝撃性を獲得するために、フィルム袋に空気を充填し、さらに必要なときに必要なだけの量を、必要な場所でつくるという発想。空気が“たまたまそこにあった”という結果ではなく、“充填”という、より積極的に空気を利用する姿勢がまず大きな違いである。さらに、気泡シートはあくまでも緩衝材だが、QOOPAQは固定・緩衝・防塵など多くの機能を持つ高機能包装材である。
前出の田中さん同様、生産革新本部品質エンジニアリングセンターに籍を置く辻 敏満主席技師。早くから次世代の包装材として空気に着目していたひとりだ。
QOOPAQの開発に携わったパナソニックAVCネットワークス社AVテクノロジーセンター主任技師の細川和彦さん。
空気を用いた緩衝材と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべるのが、この透明ポリエチレンフィルムを用いた気泡シートだろう。
外箱も緩衝材もなく、空気を充填した袋だけの包装材を開発するプロジェクトは、2000年に始まった。まずは店頭にそのまま輸送でき、並べることが可能なものができないかという方向で可能性を探ったが、実現するのはなかなか難しかった。
「これではしんどいということで、緩衝材へ路線変更したのです」(細川さん)。
こうして2000年の初秋、高性能エアー緩衝材開発へと軌道修正されたプロジェクトが本格的に始動する。辻さん、細川さん、そして紅一点の中田早百合さんによるチームは試行錯誤を繰り返すことになった。
辻さんは言う。「空気は何しろ目に見えないものですから、そこがいちばん苦労したところです。つまり、空気が入っているのは(袋が膨らむから)わかるのですが、例えば空気圧とか、空気の量などがどういう状態で入っているのかがわからない。飛行機で輸送する場合も考慮し、低い気圧のもとでの品質も確保しなければならないのです」。
高い緩衝性を得るためには、充填された空気がどういう状態であるかを探り、そのうえで実験を繰り返さなければならなかった。開発スタッフは市販の空圧計に点滴用の針を組み合わせた手製の圧力測定器を考案、独自の空気充填機をつくり、高圧と低圧、充填時間の組み合わせを幾通りも実験した。また、中田さんによれば、「QOOPAQを冷蔵庫や冷凍庫の中、ファンヒーターの前や炎天下の車内など条件の異なるさまざまな環境下に置いて、実験を重ねました」。
生産革新本部品質エンジニアリングセンター技師の中田早百合さん。
QOOPAQに空気を注入している様子。空気の圧力や充填時間を幾通りも組み合わせた実験から、最適な緩衝性を探った。
空気を充填したQOOPAQ内の圧力を測定している様子。
そしてもう1つ、難題があった。空気が漏れてはならないということだ。製造工程の効率を考えると、空気を充填しやすいことは重要なのだが、一度充填した空気が漏れてしまっては、緩衝性が著しく低下してしまう。
「空気が入りやすい構造は大切なのですが、それが逆に漏れやすかったりするのです」と中田さん。この矛盾はいかに解決されたのか。
ここで、QOOPAQをじっくり見ていただこう。
まず、空気が充填される前の状態は、まったくのフラットだ。手触りはちょっと固めのプラスチックシート、という感じだが、このシートは独自の開発によるオリジナル。ポリエチレン、ナイロン、ポリエチレンの3層構造からなっている。
形態はポケット状。ここから製品を入れ、その後空気が充填される。そのため、製品とQOOPAQの間に隙間ができることはまずない。製品はしっかりと空気によってホールドされる。中田さんによれば、「このかたちのヒントは、ポケットティッシュペーパーです。開けやすさと製品の取り出しやすさを考慮したユニバーサルデザインになっています」とのこと。
今度は製品を取り出した後のQOOPAQをご覧いただきたい。空気が漏れることなく、しっかりともとの形状をキープしている。
空気を抜きたい場合には、切り込み部を矢印の方向にひっぱると簡単だ。力はたいして必要ない。あっという間に空気が抜け、もとのフラットな形に戻る。かさばらないため、廃棄は容易だ。
一見シンプルに見えるQOOPAQの構造。だがそのなかには、空気漏れを防ぐさまざまな仕掛けがこらされている。
3層構造のシートは溶着により袋状になっている。このシートは、溶着によりセル(細胞)を形成し、さらに各セル内には空気を充填する空気道を持つ。最適なセルの径や溶着の幅を決定するために、何度も実験が繰り返された。これらは強度・生産性・コストに影響するので、ひじょうに微妙かつ重要な問題なのだという。
そして各セル内に見える、ブルーのドットが印刷された白い部分。“逆止弁”と呼ばれるこの部分だけは、食品ラップのように薄い素材でつくられている。空気が充填されると、フィルムにぴったりと張り付き、それぞれの注入口をふさぐ。そのため、空気の逆流や漏れを防ぐことができるのだ。「布団圧縮袋の弁などを参考に」(中田さん)開発されたこの小さな弁が、QOOPAQのなかで大きな機能を果たしている。
