サイゾースタッフ
チーフエディター/佐藤彰純
エディター/平野遊
エディター/北村千晶
デザイナー/cyzo design
Webデザイナー/石丸雅己※
広告ディレクター/甲州一隆
ライター(五十音順)
竹辻倫子※/田幸和歌子※
長野辰次※/平松優子※
プロデューサー/川原崎晋裕
パブリッシャー/揖斐憲
※=外部スタッフ
アフガン報道じゃ視聴率は取れない!? 誤爆に苦しむ市民たちの慟哭を知れ!
薄手の服一枚で震える避難民の子ども。
「テロとの闘い」を旗印に、アメリカはイラクから撤退した兵力を続々とアフガンへ投入し続けている。一方現地では、米軍やISAF(国際治安支援部隊)による誤爆で、大量の一般市民が巻き添えにあう形で殺され続けているという。ボスニア、イラク、アフガンなどで戦地取材を続けているフリージャーナリストの西谷文和氏は、このほど取材記録をまとめたDVD『GOBAKU』をリリースした。その西谷氏に、アフガンの知られざる事情を聞いた。
――米軍やISAFによる誤爆は珍しいことなのでしょうか?
西谷文和氏(以下、西谷) もう、無数にあるんですよ。象徴的なのが、昨年10月9日にオバマがノーベル平和賞をもらってますが、その3日前にベドウィン(遊牧民)のキャンプが米軍に誤爆されてます。子どもが3人焼き殺され、かろうじて生き残った少女も大やけどを負っていた。明らかな誤爆です。
――米軍はなぜ遊牧民のキャンプを攻撃したのですか?
西谷 遊牧民は羊を追いかけて移動しながらテント暮らしをするので、昨日まで何もなかった場所にテントが現われたから、それをタリバンと勘違いした。その後、地上部隊が調査したら誤爆と分かり、ボロボロになった少女を発見した兵隊は、びっくりしてヘリでカンダハル空港へ運んだ。私はその少女と病院で会ったのですが(DVDパッケージの表紙の少女)、兵隊はそこで彼女に200ルピー(約220円)を渡して「病院へ行け」と言ったそうです。200ルピーという理由もよく分かりませんが、その兵士はまだ善意があったほうでしょう。
誤爆で左腕を吹き飛ばされた少女。
――誤爆により家族を殺された一般人が復讐のために"タリバン化"していると、西谷さんはDVDの中でも指摘されています。
西谷 軍が空爆して普通の農民を殺しているから、残された家族が「ニュータリバン」になっていく。彼らは貧しいので、タリバンから『戦えば金がもらえる』などとオファーがあれば、戦闘行為に加担するようになる。他に仕事があれば、まだタリバン化しないかもしれないが、仕事もなく食料もない。あるのは絶望だけ。自爆も選択肢に入りますよね。しかも、自爆テロが増えると、巻き添えで死ぬ民間人が増えることになる。米軍の空爆もタリバンの自爆も、怒りと憎しみだけが拡大再生産されている救いようがない構図です。
――その一方で、日本におけるアフガン報道は減っているような気がしますが。
西谷 報道量自体も減っているし、イラク戦争から6年半経過して視聴者の「慣れ」もありますね。自爆テロで50人死んだなんていったら以前はトップ記事だったけど、今は読者も「またか」という感覚だから新聞もベタ記事扱いです。
――報道量が減った理由の一つに、日本の大手メディアが現地取材を全くできていない現状があるという話もあります。
西谷 それは事実。イラク戦争から日本のテレビ局や新聞社は戦地に記者を派遣していませんから。自己責任が厳しく問われる時代で各社とも危機管理上そう判断せざるをえないのでしょう。だから今、アフガンにいるのは僕らみたいなフリーが多くなっています。
米軍の空爆でやけどを負った羊飼いの少年。
――西谷さんは『報道ステーション』(テレビ朝日系)などにも時々出演されていますが、あれは取材前に委託契約を結んでいるのですか?
西谷 いや、結んでいません。もし契約して僕がタリバンに捕まると会社が責任を問われるし、人質解放のためのネゴシエートもしなきゃならない。だから、簡単にいえば口約束。取材結果がどこかのテレビや新聞に流れる保証なんてないんだけど、とにかく現地へ行って取材して、どこかの局に持ち込んで"撮れ高"で判断してもらうという形ですね。
――海外メディアの事情はどうなのでしょうか?
西谷 国によって微妙に違います。アメリカ系はフリー記者がISAFに申請して従軍記者をしたりと、僕らと状況は似てますね。イギリスは国営のBBCが現地入りしてますが、あそこはアラブ系記者が多いんですよ。ヨーロッパにはアラブからの出稼ぎが多いので、彼らを記者として雇うと、アラブ語やペルシャ語ペラペラで見た目も現地人ぽいでしょう。だから欧州系メディアは中東取材に非常にアドバンテージがあるんです。
――日本のメディアが記者を派遣しない理由は、治安の他に経費の問題も?
DVD『GOBAKU』
西谷 それはあるでしょう。戦地で取材させるには戦場保険をかけなければならないのですが、この掛け金がベラボウに高い。9年前の話だけど、ウズベキスタン方面から北ルートでアフガンへ入国したときに産経新聞の記者と一緒になったんだけど、保険料が一日30万円とか言ってましたよ。カメラマンと二人派遣したら数千万円かかる。それに見合うだけ部数や視聴率が伸びればいいけど、ニュース番組でも、のりピーで視聴率が上がってアフガンで落ちますから(笑)。
――不謹慎な言い方ですが、いわゆる「有料コンテンツ」ではないと。
西谷 そうそう。どこもスポンサー不足で苦しいし。経営的には費用対効果も考えざるをえないのでしょう。ただ、報道がバラエティーのように数字だけを追い求め、お金にならないニュースを黙殺するようになれば大きな問題だと思うんです。国民だって知る権利がありますし、我々もそこへ届ける義務もあるわけです。
――日本はアフガン問題にどう関わっていくべきだとお考えでしょう。
西谷 カルザイ政権も問題はあると思いますが、まずは支えて停戦へ向けて動くことが大事なんで、理想を言えば日本がアメリカとタリバンの間を仲介すること。でも実際には日本はこの戦争に加担しているので難しい。現実的には、インフラ整備に技術者を派遣して、現地人に技術を伝授しながら復興を支えるしかないでしょう。
――西谷さんはNGO「イラクの子どもを救う会」の代表として援助活動を継続されていますが、日本国民はこの問題にどう接していくべきでしょう。
西谷 とにかく国民一人ひとりがこの問題に関心を持ち続けることだと思います。報道されないと言っても、ネットを使えばCNNでも配信されてるのだから、その気になれば情報に接することはできる。あとはできる援助をすることです。よく「どうせ横領されるから援助しても意味ない」という声を聞くけど、たとえ一部横流しされても、100のうち50か60でも届けば、それで命を繋げられる子どもがいるわけですからね。
(文=浮島さとし)
●NGO「イラクの子どもを救う会」HP
<http://www.nowiraq.com/>
●DVD『GOBAKU』の購入はこちらから
<http://cart05.lolipop.jp/LA12616843/>
報道されなかったイラク戦争
これがひとつの真実。
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