万が一セルの1つが破れても、他のセルは保たれ、安全を保持することができる。当初はより鋭角的だった逆止弁の形は、実験を繰り返すなかで、もっとも適正という理由から現在のものに落ち着いた。ブルーのドットは、表面にこれらが印刷されることで、空気の通りをよくすることに繋がっているのだそうだ。
空気を充填する前のフラットな状態のQOOPAQ。写真では少しわかりにくいが、空気の通り道がひじょうに複雑・繊細に設計されている。
DVDプレーヤーを抜き取った状態でのQOOPAQ。言われれば、確かにポケットティッシュペーパーのパッケージを思わせる外観だ。
廃棄するときは、矢印に方向に向けて切り込み線をひっぱるとセルが簡単に破れ、空気が抜ける。
現在QOOPAQは、ポータブルDVDプレーヤー、航空機用AVシステム機器、オーディオ商品サービスパーツなどの包装に採用され、品質保持、包装材廃棄などの面で好評を得ている。
この高い緩衝性、そして廃棄時に体積が減じ、かさばらないという点がQOOPAQのメリットだ。またポータブルDVDプレーヤーへの採用では、従来に比較して年間で244トンにおよぶ段ボールの節約に繋がっているともいう。これは、発泡スチロールの緩衝材に比べて小さい体積で包装することが可能となり、結果、箱のサイズが小さくてすむようになったことに起因している。
さらに、QOOPAQの空気注入は生産ラインで行われているため、材料納入時における容積を最小限に抑えることができるなど、在庫スペース削減という点、そして材料納入時の輸送費及び輸送エネルギーの削減効果も大きい。
QOOPAQは2001年、松下社内で社長賞、社外では木下賞、ジャパンスター賞、ワールドスター賞など包装関連で5冠を達成した。
ポータブルDVDプレーヤー、DVD-LX8のパッケージと、QOOPAQに納まった本体。QOOPAQの採用によって、パッケージの体積が減り、箱のサイズの小型化に繋がった。
ここまで見てくると、もっとQOOPAQが採用されてもいいのでは? という疑問がわいてくる。これほどメリットがあるものならば、もっとひんぱんに見かけてもいいのではないだろうか。
「発泡スチロールと比べると、まだコストが高い。まずそれが大きな課題ですね。DVDプレーヤーの場合は外箱の大きさが半分になったことで、コストアップという問題をクリアできたのです」(細川さん)。
「コストだけではなく、自動包装ラインへの対応、海外生産工場への供給などさまざまな現実的課題があるのです」(辻さん)。
現状は、小型(重量が300g〜3,000g)の製品を中心に採用の拡大を進めているところだ。
「究極は、“ノー包装”でしょう。包装がないことが環境にはいちばんです。現時点で、この究極の包装にいちばん近いのが、QOOPAQだと思っています」と言う辻さんの力強い言葉が印象に残った。
QOOPAQはまだ誕生したばかりだ。今後も改良や新たな開発が進んでいくことだろう。おそらくいつの日か、QOOPAQがリユースされたり、あるいは当初の目標のように、“空気を使った袋”が外箱も兼ねて店頭に並ぶ日がくるかもしれない。空気という包装材の可能性はもっと開拓できるのではないだろうか。QOOPAQの未来に期待したい。
QOOPAQの応用を検討した試作品。中に納まるのは据え置きタイプのDVDプレーヤー。需要の大幅増が期待される商品だけに、採用されれば環境負荷に大きく貢献できるはず。
生産革新本部で見つけたもう1つのQOOPAQ試作品は、やや円筒形のものだった。ちょうど炊飯器がスッポリ納まりそうな大きさだ。
ふう。5回にわたる連載も無事最終回を迎えることができた。取材の前は、包装なんてみんな一緒でしょ、などと軽く考えていたものだが、次々に出てくる包装技術の成果を見ていくうちに、その奥の深さにつくづく感心、敬服した。
包装技術の進化とは、ふとしたひらめきや発想をもとに、精密な技術力によって進んでいくものだった。開発担当者や現場の技術者たちの細部へのこだわりこそが、使いやすく環境に負担をかけない包装を実現させるのだ。
現在の包装技術開発において最大のテーマが「環境」であるということを知ったのも大きな収穫だった。製品を使うときには廃棄されてしまう包装にとって、思った以上にシビアな問題なのだった。
こうしたことを含め、包装開発もまた、製品開発となんら違わない“ものづくり”そのものだ。
皆さんに「完成までにはどれくらいの時間がかかりましたか?」と毎回質問したが、ほとんどの担当者が「半年くらいですかねえ。意外に早かったです」と解答されたのが印象深い。個人の力ではここまで敏速な対応はできない。組織の力というのは本当に凄い。
個人のひらめき、それをかたちにする組織の力、両方があってこそ“ものづくり”は進化していく。この取材を通して、そのことを実感した。
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